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第12話:エピローグ

※マルスとレラは別の作品にも登場しますが別人です。

世界観は根幹からまったく異なるので、そっくりさんだと思ってくだされば幸いです。

 ゴールを目前もくぜんに雪の民とメルディは感想を口にした。


「もうゴールでごじゃるか。案外大したことなかったでごじゃるな。地下一階が一番難しかったでごじゃるよ」

「同感だ。地下一階の時は、あまりの広さに私も驚いたが、二階と三階は構造も単調で拍子抜け。途中で飽きてきたのがまるわかりだ」

「あっ、やっぱりそうだったんでごじゃるね。敵の配置もかなり雑だから薄々察していたでごじゃる」

「それに見ろよ。このやっつけみたいな一本道構造。最後にボスを配置しておけば満足するでしょ?って魂胆が透けて見える」

「我々の方がもっと面白いダンジョン作れそうでごじゃる」


 アハハハハと笑う二人。


 たしかに二人の言うとおり、階層を降りるごとに簡単になっている。

 地下一階が複雑度100とした場合、地下二階は60、地下三階40、最終フロアは1だった。

 普通、地下迷宮というのは地下に進むにしたがって難しくなるものだ。

 だがまれに、逆転現象が起こることもある。

 大体ラフローグが迷宮作りに『飽きている』時だ。


 もちろん口には出さなかった。

 ラフローグに聞かれるとヤバいからだ。

 だが、この二人は俺の心配などもろともせず迷宮の悪口を連打している。


「ば、馬鹿野郎! なに言っているんだお前ら! 迷宮内でラフローグ様の悪口は……!」


 俺は慌てて彼女らの悪口を止めた。

 しかし、もう手遅れだった。



 ゴゴゴゴゴ……!

 突然、迷宮が大きく揺れた。



 真・グラントリオンB

 植物族 レベル56



 ボスのレベルがめちゃくちゃ上がっていた。


「くっ、ラフローグ様が監視していたのか」


 ラフローグはたまに迷宮を監視していることがある。

 今回はその悪いタイミングで入ってしまった。

 初挑戦者だからラフローグも気になってたんだろう。


 ラフローグも一応女神だ。

 すぐに謝ればギリギリ許してくれるかもしれない。

 しかし、馬鹿二人はまたラフローグを煽り始めた。


「まるで感想で酷い事を書かれて顔を真っ赤にした人みたいでごじゃるね」

「ふん、大人気ない女神だな。おい聞いてるか! そっちの気分次第でコロコロ難易度変えやがって。こっちは貴様のおもちゃじゃないんだぞ。このダンジョンは失敗作だ! もう少しマシなダンジョンを作るんだな!」

「一週間待ってあげるでごじゃるよ」



 ゴゴゴゴゴ……!

 迷宮が大きく揺れた。



 究極グラントリオンA

 植物族 レベル76



「なんだか面白くなってきたでごじゃる。こんな雑魚レベルじゃ拙者達止められないでごじゃるよ。ダンジョンのレベル設定下手すぎでごじゃるよ」

「ダンジョンの構造もダメで、レベル管理もダメ。バランス崩壊したダンジョンを見ながら自画自賛してそうだな」

「誰も入らないダンジョンなんて価値ないでごじゃるよ。もう少し考えて作った方がいいでごじゃるよ」



 ゴゴゴゴゴ……!

 迷宮が大きく揺れた。



 究極完全体グラントリオンS

 植物族 レベル99



 ああもうめちゃくちゃだよ。


 Cランク程度だったはずのダンジョンが、あっという間にSランクに進化しちゃいました。


 しかし、メルディはとても冷静だ。

 自分より高レベルを前に顔色一つ変えていない。


「どうすんだよお前ら。こっちのレベルよりもあっちの方が高いぞ」

「案ずるな。私はお前が思っている以上に強い」

あるじ! 大丈夫でごじゃる! どんなに高レベルも拙者の前では敵ではないでごじゃる。安心安全をモットーに奴を瞬殺するでごじゃるよ」


 なんでお前らそんなに自信たっぷりなんだよ。

 俺の心配を余所に強者である二人はグラントリオンの攻略法をどんどん考えていく。

 ちなみに俺は参加できない。

 この魔物は一度も見たことがないからだ。

 どんな攻撃を仕掛けてくるのかもわからない。


 リリアさえいればワンパンで仕留めてくれるのに……。


「おい、アイスクリーム。お前は『属性付加エンチャント』ができるか?」

「もちろんできるでごじゃるよ。拙者にできないことなどあんまりないでごじゃる」

「よし、決まりだな。エンチャント攻撃で奴を仕留めるぞ」

「おお! いい案でごじゃるね。拙者もエンチャント大好きでごじゃる!」



 属性付加エンチャント


 とても懐かしいな。

 たしかエディアが熱心に研究していた魔法だ。

 よく実験台に付き合わされた。


 クラウスを焼き殺すといけないから雑用のお前みたいなノリだ。


 エディア曰く、パワーがなくても敵を殺せるようになるらしい。

 とても魅力的な言葉だった。


 とはいえ、俺は魔力がない。

 魔力を感じるというのがイマイチわからなかったので、エディアの魔力に合わせる事が困難だった。

 エンチャントが一向にできなかった。

 エディアも失敗のたびにブチ切れていた。

 結局、使えるようになる前に喧嘩別れしてしまった。


 良くも悪くも印象的な魔法だ。



「剣に付加させるのは炎属性だ。

 奴は植物族、効果抜群なのは間違いない。

 お前の強さならレベル99だろうと必ず勝てる」

「了解でごじゃる。任せてくれでごじゃる。10秒以内に終わらせるでごじゃる!!」


 雪の民は女神より魔力を与えられている。

 つまり、魔力を感じることができる。

 エンチャントも可能だろう。


「『メガフレア』!!!」


 フレアよりも上級のメガフレアを召喚する。

 灼熱の炎が雪の民の剣に宿っていく。

 巨大な炎の大剣が生成された。


「行くでごじゃるよ~~!!」


 雪の民の姿が消えた。


 一瞬にして膝元まで踏み込むと、化け物に炎の斬撃を放つ。

 化け物にパックリと大きな傷が開いた。

 化け物は悲鳴を上げて、触手を伸ばして雪の民を捕まえようとする。

 しかし、機動力では完全に雪の民が上回っている。

 捕まるわけがない。


 攻撃を華麗にかわして連続切りを放つ。

 攻撃を放つたびに燃え広がり、フロア全体が炎に包まれていく。化け物は悲鳴を上げている。

 炎の刃が止まらない。

 縦横無尽に飛び交って、レベル99の化け物をズタズタに引き裂いた。

 圧倒的な強さだった。

 まるで炎の風が吹き荒れるようだ。

 強さだけではない。その炎はとても美しかった。


「いずれお前も使えるようになる。そのために、今、お前に完成形を見せてやった」

「これが、エンチャントの完成形……」

「姉さんはきっと、お前と一緒に戦いたかったんだろう」


 その言葉を聞くと何故か、俺の頬に涙が伝っていた。


 宣言通り、雪の民は9秒でグラントリオンを倒してしまった。





 転移魔法陣で地上へと帰還する。

 草木も眠る丑三つ時。

 すっかりと真夜中になっていた。


 しかし、攻略の余韻に浸っている場合ではない。

 フローラの地下迷宮が高難度化してしまったのだ。

 このまま放置すると大変なことになってしまう。


「攻略できたのはいいが、この迷宮の処置が困るな。誰かさん達が煽りまくったせいで相当難しくなっているぞ。もうこんな迷宮誰も入れないぞ」

「問題ない。Sランクの迷宮は『封鎖してもいい』という決まりがある」

「封鎖?」

「ああ、少し私から離れていろ」


 メルディに言われるがまま、俺たちはメルディから距離をとった。

 一枚の精霊カードを手に取り、天高く放り投げる。

 そして、呪文名を大声で叫んだ。


「『エクスプロージョン』!!」



 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


 メルディは地下の入口に向かって爆発魔法エクスプロージョンを撃ちこんだ。

 地の底まで響くような爆発音が響き渡る。

 目の前の景色が一瞬にして更地になった。

 驚いたことに、地下へと続く階段が消えていた。


「ど、どういうことだ? 階段が消えた? まさか吹き飛んだのか?」

「世間一般ではまだ知られていないが、ラフローグの地下迷宮は魔法で破壊できる。私の持つ最強の爆発魔法、『エクスプロージョン』ならそれも可能だ」

「メルディ殿! すごいでごじゃる!!」

「ああ! 本当だ!」


 これで一安心だな。


「迷宮調査も終わったことだし、そろそろ帰ろうか」

「そうでごじゃるね」

「待て……」


 メルディが俺たちを呼び止めた。

 まだなにか問題があるのだろうか。


 答えは違っていた。

 メルディは帽子を外して、小さく一礼した。

 

「二人には本当に世話になった。シルヴィル、雪の民……お前達と出会えたことは私にとって最高の幸せだ。本当にありがとう」


 感謝の言葉だった。

 宮廷魔術師としての言葉というよりも、一緒に戦った仲間に向けた言葉に聞こえた。


「俺もメルディと知り合えてよかったよ」

「また一緒に迷宮を調査したいでごじゃる」


 するとメルディは年相応の笑みを浮かべた。

 だが、すぐに真面目な顔に戻り、コホンと咳払いをする。


「うむ、その時はよろしく頼む」


 威厳たっぷりの口調でそう言った。


「こちらこそ。メルディみたいな魔法使いがいてくれると安心するよ」

「メルディ殿は拙者が見たことがある魔法使いの中でも一番優秀でごじゃる」

「当然だ、私を誰だと思っている」


 メルディは俺たちに杖先を向ける。

 自信に満ちた顔でこう答えた。


「宮廷魔術師のメルディ・ペテグロールであるぞ。

 私ほどの魔術師は、この世界に一人たりともいない。

 たとえ、姉のエディア・ペテグロールであっても、この私を越えることは決してできない!」


 不思議と嫌味は感じなかった。

 まるで彼女が、エディアの死を乗り越えることができたような気がしたからだ。



 調査も終わって帰路につこうとしたその時だ。

 マルスとレラが茂みの中から姿を現した。


「あわわ……なんだかすごい音が聞こえましたね。いったい何があったんでしょうか」

「あっ! 師匠ではありませんか!」


 マルスが笑顔で近づいてきた。


「お前ら、なんでこんなところにいるんだ? 今何時だと思っているんだよ」

「フローラの森に地下迷宮ができたと聞いたから来たんですよ! もしかして師匠も挑戦するんですか!! 流石です師匠!! では一緒に挑戦しましょう!!」


 マルスは意気揚々と俺を迷宮攻略に誘う。

 メルディが言っていた『奴ら』とは、この二人の事だったのである。


 そんな中、一人だけ目が笑っていない人がいた。

 宮廷魔術師のメルディである。


「おい、そこのお前」


 メルディが俺とマルスの間に立った。


「お前誰だ? ずいぶんと背が小さいなぁ」

「せ、背が小さいだと!? 貴様、この私を誰だと思っている!!」


 マルスはメルディが誰だかわかっていない。

 対照的にレラは顔が青ざめている。

 メルディが何者であるか理解したのだ。


「ま、まま、マルス君。こ、この人、宮廷魔術師のメルディ様ですよ」

「へ……? この子がギルドで話題になっていた迷宮調査官!? こんなに小さいのに!?」

「小さくて悪かったな……! ああ、そうだ。私はフローラの地下迷宮の『調査』にやってきたメルディだ。おい、冒険者であるはずのお前らが、なぜここにいるのだ?」


 本来二人はここにいてはいけない。

 いくら常識がないとはいえ、それくらいは理解できる。

 マルスの顔面から血の気が引いていく。


「それは……ええっと……」

「とりあえず、私の事をチビ扱いした貴様には死んでもらう。死ぬがよい。『エクスプロージョン』!!」


 メルディは杖を天高く掲げる。

 杖に強大な魔力が集約していく。


「あわわわわわわわ、に、逃げますよ! マルス君!」

「ま、待ってくれよレラ!」

「貴様らああああああああああ!! ギルドの規則すら守れんのかああああああああ!!」


 真夜中の森の中で、魔法の爆発音と悲鳴が何度も聞こえてきた。



















 今思うと、

 エディアは雑務をわざと覚えようとしなかったのかもしれない。

 他の人に教えるのを妨害したのも雑務係という唯一の価値を俺から奪わないため。

 他の奴が雑務を覚えなければ、俺はそれだけパーティに長くいる事ができる。


 もちろん方法としては間違っていたが、アイツも俺と同じで不器用だ。

 相手を納得させる上手い言い回しもできない。

 俺とはよく意見も対立した。


 考えすぎだと思うかもしれない。

 だが、思い返してみれば心当たりはあった。


 彼女は俺の追放には唯一の「否定的な立場」だったのだ。


 自分が雑務係を担当したくないだの、パーティで飼い殺しする方が得だの、ゴブリン倒せない雑魚が他で役に立つわけないだの、エンチャントの実験台だの、褒めてるのか貶してるのかわからないが、とにかく、俺の追放をくい止めようとしていた。


 当時の俺は余裕がなかったので気づくことができなかったが、

 彼女は一度たりとも「このパーティで役に立たない」とは言わなかった。



 また、彼女はペテグロール家のお嬢様。

 上流貴族だったので食事にはうるさかった。

 しかも偏食持ちだ。

 外食した時は大半を残すほどだ。


 だが、野宿中に俺の作った料理は文句を言いつつも必ず完食していた。


 美味しいとは一回も言わなかった。

 不機嫌そうな顔で毎日完食していた。


 あの時は、強さのために嫌々食べているのだと思っていた。


 魔法使いも体力勝負。

 ちゃんと食わないとパフォーマンス能力が落ちる。

 次の敵に備えて野宿中では食べる。

 そういうルールが彼女の中にあるのだと思っていた。


 でも、今ならわかる。


 あれはきっと。

 強さとかそういうもの抜きで、雑務係として頑張っていた俺に対しての、エディアなりの感謝の気持ちだったのかもしれない。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] リリアほったらかしで終了・・・ エディアorメルディとメインヒロイン交替みたいな 不遇な扱いと化したな(明後日の方を見ながら
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