第10話 実験とラストバトルの始まり
「掲示板見てて忘れてたけど、そろそろエリア縮小から30分だね。」
「もうそんなになるか。それじゃあ残り人数まで見てから掲示板に戻るか。」
「そうだね。あと1分くらいだね。」
「あと何人残っていることやら。っていうか確か1時間半からは人数じゃなくて組数表示だったよな?」
「そうだね。まぁ1万組は切ってるでしょ。5000くらいだと楽なんだけど。」
「そうだな。多分2時間経過後はエリアがこの平原だけになるだろうからな。そうなったらお前の独壇場だな。」
「あとは首を切り落とせば終わりだからね。この平原って確か端から端まで500mとかだよね?」
「確かそうだ。お前の最高速度なら0.1秒で行けるわけか。どんな動体視力してるんだか。」
「なんかゲームシステムで補正かかってるっぽいんだよね。ほら、残り人数出たよ。」
《イベント・バトルロイヤル部門残り人数8961組。現在キル部門1位ミソラ・キキョウペア259万4126人》
「1万組は余裕で切ってるな。最大でも18000人弱か。これまでに比べて減りが悪くなってるな。」
「多分俺たちを狙って徒党を組んでるプレイヤーが多いんじゃないかな?正確には俺たちじゃなくて俺だろうけど。」
「多分そうだな。掲示板の書き込みはいったん中断して警戒しとくか。」
「それがいいと思う。いつ襲われるかわからないし、こっちからキルしに行ってもいいだろうけど。」
「それだとお前の単独行動中に俺が狙われる可能性が高まるからやめてくれ。そういや今思ったんだけど、AGI3000でマッハ15ってやっぱりおかしくないか?それなら通常のプレイヤーもできるだろうし、やってる奴いてもおかしくないと思うんだよな。」
「それなんだけど、ユニークプレイヤーのステータスは通常と基準が違うらしいんだよね。」
「というと?」
「ユニークプレイヤーのステータスは低ければ低いほど、その1ポイントあたりの価値は下がる。要はSTRに10だけ振ったとすると、それは通常のプレイヤーの1にしか満たないらしいんだけど、逆も同じなんだよね。ステータスが高ければ高いほどそのポイントの価値は上がって、今の俺のAGIが3000だから確か5倍だね。通常プレイヤーで表すならAGI15000だと思ってもらった方がわかりやすいかな。」
「ってことは1000でマッハ1ってことか。通常のプレイヤーだと最大でもマッハ5か。」
「そうなるね。あと、1つやりたいことあるからしばらくここで一人で生き残ってもらえる?」
「唐突だな。まぁ、頑張るけど、どのくらいで戻ってくる?」
「そうだね。プレイヤー1組をキルしたら戻ってくるよ。実験も兼ねてるからちょっと時間かかるかも。」
「わかった。ここまでお前に守ってもらってばっかりだからな。俺も頑張って生き残って見せるさ。」
「それじゃまたあとで。」
「おぅ」
俺は森の中へと歩き出した。プレイヤーたちは俺たちを見つけられていないのか襲撃はない。ミミックだという情報が洩れているとはいえ、今は人型をとっている。宝箱型だったら近づいてくる馬鹿が1人くらいいるだろ。それにこのゲームの運営ならそういうのを隠し要素で入れていても違和感はない。洞窟を見つけて、その奥に宝箱の姿で身をひそめる。
あとは誰かが来てくれてそいつをキルするだけだ。今の俺の擬態の精度は最高レベルに高い。DEXに極振りしてる盗賊とかアサシンでないとミミックだと判別できないだろう。それに今の俺はかなり豪華で大きさもそれなりだ。服とか鎧とかそういう系統の装備が入っていてもおかしくないほどの大きさだ。これは開けたくなるだろう。
「この洞窟のなかって見たっけ?」
「まだ見てないけど、ほかのプレイヤーがいたらどうするの?」
お、明らかカップルっぽいのが来たな。声だけで分かる。絶対にリア充だ。
「大丈夫だ。敵を感知するスキルに反応がないし、この中にはいないよ。」
「そう?それならいいんだけど。」
少しづつ足音が近づいてくる。万が一の襲撃に備えてゆっくり進んでいるのだろう。ただ、少なくとも{毒霧}を無効化した実力者であることは間違いない。
ようやく姿が見えたな。男の方は盗賊か。それもかなりの手練れっぽいな。装備品も明らかに高価なものだ。俺のダガーと性能は互角なんじゃないか?
彼女らしき奴も相当良い装備を身に着けている。これは男が貢いでるな?動きからして明らかにゲーマーではない。何なら俺がキキョウに買った指輪と同じものまでつけていやがる。男の方は自前で毒無効のスキルを身に着けていると考えていいな。それじゃここは開けた瞬間奇襲でキルするのが一番手っ取り早いな。
「ねぇ、ねぇ!ヴァル君。すごそうな宝箱があるよ!」
「見るからに怪しいな。ミルナ、ちょっと待ってて。ミミックとかトラップじゃないか見てみるから。」
それから男はいくつかのスキルを使用したようだった。おそらくモンスター感知の魔法に、罠感知の魔法といったところだろう。
「罠でもモンスターでもないね。何でこんなところにあるのかはわからないけどもらっていこう。鍵もかかっていないみたいだし。」
ここまで鑑定系のスキルを信じてるってことはレベルカンストの可能性もありそうだね。
「それじゃ開けるね。」
そういいながらミルナが俺を開けようとする。ふたに手をかけた瞬間、俺は姿を人間に変化。よし、うまくいった。一瞬で姿を変化させる練習をしときたかったんだよね。
そして姿を変えると同時に装備品が自動装備された。そして姿を変える過程でつかんでいたミルナの右腕を切り飛ばした。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ミルナ大丈夫か。これを。」
そういいながらヴァルが治癒のポーションを服用させる。少しづつではあるけれど、切り落とした腕も再生してるね。
「まさか、キル数断トツのユニークプレイヤー様に遭遇するとはね。」
「やっぱり情報見てるんだ?」
「そりゃ、確認してるさ。ミミックの最上位種、パンドラなんだろ?」
「そこまで知ってるなら話が速いね。私は実験がしたかっただけ。別にキルしたいわけじゃない。どうする?あなたたちがやりあいたいなら遊んであげるけど。」
「ここで俺がユニークプレイヤーの情報を持ち帰れば、一般プレイヤーが有利になるだろ?やらせてもらうぜ。」
「そう。私は通常のプレイヤーと対立する気はないんだけどね。楽しくプレイしたいだけで。」
「そんなのだれが信じるかよ。ミルナ!後ろに下がっていてくれ。」
「ヴァル君、頑張って!」
2対1だと気分が悪いな。
「先に聞いておきたいんだけど、あなたをキルした後、そこの子はどうすればいい?」
「できれば見逃してほしいかな。」
「わかった。多分30分後くらいに殺すことになると思うけど。あと、もう一つ。全力で戦ってほしい?それとも少し手加減した方がいい?一応瞬殺できるんだけど。」
「AGI、STR特化双剣使いの俺をか?お前の攻撃なんざ見切ってやるぜ。」
「奇遇だね。私もAGI、STR特化型なんだよ。まぁ装備を見てわかってるとは思うけど。」
「まぁ、俺の希望が通るのなら全力は出さないでもらいたいかな。」
「わかったいいよ。それじゃ1分間のハンデをあげる。その間に私を倒せればもちろんあなたの勝利。それにあなたはこのゲーム内で英雄になれる。1分経ったら私も軽く攻撃を始めるからね。」
「1分もいいのか?それじゃ、スタートの合図はミルナにしてもらうってことでいいか?」
「かまわないよ。」
「それじゃミルナ。スタートと、スタートから1分の合図を頼む。」
「わかった。頑張ってねヴァン君。それじゃ、よーい、ドン」
「{幸運を力に}」
何かのスキルだね。名前からして幸運値によってSTRが上昇するといった感じか。それじゃ俺には届かないけどな。それにしても俺めっちゃ女らしく話せてない?急にだったのに一人称も私になってるし。これはもう男だってばれることもそうそうなさそうだな。
「{暗殺者刃術}」
「なるほど。アサシン系統のスキルが多いんですね。それは確かにAGI、STR特化となると強いですね。」
俺は攻撃をダガーで受け流しながら会話を試みる。
「だろ?それにしてもなんでそんないい武器持ってるんだよ。初日からガッツリプレイしてる俺と同等じゃねぇか。」
「いろいろあってね。」
「これじゃ届かなさそうだし、少しせこいがこれを使わせてもらう。{陰に生きる者}」
姿が消えた!なるほど。陰でのみ使用できて影の中を自在に行き来できるといったところかな。どこから出てくるかわからない以上攻撃は喰らっちゃうな。
キィィィィィィン
金属音が響くと同時に俺の背後にヴァルが現れた。俺の脇腹にはヴァルの持つ2本のダガーの切り付けが炸裂していたが、皮膚で止められ、力の行き先がなくなったことで刃はカタカタと音を鳴らして震えている。
すぐにヴァルは離れて体勢を立て直す。
「ちょっと待て、どうなってやがる。素肌の出ている場所を狙ったのに傷一つついてないじゃねぇか。」
「今のはすごかったね。まぁ私には届かないけど。」
これにはからくりがある。このヴァルというプレイヤー、レベルはカンスしているだろうし、STRも俺に十分にダメージを与えれるくらいにはあるだろう。
俺がこの洞窟に来た理由はもう一つある。スキルについてだ。{毒霧}は分かるけど、{不壊}を人型で使えないのはあまりにも不便だ。それでどうにかして発動できないか試していると、呼吸瞬き、手や足のちょっとした動きこれを完全に止めた瞬間だけ発動することが分かった。普通だったらそんなことできないけれど、今の俺は人間の姿をしたミミックだ。ミミックというのはこのゲームの設定では宝箱そのものに魂が宿ったものだから、生きていても無機物だ。
無機物である以上、生命維持に必要な行動はすべてカットできるということに気が付くことができた。実際呼吸をしないというのは変な感覚だが、ここでは呼吸しなくても生きられる。ただ、現実の体が呼吸をしている以上呼吸をしているという感覚は抜けない。ただ、自分がそう思うだけで種族的に選べるようになっている設定を変更できるみたいだ。
「1分です。」
ミルナから1分経過のコールがあった。
「ヴァルさん、AGIはいくつくらいですか?」
「大体1500だ。」
「マッハ1.5ですか。なかなかですね。」
「すぐに把握できるってことはお前も少なくとも1000以上なんだろ?」
「そうですね。それではまずは軽くいきましょう。」
俺は軽く地を蹴ってヴァルを切りつけようとする。ヴァルはそれを見切って何とか自身のダガーではじく。
「さすがPSも高いみたいですね。それじゃもう少しあげましょうか。」
「ちょっと待て。これで最速じゃないのか?今の俺よりも速いんだが?」
「そうですけど。今のは大体あなたのAGIと同じくらいで攻撃しただけですね。」
「マジかよ。もういいわ。俺の負けだ。とどめを刺してくれ。できれば最速で動いてもらえると嬉しいんだが。」
「わかりました。」
このゲームではプレイヤーの動きに対する慣性や物理法則は一部無効化されている。だから最速で切っても洞窟の壁にぶつかって崩壊するなんてことはない。
「それでは行きます。特にスキルとかはないのでこのまま切りつけるだけですが。」
望み通り最速ので切りつける。もちろん目で追えるものではないし、気が付いたら首が落ちているという感じだろう。ヴァルに頼まれていた通りミルナは見逃した。おっと、洞窟内で待っている時間が長かったみたいでそろそろ転移の時間だな。
それにしてもこの体いいな。{不壊}も使えて人間のアバターだから動かしやすい。暇だし、少し話しかけてみるか。
「ミルナさんでしたっけ?あなたは個々ではキルしないので安心してください。といってももうすぐ転移の時間です。その先で巻き込まれても私は責任をとれません。もちろん私がキルする可能性もありますけど。」
「ヴァル君の首が落ちたことしかわからなかったです。今のどうやったんですか?」
「今のはただ近づいて首を切っただけですよ。私のAGIは通常のプレイヤーに比べてかなり高いので。それに彼も本気で移動したら残像が見えるくらいには速いんじゃないですか?音速の速さですし。」
「そうなんですけど、私は彼におんぶにだっこでここまで来てるんで、ここから不安でしかないです。」
「多分大丈夫ですよ。次のエリア縮小はおそらく中央の平原まで。大体直径500mの円ってとこですかね。そこにその中に1万人近くが入るので確実に混戦になりますし、私が一掃するつもりなので。」
「確かにさっきのならできそうですね。」
「ほら、表示されましたよ。」
《イベント・バトルロイヤル部門残り人数7214組(14427人)。現在キル部門1位ミソラ・キキョウペア259万4129人》
《エリア縮小:中央平原以外のすべてのエリアを切り捨て。その範囲にいる者はエリアとして残る範囲に強制転移》
お、キキョウが2人倒してるな。無事っぽいし一安心だな。強制転移で転移させられた俺は衝撃的な光景を目にしていた。
「ねぇ、これはさすがに気持ち悪くない?」
「そうだな。さすがに多すぎる。」
キキョウも同意見らしい。ここまでだと少し面倒だね。もう少し楽しみたいし、ここは一掃せずに戦うか。
「キキョウ、さすがにエリアが狭すぎる。もう少し楽しみたいのもあるけど、ここはあえて俺のAGIは解放せずに行くぞ。あとこれから、対外向けの時に一人称は私にするようにするから笑ったり、何か言ったりするなよ。男だとばれたくない。」
「おっけー。それじゃとりあえずゆっくりやりますか。」
そうはいったものの、俺たちに突っかかってくるプレイヤーはかなり多い。徒党を組んで襲ってくるものや、2人で襲ってくるもの。様々だった。それらを一通り片付けて俺たちのキル人数はさらに100人ほど増えた。10分弱が経過したかな。そろそろ少し疲れてきたかも。飽きが早いとか言わないでほしい。
「キキョウ、減ってきたからあれ行くね。」
「了解。頼むぜ。」
俺は残りのエリア全部を回って全プレイヤーの首を切り落としてまわった。それに要した時間はおよそ10秒。装備で防御しようとしたものもいたが、それだけではどうしようもない。いつ攻撃が来るかもわからない状況でそんな簡単に防げるわけがない。ただ、一人だけ、たった一人だけ弾かれた感覚があった。
「キキョウ、ごめん。キースだけ仕留め損ねた。」
「やっぱりか。あいつはPSめっちゃ高いから仕方ない。まぁ、お前もいるし2対1だ。どうにでもなるだろ。」
「そうだね、キキョウ、行くよ!」




