復讐の体育祭。空っぽの教室で僕たちは…
最後の競技「全校選抜リレー」が始まる直前。盛り上がりも最高潮を迎えた体育祭。
窓の外から生徒達の歓声が聞こえる中、僕達は人気の無い教室で向かい合っていた。
締め切った教室。首筋を伝う汗は、暑さのせいか、緊張のためか。
銃を構え、僕は一歩足を踏み出した…
◇
あの日は僕の14歳の誕生日だった。
母さんがご馳走を用意し、姉さんが飾り付け、父さんが仕事帰りにケーキを買って、家族みんなでお祝いをする予定だった。
「ねぇ、雨が降ってきたよ」
取り込んだ洗濯物を抱えて姉が言った。予報が外れたようだ。
「困ったわね。お父さん、傘を持っていないはずよ」
「じゃあ、僕が駅まで迎えに行く。もうすぐ着く時間だよね?」
傘を持って駅に向かった僕は、暗くなり人気がなくなった公園から争うような声を聞いた。
気になって覗くと、父さんと知らない男が揉めているようだった。
ただならぬ雰囲気に怖くなり、植栽の影に隠れて見ていると、パンッと言う音がして父さんが倒れた。
「!」
男は木の下に何かを埋めると僕の方に向かって走ってきた。枝と葉っぱの隙間から、街灯に照らされた男の顔が見えた。
「!?」
その顔には見覚えがあった。秋に行われた姉の高校の運動会で見た。確か、姉のクラスの副担任だ。
男は僕に気づかず走り去り、僕は父のもとへ駆け寄った。
「父さん!父さん!」
声をかけ体を揺するが反応は無い。
父さんの胸からは血がどんどん溢れてきて、頭の中はパニック状態だ。
(そうだ、救急車!!)
ポケットからスマホを取り出し119番へ通報した。
「……」
父の傍らで呆然と救急車を待つ僕の目に、一本の木が目に入った。
彼が埋めた場所を掘り起こすと、銃が一丁出てきた。
僕はそれを懐に入れると、穴を塞いだ。
◇
「…その銃、キミが持っていたんだ」
ひきっつった笑顔を浮かべ、先生は言った。
「あの後、ニュースでも銃が見つかったって話が出てこなかったから、おかしいと思っていたんだよね」
それで?と彼は続けた。
「その銃で父親の敵討ちかい?ここでそんなのを撃てば、さすがにこの締め切った教室でも銃声が外に漏れて人が来るよ?」
「その心配はいらない」
スマホを彼に見せて僕は言った。
画面は通話中。相手は校庭で体育祭に参加している姉だ。
「もうすぐ、校庭に響く音が消してくれるから」
「!」
電話の向こうから、スターターの声に合わせて姉の声が聞こえる。
『……用意』
「や、やめろ!!」
僕は彼に向けて引き金を引いた。
「体育祭はそっちのけ。空っぽの教室で僕たちは…」と同じ舞台・同じ時間・別の教室で起こった複数の話を書きたいと思い、いろいろ考えてみました。
楽しんでいただけたら幸いです。