第13話:物理攻撃
リッチがシャインを持っている可能性は極めて低く、持っていないという前提で考える方が気楽だろう。
今回俺たちがリッチに戦いを挑む理由は、リリアの「私より強い奴と戦いたい」という要望に応えるためだ。
ヘカテーの蘇生はおまけであって本題ではない。あくまで俺にとっての一番の優先順位はリリアだ。
ちなみに、ヘカテーを屋敷にずっと置いておくつもりはない。今回シャインが見つからなかった時は元あった所に大人しく返す予定だ。
ヘカテーが本来いるべき場所は《フィッツの森》のあの場所。俺たちはそれをたまたま発掘してヘカテーを連れて来たに過ぎない。本来ならヘカテーは1000年前にすでに死んでいるのだ。
コーネリアとの話を通して、俺たちがやっている事はクラウスと大して変わらない事に改めて気づかされた。
でもそれに対してあんまり罪悪感を抱かないのは、シャインを使えば目を覚ますという一筋の可能性が残っているからだ。
ただ、それを正当化させるつもりはない。俺がやっている事はただの自己満足という考えで動いている。
そもそも、冷静になって考えれば、ヘカテー本人が目を覚ましたいと思っているのか怪しい。
目を覚ましても1000年経っててチンプンカンプンだろうし、想い人はおろか知り合いすらもうこの世にはいない。
下手すると絶望して自殺してもおかしくないよ、この状況。
でも生きていれば良い事あるだろうし、ヘカテー本人もこの世界を楽しいと思ってくれるかもしれない。
行動の理由がマジでふわふわしていて自分の行動に対してまったく正当性を見いだせないが、リリアが楽しんでくれているみたいだからそれでよし!!!
今のリリアは馬車から外の景色を眺めながらとても喜んでいる。彼女と一緒の時間はこれからたくさんあるので、色々な所に連れて行ってあげたいね。
「ところで《カフカの幽遠》はどんなところですか?」
「俺も初めて行く土地だからよくわからない。ゴースト系のモンスターが多いと聞くよ」
「幽霊さんですか。幽霊さんってパンチが通じるのでしょうか?」
言われてみればそうかも。
リリアは物理攻撃が中心であって特殊攻撃を持っているわけではない。
俺がエンチャントを使用できれば話は別だが、俺はスキル使いなので魔力を感じる事ができない。
メルディと雪の民の熱心な練習のおかげで、最近はほんの少しだけ体内の魔力を感じる事ができるようになったが、魔法精霊を使役できるほど操れるわけではない。
もし一人で魔法精霊カードを使えばクラウスみたいに制御できずに自分が被害を受けてしまうだろう。
リッチってすげえ強い事で有名だし、いくらリリア様でも相性の悪い状態で戦うのは得策ではないな。
やっぱりカフカの幽遠に行くのは保留にしようかな。
今ならまだ引き返せるし、強い奴ならほかにいくらでもいる。
リッチにこだわる必要はない。
俺はリリアに対して理由を説明し、「やっぱり帰ろう」と伝える。
「少しだけ考えさせてください。一つだけ試してみたいことがあるんです」
試したい事ってなんだろう。
《カフカの幽遠》の入口に到着する。
とりあえず、俺は地図を持っているので不意を突かれることはない。
危険なリッチと遭遇しないように《カフカの幽遠》の入り口付近を探索する。
すると、リリアが要望しているゴースト系の魔物を見つけた。
こいつはスタンゴーストという名前の魔物。
外見は不定形で、色も半透明でフワフワと墓地の周りを飛んでいる。
こいつの主な攻撃方法は憑りつき。もし憑りつかれるとスタン状態になってしまうので行動不能になる。
だから不用意に近づくのは危険だ。
さて、リリアはどうやってゴーストを倒すのだろうか?
ゴーストは物理攻撃が一切効かないはずだ。
「リリア、気をつけろ。奴に物理攻撃は効かない」
「問題ないわ」
すでに変身状態となっているリリア様はクールにそう答えて剣を振る。
リリア様の斬撃で目の前の死霊が消し飛んだ。
「なっ……!?」
リリア様はどうやったのだろうか。俺はリリア様にどうやって攻撃を当てたのか訊ねてみた。
「斬撃波って知ってるかしら?
私の斬撃速度は光の速さを超えてるから、物理攻撃の概念を超越してるのよ」
「うん? ごめん、もう一度言ってくれるか?」
「私の斬撃速度は光の速さを超えてるから、物理攻撃の概念を超越してるのよ」
なにそれ!?
たしかにリリア様の攻撃は魔法よりもはるかに威力高いけどさ。でも衝撃波で倒すなんて力押しすぎるよ。
俺がいままで考えていたエンチャントとはなんだったのかと思えてしまうほどのリリア様の強さ。
やはり、リリア様は超最強だ。
俺がどうこう考えるよりも、リリア様に任せるのが一番だ。
俺はいつものようにサポート役に徹しよう。
シャーマンゴブリンの時にも至ったシンプルながら最強の答え。
リリアを信じる。
最後の戦いもここに帰結した。