第23話 再会と勧誘
それにしても物理攻撃しかしてこないな。まぁ、毒で削ったHPのせいで戦闘の状況が変わるとかあったら嫌だし、さっさと片付けてしまおう。ここで使ってしまうのは少しもったいない気がするけど、しばらくは使うような状況にもならないだろうしな。
「スキル{虐殺者}」
カルセドニーの体が崩壊していく。中にいるのは人か?外側の玉髄がはがれて中が少しづつ見えてくる。うん、人だな。NPCだろうけど、あれ生きてるのか?腐敗はしてなさそうだけど。
倒れたな。明らかに呼吸もしてなさそうだし、多分体内まで玉髄で浸食されて呼吸器をふさがれて死んだのだろう。というか、俺が{虐殺者}で殺したのかもな。こればっかりは仕方ないだろ。中身が人だとは思わなかったし。
それにしても周囲の壁に張り付いている玉髄は収拾できないみたいだな。この戦闘で獲得した玉髄1つだけが戦利品か。とりあえずキキョウに聞いてみるか?いや、町の装飾品店をお連れした方がいいか。下手にこれを見せるのは良くないかもしれないけれど、装飾品店なら玉髄を使用した装飾品があるかもしれないし。
とりあえず、このエリアから出ないとな。マップも異常になってたし、この間の奥に続く道に踏み入るのは正直嫌だけど仕方ないよな。
奥へ向かって歩いていくと、そこには転移ポータルが2つと宝箱がおかれていた。宝箱は明らかに禍々しい見た目をしている。どう見てもミミックだろこんなもん。まぁ、開けてみるか。ミミックとしてもどうにかなるだろうし。
カチャ・・・ガタガタガタ
やっぱりミミックかよ!黒曜石の双剣を装備!切り殺してやる!
おりゃ
キィィィン
何で一撃で倒せない?ミミック程度なら相手にもならないはずだろ?まさか上位種?ぱっと見だと分からないな。倒すしかないか。
「スキル{大地の覇者}」
ミミックを剣山大地が貫く。さすがにこれには耐えられなかったのか動かなくなった。
全くてこずらせやがって。さてと、ドロップアイテムは何だろな。
《ポーション》
おい!隠しエリアのクリア報酬なんだからもうちょっといいもの入れててくれよ。ただのポーション1つとか割に合わねぇぞ。まぁ、玉髄の価値にもよるけどさ。
えーっと、ここにあるポータルは1つ目がダンジョンの入り口に戻るもの。まぁ、もう一度周回するならこれがいいかもな。2つ目が最寄りの町の入り口まで転移するもの。
ここからだと最寄りの町はこれまで行ったことのあるイロアでもアンファングでもなくサイリアという町だ。
ネット情報だと、サイリアは他の町とは違って少し不思議な町らしい。その不思議というのが、人間ではなく獣人が多く暮らしていて、その町並みは他の町と比べて明らかに現代的らしい。もっというと機械的な光景が広がっているらしい。ただ、プレイヤーはそこで機械を購入することは出来ないらしい。ほかの町と同じように普通に設備はそろっている。武器屋、質屋、防具屋、魔法屋などのほかに装飾品店ももちろんある。宿屋もあるので拠点にもできるらしいが、なぜか機械の購入・使用だけはできないらしい。何か今後のイベントフラグ的なのがあるのかな?
まぁ、いいや、とりあえず玉髄を使った装飾品の相場を知りたいし、サイリアの町に行くか。
ポータルの上に乗ると、起動し、あっという間に町の前まで転移できた。
「モンスターが出たぞ!」
「ミミックだ。何でこんなところにいるかはわからんが囲め囲め!」
あ、完全に忘れてた。今の俺ミミックなんだ。人間の領域には伝わってるみたいだけど、ここは対象外なんだね。
「ちょっと待ってくれ。俺は人間の味方をしているパンドラというミミックだ。この街に危害を与える気はない。」
「ミミックがしゃべっただと!?ますます怪しい!おい、気をつけろよ。人語を解するほどの高位種となるとかなり強いぞ。」
「でも、パンドラという人語を解するミミックがいるのも事実では?」
「パンドラは人型になれるんだろう?それならここにこの姿で現れる理由がないだろうが。」
今はこの姿しかとれねぇんだよ。全く融通の利かない連中だな。
しかも全員がNPCだから説得のしようがない。一人でもNPCに信頼されてるプレイヤーがいればいいんだけど。
「あれ、パンドラってあの時の人じゃない?あの時はミソラってネームだったけど。」
「ほんとだ。確か裏切の制約でこっち側についたんだろ。トラブってるみたいだし、恩を着せておくか。」
おい、ばっちり聞こえてるぞ。それにしても誰だ?こんな面倒そうなことに突っかかってこようとする俺の顔見知りは?
「おい、門番の人たち。その人、いや、ミミックか。そのミミックは悪い奴じゃないぞ。俺たちの顔見知りだから通してやれ。」
「そうですよ。私たちの知り合いなんですから通してください。」
どっかで見た顔だな。誰だっけ。こんなカップルと遭遇したら忘れなさそうなもんなんだけどな。
「ヴァルさんにミルナさんじゃないですか!お二方のお知り合いの方であられましたか。申し訳ありません。」
「大丈夫だけど、町の人たちに俺について周知しておいてもらえると嬉しいな。」
「もちろんでございます。」
俺に謝罪してきた獣人は颯爽と駆けていった。
それから例のカップルと並んで歩きながら話をしていた。
「それにしてもイベントぶりだな。{裏切の制約}のアナウンスを聞いたときはびっくりしたけどな。これで貸1な。」
「そうだね。それにしても本当の名前はパンドラさんというのですね。ミソラさん。」
あ、思い出した。イベントの時洞窟の中で遭遇したカップルだ。
「こちらこそ、それに一度しかあったことないのに助けていただいて、ありがとうございます。」
「例には及ばねぇって。その分貸を1にしてるんだから。」
「それじゃその貸とは別でこちらの情報を引き換えで一つお願い聞いてもらえますか?」
「おぉ、内容によるけどいいぜ。」
「私たちに協力できることだったらいいですよ。」
「この街の装飾品店に用があってきたんですけど、案内してもらえますか?対価は私の持つ、隠しエリアの情報、もしくはユニークプレイヤーについての情報どちらかです。」
「道案内なんかでそんなたいそうな情報もらっていいのか?」
「まぁ、こちらにも考えがあるので。」
「そうか。どっちが金になる?正直2人ともアクセサリーと装備の買いすぎで金がないんだよ。」
「それだったら、隠しエリアですかね。かなり稼げるエリアの情報がありますよ。まぁ、ランダムポップのエリアなので運次第ですが。」
「じゃあ、隠しエリアの情報をもらおうかな。歩きながらはまずいだろうしあとで個室のレストランで聞かせてくれよ。それじゃ案内するな。」
そういってヴァルトとミルナは歩き始めた。
もちろんこんなのは等価交換には見えない。相手の方が明らかに得をしている。ただ、俺はここから大逆転できる。実質道案内をタダでさせるくらいの得はすぐにできるかな。
「そういや、何でお前は{裏切の制約}をやったんだ?」
「私も知りたいかも。最近はこのゲームにも詳しくなっていろいろと分かってきた所ですし。」
「それを話すのには条件があります。私もですが、ミルナさん、敬語はなしにしましょう。あとフレ登録もお願いしたいです。」
「そのくらいだったらいいぜ。ほら。」
「わかったわ。それじゃこれからよろしく。パンドラ」
「うん、よろしくヴァル、ミルナ。」
2人からのフレンド申請を受け取り、俺は話し始めた。
「まぁ、そんなにたいそうな理由があるわけじゃないんだけどね。私は普通にゲームを楽しみたかったんだよ。友達に薦められて始めたんだけど、こんな姿で。まぁ、今はこれもいいかなって思えてるけど。ほかのプレイヤーとの殺し合いしかできないって悲しいじゃん?それで{裏切の制約}をしたんだ。」
「そうか。ユニークプレイヤーも大変だな。」
「そうだね。」
「お、見えてきたぞ。そこが装飾品の店だ。俺たちは入ると買いたくなるから外で待ってるな。」
「わかった。それじゃちょっと待ってて。」
店主が出迎えてくれた。中には宝石をあしらったアクセサリーがたくさん並んでいた。どれも美しい。それにこのゲーム内ではどれも特別なスキルや強大なバフ効果を持っていたりする。
玉髄のアクセはこれかな。
《玉髄の首飾り》の一点限りだね。お値段は1億G。1億⁉思ってた倍以上高かったわ。それにこの玉髄マジでちょっとしか使われてないぞ。俺がとった玉髄ってそこそこな大きさあったし、めっちゃ高いんじゃないか?
「この玉髄の首飾りってすごくお高いんですね。」
「そうですな。玉髄という鉱石はとても貴重なものですからな。」
「そうなんですね。私詳しくないもので。」
「そうでしたか。」
「今はお金預けてるのでまた今度買いに来ますね。」
「さようですか。お待ちしておりますじゃ。」
俺は店を出てヴァルたちと合流した。
「待たせてごめんね。それじゃどこかおいしいお店知らない。できれば個室のあるとこ。奢るから、そこそこ高い店でもいいよ。」
「それだったらちょうどいいところがあるぜ。」
歩いていくヴァルたちについていって到着したのは大衆食堂のような店だ。
「ここは安くてうまいし、個室も完備されてるめっちゃいい店なんだよ。」
「そうだね。ここが一番いいかもね。」
「そっか。それじゃ個室で何か食べながらゆっくり話そうか。」
俺たち3人は各々定食を注文してある程度食べてから俺が話し始めた。
「隠しエリアの情報でいいんだよね?」
「あぁ、頼む。」
「それじゃ、まず《修練の横穴》ってわかる?」
「パンドラが予告テロしたとこだろ?」
「そうだけど、その言い方はやめてよ。まぁ、それは置いといて、あそこで多分ランダムなんだけど、実際のマップと違う道が出てくることがあるんだよね。その先に行くと、特別なモンスターとの戦闘になる。もしかしたら幸運値が絡むのかもしれないけど。」
「特別なモンスター?あそこで金稼ぎって言ったらジュエルタートルくらいしか思いつかないが。」
「たぶんだけど複数の隠しエリアが準備されてるんだと思う。私がさっき倒してきたんだけど、そこで手に入ったのがこれ。アクセサリーを集めてる2人ならわかるんじゃないかな?」
そういいながら玉髄を見せる。
「はぁ!?玉髄!?そんなもんをドロップしたってのか?」
「玉髄って言ったらほんの少し使用しただけでも億単位の値が付くアクセサリーに使われてるあれでしょ!?」
「そう。それでさっき装飾品店に行ったんだよね。知らなかったから。私もびっくりしたよ。」
「そりゃそうだろ。で、そのモンスターは強いのか?」
「多分レベルカンストしてればどうにか倒せると思う。全身がその鉱石でできてるからかなり硬いけど核が人間だから状態異常とか、魔法の効きもいい。」
「それならどうにかなりそうだな。貴重な情報に奢りありがとう。奢ってくれた分も合わせてこれで貸し借りなしだな。」
「いや、おごりはおまけだから。あと貸1が残ってる状態だよ。そこで、こっちからその貸を返す提案なんだけど。」
「マジでいいのか?それで、その提案って?」
「ちょっと申し訳ないわね。」
「いいの。それで、2人に私のギルドに入ってもらいたいんだけど。」




