第9話:メルゼリア城
「ご主人様! 私を抱っこしてください!」
「すまないリリア。メルディを待たせているから抱っこするのは帰宅後で頼む」
「わかりました」
リリアは承諾してくれたが尻尾がしょんぼりと垂れており、表情も悲しそうだ。
こんな良い子に悲しい表情をさせて何がご主人様か。
俺はリリアとスキンシップをすることに決めた。
30分遅刻したら人は焦るが、3時間くらい遅刻してるときは開き直って逆に焦らないものだ。今の俺はまさにそれ。
こちらからリリアを抱きしめる。
体温が暖かくて尻尾フワフワしててすごく気持ちいい。
リリアちゃんはどうしてこんなにいい匂いするんだろうね。天使様なのかな?世界で一番かわいいお姫様だよほんと最高。
「もしよろしければ耳も撫ででくれませんか? ご主人様からナデナデされるのすごく好きです」
「わかった、ナデナデする」
リリアの頬っぺたにキスをして、その後頭をナデナデした。獣人は頭に耳がついているので頭を撫でる行為が実質ケモミミを撫でる行為に繋がる。
ケモミミを撫でるとリリアが淫靡で甘い声を発した。このままでは第二ラウンドに突入しそうだったのでスキンシップを一旦中断した。
メルディがいる宮廷はメルゼリア城にあるので、まずは馬車で向かう事に決めた。
広い道幅のメインストリートには何本も線が引かれ、馬車がひっきりなしで走っている。舗道には人で溢れ、慣れた足取りで歩いている。
俺は立ち止まって口笛を吹いて四輪馬車を止める。するとリリアがたいへん喜んだ。
メルゼリア城と行き先を伝えて馬車に乗った。
「どうすればご主人様みたいに綺麗に口笛を吹けるようになりますか?」
馬車の中でリリアに質問された。
「力を抜いて吹けば自然と音が鳴るよ」
リリアも俺の真似をして口笛を吹こうとしてみたが、中々上手く行かない。
「よくわからないのでキスして教えてくださいませんか?」
この子時々めちゃくちゃ知能が下がるような発言するよね。
それに喜んで応じる俺もだいぶ知能が下がっており、俺は馬車の中でリリアとたくさんチュッチュした。
それから30分後、メルゼリア城に到着した。
屈強な門番が二人、門の前に立っており、俺たちを不思議そうに見つめている。
「宮廷魔術師のメルディに用があってきた」
「シルヴィル様ですね。本人確認になるようなモノは持っていますか?」
俺は冒険者カードを提示する。
「メルディ様はメルゼリア城二階の研究室におります。案内役をよこしますので、しばらくここでお待ちください」
「わかった」
案内役の男性がやって来て、俺たちをメルディがいる研究室まで案内した。
メルディは机に向かって黙々と書類を整理しており、仕事の真っ最中だった。
俺たちに気づくと穏やかな表情を浮かべ、ソファへと案内した。
「予定の時間よりだいぶ遅れてすまない。これは俺の気持ちだ」
まずは遅れたことをメルディに謝罪して、そのあとドーナッツの詰め合わせを渡した。
「これは?」
「メインストリートにあるココスのドーナッツだ」
「あそこのドーナッツか。私も大好きなんだ。せっかくだから三人で食べようじゃないか」
メルディは皿を三枚用意して机に並べていく。
「リリア殿はコーヒーと紅茶どちらがいいですか?」
と、メルディが聞いた。彼女の敬語は結構貴重。
「リリアは両方ダメだからジュースを頼む」と俺がリリアの代わりに答えた。
「そうなのか。じゃあオレンジジュースはどうですか?」
「オレンジジュースなら私も大丈夫ですぅ」
メルディと俺は紅茶でリリアはオレンジジュース。
リリアは美味しそうにオレンジジュースを飲んでいる。
「このドーナッツ美味しいですね」
「王都で一番人気のお店だからな。
特にこのストロベリーリングがオススメなんだ」
リリアのお口にストロベリーリングを入れた。
「おいひぃ!? 甘くてモチモチしてて、一晩でメルゼリア城が建てられちゃいそうですぅ!」
「甘いドーナッツのおかげで疲れた頭が落ち着くよ。いい息抜きになった」
と、メルディが笑顔で言った。
こうして眺めてみると本当にエディアそっくりだな。……って、エディアと比べたら失礼だな。
「メルディさん、あそこの書類の山はいったい何の書類なんですか?」とリリアが質問した。
「アレは国内に存在する迷宮に関しての資料です。危険性の高い迷宮を選別して、今後処理していく予定なんです」
「へー。難しい迷宮があったら私もお供させてください。この前はご主人様が私に黙って連れて行ってくれませんでしたから」
意外と嫉妬深いね。
「構いませんよ。リリアさんがいらしてくれたら迷宮攻略が捗りますので」
「ありがとうございます!」
「よかったなリリア」
「はい」
「お前もついて来るんだぞ、地図男」
俺もかよ。あと地図男とか言うな。斥候と呼べ。
それからしばらくはドーナッツを食べながら楽しく談笑した。