第13話 退化と新スキル
よし!ようやく安全が確保されたぞ。ほかのユニークプレイヤーは人間の領域から追い出されて、俺は正式に人間側についた。これで俺が狙われることはないはず。全プレイヤーにゲームシステム的にスパイや反逆は不可能であると告知されている以上よっぽどなPKじゃない限り俺を殺そうとはしないはずだ。
ただ、ログインしてから気が付いたことがある。
それは俺の姿についてだ。今日はキキョウと一緒に色々する予定だったけれど、それどころではない。なぜなら俺の姿が人型からエルダーミミックになっていたからだ。理由は少し考えれば簡単なことだった。通常プレイヤーのステータス合計値の上限は5880。仮にステ振りを一切せずに進化を続けたとしても5880では進化を3回しかできない。
ミミック→グレートミミック→アークミミック→エルダーミミック
というわけだ。ステータスの合計値があと120多ければパンドラになることができたけれど、そうもいかない。その代わりといっては何だが、一般プレイヤー側についたことで3つの恩恵を得ることができた。
1つ目はミミック状態での会話が可能になったこと。さすがにこれがないとプレイヤーとの意思疎通とかできなくてモンスターにみられるし当然だろう。ちなみに声はパンドラの時と同じだ。女声なのだけが気に食わん。
2つ目はプレイヤーネームの常時表示。これは通常のプレイヤーとは異なる表示で表示される。文字が赤色になっている。通常は青だ。これが{裏切の制約}をしたユニークプレイヤーという証なのだろう。
3つ目は宝箱を開いている状態なら中から2本まで腕を出すことができる。これがあれば建物の中に入るときなども困らないだろう。
この3つは正直恩恵といっていいのかわからない。無いと困るものだろう。とりあえず相談のためにキキョウを呼ぶか。
「どうした、パンドラ?」
のんきにそういいながら部屋に入ってきた。
「見ての通りだよ。」
「あれ?宝箱状態だとしゃべれないんじゃなかったっけ?っていうかなんで人型じゃないんだ?」
「人型になれないんだよ。多分ステータスの不足だ。俺の場合、進化条件が前回の進化から追加でSPを1500溜めること。それで進化段階が4段階だった。ステータスの合計値が5880だと最後まで進化できないってことだろ。」
「そうか。まぁ名前も確認できるし、会話もできるんだろ?それなら大丈夫そうじゃないか?」
「まぁ、ほかのプレイヤーにはこれで慣れてもらうしかないよな。」
「ステータスはどんな感じになってるんだ?」
「そーいえば俺も確認してなかったわ。」
UniquePlayerNo.1パンドラ
種族:エルダーミミック(パンドラ)
スキル:{不壊}{毒霧}
Lv.1
HP(体力) 20(30)
MP(魔力) 338(500)
STR(筋力) 676(1000)
VIT(防御力) 338(500)
INT(魔法攻撃力)338(500)
RST(抵抗力) 338(500)
AGI(素早さ) 2027(3000)
DEX(器用さ) 933(1380)
LCK(運) 872(1290)
SP0
「こりゃ見るのがめんどくさいな。この括弧のなかが素のステータスってことでいいんだよな。」
「多分。で前に書いてあるのが調整後のステータスだろうな。」
「そうだな。っていうか、お前はレベル上げの前にスキルを集めた方がいいぞ。これまでレベリングだけしてたんだろ?ユーオンはいろんなことがフラグになっていろんなスキルが獲得できるようになっている。今のお前におすすめなのだと{大物殺し}。お前は状態異常で倒してるから獲得できてないんだろうが、通常は自分よりもレベルの高いボスを単独で撃破すると獲得できる。っていうかその状態ってもしかして{毒霧}以外に攻撃手段無い?」
「いや、武器は使える。ほら」
そういって手を見せるとすごく気持ち悪そうな顔をされた。
「触手みたいだな。まぁ、それがないとこの部屋からも出られないわけだし当然の処置か。」
コンコン
キキョウのその言葉に反応したかのようなタイミングで部屋の扉がノックされた。その部屋を借りているプレイヤーが許可したプレイヤー以外は部屋の扉を見ることすらできない。俺とキキョウは顔を見合わせながらも
「どうぞ。」
俺がそう言って招き入れた。どうやらNPCのようだ。
「パンドラ様でお間違いないでしょうか?」
そのNPCは俺の名前を呼んだ。俺に何か用があるのか?それとも何かのイベントフラグ。見たところ何も持っていないし、何かを届けに来たとかではなさそうだが。
「はい。俺がパンドラです。」
「こちら『ユートピアオンライン運営』様よりのお届け物です。」
そういいながら魔法収納みたいなところから大きな箱を取り出す。
「あ、はい。」
「それでは失礼します。」
荷物を置くだけおいて去って行ってしまった。それにしてもどういうことだ?ユーオンの運営からの荷物だと?
「パンドラ、何か覚えはあるか?」
「いや、まったく。正直開けたくないくらいだよ。」
「まぁ、開けてみるしかないだろ。」
「それじゃ開けるぞ。何かの罠で死んでも責任はとれんからな。」
「それはないと信じたいな。」
「いくぞ。」
そういいながら俺は箱を開ける。宝箱が箱を開けるという何とも奇妙な映像だったことだろう。
その箱の中には1通の手紙らしきものといくつかの丸められた紙が入っていた。
「なんだこれ?」
「これってスキルスクロールじゃん!」
「なにそれ?」
「使うことでそのスクロールに封じられたスキルを獲得できる神アイテムだよ。ダンジョンの初攻略の報酬とかでドロップすることがあるとか聞いたことがあるけど、こんなに大量には見たことないな。」
「とりあえず手紙の方を確認してみるか。」
『{裏切の制約}によって新規スキルが獲得可能になりました。これらのスキルスクロールは条件を満たしていながら獲得できなかったスキルを封じ込めたものです。一度条件を満たしたものは再度同じことをしてもスキル獲得には至りません。そのためこのような形でお送りさせていただきます。それではせいぜい一般プレイヤーを導いて勝利できるよう頑張ってください。』
最後の一文がかなり棘のある言い方だな。ユニークプレイヤーに運営の人物が紛れ込んでいてもおかしくなさそうだな。
「なるほどな。っていうか、これ6本あるだろ。ってことはお前これでスキルが8個になるのか。」
「そういうことになるな。スキルって普通どのくらい持ってるものなんだ?」
「レベル99のプレイヤーだと最低でも2桁だな。」
「そっか。スキルってどういうのがあるんだ?」
「バフをかけるもの、デバフをかけるもの、攻撃をするもの、状態を変化させるもの・・・って感じでいろいろだな。まだ見つかっていないスキルとかもあるだろうし。」
「なるほどな。ここにあるスキルは何か確認してみるか。これはどうやって使うんだ?」
「一度中に書いてあるスキルの名前を確認してそれを唱えながら丸まった状態の紙を軽く投げ上げれば紙が燃えながらスキルを獲得できるぞ。低性能のスキルなら町でも売ってるから1回だけ使ったんだけどめっちゃファンタジーって感じでなんかいいぞ。」
「なんだそりゃ。それじゃとりあえず、全部習得してからスキル確認と行くか。まずはこれだ{大物殺し}」
「どんどん行くぞ。{神速}{暗殺者}{大地の覇者}{不屈}{虐殺者}」
「俺の知ってるスキルは3つだけだったな。スキル効果の確認と行こうぜ。」
「あぁ。まずは{大物殺し}。自身よりレベルの高い相手と戦うときに全ステータスに+10%の補正がかかる。{裏切の制約}後のユニークプレイヤーの場合、種族的な進化は不可。」
「それが出来たらお前はレベル1でキープすればいいだけだしな。これは割と有名なスキルだ。」
「次は{神速}。1分の間AGIを倍にし、発動から20秒はステルス状態になる。ステルスって?」
「その名前のまんまだよ。隠密状態。探知系のスキルがないと見つけれない状態。もちろん視界にも映らない。これも俺は知ってたけど、結構珍しいスキルだな。」
「なるほど。次に{暗殺者}。不意打ちや狙撃に補正がかかる。」
「これは{神速}を持ってる奴は大体持ってるな。{神速}でステルス状態になって不意打ちをできるからな。」
「へぇー。ってことはここからがキキョウの知らないスキルだね。」
「そうだな。早く聞かせてくれよ。」
「{大地の覇者}MPを消費して地震と剣山大地の2種の攻撃を内包したスキルらしい。地震の発動後10秒で剣山大地が発動、さらに10秒後に効果終了って感じだね。範囲は半径10メートルで敵味方関係なくダメージを与える。」
「剣山大地って何?」
「お前ってディクティオンのボスと戦ったことある?」
「地龍ガイアとかいう化け物?戦ったことはないけど、戦ってるシーンの映像は見たことあるけど、まさかあれ。」
「多分あってる。あいつの使う地面がとげとげになる奴。」
「とげとげってレベルじゃないだろ。あれほぼ即死技だよな。しかも地震のおまけつきか。」
「次行くぞ。{不屈}1日に1回どんな状態からでもHP1で耐えることができる。」
「普通に強いな。なんかさっきの聞いた後だから地味だな。」
「それは俺も思った。それで最後、{虐殺者}。半径10メートル以内にいる生物を好きな数選んで即死させる。このスキルでプレイヤーを殺してもプレイヤーキルにはならない。」
「強すぎね?」
「それには同意だが、もちろんそれに見合った条件がある。」
「さすがにな。それで条件ってのは?」
「クールタイムが720時間。」
「は?」
「だからクールタイムが720時間なんだって。」
「720時間ってことは24で割って、30日か。1度使用したら1か月使えないと。確かにそれはちょうどいいペナルティかもな。」
「まぁ、こっちはPK扱いにならないし、PKに襲われたときにでも使えばいいでしょ。それかイベント中。」
「それもそうだな。これで全部か。それにしてもこれだけあるとかなり強そうだな。状態異常に耐性のないものは{毒霧}で一掃。接近戦を仕掛けてくるなら{不壊}でダメージを防ぎつつ{大地の覇者}で一網打尽。魔法が主武器のプレイヤーには{神速}で接近して{暗殺者}でトドメ。いざというときには{不屈}で持ちこたえ、最後の切り札に{虐殺者}もある。」
「確かにそうやって聞くと結構やばいね。まぁ、{大地の覇者}はソロプレイ向きだけど。」
「味方を巻き込むのがネックだよな。」
「どうしようもないよな。まぁ、それについてはいったん置いといて例の件について話そう。」
「そういや、そっちが本題だったな。」




