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第6話:神級魔術師のヘカテー

 ヘカテー。

 魔石族の特異種であり、おそらく世界で一番有名な魔石族だ。

 大魔術師ペテルギウスが研究していた錬金術の過程から生み出されたホムンクルスと言われている。

 ペテルギウスも十分すごい魔術師であるが、ヘカテーがレジェンド級なので影が薄い。


 ヘカテーの外見は人間と同じで、人語を喋っていた。

 性別は女性で、艶のある紫色の髪をしていたそうだ。

 性格は極めて温厚で、どんな時も笑顔を絶やさなかったらしい。

 1000年前、それも建国前(今から200年前)に生まれているはずなのに彼女の逸話は多い。


 ヘカテーの代名詞と言えば『魔力変換』だ。

 体内の魔力を魔法へと変換するという、魔法使いの常識を塗り替えるほどの魔法技術を生み出した。

 これにより、魔力さえあれば誰でも魔法を使えるようになった。

 魔法精霊と契約しないと魔法を使えない現代では考えられないことだ。


 彼女自身は『聖人』と言っても過言ではなかったが、彼女の魔法技術を悪用した者はかなり多い。

 人間同士の戦争に発展したケースもある。


 良くも悪くも、魔法界に大きな影響を与えた偉人だ。

 一時期はそれが原因で叩かれていたが、彼女自身が真面目で誠実だったということもあり、メルゼリア王国とセイレーン王国では英雄として愛されている。


 そんな偉人のヘカテーが俺たちの目の前にいる。

 ベッドの上でスヤスヤ眠っている。


「この人が噂のヘカテーさんね」

「めちゃくちゃ美少女だな」

「ご主人様っていつもそれよね。どんな時も平常運転ですごいと思うわ」


 とうとうリリア様にすら呆れられてしまった。

 シクシク、悲しいよ。


 冗談はともかく、彼女を観察してみる。


 文献通り、艶のある紫色の髪をしている。

 俺が知らなかったことは『超絶美少女』だということだ。

 背丈は160センチほどで、目鼻立ちは整っており、真面目そうな顔をしている。

 黒色を基調とした衣装を着ており、リリアと対極のような色合いだ。

 

「妙だな。こんなに接近しているのにまったく起きる気配がないぞ」


 彼女の顔に耳を近づける。

 呼吸はしている。

 リリア様がヘカテーの体を揺すってみる。

 それでも目覚めない。


「まったく起きないわね。どうして眠ったままなのかしら?」

「流石の俺もそこまではわからない。普通に眠っているだけではないことは確かだ」

「うーん、一回殴れば起きるかもしれない」

「やめろ。お前のパワーで殴れば確実に永眠するだろ」

「あら失礼ね。乙女に向かって」

「乙女は殴って起こそうなんて考えない」

「ジョークよ、ジョーク。本気で受け取らないで欲しいわ」


 彼女の体を調査してみる。

 ボディタッチすることになるが俺も真面目モードだ。

 するとお腹の部分に痣がある事がわかった。


 三日月の形をしている紫色の痣だ。

 この痣なら本で見たことがある。

 

「『眠りの魔法』をかけられている可能性が高いな」

「へえ、世の中にはそんな魔法があるのね」

「禁術の一つだよ。相手を永久に眠らせる危険な魔法だ。だが、一説によると唇にキスをすれば目覚めるらしいぞ。どれ、ここは俺が一回キスでもして……」


 リリア様の大太刀が俺の進路を阻む。

 彼女はニコリと微笑む。


「キスなら私がやるわ」

「危険だ」

「なんで?」

「危険だからだ!」

「ちょっとアナタ、語彙が貧弱すぎるでしょう」


 下半身に頭が支配されている時、俺の知能は猿レベルにまで落ちてしまう。

 仕方ない、リリア様にキスをしてもらおう。


 リリア様がヘカテーの唇にキスをした。

 ヘカテーは、
























 目覚めなかった。

 それはそうだ。

 キスで目覚めるというのはただの迷信。

 信憑性の欠片もない。

 

 とはいえ、眠りの魔法は本当に存在する。

 対象を永遠に眠らせる禁術魔法だ。

 スリープの魔法精霊が当時からいたんだろう。


 ヘカテーはその魔法をかけられてしまった。

 大体そんなところかな。


 眠りの魔法を解くには目覚めの魔法が必要だ。

 シャインという光魔法を使うしかない。


 だが、シャインの魔法精霊は既に『絶滅』している。

 魔法は生き物だ。

 数が少なくなるという場合もある。

 とはいえ、普通の生き物とは違うため絶滅なんて起きないんだが、このシャインに限っては既にこの世界に存在しない。

 少なくとも、この200年の間に確認事例は一度もない。

 実質、スリープを受けたら即死だ。


 部屋を見渡してみる。

 机が一つあるだけで他には何も見当たらない。

 強いて言うなら、ベッドの隣にある謎の白骨化した遺体だ。


 気になってはいたが、あえて触れなかった。

 骸骨を詳しく調査してみる。


 骸骨は一冊の本を持っていた。

 本を確認してみる。

 かなり痛んでおり、虫食いも多い。

 中身は未知の言語で書かれている。


 さっぱりわからない。


 おそらく、このヘカテーをなんとか目覚めさせようとしていたのだろう。

 その前に自分が死んでしまった。

 大体そんなところか。


 骸骨は左手の薬指に指輪をしていた。

 ヘカテーも同じ位置に指輪をしている。

 それを見て、なんとなくこいつが何者が察してしまった。


 この『想い人』のためにもヘカテーを目覚めさせたい。

 俺はそう感じた。


「どうするの?」

「現時点での蘇生は不可能だ。シャインの魔法が存在しないからな」

「じゃあ彼女は一生眠ったままなの?」

「そういうことになるな」

「そんな! なんとかならないのご主人様?」

「とりあえずメルディかコーネリアに相談してみるよ。彼らなら何か知っているかもしれない」


 二人とも各部門のビックボスだからな。

 俺の知らない情報を持っているかもしれない。


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