第26話 NPCギルド《紅蓮騎士団》
「ゲルマ、お疲れー。やっと週末だね。」
「そうだなー。パンドラは今週末ヒマ?」
「ヒマだよー。そっちは?」
「俺もヒマだからレベリングの続きしない?」
「ゲルマがいいならいいんだけど、ほんとにいいの?レベリング結構疲れるでしょ。」
レベリングを開始して数日が経過し、明日は土曜日。2人とも2日連続で予定が空いている。キキョウは面白いクエストがないか探しに行くといっていた。ヴァルとミルナは日曜日は1日フリーらしい。
「まぁ、疲れはするけど、早くDEXを1500まで上げたいしな。」
DEX1500というのは生産職にとってはかなり大きな境目になる。武器・防具以外の品の生産が解放され、宝石の加工や特殊な鉱石の加工も一部ではあるができるようになる。その中に玉髄は含まれていないものの、DEX1500は生産職に求められる最低ラインだそうだ。
「今いくつだっけ?」
「今17レベルでやっと1000超えたところだ。インできる時間も短いし、やっぱりAGIが低い分討伐の効率が悪いんだよな。」
「そうだねー。何かできればいいんだけど。モンスターハウス的なところなら効率的にレベルをあげれそうだけど・・・」
「そんなところに行ったら守り切れなくて死ぬ、とかそんな感じだろ?」
「そう。さすがに全方向からの攻撃を防ぎながら捌くのは無理があるかな。私の箱の中に入ってもらえば話は別だけど。」
「それは別にいいんだが、そもそもあれはトラップ扱い。幸運値の高いパンドラじゃ遭遇出来ないんじゃないか?」
「それもそっか。何か効率のいい場所ないか探しとくよ。」
「頼む。明日レベリングする分、今日は他のことやってもいいか?」
「別に何でもいけど、何かあるの?」
「ちょっとネット情報で見つけていきたいところがあるんだよね。」
「ギルド関連じゃなくて?」
「ギルドも関係はしてるんだけど、NPCがギルドを設立してそこでクエストが発生してるらしいんだよ。かなりの人数がそのクエストを受注はしてるけどまだクリア者はいないらしい。それどころか失敗する者が続出してるらしいんだよ。それも戦闘のないクエストらしいんだよ。」
「それはちょっと面白そうだね。っていうかプレイヤーがギルド設立できるようになる前にNPCが設立してクエストが発生するっていうのも少し引っかかるね。」
「そうだな。ま、行ってみればわかるだろ。クエストの詳細までは分からないけど、戦わないならどうにかなるだろうし。」
「それもそうだね。行ってみようか。」
大型アップデートが行われるのが来週の木曜深夜から金曜の日中にかけてらしい。そこでギルドシステムの本格始動、スキルやクエストの追加、マップの拡張など様々なアップデートが施される。プレイヤーにとって最も大きいのはギルドの設立が可能になること。初期費用はかなりかさむものの、ギルドによって受けられる恩恵の方がはるかに大きい。ギルドに加入していることが参加条件のイベントなども開催予定来らしい。
ゲルマに案内されて着いたのはヴァルたちと再会した町サイリアの街はずれに佇むかなり大きな建物だ。俺たちのギルドホームの大きさと比較して考えても100人は入りそうだ。
ディクティオンのギルドホームはボス討伐後かなり縮小されてしまった。そのため、そこまで多くの人数は収容できない。それに比べてここは最低で100人下手すると200人くらいは収容できるんじゃないだろうか?
NPCが設立したギルドその名は《紅蓮騎士団》。
エンブレムは真紅の剣を模したものだ。ちなみにギルド《パンドラの箱》のエンブレムはまだ登録していない。今どうするかみんなで話し合った結果、ギルマスである俺が用意することになってしまい、行き詰まっている。
「《紅蓮騎士団》確かに戦力的にはかなり高そうなギルド名にエンブレムだね。となると生産系のクエストなのかな?素材収集だったら戦闘が付随してくるだろうし。」
「大体そんな感じらしい。ただ、その扱うものが特殊すぎて扱えないとか。今のところ生産職の奴でもクリアできてないらしい。」
「そうなると私はお手上げだね。この状態の数値は933だから。ゲルマの方が高いからね。」
「思ったんだけど、何でクエスト失敗が続出してるんだ?受注して放置しても失敗扱いにはならないはずだろ?」
「それは予想ついてるんだけど、多分DEXが一定以上の数値必要でその数値に到達できない場合強制的に失敗になるとかじゃないかな?それだったらクエストの詳細の情報が出回ってないのにも納得できるし。」
「それだったら俺が適任だな。ほかのギルドがDEX極振りの生産職を囲う前にクリアしないとな。」
「本当に行ける?このクエスト中にレベル99まで上げないといけないかもしれないよ。」
「そん時はそん時だ。ほら入るぞ!」
建物内に入ると何やらNPCが悩んでいた。こちらに気づくや否や1人がこちらまで来て
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用向きでしょうか?」
「いえ、特に用があるというわけではなく、私もギルドの長ですのでこちらが気になりまして立ち寄らせていただいた次第です。」
「そうでしたか。どうぞゆっくりしていってください。私共はどんな方でも歓迎ですので。」
「ありがとうございます。それはともかく皆さま何やらお困りのようですが。」
「はい。少しお待ちいただいてもよろしいですか?今、マスターを呼んできます。」
「ありがとうございます。」
そういってNPCが走り去っていった。
「お前コミュ力すごいな。」
「リアルだとコミュ障だけどね。こういう場合のコミュは得意なんだ。ロールプレイ的なコミュニケーションっていうのかな?」
「すげー。おっ、来たみたいだぞ。」
かなりガタイの良いおじさんがこちらに歩いてくる。NPCなのにプレイヤーと同じようにネーム表示がされているな。カイザというらしい。
「パンドラ殿、初めまして。私はこのギルドのギルドマスターを務めているカイザだ。」
「こちらこそ初めまして。ギルド《パンドラの箱》ギルドマスターのパンドラと申します。」
「強大な力をお持ちの貴殿に頼みたい事があるのだが聞き入れてはくれないだろうか?」
少し違和感がある。ほかのプレイヤーがクエストの受注をしているということは他のプレイヤーもこれに近しい会話を交わしたことにならないか?この話口調だとギルドマスターであることが前提であるような気がする。もしかしてほかの人たちがクリアできていなかった原因はそこにあるのか?ギルドに所属し、そのマスターが交渉に出ること。
確かにネットの情報を確認はしてみたけれど、クエストについてだけであって報酬の詳細は明かされていなかった。もしかしたら全員がクエストを受注した瞬間ギルドマスターじゃないことを理由に門前払いされたのでは?
「まずは内容をお聞かせ頂いてもよろしいですか?」
「わかりました。我々は3日前30人のメンバーを集めこのギルドを結成しました。ただ、一つの問題が発生したのです。我々のメンバーには鍛冶師がいません。そのため、装備を外部の鍛冶師に依頼するしかないのですが、ギルド武器だけはどの鍛冶師も依頼を受けてくれないのです。なにせ私が持ち込んだ鉱石が希少なもので扱うことができないといわれるのです。」
ギルド武器というのはギルドに登録できる武器のことでこの武器は素材さえあれば自動で量産され、ギルドメンバー全員に配布される。しかし、メインの武器種とは違う武器種だと意味がないので主に防具用だと思われる。
「その鉱石は何ですか?」
「玉髄というものです。私が作成してほしいのはこのレシピに記してあるギルド武器《紅蓮騎士の宝剣》です。素材はこちらでご用意できますが、あなた様におつくりいただきたいのです。」
レシピには必要な素材、作成に必要なDEX、作成の手順が記されている。素材を扱うのに必要なDEXと作成に必要なDEXは別物なのでより値の大きい方のDEXが求められる。
今回は素材では玉髄の4000が最大、作成に必要なDEXも4000だそうだ。俺では4000まで到達できないな。ここは頑張ってゲルマのレベルを上げるしかないか。
「事情は分かりました。ただ、私ではこちらの作成ができません。」
「何ですと!?あなた様ほどの力をもってしても作成できないのですか?」
「はい。ですが、このものが鍛錬を積めば作成できるようになります。その鍛錬の期間は数日で終わらせますのでそれまで少しお持ちいただけますか?」
「わかりました。あなた方を信用します。ギルド武器を作り、納品していただいた暁にはUniqueProtector:ゼウスのローブを差し上げます。」




