第4話:ご奉仕
何度も頭を下げながら受付嬢が部屋から出て行った。
ふたたび、部屋の中は俺とリリアの二人に戻った。
リリアの気持ちは伝わったので俺は無罪放免となった。
今回の一件は不問にしてやった。
憲兵とこれ以上関わりたくないからだ。
受付嬢は何度も俺に謝罪をした。
迷惑をかけたお詫びに今夜のホテル代はただにするそうだ。
これは朗報であった。
「ご主人様! お怪我はないですか!」
「ありがとうリリア。お前のおかげで助かった」
「ご主人様のためなら当然です。本当に無事で良かったです。私のせいでご主人様が怪我をしたら私、私……!」
リリアは顔面を俺の服にこすり付けながら泣いた。
ケモミミを撫でながら落ち着くのを待った。
リリアが落ち着いたところで話を再開する。
「ところでご主人様。一つ気になったことがあるのですが……」
「言ってごらん」
「私は白狐族ですよね。どうして彼らは私を連れて行かなかったのですか?」
リリアも疑問に思ったようだ。
じゃあ改めて説明するか。
「『認識阻害の加護』を使ったんだ。俺の持つスキルのサポート効果だ。そのおかげでリリアは白狐族だとバレなかったんだ」
「そ、そうだったのですね!! ご主人様すごい! 流石ですご主人様!!」
「うむ。だから自分の種族のことを気に病む必要はない。ちなみに俺は普通に白狐族だと見えているから安心しろ」
「ありがとうございます。だから私のケモミミをえっちな手つきで触っていたのですね」
いやらしい手つきで触ったつもりはないが、どうやらセクハラまがいのことをしていたようだ。
「リリアが嫌だったらやめるが……」
「とんでもない! もっと私のケモミミを触ってください! 我が誇らしきご主人様!」
リリアは尊敬の眼差しを向けた。
翡翠色の瞳を輝かせて俺の顔を見つめている。
彼女の笑顔がまぶしい。
こんなに純粋な子を奴隷にするなんて俺はなんて悪い奴なのだろう。
反省はしているが後悔はしていない。
これから毎日彼女の笑顔が続くようにご主人様として努めを果たしていきたい。
えーと。
今度は何をしようかな。
懸念していた一番の問題は無事解決できた。
リリアを観察する。
ポーションパワーで浄化されているとはいえ、全体的に汚れているな。
奴隷の館ではあまり良い待遇を受けていなかったのだろう。
よし決めた。
まずはお風呂だな。
リリアを綺麗にしよう。
お風呂に入ると伝えた。
「わかりました。ご主人様のために精一杯ご奉仕致します」
リリアは自然な手つきでかちゃかちゃと俺のベルトを外そうとしてくる。
慌ててリリアを静止した。
「リリアよ、ストップ。お前はいったいなにをしようとしているのだね」
「ベルトを外してご主人様の素晴らしい聖剣を降臨させようとしております」
「今回は俺の聖剣を引き抜く必要はないんだ」
「では何のためにお風呂に入るのですか?」
リリアは頭の上に疑問符を浮かべた。
リリアの体を綺麗にすることが目的だと伝える。
リリアの体を洗ってやると伝えると、リリアは照れくさそうに顔を赤くした。
「ご主人様はお優しい方なのですね」
「そう言ってもらえるとご主人様冥利に尽きるよ」
「ですが、これではご主人様の服が濡れてしまいます。服が濡れてしまうと風邪をひいてしまいます。風邪を引くと死んでしまいます。服が濡れるとご主人様が死んでしまう!?」
飛躍した三段論法で俺の危機を察知する。
俺は笑って言葉を返す。
「それくらいで死なないよ。リリアはかわいいなぁ!」
「私はふざけているわけではありません。ママは風邪で死んでしまいました。ご主人様には死んで欲しくないのです」
リリアは啼泣する。
どうやら風邪に対してトラウマがあるようだ。
リリアが落ち着くまで一緒のお風呂は我慢しようと思っていたが、リリアの不安を取り除くのもご主人様の努め。
リリアのためにもお風呂に入ろうじゃないか。
俺も一緒に入ると伝えるとリリアはとても喜んだ。
湯船の前で温度を調節する。
ばっちりな温度だな。
これなら体もしっかり温まるはずだ。
満足げに俺はうなずいた。
「わ、わわ!? 湯気が立っております。ご主人様、ご主人様!? しゅごいですうううううううう!?」
「ど、どうしたんだいリリアちゃん。そんなにいきなり慌てて。ご主人様はリリアの反応にびっくりしたよ」
「お、お湯が沸いております! フゥーフゥーをしないのにお湯を沸かすなんて! これもご主人様の魔法なのですか!?」
フゥフゥー? もしかして火起こしのことかな?
リリアは人里離れた場所で暮らしていたから『火炎石』を知らないのか。
建国当初は水の調達も難しく、火起こしにも労力がかかったらしいのだが、500年という歴史の中で文明は進化している。
いまや他国から輸入してきた火炎石のおかげで容易に風呂が楽しめる。
いい時代になったものだ。
火ばさみを使って火炎石を湯船から取り出した。
「これは火炎石と言ってな。常時高温の魔石だ。ロードス王国の土地で採掘される代物だ。これを水に入れて数分おくとお湯になるんだ」
「ご主人様は知識も豊富なのですね。とても勉強になります」
「リリアにもいずれ使い方を教えよう。さてと、お風呂の準備ができたぞ」
リリアは服を脱いで裸になる。
改めて彼女を観察する。
身長はケモミミを含めて150センチほど。
長い白髪は腰付近までかかっている。
胸の起伏は少ないが、彼女の品の良さに一役買っている。
お尻の上には白い尻尾が生えている。
こうして眺めてみると本当に美少女だ。
緊張しているせいか顔がこわばっている。
「あ、あの……。ご主人様。リリアの体はどうでしょうか?」
「ふむ。傷の跡は完全に消えているな」
「いえ、リリアが言いたいのは……。すいません、ごめんなさい」
「冗談だ。とても綺麗だよ」
「あ、ありがとうございます!」
リリアの望んでいる解答はできたようだな。
俺はそこまで鈍感な男ではない。
少女の想いにはできるだけ応えてあげたい。
手ぬぐいと石鹸でリリアの汚れを拭いた。
ゆっくりと、注意深く、丹念に洗った。
少々くすぐったそうであったが無事綺麗に洗うことができた。
いまは一緒の湯船につかっている。
キレイキレイにしたことでリリアはますます美少女となっていた。
ロリコンではないはずなのだが、
無意識のうちにじっと見つめてしまう。
リリアも俺の視線に気づいてニコリと笑顔を返した。
幸せな気持ちになる。
この子が俺の奴隷となり、すべてを捧げるのか。
身も心もすべて俺のものとなる。
そう考えると背徳感がある。
しかし、俺も紳士だ。
嫌がるリリアに無理やりご奉仕してもらおうとは思っていない。
信頼関係を築いた上でご奉仕してもらいたい。
風呂から上がる。
バスタオルでリリアの体を丹念に拭いた。
湯冷めして風邪をひかないようにめちゃくちゃ慎重に扱った。
お姫様のように、とにかく優しくエスコートする。
パジャマに着替えさせて疲れているであろうリリアをベッドで仮眠をとらせた。
ちなみにパジャマは俺のお古だ。
リリアは「ご主人様が起きているのに自分だけ寝るなんて」と渋った。
しかし、やはり疲れているらしくすぐに眠りについた。
リリアの寝顔を観察しながらケモミミを撫でた。
本当に肌触りがいいケモミミだ。
ケモミミは最高だ。
リリアが眠っている間に今後の予定を立てた。
また、宿代が浮いたので夕食と日用品を買うために市場に出かける。
地図マップスキルを使って必要な日用品を探す。
日用品の大半はマップに登録している。
追加効果の探知を発動することで登録している物を効率よく購入していく。
戦闘では役に立たないが、こういう雑務的な事では役に立つスキルだ。
ついでにリリア用の私服も買いに行く。
服なら奴隷商人から買うこともできたが、質が悪かったので良質な物を買ってきた。
リリアに体調を崩されるのが一番困る。
ここは妥協できない。
日用品と食料をたくさん買ってきた。
資金はギリギリ足りた。
鼻歌交じりで部屋に戻る。
扉を開けた途端、
「ご主人様ああああああああああああ!」
リリアが部屋から飛び出してきた。
俺の体にしがみついたまま手を離さない。
てっきり眠っているものだと思っていたので、俺はとても驚かされた。
「ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様」
ご主人様がゲシュタルト崩壊しそうな勢いだ。
「どうしたんだ? なにかあったのか?」
「ぐすん……ぐすん……。ご主人様ぁ……。目がさめるとご主人様の姿がなかったので……。リリアを置いてどこか行ってしまったのではないかと不安になってしまいました」
「ごめんな。リリアを不安にさせて。これから黙ってどこか行ったりなんかしないから許してくれ」
「はい、ご主人様。とても怖かったです」
こちらからリリアをギュッと抱きしめる。
石鹸のいい香りが鼻孔をくすぐる。
リリアも俺の背中に手を回して、強く俺を求めた。
リリアが落ち着くまでしばらくそのまま抱き合った。
アイテムボックスから食料を出して夕食の準備をする。
たくさんの食べ物をテーブルに並べる。
リリアは羨ましそうな表情でテーブルの食べ物を見つめている。
準備ができたらリリアを椅子に座らせた。
「はい、リリア。これ全部食べていいよ」
「え、ええ!? これはご主人様が食べるために買ってきたものではないのですか!?」
「リリアのために買ってきたんだ。お腹を空かせているだろうと思ったんだ」
「よ、よろしいのですか? 奴隷の私が、こんな美味しそうな料理を食べるなんて許されないのでは?」
「そんなルールを決めたのはただの愚か者さ。人は誰しも美味しいものを食べる権利がある。もちろんリリアも同じさ。奴隷だからって遠慮せずにたくさん食べなさい」
リリアは遠慮がちにパンを手に取った。
パンを口に運ぶ。
もぐもぐとパンを食べるうちにリリアの目から大粒の涙が溢れる。
「おいしい。おいしいです。ご主人様。ママが死んでから、こんなに温かい食べ物を口にしたことがありませんでした……ぐすっ、ぐすん……」
嗚咽を交えながら食べ進めた。
最初のうちは泣いている顔が多かったけれど、次第に笑顔が多くなり、最後は幸せそうな表情で食べきった。
空っぽだったリリアの心が満たされていく。
「ありがとうございます。リリアはご主人様の奴隷で本当に幸せです」
リリアは笑顔でそう言った。
その言葉だけで一晩でメルゼリア城を建てられそうだった。
外も暗くなってきた。
あとは就寝するだけだ。
しかし、新たな問題が発生してしまった。
「いえ、こればかりは流石にできません」
「俺は野宿で慣れてるから大丈夫だ」
「ご主人様を差し置いてふかふかのベッドで眠るなんて許されません!!!」
ダブルの部屋は経済的に厳しいからシングルにしたわけだが、まさかこんなトラブルがあるとは思わなかった。
リリアは頑固としてベッドに入ろうとしない。
どうすればいいんだ。
「ご主人様は先程、疲れている私を見兼ねてベッドの使用を許可してくださりました。これ以上の好意に甘えると罰があたります。私は床でも大丈夫です。ささっ、ご主人様はベッドでお眠りください」
ここでご主人様の身分を利用してリリアを無理やりベッドで寝かせることは簡単だ。
しかし、リリアは虐待を受けていた。
身分を利用して何かを強制することはやりたくない。
なにか策はないか。
ではこうしよう。押してダメなら引いてみろ作戦。
あえて状況が悪くなる事を提案する事でリリア側に折れさせよう。
「どうやらこのまま口論を続けても平行線のようだな。だが考えてみろ? 俺を床で寝せることができないなら一緒に寝てもらうことになるぞ。いいのか? リリアも嫌じゃないのか?」
「ご主人様と一緒に寝るなんて……」
リリアは顔面を真っ赤にする。
きっとこの後こう言うだろう。
それなら自分一人でベッドで寝ますとな。
「幸せで頭が沸騰しちゃいそうです」
喜びを抑えきれない様子で、頬に両手をあてながら体をくねらせた。
「あれれ?」
なんか思っていた反応と違う。
もっと嫌がるかと思っていた。
なぜだ? なぜ拒絶しない。
「ご主人様ならいいですよ。グランドマスターより夜枷のことも聞いておりました。実際にやるのは『初めて』ですが、一生懸命ご主人様のためにご奉仕致します」
リリアはとても張り切る。
これは悪い流れだぞ。
断ち切らなければいけない。
「ご奉仕はいいから。ベッドで休みなさい。これはご主人様命令だ」
リリアのためを思ってそう言った。
しかし、リリアは俺の言葉にショックを受けてしまった。
「もしかして、私には魅力がありませんか」
今度はぐすんぐすんと泣き始めた。
もうわけがわからない。
女の子の考えていることは男の俺にはさっぱりだ。
リリアはどうして俺のアレを咥えたがるんだろう。
とても不思議だ。
たしかに恩人ではあるかもしれないが、今日出会ったばかりの男のアレを咥えたがるのはどうかしている。
これまでの出来事を振り返る。
すると、出会ってすぐにリリアが口にした言葉を思い出した。
『ご主人様のためにご奉仕致します』という台詞。
あれはリリアが生きるために学んだ奴隷の知識なのではないのだろうか。
お風呂の時もそうだったが、リリアはそういうことをしなければいけないと教わったのかもしれない。
性奴隷としてご主人様のアレを舐めるのは当然という認識。
リリアはまだ幼い。
常識を婉曲して捉えている可能性は大いに高い。
リリアはきっと俺から拒絶されたと思っているはずだ。
仕方ない。
リリアの心の安寧を守るのはご主人様の役目だ。
リリアをお姫様抱っこする。リリアはとても軽かった。
「きゃっ!? ご、ご主人様!?」
リリアは顔を真っ赤にしている。
「今日からリリアには毎日一緒に寝てもらう。今更イヤだと言われても遅いぞ」
「は、はい! リリア、とても嬉しいです。ご主人様が喜ぶように精一杯奉仕いたします」
リリアをベッドに連れ込んで抱き枕のようにして一緒に寝た。
リリアは体温が高いのでとても心地良かった。
メインスキル
○地図
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
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