第8話:リリアの裏人格
翌朝。
目覚めたリリアにゴブリンをもう一匹倒して王都に帰ることを伝える。
ステータスの事は話さないつもりだ。
俺の胸の内だけにしまっておく。
「今日の予定はこんな感じだ。理解できたか?」
「はい! 今日もご主人様のために精一杯頑張ります!」
「うむ。いい返事だ」
「えへへ」
リリアの頭を優しく撫でる。
尻尾がフリフリと元気に動いている。
この反応を見るだけで、空っぽだった俺の心が満たされていく。
この笑顔さえ守れたらそれでいい。
俺は最強を目指しているわけではない。
冒険者を続けることができればそれでよかった。
リリアがいれば最低限の魔物を倒すことは可能だ。
ぼっちだった時期と比べれば充分すぎるほど進展している。
森を歩いていく。
早朝の森は風が心地よい。
ゴブリンは4キロほど先にいる。
戦うのはもう少し時間がかかりそうだ。
少し休憩を挟むか。
「リリア。いったん休憩しようか」
「はい」
大木を背にもたれかかって休憩する。
リリアは土遊びをしていた。
こうしてみるとまだまだ子供だなー。
とても微笑ましい。
ゴブリンを倒したら『ポータル』を使って王都へすぐに帰還する予定だが、
なにか忘れていることはないか考えてみる。
そういえば、
スキルをまだ試していなかった。
別に今日じゃなくてもいいけど、王都から距離もあるし周りには魔物もいない。
絶好のチャンスだ。
リリアも暇そうにしているし、休憩ついでにスキルを確認してみるか。
「リリアよ。お前のスキルを確認したいんだが大丈夫か?」
「あっ、はい。大丈夫ですよ。ただ、スキルってどうやって使うんですか? 実は自分のスキルを一度も使ったことがないんですよ」
「自分のステータスを開いてスキルボタンを押せばいい」
「わかりました」
リリアはステータスを開いてスキルボタンを押す。
その時、不思議なことが起こった。
リリアがまばゆい光に包まれる。
光が薄れていく。
リリアは成長していた。
外見年齢は17歳ほど。
身長もぐんと伸びて160センチ前半になっていた。
また、巨乳になっていた。
これは嬉しい。
男のロマンを体現している巨乳美女。
「これは驚いたな」
「ご主人様。いったいどうしたのかしら? そんなに私をじっと見つめて」
「リリアは気づいていないのか?」
「気づく? なにに?」
「これで自分の姿を見てみるんだ」
俺はリリアに手鏡を渡した。
彼女は自分の姿を見ると唖然となった。
「これが私……? ウソでしょう? ご、ご主人様。私はいったいどうなってしまったの?」
「急成長したのはおそらくスキルの影響だろう」
「早く元の姿に戻りたいわ。どうやって戻ればいいのかしら?」
えー、戻るのか?
とんでもない!
せっかくの巨乳美女なんだぞ!
と、思ったが、リリアの気持ちを考えると今の姿は落ち着かないだろう。
元の姿に戻るかだけでも確認しておこう。
改めてステータスを開き、
スキル解除ボタンを押す。
元のロリ体型に戻った。
ボタン一つで大きくなったり小さくなったりできるなんて便利な体だ。
「ご主人様! 戻りました!」
「よかったな」
「とても怖かったです」
リリア視点だと大人モードになるのは怖いらしい。
たしかに気持ちはわからなくもない。
とはいえ、俺はおっぱいが大好きなのでもっとあの姿を見てみたい。
「俺はあの状態のリリアも好きだったぞ。めちゃくちゃ綺麗になっているし。巨乳だし。とても魅力的だと思う」
「そうですか! ではまた変身してみます!」
やったぜ。
リリアをその気にさせることができた。
大人の姿になった。
「変身完了よ」
「おお、素晴らしいな。本当に美人だ」
「ありがとう。そう言ってもらえると私も嬉しいわ」
「どうだ? なにか変わったことはないか?」
「なんだか頭がよくなった気がするわ」
「それは気のせいだと思う」
「ご主人様はいじわるね。でもそんなアナタが大好きよ」
外見が成長するだけでここまで破壊力が高くなるなんて。
とても嬉しいかぎりだ。
「成長後の姿で異常があったら大変だ。とりあえずスキンシップとらないか?」
「ダメよ」
「は? なんで?」
「だってご主人様の私を見る目がいやらしいもの。まるで飢えた狼みたいだわ」
本当に知性も上がっているようだ。
しばらくリリアとお喋りをしていると、リリアが北の空を見つめ始めた。
「……北の方角に何かいるわね。こっちに向かって来てるわ」
「え?」
地図を確認するも魔物の反応はない。
しかし、リリアの発言から数秒後にワイバーンが地図上に表示された。
ワイバーン
ドラゴン族 レベル55
ワイバーンはドラゴン族の一種でかなり強い魔物だ。
俺達が到底勝てる相手ではない。
北の空を見つめる。
目を凝らすと米粒ほどの大きさであるが、肉眼上でもワイバーンの姿を確認できた。
ワイバーンはこちらへと飛んでくる。
俺達に気づいている様子はない。
リリアに視線を戻す。
地図を持っている俺よりもいち早くワイバーンの存在に気づいていた。
その事実に俺は驚いていた。
「まさか奴が見えていたのか?」
「いいえ。なんとなく『気配を感じた』のよ」
「マジか。それはすごいな」
ついにリリアも『気配を感じる』をマスターしたようだ。
冒険者は成長すると気配だけで敵を探知できるようになる。
要するに俺がいらなくなるってことなので内心複雑だ。
まあいい。
今はそれよりもワイバーンの問題だな。
今は気づいていないにせよ、万が一に備えて、『ポータル』の準備をしておくか。
「ご主人様。一つお願いがあるんだけど、いいかしら?」
「なんだ?」
「あのワイバーンと戦ってみたいわ」
ファ!?
なに言ってんのこの子!?
いきなりとんでもないことを言い出した。
「やめておけ。ワイバーンはめちゃくちゃ強い魔物だ。リリアのステータスでは勝ち目がない」
「その言葉を聞いてますます戦いたくなりましたわ。今の私なら余裕で勝てる気がするわ」
どこからそのような自信が湧いてくるのか。
「とにかく、ダメなものはダメだ」
「ふうん。じゃあ仕方がないわね」
「わかってくれたか」
「ええ。言葉で言ってもわからないなら、実力で証明するだけよ」
「は?」
リリアは俺の背後にある大木に近づく。
そのとき、
信じられないことが起こった。
リリアが大木を片手で引き抜いたのだ。
「え? ええ!? 引っこ抜いた? ウソでしょう!?」
「よーしっ。じゃあ行くわよ~~~! せーのっ!」
重さを感じさせることなく、リリアはその木をぶん投げた。
大木は直線上に飛んでいく。
数キロ離れているはずのワイバーンの顔に直撃した。
ワイバーンは悲鳴をあげて地上に墜落した。
おそらく、この時の俺の顔は唖然としていただろう。
「やったぁ! 見事命中したわご主人様! リリアを褒めてちょうだい!」
リリアはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。
い、いまのはなんだ?
リリアが投げたのか?
ウソだろ?
たしかにパワー360は高い。
しかし、身の丈の数十倍もあるような大木をぶん投げるほどではない。
はっきりいって異常だ。
おそるおそる。
リリアのステータスを確認してみる。
**********
リリア
種族 白狐族
レベル3(+9999999999999999999999999999)
ステータス
HP:100(+9999999999999999999999999999)
パワー:360(+99999999999999999999999999)
スピード:180(+99999999999999999999999999)
スキル
超最強ケモミミ少女 発動中
状態補正:超神速状態 超怪力状態 超健康状態 超感応状態 超余裕状態
**********
ファアアアアアアアアアアアアア!?
なんじゃこりゃ!?
ステータスがおかしなことになっている。
超神速やら超怪力やら今まで一度も聞いたことがないようなデータばかり。
これなに?
リリアのステータスなのか?
ヤバいとしか言い表せない。
ステータスがおかしくなっているのに当の本人はニコニコしている。
いや逆なのか?
ステータスがおかしくなったからこうなったのか?
もうわけがわからない。
原因があるとすればスキル欄だ。
超最強ケモミミ少女 発動中
この一行がすべての元凶なのかも。
ワイバーンが上空に復帰する。
リリアの仕業だと気づいたようで怒りの咆哮を上げる。
スピードを上げて一直線に向かってくる。
「見なさいご主人様! ワイバーンがこちらに襲い掛かってるわ! あいつ絶対に悪い魔物よ!」
「いや、お前が木を投げたんだから相手さんも怒ったんだろ!?」
「ふふふ、ご主人様は面白いことを言うのね。私はか弱い乙女なのよ。木なんて投げられないわ。ご主人様の見間違えなんじゃないのかしら?」
反省の色はゼロだ。
むしろ闘志を燃やしており、大太刀を構えて臨戦態勢に突入している。
体が成長するとこんなにも性格が変わるのか。
別人じゃないかと錯覚してしまいそうなほどだ。
「かかってきなさいワイバーン! この私が直々に相手になるわ!!」
「おいリリア! それ以上挑発するな!」
「アナタは黙っていなさい! 腰抜け! それでもちんちんついてるの!?」
ひどいよリリアさん。
男として侮辱されてしまった。
それはいいとして。本当はよくないけど。
緊急事態だ。
あのオプションスキルを使わざる得ない。
マップ画面を開いて『ポータル』の準備をする。
人差し指を『リディット大教会』に合わせる。
「おい、リリア。そこまで豪語するのなら特別に戦わせてやる。だが、少しでもヤバいと感じたらすぐに撤退するからな」
「感謝するわ、ご主人様。でも平気よ。絶対に私は負けないわ」
ワイバーンが眼前まで迫った。
俺達の何十倍もある黒い巨体が悠々と地面に着地する。
大きな地響きが鳴り響いた。
「グオオオオオオオオオ!!」
「ぐううう!!? なんて迫力だ。大地が震えてやがる!」
圧倒的な存在感。
対峙するだけで戦意喪失するほどの凄みがあった。
はたしてリリアは勝てるのだろうか。
最悪の事態が起こるのではないかと不安に思った。
しかし、それは杞憂だった。
「行くわよ化け物。白狐の力、見せてあげるわ!」
リリアは居合の構えを取ると全身の筋肉に力を集中させる。
「『フォックススラッシュ』!!!」
彼女の姿が文字通り消えた。
次の瞬間にはリリアがワイバーンの真後ろに移動していた。
大太刀はすでに振り抜かれていた。
ワイバーンが大爆発した。
「ウソだろ……。あのワイバーンが一瞬で!?」
「当然でしょう。この私が相手なのよ。どんな相手だろうと一瞬よ」
後ろ髪を手でなびかせながら言った。
その表情は自信に満ち溢れていた。
メインスキル
○地図
・索敵機能
・罠探知機能
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
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