第183話 秘密のスポナー
ネイに連れられてきたのは外観ではなんなのかわからない建物だった。何やら受付のNPCがネイの持っているパスを確認し、俺たちは中に通された。
「ここは?」
「ちょっと楽しい場所って感じかな。まぁ、見たらわかるよ。」
中にはプレイヤーは誰一人おらず、中に箱が一つ置いてあるのみ。
「始まるよ。」
ネイのその言葉を皮切りに箱の中から大量のゴブリンが飛び出してくる。
「なるほど!スポナーか!」
「そう。ここは私が作った施設。受付は私が連れてきたプレイヤーしか通さないようNPCが常に見ていて、中には入れないようになってる。そして私が中に入ることでスポナーがトリガーして大量のゴブリンがスポーンする。」
「よくスポナー見つけたね。それに持ってくるの大変だったでしょ。」
スポナーとは登録されたモンスターを大量に召喚するアイテムだ。基本的にはインベントリに入れることができないので、手で持ってくるしかない。
「まぁね。その分リターンは大きいからね。」
ネイの手に握られているのはユニークウェポンである向日葵之紅刀。
「確かにそれを鍛えるにはもってこいだね。」
「でしょ。2人も後で使っていいけど、一旦手を出さないで。」
「オッケー。ネイの立ち振る舞い、とくと見させてもらうよ。」
「偉そうだね。これでもプロプレイヤーなんだからねっ!」
話しつつ、しっかりゴブリンを捌いていくネイ。前よりも動きが軽やかになったか?まぁ、メインの武器がモーニングスターとかみたいなのから大刀とは言え刀になったし、身軽に動いた方がいいよな。
100対以上いたゴブリンをあっさりと殲滅したネイはこっちに向かって歩いてくる。
「流石だね。あれだけの数を一瞬だなんて。」
「あんたのほうが速いでしょ?まぁね。それじゃ、リンもやる?」
「うん!」
リンももうレベル99だ。このくらいなら余裕だろう。
「それじゃ出すよー。」
そう言ってネイがウィンドウで操作する。
「ネイ、もしかしなくてもあれ先生に作ってもらったでしょ?」
「バレた?」
「だってスポナーってコントロールできるもんじゃないし。」
「流石だよねー。言ったらあっという間に作ってくれたんだもん。」
「先生も大概無法だね。」
リンがゴブリンを捌いているのを眺めながら話しているが、ちょっとリンが押されてるか?まぁ、防御高めのステ振りだし、盾も構えてるし大丈夫でしょ。
「それにしてもリンちゃん、盾の扱いがまた一段と上手くなったんじゃない?」
「ね。もう立派に戦えてるね。」
リンの装備は軽い革鎧に左手に腕に嵌めて使うタイプの盾、右手に剣を構えるスタイルだ。盾を持ちつつ、機動性を高める。防具でカバーできていない防御力は自身のステータスでカバーしている。ゴブリン程度なら何も装備していなくてもほぼダメージを喰らわないだろう。
「流石に数が多くて時間はかかりそうだけど、ダメージは受けてないね。」
「それにしてもあのタイプの盾って難しいのによくあんなに上手く扱えるよね。」
「確かに。ちゃんと実践と同じように攻撃防いでるし、えらいね。」
「私だったらそのまま受けちゃうなー。」
「私も。っていうかあんな真面目な子あんたの妹には勿体無いんじゃない?」
「うるさいなー。」
そんなことを話しているうちにリンが最後の一体を倒し終えたようだ。
「お疲れ様ーリンちゃん。」
「結構疲れるねーこれ。」
「でしょ?100体って結構多いからね。で、パンドラもやる?」
「最近鈍ってきてたし、やろっかな。」
「それじゃ準備できたら言って。すぐに召喚するから。」
「うん。」
俺はスポナーの目の前まで行き、ゼウスのローブの効果でステータスを解放する。
「そっちでいくんだ。」
「まぁね。準備オッケーだよ。」
その声と同時に大量のゴブリンが召喚される。いつも通り最高速で移動しようとするが、最近本気での移動をしてなかったこともあってやっぱり若干進みすぎる。
「スキル{神速}」
さらに速度を上昇!これでも見えて入るし、一応反応はできてるな。攻撃はせずに動きになれることに専念しよう。
うん。{神速}の効果は終わったけど、ようやくスピードに慣れてきた。倒すか。
さっとゴブリンの群れに突っ込み全部を切り捨てる。
「あんたさー。対人でそういうことしないようにね。」
「わかってるっての。今のは感覚を取り戻すために動いてただけ。それよりもう一回いい?」
今度はミミックの姿に戻る。
「いいよ。数は100で足りる?」
「最大数って幾つ?」
「まぁ、300が限界かな。数的には1000まで召喚できるんだけど、多分スポナー壊れる。」
「オッケー。それじゃ300でお願い。」
「はいはい。いくよー。」
ネイの声に合わせて300体のゴブリンが召喚。今回は腕をフルで展開。速攻で全てを切り伏せる。
「見えなかった。」
「相変わらずね。どれだけ妹の前でカッコつけたいのやら。」
「うるさいなー。でも、思ってたより鈍ってなくてよかったよ。」
「それは何より。」
「そういえば向日葵之紅刀ってどのくらいまで成長したの?」
「いまSTRが9000突破したくらいだね。」
「ここ1ヶ月ずっとどっか行ってると思ったら、ずっとここで鍛えてたの?」
「そうだけど?」
「集中力がすごいね。私には到底できないよ。」
「私としてはこの子に愛着が湧いてるからね。どこまででも鍛えてあげるつもりだよ。」
「ってか9000もあればプレイヤーならどんな相手でも一発キルじゃない?」
「だろうねー。」
「{可変技能}については長くなりそうだから聞かないでおくけど。すごいね。」
「まぁね。これでイベントでも余裕でしょ。」
「確かに。」
「それじゃイベントも頑張ろうね。私は戻って落ちるけど2人はどうする?」
「私ももう落ちようかな。」
「じゃあ私も。」
「そっか。それじゃまた明日ねー。」




