第235話 サブジョブ
お互いに拳のみでの戦闘。これと言ったスキルを持っているわけではないので決め手にかけるが、着実にHPは削れていく。現状ネイの攻撃でも俺にダメージは入っているし、こっちの攻撃も向こうに通っている。ただ、俺が回避中心の立ち回りをしている分HPは割合で見ればこっちの方が多く残っている。
「やっぱHP少ない分戦いづらいみたいだね。」
「まぁね。でも回避すれば全く問題ないし、こっちの攻撃は反応できない場所から叩き込めばいい。」
「確かにこのままじゃジリ貧だね。それじゃ本気でいかせてもらうよ。頑張って勝って見せてみな!スキル{身体強化}」
「なるほど。格闘家のスキルね。」
「そ。サブジョブとして私が取ったのは格闘家だからね。」
「近接戦を得意とするネイらしいね。」
「まぁね。サブジョブのスキルは5個しか取れないし、まだこれしか取ってないけど、これだけでも十分きついんじゃない?」
「確かにね。」
格闘家かプリーストが持つことができるスキル{身体強化}。格闘家の場合は自身にプリーストならば任意の味方1人に10分間のSTRとAGIのステータス強化を付与することができるスキルだ。
「でも、甘いね。{身体強化}」
「あなたも格闘家なの?」
「いや、私はプリーストだよ。」
「へー。まぁ、話は後でだね。それじゃ改めて本気で行くよ!」
{身体強化}でSTRが強化されている分お互いに受けるダメージが増える。ユーオンのスキルは大半がジョブに関係なく取得できるフリースキルという分類のスキルだ。俺が持っているものもほとんどがそれだ。ただ、特定のジョブのみが習得できるスキルが存在しており、それらは固有スキルという分類にあたる。固有スキルはジョブという習得制限がある以上その分効果が大きいことが多い。
{身体強化}の効果はSTRとAGIのステータスを10分間倍にするという破格の性能だ。お互いにそれを使えば超火力の高速船が待ち構えている。ただ、こうなれば体の制御が追いつかなくなった方が負ける。そしてそれを乱すには・・・
「スキル{反撃領域}」
「ちょ、まっ・・・」
逃げ回る俺を追っていたネイが慣性に逆らって急停止できるわけもなく。
「ちょっとあれは卑怯でしょ!」
「スキル使っちゃダメって言われてないし。」
「確かに。こっちが先に使ったしね。ってか今気づいたけど、ヴァルたちの結婚式の時に祝福授けてたんだからプリーストで当然だよね。なんでプリーストなの?パンドラって元が暗殺者でしょ?」
「一応そうだね。」
「だったらサポート系の魔法が多い魔法使い系のジョブの方が良かったんじゃないの?一応プリーストと暗殺者を一緒に取ってるプレイヤーはそれなりにいるけど、魔物っていう特性と合わせるなら攻撃魔法を使えるジョブの方が良かったんじゃない?」
「確かにそうだね。ネイはなんでだと思う?」
「うーん。自分を回復できて、身体能力のバフもできるけどそれなら魔法使い職でも似たようなことできるし、それに祝福魔法なんてほぼ意味のないスキルまで取ってたし。」
「私の性格をまだまだ理解してないみたいだね。」
「まさかとは思うけどさ。」
「言ってみて。」
「ヴァルたちに祝福を授けるためにプリーストを取ったとか言わないわよね。」
「正解!」
「マジで言ってんの?」
「マジだよ。まぁ、あまりにも意味のないジョブだったら取らないし。たとえば槍使いみたいな大きい武器を持つことが前提のジョブとかね。」
「それは当たり前でしょ。そうだとしても理由がおかしいでしょ?」
「そう?私のゲームライフの根底にあるのは仲間たちと楽しく快適にプレイしたいってのが一番だからね。」
「まぁ、分からなくはないけど、パンドラは強さを求められてるのに。運営の人が聞いたら呆れそうね。まぁ、神化取られた時点で呆れてるかもしれないでしょうけど。」
「それは確かに。」
「そういえば他のみんなってサブジョブ何取ってるの?」
「さぁ?ほとんどそういう話しないからね。先生はまだ開けてるって言ってたよ。何か新しいジョブで生産系に関わるものが出るかもとか言ってたかな?」
「ゲルマも大概思慮深いわよね。」
「まぁ、先生も相当なゲーム好きだからね。キキョウも開けてるって言ってた気がする。なんか今あるジョブでサブジョブにしたいものがないとか。」
「まぁ、無理して取らないといけないものでもないものね。フリースキルだけでも十分戦えるのがこのゲームのいいところだし。」
「だね。てか魔の地図攻略して暇になったんだけど、何か新しいクエストでも探さない?」
「私はいいけど、せっかくならさ・・・」
「いいね!そうしよっか。」




