第20話 逃走
もちろん歯車たちは壊れ、再び襲い掛かってくる。ただ、一つ分かったことがある。歯車の最大個数は何かあって状況の変化がない限りは10個、そして一度壊すたびに一部の砂が死んでいっている。つまり{大地の覇者}状態で壊し続ければ割と早い段階で戦闘不能にできる。ただ、そんなにMP回復アイテムを大量に持っているわけでもないし、地道に通常の状態で壊し続けるしかないよね。何時間かかることやら。
襲い掛かってくる歯車を壊し続けること約2時間。ようやく目に見えて歯車が小さくなり、大きさの変化が1回ごとに目に見えて減ってきている。数は最大が10なのではなく、固定で10個なのだろう。数を減らして大きさを維持するというのが見られなかった。問題は小さくなりすぎて目に見えないほどの大きさで襲ってこないかということだ。現状のむりげー度合いならあり得る気がする。
最初の歯車の大きさが直径約60㎝。今の歯車の大きさがどれも直径約5㎝。さっきの度合いを見るに10個すべて次の破壊で1㎝を切る、もしくは撃破になる。
まずは1個!
復活はない。これで全部撃破できる。
AGI最大で一気にすべてを破壊!
エリアや状況に変化はない。もう少し待たないといけないかな?
痛っっっ!
腕にダメージだと?どの歯車も復活することはなかった。ではなぜ今攻撃を受けた?間違いなく目に見えないほどに小さい何かからの攻撃だ。現に俺の視界に移るモンスターなどはいない。
まただ!今はスキル{不壊}を発動させていた。それでもダメージを受けたってことはそれを貫通する手段があるということだ。
このままだと削り切られるのも時間の問題かもな。こんな状態では観察もできない。敵にターゲットにされている以上見つかりそうになれば逃げるか攻撃を仕掛けてくるだろう。ならば・・・
「スキル{神速}」
AGIを高める必要はないのだが、ここで俺が選んだのは{神速}。このスキルはAGIを上昇させるだけではない。20秒間ステルスにしてくれる。つまり、今から20秒は観察に専念できる。できれば撃破もしてしまいたい。
動いてるのがいるな。何となくではあるけれど、近くを通るときにかすかに視認できる。大体の軌道を予測して、俺が姿を現す5秒前に
「スキル{大地の覇者}」
まずは5秒間の地震。そして剣山大地。この剣山大地は調整してあいつが5秒後にいるであろう場所にだけ剣が生えるようにした。それも候補地として15か所だ。大体の場所である以上1か所では絶対にトドメを差し切れない。
どこかで砂が地面に落ちた。これで撃破完了だろう。これでまだ小さくなるとか言われたら俺キレるぞ。
まぁ、何も起こらないってことはまだ戦いが終わってないってことだよね。《地底の遺物》そんなたいそうな名前が付けられているんだ。この程度で終わっちゃ拍子抜けだよな。暴走し、本気になったゴーレムを撃破、大量の歯車を破壊しながらの耐久ゲー。正直言ってゲームとしては退屈もいいところだ。確かにゴーレムは強かったけれど、普通のプレイヤーでもパーティを組めば倒せる程度だ。それにこれで終わりなら通常ステータスを開放される必要はないだろうし。
ほら、地面の砂がひとりでに動き出した。ん?ちょっと待って・・・・・・
第三形態があるかもとは言ったよ。確かに言ったんだけどさ、これはやりすぎじゃないか。
全ての砂が合体し、このエリア全体を覆いつくすほどにまで大きくなる。これがこいつの本来の姿。エリアはすべてこいつの下敷きになっている。体全体が流動しているような感じだ。上から下へと流れていき、おそらく体内では下から上へと流れているのだろう。
このエリアにいる、いや、砂のある場所にいる限りすべてがこいつの自己補完の範疇にあるということになる。それだけじゃない。さっきよりも圧倒的に砂の量が増えている。そのせいでこっちは足を砂に取られて思うように動くことさえできない。これはさすがに死にそうだね。呼吸の必要がないとはいえ、こいつの体内に吸収されてしまえば最後、そんな雰囲気を感じる。ここは撤退した方がいいかも。
「ギルド転移」
ギルドメンバーだけが使える転移ポータルを使用してギルドに戻ってきた。ゲルマとキキョウもいるかと思っていたけれど、あまりにも時間が経ちすぎているからか2人ともログアウトしてしまったようだ。
「キキョウ今から来れる?」
キキョウにそうメールを送ると返事もせずにすぐインしてきた。
「パンドラ!無事だったのか。心配したぞ。」
「ごめんごめん。何とか無事だよ。でも倒せなかったよ。さすがに強敵だった。何とか最終形態みたいなとこまで入ったんだけど、それが無理そうだからあきらめて転移してきたってわけ。」
「そうか。また明日でいいから情報聞かせてよ。」
「もちろん。ただ、私しか挑戦できないみたいなんだよね。2人が死んでから少しして特殊戦闘みたいなのに入ったんだけど、古来の力が何とかって言ってたんだよね。今のところユーオンにそんな設定はないし、多分現時点でその力を持ってるのってユニークプレイヤーだけなんじゃないかな?」
「古来の力か。確かに聞いたこともないな。それがフラグになってるんだとしたら、俺たちは太刀打ちできないだろうし、作戦を考えるのと、ゲルマは武器を作るくらいしかできないか。」
「それだけでも十分だよ。とりあえず次に全員揃った時に詳細を話すね。疲れたからもう寝るわ。おやすみ。」
「おやすみ。また明日。」




