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第7話:リリアの価値

 武器もそろった。

 冒険者カードも手に入れた。

 あとはクエストをやるだけだ。


 俺たちはフィールドに出る。

 今日から本格的にクエスト開始だ。

 受注したクエストはハーブ採取。

 冒険者の入門といえばこれだ。


「なんだか気が高ぶりますね。ご主人様より剣術の指導をしていただいたからでしょうか」


 指導と言っても二時間ほど剣を素振りさせただけなのだが。

 正直ぶっつけ本番だ。

 大太刀なんて俺も使ったことがないから詳しくは教えられない。

 間合いを意識して思いっきり剣を振り抜く。

 これだけ教えた。


 もうすぐ森に入るのでスキルを発動する。

 俺は地図マップを開く。


「『索敵』」


 マップ上にいる魔物が表示される。

 これはマップスキルの索敵だ。

 半径10キロ以内にいる生き物の情報を表示することができる。



 ゴブリン

 魔族 レベル1 第四級魔物認定


 コボルト

 獣族 レベル3 第四級魔物認定


 リザード

 魔族 レベル13 第三級魔物認定



「リザードのいるところは危ないな。左に迂回しながら進むか」


 慎重に進まなければならない。

 強い敵とエンカウントしないように森を進む。


 今日の目標は薬草採取とゴブリン一体の撃破。

 薬草採取なのでゴブリンと戦う必要性はないけれど、

 いずれ戦う必要が出てくる。

 いまのうちに慣れさせておきたい。

 少しでもリリアのレベルを上げておきたい。


 狙うは『第四級魔物認定』のゴブリン。

 奴らはあまり強くない。

 動きが単調なので簡単に倒す事ができる。


「魔物さん出てきませんね」

「一応出てこない道を選んでいる」

「え!!? そんなことができるんですか?」

「地図に俺たち以外の魔物が表示されているだろう? これを見れば敵と遭遇せずに歩くこともできる」


 十キロ圏内にいる敵の場所が完全にわかるんだ。

 冒険中一回もエンカウントさせないことだって可能だ。


「はへ~。ご主人様は本当すごい。まるで全知全能の神様みたいです」

「しかし、絶対ではない。索敵が無意味になることだってある。いざという時に備えて、リリアには戦い方を身につけてもらいたい」

「わかりました。リリアに任せてください」


 目的のゴブリンを発見する。

 群れとはぐれているはぐれゴブリン。

 今回はこのゴブリンを倒してしまおう。



 ゴブリン

 魔族 レベル1



「ご、ゴブリンさんです。これから私が戦う相手……!」

「俺もできる限りはサポートする。いざという時は俺が盾になるから心配するな」

「あのゴブリンさんはどれくらいの強さなのですか?」

「すまんがわからない。俺の地図でわかるのはレベルと種族のみ。詳細なステータスはパーティメンバーに加入しなければわからないんだ」

「じゃあゴブリンさんもパーティに加入させれば強さがわかるってことですね」


 なに言ってんのキミ。

 リリアは天然かもしれない。


「大丈夫かなぁ。不安になってきた」


 地図に視線を落としてゴブリンの周囲を確認する。


「『トラップ探知』」


 俺のスキルは索敵だけではない。

 見えない罠も探知することができる。

 地図上に罠は表示されなかった。

 俺はホッと息をつく。


「なにをなさったのですか?」

「トラップがないかを確認したんだよ。ちなみにトラップはなかった」

「なるほど。それは安心ですね。ところでゴブリンさんがトラップなんて設置するんですか?」

「わからない。だが、最近のゴブリンは知恵をつけてきたらしい」


 最近のゴブリンはトラップを仕掛ける風潮がある。

 街の本屋でもそんな本を読んだことある。

 あくまで風潮の範囲なので信憑性は薄いが、仕掛ける可能性があるならチェックしておかないと危険だ。


 油断は禁物だ。

 罠を仕掛けてくるというだけで危険度が跳ね上がる。

 クエストは遊びではなく、命がけなんだ。

 失敗は絶対にしてはならない。

 リリアがいるならなおさらだ。


 リリアと目配せして一緒に茂みから出る。

 その音でゴブリンが気付く。


「ゴブゴブゴブ!」


 ゴブリンは声を上げて威嚇する。

 リリアは大太刀を出現させて構える。

 記念すべきリリアの初戦。

 相手はレベル1のゴブリン。



 **********

 リリア

 種族 白狐族

 レベル1

 ステータス

 HP:100

 パワー:360

 スピード:180

 **********



 やはり高ステータス。

 この高ステータスなら間違いなく勝てる。


 一つだけ不安がある。


 リリアが恐怖で剣を振れないかもしれないという心配だ。

 どんなに強いステータスであっても戦う勇気がなければ意味がない。

 こればかりはリリアの勇気を信じるしかない。


 ゴブリンが棍棒を掲げて向かってくる。


「えい!」


 リリアは大太刀を横に振るう。

 剣速と威力は申し分ない。

 ゴブリンの胴体が真っ二つになった。


 ゴブリンを倒すことに成功した。

 俺の不安は杞憂だった。


「よくやったリリア! よくゴブリンから逃げずに剣を振れたな! えらいぞ!」


 リリアをこれ以上にないほど称賛する。

 リリアを信じて良かった。


「私の隣にはご主人様がいます。逃げるなんて言葉は私の辞書には存在しません!」


 とても頼もしい台詞だ。


 ゴブリンは魔力となって燃える。

 そして、ゴブリンのツノがドロップした。

 魔族は人族や獣族とは違って死体を残さない。

 炎となり、体の一部のみを残して消える。

 俺はそれをドロップと呼んでいる。

 ゴブリンの角を拾うとアイテムボックスに収納した。


 ピコーン!

 マップから音が鳴った。



 地図の右隅に『!マーク』が表示されている。

 リリアのレベルが上がったのだろう。

 リリアのステータス画面に移動する。


 さてさて、

 ステータスはどれくらい上昇しているだろうか。

 とても楽しみだ。



 **********

 リリア

 種族 白狐族

 レベル2

 ステータス

 HP:100

 パワー:360

 スピード:180

 **********



 ステータスを見た瞬間、違和感を抱いた。

 さっきと数値が変わらないような気がする。

 ステータスの履歴を確認する。

 俺は顔をしかめた。

 ステータスが一切上昇していなかった。


 レベルアップをすればステータスが上がる。

 この世界の常識だ。

 だが、リリアの場合は違っていた。

 奴隷が原因なのか?

 いいや、それも違うと思う、奴隷だからステータスが上がらないなんて聞いたことない。

 さっぱりわからない。


「ご主人様。地図を見つめてどうかなさいましたか?」


 リリアを不安にさせてはいけない。


「おめでとうリリア。お前のレベルが上がったよ」

「本当ですか!? わーいわーい!」


 リリアは無邪気に喜んだ。

 しかし、俺はステータスが気がかりで素直に喜ぶことができない。


「うむ。リリアがいてくれて助かった。俺の力ではゴブリンを倒せないからな。これからも頼りにしているぞ」

「任せてください。ご主人様には指一本触れさせません」


 次の獲物まで若干距離がある。

 地図スキルを発動して慎重に向かう。


 三十分後、到着。

 今回も上手くいった。

 ゴブリンと一騎打ちできる環境だ。

 地形もよし、周りに障害物はない。

 ゴブリンがこちらに向かってくる。


「えい!!」


 リリアは今回もゴブリンを一撃で倒した。

 見事な一振りだ。

 ゴブリンを倒すことに成功した。


「今のは良かった」

「本当ですか!?」

「うむ。リリアは剣の才能がある」

「やったー!」


 リリアに自信がついていく。

 索敵からの戦闘で効率よく戦闘をこなしていく。

 危ない場面が一度もないまま七体も倒すことができた。

 初日でこれはすごい数だ。


「初めはどうなるかと思いましたが、無事倒すことができて良かったです。それもこれもご主人様のおかげです。本当にありがとうございます」

「リリアが頑張ったおかげだ。こちらこそお礼を言いたい」

「ではお礼の代わりに頭を撫でてください」

「よしよし、いい子いい子」


 リリアの頭を撫でる。

 彼女は幸せそうに目を細めた。


 大太刀を選んだのは大正解だった。

 リーチ差を活かして一方的に敵を倒すことができる。

 初日は『横斬り』を覚えてもらった。


 ハーブも無事採取できたしよかった。

 やり残したことは何もない。


 次第に日が暮れてきた。

 今から森を動きまわるのは危ない。

 今日はこの辺で野宿しよう。



 **********

 リリア

 種族 白狐族

 レベル3

 ステータス

 HP:100

 パワー:360

 スピード:180

 **********



 やっぱりレベルが上がっただけでステータスは一切変動していない。

 なぜだ。

 意味が分からない。

 リリアはステータスが上がらない体質なのか?

 リリアのステータスだけが気がかりだった。



 野宿は慣れている。

 俺はアイテムボックスより『魔物避けの加護』のかかったテントを取り出した。

 このテントの中にいる限り、魔物に怯える必要は一切ない。


「ご主人様! 焚き木の準備ができました」

「よくやったリリア。では火をつけようではないか」


 火炎石を地面に打ち付けると火花が出た。

 その火花を藁に包んでやると火種ができる。

 この火種を使って焚き火を起こした。

 この間、十秒。

 自慢ではないが、俺ほどの速度で火起こしできる奴は見たことない。

 どんなに速くとも一分くらいかかる。

 それだけ俺が優秀な証拠だろう。

 火魔法を使えばいい? 知らん。


「『火炎石』を打ち付けることで簡単に火花が出る。これで簡単に火を起こすことができる」

「ご主人様すごい!!! 火起こしってこんなに簡単にできるのですね!!」

「リリアもやってみろ。とても簡単だ」

「了解しました。僭越ながら火を起こさせていただきます」


 リリアは火炎石を両手で握る。


「あひゃあああ!? アツゥイ!?」

「だ、大丈夫かリリア!?」

「ご主人様ごめんなさい。この迷惑をかけた奴隷にどうか罰をお与えください」

「いいんだ。謝る必要などない。俺の説明が悪かっただけだ」


 まさか火炎石を直接手で触るとは思っていなかった。

 リリアは見かけ以上に天然なのかもしれない。


 ポーションを使って手の火傷を治療する。

 この程度の火傷ならポーションでも十分に治療できる。

 あっという間に治療が済んだ。


「ありがとうございます」


 森で取れた山菜とキノコを使って手料理をふるまう。

 市場で買ったパンも並べれば、まるで野宿とは思えないほどの豪華な料理が並ぶ。


「おいひいです! ご主人様は料理もお上手なのですね!」

「大したことではない。誰にでもできることだ」

「誰にでもできることであっても威張らず自分の仕事を忠実に果たすなんてなかなかできることではないです。ご主人様はすごい!」


 食事をとったあとはリリアとスキンシップを取る。

 リリアとの絆を育むうえで大事なことだ。

 リリアを膝枕して首元を撫でる。

 とても心地よいらしく瞼が重たくなっている。

 すぐに眠ってしまった。

 リリアをテントまで運んだ。

 リリアの寝顔を眺めながらケモミミを撫でる。


 改めてリリアのステータスを確認する。

 レベルが上がったにも関わらず変化のないステータス。

 もしこれが続くようならリリアはこれ以上強くならないことを意味する。


 ため息をつきそうになった。

 しかし、リリアの安らかな寝顔を見ると、

 自分が馬鹿な思い違いをしているのだとすぐに気づかされた。


 悪い気持ちを振り払うように首を振った。

 強くなる、強くならないでリリアの価値を決めるのはやめよう。

 別に強くならなくてもいいんだ。


 リリアは一生懸命頑張っている。

 俺のために魔物と戦ってくれている。

 怖くないはずがない。

 しかし、それでも文句ひとつ言わず俺に尽くしてくれている。

 リリアの気持ちを裏切る真似だけは絶対にしてはいけないんだ。


 思い返してみれば、

 ネルケット様も雑魚ステータスだった俺を見捨てなかった。

 やれやれと呟きながらも、冒険者として必要なノウハウをすべて俺に叩きこんでくれた。


 だから俺も。

 どんなリリアでも愛してあげられるようになりたい。


メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。


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― 新着の感想 ―
[一言] ダンジョン探索でメッチャ便利なスキル構成やん これを無能扱いってどんだけ斥候職不遇な扱いうけてるん?
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