第272話 ミルナと魔法複合
「思ってた以上だな。戦いのセンスがあるとは思っていたが、やっぱりこれを準備しておいて正解だったな。」
「何か準備してるの?」
「あぁ。ユイユイ、装備のスキルに関してだが俺が一つ準備しているものがあるんだが、それでもいいか?」
「どんなスキル?」
「{詠唱省略}というゲームシステムに干渉して俺が作り出したスキルだ。神術スキルは一部ゲームシステムに干渉できるんだが、その権利を使用して作っておいたんだ。まぁ、回数制限があるからそうポンポンとは使えないが。で、{詠唱省略}の効果だが、その名の通り魔法系統のスキルや魔法を発動する際に魔法の名前を唱える必要がなくなるというものだ。」
「すごいね!それにする!」
「気に入ってくれてよかった。ほら、これが{詠唱省略}の護符だ。」
ゲームシステムに多少干渉できることは知ってたけど、まさかそれを使ってこんなものを作り出してたなんて。やっぱうちのギルドで一番強いのって先生だよな。
「私は試さなくて大丈夫です。今のところつけたいスキルもないので今後追加されたスキルを見て考えようと思います。」
「分かった。そうなると残りはミルナとルナだな。」
「それじゃ私から行こうかな。」
ミルナが前に進み、闘技場のモンスターと対峙する。相手に選んだのはまたもやグレーウルフ。ただ、今回は数が50体とユイユイたちの倍以上いる。
「{多重詠唱}{氷柱}」
ここまではユイユイがやっていたのと何も変わらない。でもこれじゃ1発打った後残党に仕掛けられて死にかねないぞ。
「{魔法複合}」
なるほど。複数人が発動した魔法や既に発動済みの魔法に対して追加の魔法を複合して複合魔法へと昇華するスキル!これを大量の氷柱を対象にして発動すれば・・・
「複合魔法{針雨}」
氷柱が集まり一度巨大な氷の塊になり、そこから大量の鋭い氷の雨が降り注ぐ。一度に1000発近く発射できる魔法使い職の中ではトップクラスの性能を誇り、比較的有名ではあるが、扱いが難しい上に{魔法複合}の取得条件は厳しいらしく扱えるものは少ない。
氷1粒1粒の威力は高くないものの、回避はよほど高いAGIがないと無理だろうし、これは強力だな。ただ、ユイユイの完全上位互換というわけでもない。ユイユイの方は威力を落とさずにこれよりも圧倒的に少ない数の攻撃だ。その分火力が高く相手によっては1発で倒すこともできる。ミルナは数の暴力で無理やり押し切れる。2人ともそれぞれ強みはあるし、それぞれに合った戦闘スタイルだな。
「ふぅ、これ使うとやっぱり疲れちゃうね。」
「確か{魔法複合}のデメリットだっけ?」
「うん。スキル使用後20分間スタミナが減少しちゃうんだよね。」
スタミナという数値自体はそこまで重要な意味を持つわけではないものの、プレイヤーの倦怠感に直結してくるため、減少しすぎると意外としんどい。
「それで、なんのスキルつけるか決まったか?」
「そうだったね。えーっと何かおすすめとかある?」
「そうだな。ユイユイと同じ{詠唱省略}は魔法使い職には当然相性はいいが、特にミルナの戦闘スタイルならブラフを噛ませそうだな。」
「?」
「たとえば{多重詠唱}と{氷柱}だけ詠唱して{魔法複合}の詠唱だけ{詠唱省略}で省略すれば相手はただの多めの氷柱が降ってくるくらいに考えるんだけど、そこに急に氷柱が合体してさっきのが飛んできたら対処は難しいだろうし、全部詠唱しなければ相手に情報を与えなくて済むしね。」
「そういう使い方できるんだね。それならそれにしようかな。」




