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才能持ち《チート》に容赦ないツッコミが入れられるだけの話

作者: humiya。

 世界には、努力しても手に入らないものが絶対にある。それが『才能』だ。才能は世界に何百何千人の中でたった一人という低い確率で産まれ持つ事が許される力だ。

 それは様々な能力で活躍するヒトであれば誰もが手にしたいと思う、それだけの価値があるものだ。故に才能を持つ者は、何かしらの感情を多くのヒトから向けられる事になる。

 その多くが嫉妬、渇望であるだろうが、中には数少ないヒトが抱く感情もある。


 王城が建つ山の麓、城下まちの中でも多くのヒトが自身の力を高める為に通う魔法学校。今日はその学校の入学試験が行われる大事な日だ。

 学校の前の道にはその入学試験を受ける為に学校に向かう者達が神妙な面持ちで道を歩いていた。中には余裕の表情で歩く者もおり、それが余裕の笑みか、おごりの笑みかは見ただけでは判らない。少なくとも今向かっている学校に向かっているのだろしたら、魔法の実力はあるものだと考える。

 かの魔法学校は由緒正しい魔法の養育施設であり、子どもでも使える基本魔法であったり、魔法慣れしたものが付かう家事魔法などといった簡単な魔法が使えるだけでは入れない、超難解な試験を出すと知られている。

 そんな学校の前に、自分は今立って学校の門を見ていた。

 田舎の出ではあるが、実力は自負しているつもりだ。自ら学校の入学試験に受けにこうして実際の校舎前に来た訳だが、やはり大きい。何より学校とは思えない建物の装飾がされており、一瞬城かと思ってしまった程だ。


「おい、邪魔だ!」


 そう言いワザとらしく肩にぶつかり、自分の方が押されて倒れる結果になってしまった。ぶつかって来た相手は鼻で嘲笑う素振りをしてそのまま行ってしまった。何という態度の悪さだ。何よりも目つきも酷い。門を潜って行ったという事はあいつも入学試験を受けにきたという事か。明らかに素行が悪そうな奴まで来るなんて、嫌な予感がしてならない。

 しかし、悪態をついている場合でない。早く立ち上がって自分も中に入らなくては、時間に遅れて試験を受けれないと言う事態だけはあってはならない。そう思い立ちあがると、背中が通りすがった誰かに当たった。早く謝罪しないとと思い振り返った。


「あっすみません!あの、大丈夫…で。」


 後ろにいたのは自分と同じ位の歳だろうか?背こそ自分より少し高めだが、顔や体つきは自分と同じくらいに見える。背丈以外に自分と違うのは、自分は茶褐色の髪であっちは雪の白と同じ髪色をしている所か。

 その雪色のそいつは自分と同じく門の前で棒立ちしており、一体何をしているのかと気になり、覗き込むようにしてそいつの顔を見た。

 ジッと見たが、どこを見ているという感じではなく、何か考え事でもしている様子だった。ふと、気付くとそいつは見ている自分の方を見ていて驚いた。


「えっあ…えっと。こんにちは?あんた、何…してたの?」


 自分でも歯切れの悪い聞き方をしたと思った。しかし、挨拶したのにそいつは何の反応もせず、自分をただ見ているだけで口を開こうともしなかった。何やら恐怖染みたものを感じてきたのと、自分が急いでいた事を思い出し、軽くそいつに挨拶を言った後直ぐに駆け出し門を越えた。

 変な奴に会って相手していたら試験を受けれなかったなんてのも、変な理由になるだろう。さっきの事も、変な奴に会った事も忘れて自分は試験会場となる場所を目指した。


     2


 試験にはぎりぎりに受けられる事が出来た。急いで会場に入った為に、既に来ていたヒト立ちには笑われてしまった。失態だと思いながら、試験官であろう人物が丁度現れたところなので、黙って話を聞く事にした。

 笑っていた他のヒト達も試験官の姿を見て声をひそめた。


「では、試験を開始する。この会場に入る際に係の者から渡された石に魔法の力を込め、色が変わったものだけこの場に残り、変わらなかった者は失格とし、会場から出てもらう。」


 淡々と感情のこもらない声で試験官であろう男が最初の試験の説明をし、そのまま黙ってしまった。本当にもう試験が始まったと言う事か。

 しかし成る程、渡されたものが試験の対象だったか。これは魔法の力が込められた石を更に加工したものだろう。さっきの説明の通り、魔法の力を込めれば反応して様々な変化を見せると言うのは、魔法を携わる者であればだれでも知る事だ。

 今回のこの魔法石。確かに魔法の力を込めると反応があり、仄かに暖かくなるが、それだけだ。もう少し反応を出すには、もっと魔法の力を強く込める必要がある。

 つまり、ここである程度強い魔法の力を出す事が出来なければ、試験には受からないという事だ。内容は単純だが、これは一般人であれば骨が折れる作業だ。

 何せ今自分は、大きな火を起こせるほどの力を今正にこめている最中なのに、未だに色が変わる気配が無い。今以上、例えば地面を大きく削る程の魔法の力を込めなくてはいけないのだろう。これは相当の数がここで脱落するだろう。


 パキン


 今何かが割れる音がした。音がした方を見ると、誰かが持っていた石をジッと見て突っ立っていた。よく見るとその人物は自分が門の前で見た、あの雪色の人物だ。


「おい、あいつの持っている石、割れてないか?」

「本当だ!…えっ?あの石、割れるの?」

「俺、もう結構魔法の力込めてるのに何の変わってないんだけど?」


 試験の石が割れた、という事態で何やら周りの雰囲気が妙な感じになって来た。試験の石自体そこまで頑丈な石、という訳ではないが、魔法に関してはそこらの石とは異なる頑丈さを持っている。

 つまり魔法の力をいくら込めようと魔法の力に耐えられず破裂するという事は無い筈だった。勿論手にするだけで壊れる事も無い。


「…石が劣化していたらしい。別のものを用意しよう。」


 また淡々と言った試験官だったが、明らかに声に動揺の色が見えた。それもそうだ。壊れない筈の石が壊されて驚くヒトは早々いないだろう。

 しかし、何故壊れたのか?まさか、本当にただ劣化していただけ?


 その後、もう一度雪色のそいつに別の石が渡されたが、また石が壊れてしまい、雪色の彼の試験はそこで終わった。ちなみに自分の方は時間を掛けてやっと色を変える事が出来、無事合格した。


 次の試験は、言ってしまえば魔法によるまとてだ。当然ただの的中てではない。何と、的が自立して勝手に動き回るのだ。そして飛んできた魔法を自力で躱すというとんでもない仕様だった。しかも速い。

 とは言え、魔法使いであればこの速さに追いつけなくては使い物にはならない。自分は狩りの経験があった為、なんとか中てる事が出来た。これが回数制だったら少しヤバかったな。

 そして次のヒトの番になったのだが、なんとそれはあの雪色のヒトだった。どうやら彼はさっきの試験を免除と言う形で合格したらしい。超難解とされる魔法学校の試験で、弱すぎて免除なんてある訳ない。他の学校でだってそうだ。

 つまり、あの試験の石は、強過ぎる力によって割れたという事だったのか?そんな事がありえるのか?今見た雪色の彼は、そんな事になったとは思えない程無機質で無感情な表情でまた突っ立っていた。いや何か反応しろよ少しは。


「おいお前、一回お情けで試験合格出来たからって、良い気になるなよ?」


 そう言って雪色の彼に突っかかって来たのは、自分が門の前でぶつかって来た不作法男だった。何とあいつも最初の試験に合格していたらしい。まさかガラの悪いあいつがそこまでの実力を持っているとは、正直驚いた。

 しかしやはりと言うべきか、あいつの様な性格の持ち主であれば、雪色の彼は奴の恰好かっこうの的になるだろう。彼も運の悪い。

 しかし、現にからまれているというのに、彼の方は全く気にしていないというか、相手の方を全く見ていない。試験の説明で言われた的の方をジッと見て、他に目が入っていない様だ。


「おい!聞いてんのかテメェ!」


 そんな状態の彼に痺れを切らしたのか、自身が無視されたと思った奴は彼の胸ぐらを掴み掛かって怒りを露わにした。これは駄目だと思い、自分は彼らの間に入って止めに入った。


「おい!喧嘩をしている場合ではないだろ!」

「なんだテメェ、邪魔なんだよ!」


 止めに入りはしたが、それでヤツの怒りが治まる訳が無く更に怒りを助長じょちょうさせてしまったらしい。あまり騒ぎを大きくしてはいけないかと思い、大人しく引き下がりヒトを呼ぼうとしたその時、雪色の彼がいつの間にか自分の前に立っていた。


「あぁ?何か言いてぇのかぁ?」


 何故かそれが不躾な奴の逆鱗に触れたらしく、彼の行動に奴は睨みを利かしてきた。そんな奴に対して彼は物怖じする事無くただ奴と向き合っていた。


「そこ!騒ぎを起こすようなら、その時点で試験失格と見なすぞ!」


 そんな硬直状態の中、試験官が注意しに来てやっと事なきを得た。もう少し早く来てほしかったが、愚痴を言っても仕方がないし今は試験に集中しよう。

 そうこうしている内に雪色の彼の番がきた。正直彼の番になる前から嫌な予感がずっとしている。どれだけ魔法の力を込めても壊れない筈の石を躱した張本人だ。絶対この試験でも何か起こす。皆はもうさっきの石破壊の件など忘れて呑気に試験の余韻に浸っていたり考え事をしたり各々好きに過ごしている。

 そして的を前にした彼。一体どんな魔法で的を射るのか自分は見守った。すると彼の手に魔法の力が徐々に集まって行くのが気配で分かった。それも他のヒトの比ではない程の強く大きな力が集まってきている。ハッキリ言って怖い。まるで巨大な爆弾の導火線に火が点いた様な感覚だ。

 しかもよく見てみる、というか聞いていると彼、魔法の発動に必要な詠唱を全く口にしていない。まさか、想像だけで発動させる無詠唱で魔法を発動させようとしいる?そんなまさか?

 周りも彼の状況を理解していったのか、ただお喋りしていただけの声がざわめきめと変わった。そんな不穏さに包まれたこにお状況など見向きもしないかの様に、彼は魔法を撃つ準備が整ったのか、彼は力が集まった手を前へと翳し、そして放った。

 その時起こったのは、まさに自然災害と差支えない場面が展開された。目の前が真っ白になり、とてつもない轟音が響き、突如として巻き起こった突風に何人ものヒトが吹き飛ばされて倒れて行った。何人かは防御魔法で事なきを得たらしいが、それでも衝撃には耐えれず、やはり数人程がひざまずいてしまっていた。自分は前者の吹き飛ばされた方だ。

 吹き飛ばされ、茂みの方へ入ったおかげで多少は痛みは軽減された。しかし、離れた場所から見ていた筈なのに、距離など関係無く辺り一帯を吹き飛ばす威力には最早言葉が出ない。

 その発端である雪色の彼は、魔法を撃った場所から一歩も動かずに立っていた。そして魔法を放った跡には、文字通り何も残っていなかった。

 自立して動き回っていた的は勿論、地面は空から巨大な火の魔法が落ちてきたかの様な巨大な穴が開き、的の後ろに会った壁は大砲にでも中ったかのように壊され、向こう側が見えていた。突如壁が壊された事で、事情を知らない通りすがりの一般人が、壊れた壁の向こうの方で何が起こったのかと見に集まってきている始末だ。

 突如起こった爆発に見ていた試験官も倒れ、茫然としていたが直ぐに正気付き、立ち上がりどこかへと走って行ったしまった。多分上司か何かに事情を説明したり、集まった野次馬の対応なりでこれから忙しくなるのだろう。ご愁傷さまです。

 そんな周りが慌ただしくなる中、大爆発を起こした張本人は、一息ついて後ろへと下がった。彼が下がった事で他のヒトは彼から離れる様にして下がった。そんな挙動をするヒトを見て彼は、首を傾げていた。

 まさか彼は、今の自身と周りの状況を理解していないのか?そう思った途端、自分は勢い良く立ち上がり、彼の元へと駆け寄った。そして、走る勢いのまま彼に向かって拳を突きだ出した。

 自分の拳は無事彼の鳩尾みぞおちに命中、それにより彼はむせ返り、膝を付いて崩れ落ちた。もしかしたらこれが、彼が初めて固かった表情を崩した瞬間かもしれない。


「あんたねぇ!自分が何したのか分かってんの!?見てよこれ!あんたの魔法のせいでもうボロボロじゃないか!」


 そんな状態の彼を無視して、自分はそう言って手でその場所を指して示した。そこに見える光景はさっき自分が説明した通りのままの光景が広がっていた。

 それを改めて見た彼がやっと放った言葉が以下の通りだ。


「…何か不味かったのか?」


 それを聞いて更に自分は自分の血管が切れる音を聞いた。だから自分は彼に詰め寄り怒鳴り散らした。


「あのねぇ!?一歩間違ってこんなのがヒトに中っていたら死んでいたかもしれないんだよ!?いや、間違いなく死んでいたね!しかも設備は全部吹き飛んじゃってもう試験どころじゃないでしょうが!試験官も他のヒトもこれ見てドン引きしてんでしょうが!」


 言われて初めて気付いた、という表情をした彼は、急に慌てた表情を見せて自分に聞いてきた。


「…どうしよう?」


 まるで親に怒られる直前の子どもの様だ。しかもこの状況下で自分がどうすべきか分からないらしい。いや?もしかしたら本当に分かんなくて慌てているのか?


「とにかく、あんたの魔法で迷惑を掛けたんだから、ちゃんと皆に謝んなさい!」


 言われて彼は意表を疲れた表情を見せた。まさか、彼には『謝罪』という事すら思いついていなかったのか?これはとんでもないヒトを相手にしたものだ。頭が痛くなってきた。

 その後、他の試験官のヒトが集まり、試験を受けていた者達が事情を話しているといた所に彼が近寄り、皆に向かって頭を下げ謝罪して更にその場に居た皆を戸惑わせる事となった。


     3


 結局試験は一時中断となり、試験中の一同は別室に移され待機する事となった。その一室に例の彼、雪色のヒトが一歩踏み入れると辺りは静まりかえった。そうなって当然だ。あんな災害級の魔法を放った本人を前にして、平常でいられるヒトなの居る訳がない。


「テメェ!良い気になるなって言ったよな!」


 居た。試験中に喧嘩を売った奴がまた売りに来ていた。しかもさっきよりもお冠の状態でだ。一体奴にとって彼の何がそんなに気に入らないのか、もう理解出来ない域まで達していた。


「…何?」

「ハァ!?テメェさっきのあれ!どうせあれだけ派手にやれば目立って試験に受けられると思ってワザとやったんだろ!?」


 言っている事が支離滅裂だ。自分は彼に一度だけでも話をしただけで、彼がワザとやって訳ではなく、本気でやっただけだというのが理解出来た。そっちの方が厄介ではあるが、結局奴が言っている事はただのやっかみだ。


「あの爆発だって、本当は魔法でも何でもなくて的の所に本当に爆弾が仕掛けられて、それを弱い火の魔法か何かで爆発させたって仕掛けなんだろ!?でなけりゃあんな爆発、起きるワケねぇだろうが!」


 それを聞いた周りのヒト達は納得した様な、複雑な表情者が多数を占めていた。

 いや、あんな爆発を起こせる爆弾もどこで入手出来るって言うのか。目の前で確かに彼の魔法で起こった爆発であるのに、直接見ていてその判断は可笑しい。いくらなんでも無茶苦茶な理論だ。それを信じそうなヒト、信じるヒトもどうかと思う。

 だが皆、奴の言った事を鵜呑みにしているらしい。どうやらあの光景を見てまだ頭の整理が追いつかず、皆現実逃避でヤツの話を信じようと思っているらしい。気持ちは分かるが、相手があんな不躾でヒトに喧嘩を売る様な奴の話となったら、自分はとてもすがる気になれない。

 しかし、自分の心境とは裏腹に奴の話が浸透しんとうしていき、徐々に雪色の彼が試験で目立つ為にズルをしたという話にまでちょうされていた。

 いくらなんでも現実逃避にしてはやり過ぎな気がする。だが、話を聞くとどうやらあの不躾や奴は結構な名家の産まれらしく、魔法の実力もこのまちの中でも優良だと知られているだとか。だから皆、奴に賛同せざる負えない状況らしい。道理で彼の振る舞いに対して何の文句も向けられない訳だ。そして雪色の彼は、残念な事にそんな奴のご機嫌取りの生贄にされてしまったらしい。

 何という腐敗した状況だ!この状況を見ると、本当に奴に実力があって試験に受かったのか疑わしくなって来る。もしかしたらただ名家の産まれという事で、実力も無いのに持ち上げられているのかもしれない。予想ではあるがもし本当ならとんでもない事だ。

 途端に彼の事が気になり出した。彼の方が不正を働いたと思われて、嫌な気持ちになっているのではないか、いや、もしかしたら本当に不正を働いたと学校側に思われて試験を受けられなくされるかもしれない。由緒正しい学校であるからそうならないかもしれないが、奴のせいでそうなる可能性がある。あまりにも不条理だ。

 自分は部屋の隅で立つ彼の元へと駆け寄った。一体彼はどんな気持ちでいるのか、それが気になっていた。壁の方に向いて表情の見えない彼の顔を見ようと、失礼ながらも覗き込んで見た。

 彼は立ったまま寝ていた。

 自分は一度彼から離れ、そして助走を掛けて彼の頭に向かって跳び蹴りを食らわした。


「呑気に寝てんじゃねー!自分の状況分かってんのかぁ!?あぁそうか、分かってないから寝てんのね、ふざけんなぁ!」


 彼は蹴りを喰らい、その勢いで倒れた為に壁に激突した。頭をぶつけてうずくまっているが、自分は構わず彼に向かって怒鳴り続けた。


「あんたねぇ!こんな状況になったのはあんた自身のせいでもあるんだよ!?なのにその当人がこんな場所でボーっとして、これで試験受けれなくなったら文句も言えないでしょうが!」


 自分が言った事を聞き、彼は振り返り自分の事を見た。


「…えっおれ、何もしてない。」

「したよ!」


 あまりにも鈍感な発言に本当に頭を抱えた。


「あんた今、不正ズルをして試験を受けれなくなるかもしんないんだよ!何自分がした事忘れたみたいな事言ってんの!」


 試験に受けれなくなる、という言葉を聞いて、彼はやっと表情に陰りを見せた。試験を受けれなくなるのは、彼にとっても不本意な事らしい。


「あんたは何の為に試験を受けて学校に入学したいの?ここで受かれないのは、あんたにとってもヤバい事なんでしょ?」


 自分の言葉に彼はうなずいた。すると表情が引き締まり、先ほどよりも真剣な面持ちとなった。どうやら相当この学校に入学したいらしい。何か事情があるのだろうと思った。


「おれは学校に入学して…そして、世界最強になる!」

「なれるか!」


 思わず頭を叩いた。彼は呆けた表情になり自分をまた見た。何か変な事を言ったか?とでも言いたげな表情だった。


「あのねぇ、学校ってのは結局『未発達なヒト』が通う場所なの!つまり皆魔法に自信はあっても結局は弱いって事なの!学校に通って卒業するのは結局『出発点に立つ』為で、学校に通い続けたら多少は強くなるだろうけど、別に最強になる事は無いの!最強になる為に力を身に着ける場所なんだから!

 ってかもうあんた、自分の魔法使ってあの結果が常なら、もう学校通う必要無いんじゃない?」


 聞いて彼は大きな衝撃を受けた表情になった。最初会った時は表情の薄いヒトと思ったが、思っていたよりも表情の豊かなヒトだったらしい。いや、今はそれはどうでも良い。

 本当に彼は学校に通えば世界で一番強くなれると思っていたらしく、否定されて酷く落ち込んでいた。いや、学校で何をするか考えれば分かる事だと思うのだが?何故彼はそんな風に思いこんでいたのだろうか。


「だって、学校に通えば最強になれるって、竜である父が言ったんだ。」


 今とんでもない暴露をしたぞ彼。竜?竜を父と呼んだか?本当マジか。彼はどうやら竜に育てられた人間らしい。本当かすげー。


「って言える事じゃねぇんだわ!何そのとんでもない爆弾発言!今そんなの聞かれた自分の気持ち分かるあんた!」


 叫ばれて彼は訳の分からないと言いたげな表情をした。どうやら彼には、自身の出生がどれだけの事か本当に理解していないらしい。


「あのね!竜って言ったらこの世界最強種族の一角なの!竜と戦って勝てた人間なんて数えられる程しかいないし、今この場に竜が姿を見せただけでまち中大混乱になる位なんだからね!?」


 説明され、彼は竜というものがどれだけの存在かをようやく理解したらしく、逆に感心した様子を見せた。いや、あんたが感心している場面でもないからね。

 しかし、竜からの言伝で学校に入学しに来たって、とんでもない人物だ。竜の方も何を思って人間を育て、そしてその育てた人間を人間の学校、それも名門校に入学させようと考えたのか分からない。

 竜は長命の存在でもあるから、何か考えての事なのは判るが、それ以上はさっぱり思いつかない。


 ともかく、彼は彼なりの理由で入学試験を受けなければいけない。だからこそ、今の状況はヤバいという事には変わらないし、彼も漸く今の自身の状況が良くないと理解したらしい。本当に遅すぎるが。

 しかし、今更どう動いたところで、彼の魔法の力によって試験の石が壊れた事と、試験会場が半壊した事には変わらない。状況は芳しくないが、悪い結果にならない事を祈るしかない。

 だからあんたももう少し焦るか何かしろ!何目標を改めて意気込んで目を輝かせているんだ!そういう状況じゃないって言うのに!

 そうして時間が経つと試験官の上司らしいヒトは部屋に入ってきて話を始めた。どうやら試験は続行との事。会場は修復魔法で直されて問題無く使えるのだと言う。

 そして問題の彼の処遇だが、なんと試験をそのまま受けさせると言うことらしい。彼にとっては良い事かもしれないが、その理由が試験中に起きた事は全て『事故』として扱われるという結果だからだとか。

 いや、あれだけの事を全て事故として扱うって、無理があり過ぎる!彼がやったという証拠となる現場だって目にした筈だろうに、何を思って見なかった事にしているのか!だんだん学校側にも疑念を抱き始めた。


     4


 どこもかしこも疑いたくなる、とは言え試験を受けられなくよりはマシだろう。そういう意味では安心した。本人は全く気にしている素振りを見せないが。

 そして問題となる試験内容。次で最後の試験であり、内容は一対一の実戦との事。勝敗は降参するか、場外に出れば失格との事。相手を死に至らしめたも失格になるとの事。要はやり過ぎるな、という事だろう。

 やはり実戦試験があったか。実力主義であると聞いていたから、前半である程度数を減らした後、後半で甲乙をハッキリ分けるという感じだろうか。構成自体はしっかりしているが、彼の事を考えるとちょっと複雑だ。

 そうして3戦位対戦が続き、そして自分の番になった。自分の対戦相手は自分よりも背丈が高く屈強な見た目をしたいかつい男だ。どちらかと言えば戦士系の体つきだけど、それだけで職業を決めつけるのは失礼だな。


「随分と華奢ね奴だな。打たれ弱いのであれば、怱々《そうそう》に降参する事を推薦するぞ。」


 そう思っていたら、相手も見た目で決めつけをしてきた。自分もした事だから文句は言えないが、いざ言われると腹が立つ。こういう時は実戦でやり返す必要がある。


 そして合図と共に戦いが始まった。

 先に動いたのは相手の男だ。持っていた木製の杖を自分の方へと向け、詠唱を唱え、火の魔法の展開した。


「烈々なる炎、矢の如き速さでもって放て!」


 魔法は初級のものだったが、威力は想定以上のものだった。躱さなければ火傷では済まなかっただろう。更に相手は攻撃魔法を使い自分を狙って来る。今度は連続で魔法を放って来て、こちらはそれを躱すのが精一杯だ。だから自分は、短い詠唱の魔法を使い、応戦する事にした。


「空想よ放て!」


 使ったのは相手の火属性とは異なる、自然の力である属性を含まない無属性の攻撃魔法だ。威力は相手が使った攻撃魔法より劣るは、使いやすく何より詠唱の短さと使う魔法の力の量が少なくて、自分の持つ魔法の力の残量を気にしなくて良い。

 当然それだけを使って勝てる相手ではない事は判っている。実際今放った魔法は中らなかったし、あちらはまだ魔法の力が健在だ。

 ならば中るまで、相手の攻撃は中らない様躱していけば良い。焦ればその時点で負ける、そう考えて自分は狩りをしてきた。冷静さを維持していけば勝機はある。

 こうして、攻撃の回避を繰り返す時間が続いた。相手の方は属性を含んだ魔法を連発していた為に大分()へいしてきているのが目に見えた。

 一歩の此方は力を少量消費する魔法のみを使い、使いどころを考えて使っていた為にそれ程疲れてはいない。何よりも相手は自身の魔法が中らない事に焦り、魔法の力の分量を余計に使ってしまっている。

 次の一撃で終わるな。自分でも判る。

 結局の所、勝利は自分のものとなり、相手は魔法の力を使い過ぎた為に魔法酔いとなり、倒れて気絶してしまった。焦らず別の魔法を使っていれば勝てたかもしれないのに、過信した為に相手は負けた。結果と原因の解り易い勝負だった。

 実戦試験を合格し、試験場から離れて他のヒト達から離れた場所に立つ彼の元へと歩いて行った。彼は相変わらず呆けて立っており、そんな彼は他のヒト達からかなり距離をとられていた。それも当然か。あれだけ派手なやらかしの後に、試験に対して不正を働いたと言われれば、近付こうとするヒトなどいない。


「っと言う状況なんだから、も少しお前も空気を読め!そしてまた立ったまま寝るな!」


 勢いのまま立って寝ていた彼に組み敷いて関節技をかました。痛みでやっと起きた彼は、自分に何があったか聞いてきた。多分こいつ、自分の周りからの視線どころか、試験の事もちゃんと分かってないと思う。そういう表情をしている。


「あんた、試験に合格したいんだよね。ちゃんと勝利条件ルール分かってる?」

「えぇと…勝てば良いんだよね?」


 聞くなよ!聞くって事は、分かってないって白状しているって事だぞ!しかも曖昧な事を言ってきた。どうすれば勝ちになるか、試しに聞いてみた。


「…相手を、ころ」

「はい駄目アウトー!」


 聞き終える前に咄嗟に彼のあごに向かって交差させた自分の腕を思い切りぶつけたのは正解だと思った。軽く顎に損傷を受けた彼は、顎を押さえて何が駄目か分かっていないと言いたげな表情でこちらを見た。本当マジで分かってないというか、聞いてなかったのかこいつは。


「良い!?この試験で相手の命を奪うのは駄目なの!やった瞬間、試験に不合格になるんだからね!」


 本当に初めて知ったというのと、信じられないという衝撃の表情になった彼に一抹以上の不安を感じた。


「だって、勝負したらどちらかが死ぬのは当然だろう?」

「なんでそんなシビアな結果が当然って事言うの!」


 もしかして、彼はそういう場所で今まで暮らしてきたのか?彼が常識に掛けた言動をするのはその為か?なんて過酷な環境なんだ。ますます頭の痛くなる事だ。

 とにかく、命を奪わない事、場外に出すか降参を言わせればよいという事を言い聞かせ、いよいよ彼の番が来た。対戦相手はこれまた見知ってしまったあの不躾な奴だった。


「よお?また会ったなぁ。ようやくお前をこの手でぶちのめす時がきたぜ!」


 どこかで聞いた様な、酷い悪役の台詞だ。まるで悪役に見られたくて、ワザとあんな酷い台詞を吐いていると思ってしまう。

 そして彼と奴の試験試合となってから、周囲の空気は冷めたものだった。何せ片方は口と態度の悪さが目に見えた判る名家のボンボン。もう片方はあらぬ汚名ではあるが不正を働いたと思われている謎の爆弾人物だ。盛り上がろうにも出来ない対戦となった。

 そんな言いようのない雰囲気の中、戦いは始まった。始まって瞬間、誰も何もしてこなかった。これは意外だと思った。てっきり奴の方が先に、派手に動くものと思っていた。実力はあるという話は本当なのだろう。

 一方の彼も動かない。彼も今まで派手にやらかした姿しか見ていないから、こうも二人揃って動かず相手の出方を見ている姿は異様に思えてしまう。


「なんだぁ?ビビって手も足も出せねぇってか?だったら…こっちが!」


 本当にそうなのか、奴の勘違いなのは彼に心情が分からない以上ただの戯言でしかないが、奴の周囲を取り巻く空気が変わったのは確かだ。


「これは今オレが使える中で最も高度な魔法だ。本来ならこんな場所で使わないつもりだったが、お前相手なら特別に見せてやるよ。」


 何か言って。しかし、高度な魔法と言うのは気になった。何より奴自身に集まる魔法の力は確かに尋常ではない程だ。魔法を得意とする種族では無い故に、魔法の力を肉眼で識別するなんて芸当は出来ないが、そんな自分でも肌でその強さを実感してしまう。他にも何人か同じように強い魔法の力を察して表情を強張らせるヒトがいた。


陽炎かげろう昇る灼熱よ!ほむらを握りて鋼の強固を凌駕りょうがせよ!」


 奴が詠唱を唱えると、集まった魔法の力が更に一点に集中し、奴の手に徐々に形を成していった。それは一振りの剣となり、奴の手に納まった。

 あれは、武器生成魔法の中でも高度なものとされる、属性付与の武器を顕現する魔法だ。魔法で物を実体化させる、というだけでも確かに高度な魔法だし、更に属性を付与した状態だと魔法の力を大量に消費する。だが奴は魔法の力を大量に消費した時に見られる症状が全く見られない。

 実力がある、という話は本当らしい。疑った事に反省はするが、相手が相手だけに謝罪する気が起きない。奴の横暴な態度に嫌気をさしているのは皆同じだろう。


「これはオレの家が最も得意とする魔法。一般的に実体化する武器はどれもはっきりとした物として実体化する事は無く、曖昧な状態で力も分散して実用化されてはいない。

 だが!オレはこの手で!この魔法を使えるものにした!ここまではっきり剣と分かる形で発動出来たのはオレだけだ!」


 自信満々で、自分が如何に強い魔法の力を有するかを堂々と発言する姿は、先ほどまでの不躾な態度から一変して、確かに強者そのものと思えてしまった。

 そんな昂らせた状態の奴を目にした彼はと言うと、対戦が始まる前と今と全く変わらない表情のまま、何かを考えている様な素振りを見せ、漸く何かに気付いたと言う顔で口を開いた。


「あぁ!それ、父が言ってた魔法か。丁度おれも教わったばかりだけど使えるぞ。」


 あっさりと、自分もその店知ってる、と世間話をしているかの様に言った台詞に間抜け面になった奴だけでなく、観戦していた周囲のヒト皆、奴と同じ間抜け面になった。自分も多分なっている。


「はっ…ははっ!つっ使えるったって、どうせ形がぼやぼやで、武器の形にもなってない奴だろう?」

「んーどうだっけなぁ。前に一回使ったきりだったから、使ってみるか。」


 そう言うと、彼も奴と同じ様にして魔法の力を集め始めた。その時の周囲の空気は、奴の時と比べ物にならない変貌ぶりだった。

 そこからか風とは違う謎の力が働き皆、まともに立っているのが辛くなり、ひざまずいている。自分の立っているのがだんだんと苦しくなってきて、それでもなんとか持ちこたえた。ここで持ちこたえないと、嫌な予感がするからだ。

 そんな周囲の状況などかえりみず、彼は奴がしたのと同じく魔法の力を一点に集中し、そして形を成していった。そうして出来上がり、彼の手に現れたのは、奴の方と比べる事すら必要の無い程巨大な剣だった。

 炎が揺らぐように火の粉を散らせ、溶岩を練って作られた巨人の腕の様に思えた。あまりの迫力に誰も彼も顔から表情が抜けてしまい、像のようになってしまっていた。自分もそうだ。

 対戦相手である奴なんて、腰を抜かしてしまい自身が出した魔法の剣が消えてしまっていた。それどころかもう魔法をつかおうとも思えないかもしれない。全身を震わせ、口も痙攣けいれんでもしているかの様に歯を鳴らし、汗は止まらず顔色は土気色になってしまっていた。


「あっ…えっあぁ…あ!?」


 もう奴は言葉にならない声しか喋らなくなり、視点を定まっていない。その気持ちは分かる。何せあんな規格外を一番近くで見ている状態だ。それもそれが自分に向かっているとなれば、恐怖以外の感情は消え失せるだろう。

 だが、相手がそんな状態なのに気付いていないのか、お構いなしに魔法の大剣を彼は大きく振りかぶり、今正に奴の脳天に直撃させようとしていた。


「あっ待て!こっここ…降参する!だから待てっ待てぇえ!」


 そんな事が届き事は無く、容赦なく魔法が奴に直撃。

 する前に魔法は霧散し消えた。彼が自分の意思で消したらしい。


「…そうだった。命奪うのだめだった。」


 そんな事を呟いていたのが聞こえたから、やっと彼は場の空気を読んでくれたらしい。それは良いのだが、思う所があり、自分は試合が終わった合図と共に駆け出し、彼の元へと近寄った。そして彼の背後に立ち、彼の腹辺りに腕を回してそのまま彼の体を持ち上げ、そして自分は仰け反る形となり、自分の背後に向かってを投げ、彼を頭から地面に叩き付けた。


「やり過ぎだぁー!」


 そんな事を自分は叫び、彼を地面と一体化させた時の周りの驚愕する顔を、この先一生忘れないだろう。


     5


 就学試験は無事、とは言えないが終わり、結果が直ぐに知らされた。自分と雪色の彼は合格、奴の方は不合格となった。それは良いが、話はそれで終わらなかった。

 実は彼と奴が対戦する事になったのは、試験官の上司であり奴の親である魔法学校の教師が仕立てた事だった。

 奴の親も実は奴の素行の悪さに目に余っており、そこでとんでもない魔法の力を持つとされる彼を対戦相手に組み込んだという。

 実力がある故に傲慢となっていた奴でも、あれだけの相手を目にすれば、多少でも改心の切っ掛けになるだろうと考えたと言う事だとか。実際それは成功だったようで、不合格になっても文句一つも吐かず、彼を恐れすっかり縮こまっていた。暫くの間は大人しくしているだろう。


「息子と戦った彼も、正直この目で確かめるまで、報告の事は信じられなかったが、確かに実力は高い。…いや、私が知る中でもずば抜けて高い才能の持ち主だ。

 だが、それ故に彼の扱いは難しい。話し合った結果、彼を入学させると言う形でこちらの監視下に置く事になった。っと言っても、こちらから直接干渉する事は無い。あくまで、この学校の生徒として扱うつもりだ。」


 というのが学校側に意見だと聞いた。確かにここで彼を不合格にして、他の学校なり施設で今回の様な騒ぎを再び起こされては事だ。学校側も精一杯対応したのだろうし、これからも彼に対して気を付けて対応するだろう。

 ちなみに自分も合格という事だが、最後の彼を投げた事に関して、試合が終わった後だから乱入行為にはならなかったが、暴力行為として厳重注意を受けた。それは申し訳ない。

 更にその事も含めて、彼と同様に自分も恐怖の対象として距離を置かれてしまった。まぁ彼に長く接したのも一因だろうが、やはり公衆の面前で投げ技は駄目だったな。反省しよう。


 ともかく、こうしてめでたく魔法学校に入学出来た訳だが、彼と言う最大の問題が残ったままだ。

 彼から話を詳しく聞くと、彼の育ての親である竜は別に魔法学校に絶対入学しろ、とまでは言っていないと言う。実際は学校に入って『ヒトの常識を学んで来い』とだけ言われたらしい。

 そして彼は言われた通り学校に入ろうとしたまでは良いが、彼が入学先を魔法学校にしたのは、偶々立ち寄って入学試験が始まる所だったから、そこに決めただけだと言う。つまり彼の言っていた事は、ほぼ彼自身の思い違いによる事だった。

 彼は実際、既に魔法の力は強いだ。だが力が強いだけでは『最強』とは呼べない。そこで彼の親である竜は、ヒトとしての常識を学び、己の在り方をよく考え、力を正しく扱えるようになってほしい。その為に彼を学校に通わせようと考えたのだろう。その時点で、竜が彼をよく想っていたのが分かる。

 だが肝心の彼が、学校に通うだけで最強になれると思い違いをした為に今回の騒動になってしまった。今の彼の現状を親である竜が知ったらどんな表情かおをするのか。

 彼は入学は出来たものの、性格があんな状態では、何かの拍子にあっという間に退学しかねない。そこで自分に学校側から白羽の矢が立った。

 彼に対等に接せる自分が彼と組んで、学校で一緒に行動して欲しいとの事だ。確かに彼が一人で行動するよりは危なげはなくなるが、果たして自分に彼の安全装置ストッパーが出来るのだろうか。何故か学校側からは強く押されてしまって断れなかった。解せない。


 そうしてあっという間に入学当日がやってきた。宿寮しゅくりょうから学校へと徒歩で登校の際、彼を連れて行く事になった。何せ彼は寮の中で迷子になっていたから、迎えに行かなければ間違いなく初日から遅刻となっていた。前途多難だ。

 学校に向かう最中に、彼に学校で最低限すべき事とやってはいけない事を決めて、守る事を約束させた。相変わらず感情の薄い表情をしていたが、たぶん大丈夫だろう。多分。


「そういえば、遅くなったけど名前何ていうの?自分は―」

「うん、おれは―」


 とても遅い自己紹介を済ませつつ、これからの学校生活がどうなるのか、期待一割と不安九割の心情で、学校の門を越えて行った。


 才能を持っているが故に他者から嫉妬され、渇望されるのが常だが、時には哀れみ、同情する者もいる。

 だけど今回の二人は、同情や哀れみと言うには少し、いやかなり違う。それでいて、これはこれで安定した組み合わせだとヒトは言う。

 何せこの話は―



「ところで、きみって男なの?女なの?」

「いきなり遠慮のない質問するなお前。…まぁどっちって聞かれても、作者が決めかねて結局決めれなかったらしいから、自分にも分からないかな。」

「…えっ?…えぇ?」

思いつきで書いた短編です。

続きはありませんし、書きません。


11/18、誤字脱字があったので修正しました。

他にも誤字脱字がありましたら、遠慮なくご報告してください。

11/19、ふりがなのミスがあったので修正しました。

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