第12話:揺らぐことのない信念
その日、俺はリディット大教会にテレポートしてクラウスが逮捕されたことをコーネリアに伝えた。
コーネリアは特に驚いた様子もなく、「彼は愚かな人ですね」と答えた。
当然ながらコーネリアもネクロには反対派であり、クラウスの行動には嫌悪感を示している。
「シルヴィルさんは輪廻転生という言葉をご存知ですか?」
「死んだ人間が一定の期間を経て現世へと舞い戻るという考え方だろ」
現在、輪廻転生が確認されているのはドラゴン族のみ。
人間は死んだあとどうなるのかは不明だ。
ドラゴン族のように輪廻転生すると主張する研究者もいるし、魔力となって自然へと還って転生はしないと主張する研究者もいる。
どちらが正しいのかはわからないが、個人的に前者がいいと思っている。
口では反対しているが、本音はまた再会したい。
「私はティオと再会できなくてもいいと思っています」
「そうなんだ」
意外だ。
ティオはコーネリアの事を姉のように慕っており、パーティだった頃もよく話題にしていた。
ティオの一方的な片思いだったのかな。
「もちろんティオが死んだのは残念ですが、ティオに縛られて今後の人生を台無しにしたくありませんからね」
「結構思いっきり言うね」
「はい、私はティオを他者を縛る呪いにしたくありませんので」
「どういうことだ?」
他者を縛る呪い?
「シルヴィルさんは大切な人はいませんか?」
コーネリアは俺に問いかける。
「いるよ、この前連れてきたリリアだ」
「それならリリアさんをティオを想う分まで思いっきり愛してあげてください。
いまアナタの側にいる本当に大切な方を一番に考えてください。
ティオの存在を完全に忘れた時、アナタは本当の意味でティオの死を乗り越えたと言えるでしょう」
ティオの存在を忘れてしまう。
その発想は一度もなかったな。
コーネリアに感謝の言葉を述べて屋敷へと戻った俺。
とりあえずリリアを呼んだ。
「どうかしましたか?」
なぜ呼ばれたのか理解しておらず、ずっと凝視している俺を見てキョトンとしている。
俺は一歩リリアに近づいて、リリアの頬っぺたにキスをした。
「いきなりキスをするなんて、ご主人様は節操がない方ですね」
「今日はリリアとイチャイチャしたい気分なんだ」
そのままリリアを抱きしめる。
コーネリアの話を聞いて改めて思った。
俺は間違っていた。
たしかに俺は運が良かっただけかもしれない。
初めは奴隷と主人という上下関係だった。
でも、この一年間の中で俺たちの関係は本物になった。
「なあリリア、リッチを倒してシャインを手に入れたらすぐに籍を入れよう」
「なんだか死亡フラグみたいな事を言ってますね」
死亡フラグじゃないって!
冗談でもこのタイミングで言うのは不吉だから禁止!
「結婚ですかぁ……」
リリアは顎を触りながら思案顔になる。
「リリアは俺と結婚するのは嬉しくないのか? もっと理性を失って喜ぶと思っていたぞ」
「いや、私をなんだと思っているんですかご主人様……。
私もこの一年間で結構成長したんですよ。
結婚しようと言われたくらいでは別に驚きませんよ」
マジかよ。
リリアの中で結婚というイベントは些細な事なのだろうか。
ちょっとショックだ。俺だけ舞い上がっていたみたいで悲しい。
しょんぼりしている俺にリリアは微笑む。
「私はどんな時でもご主人様の一番であり続けますから、ご主人様を別の誰かに渡すって事はありえません。だから結婚すると言うのは私にとっては必然なんですよ」
その言葉のあと、リリアはなぜかリリア様に変身する。
変身した効果でリリアは、俺とほぼ同じくらいの身長に伸びる。
俺と同じ目線で、向かい合いながら、先ほどとほぼ言葉を繰り返す。
「私はどんな時でもご主人様の一番であり続けるわ。
たとえそれがどんなに強い相手でもそれは変わらない。
最強の白狐族として相手になるつもりよ」
どんな時でも俺の一番であり続ける。
その言葉には決して揺らぐことのない信念が宿っていた。
その夜、俺たちはいつものスキンシップをした。
翌朝、俺とリリアは『最後の戦い』へと向かうため、屋敷を発った。