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第3話:優先順位

リリアを金貨20枚で買った。

 まんまと乗せられた気もするが気分は悪くない。


 可哀想なのは事実だ。

 このまま買わなかったら間違いなく処分されている。

 どんな打算的な理由であっても、俺が面倒を見るのがリリアのためだ。

 自分に言い聞かせた。


「こちらは奴隷の首輪であります。お客様が聡明な方である事は私もご承知ですが、くれぐれも外そうとはしてはなりません」

「わかっている。そこは心配するな。奴隷の首輪を外すなんて馬鹿な真似は考えないよ」


 奴隷の首輪の案内を受ける。


 奴隷の首輪は契約者しか外すことはできない。

 絶対服従しなければならない『支配の加護』がかかっている。

 支配のレベルは0から7まで存在している。

 レベルが高くなると命令なしでは日常動作すらできなくなるほどだ。



 レベル0:効果なし

 レベル1:首輪を外せない

 レベル2:契約者を攻撃できない

 レベル3:契約者から10キロ以上離れることができない

 レベル4:契約者の許可がなければスキルおよび魔法を発動できない

 レベル5:命令に応えなければ電撃

 レベル6:悪意のある思考をすると電撃

 レベル7:命令以外の行動ができない



 支配のレベルは『1』にした。

 首輪さえ外せなければ出奔しないと判断したからだ。


 普通の奴隷ならばレベル3が基準になるだろう。

 しかし、リリアは白狐族だ。

 人間から激しく敵視されている。

 そこはリリアも理解しているはずだから、無理に逃げようとはしないはずだ(願望)


「これで契約成立です。奴隷の所有者には、住まいと食事を与える義務があります。義務を放棄したり、奴隷を著しく不当に扱った場合は契約が解除されることもあります」


 奴隷商人は淡々と説明する。


 定型文なのだろうが、もちろんすべて記憶した。

 後出しジャンケンで契約を解除されたらたまらない。


「ところでお客様。これからどうなさるおつもりですか? お客様もご存じだと思いますけど、白狐族はメルゼリア王国では『第一級魔物認定』を受けております。このまま町に繰り出せば憲兵に捕まると思いますよ。当店としてもお客様が捕まるという事態は避けて欲しいと思っております」

「案ずるな。憲兵に捕まらない方法ならすでに考えてある。少なくともアンタには迷惑をかけないよ」

「おお、左様ですか。流石でございます。もうすでに逃走ルートを確保しているのですね」

「うむ。これでも七年以上王都に暮らしているんだ。お前の知らない人脈というものはたくさん持っているよ」


 現在、ギルド内部の信用度0の俺にコネなんてないに等しいが、それっぽい理由をつけておく。

 正直に答えたら裏切られる可能性があるからだ。

 商人との取引において一番大事なことは、見えない手札をチラつかせることだ。

 足元を見られない立ち回りができてはじめて公平な取引ができるのだ。

 これもネルケット様が教えてくれた交渉術の一つだ。



 購入が済んだので二十分ほど二人きりにさせてもらった。

 これからの事について彼女と話し合いたいと伝えれば簡単に承諾してくれた。


 いま、俺はリリアと向かい合っている。

 リリアは恐る恐ると俺を見た。


 できるだけ怖がらせないようにしないとな。

 なにごとも初めが肝心だ。


「こんにちは。俺はシルヴィルだ。リリアと言ったな。これからよろしく頼む」

「は、はい。よろしくお願いします、ご主人様」


 リリアは深々と頭を下げる。


「うむ。いい返事だ。リリアは挨拶ができてとても偉いな」

「あ、あのー……」

「どうかしたか?」

「ひっ!? ご、ご、ごめんなさい、ご主人様!!」


 怖がらせてしまった。

 このしゃべり方はまずかったかもしれない。

 でも仕方ない。

 奴隷を買ったのは初めてなんだ。

 どう接してあげればいいのかわからない。


「怒ってないよ。なにか言いたいことがあるなら遠慮なく言ってみなさい」

「ご、ご主人様。リリアはご主人様がおっしゃることならなんでも致します。家事でも夜枷でも一生懸命がんばります。だからリリアに痛いことだけはしないでください。もう痛いのは嫌です……ぐすん、ぐすん」


 前の持ち主に酷いことをされたことが相当なトラウマのようだ。


「案ずるな。俺はリリアが嫌がることなどは絶対にしない。神に誓おう。約束するよ」


 リリアの頭を優しく撫でる。

 するとリリアも落ち着いたようだ。


「ありがとうございます。リリア、ご主人様のために精一杯がんばります」


 リリアは笑顔でそう答えた。

 最低限の信頼は確保できた。

 ここからが正念場だ。


「まずは全身の怪我から治さないといけないな」


 スキルで白狐族を隠滅するにしても一手間かかる。

 この場所ではできない。

 まずは一目につかない場所に行かなければならない。

 最後まで油断はできない。


「ふむ。スキルでなんとかしてもらうか」


 俺は地図スキルを発動する。

 俺の手元に地図が出現した。

 地図は城下町の大半を表示している。


 これは俺のスキルの『地図』。

 広い範囲での人の動きを把握することができる。

 このスキルを使って次の目的地を探すことに決めた。



 人間 主婦 レベル2

 人間 冒険者 レベル15

 人間 憲兵 レベル21



 店前の道をこちらの三人が歩いている。


 おお、怖い怖い。

 憲兵がいるじゃないか。

 いま店を出ていたら危なかったな。

 正面から鉢合わせるところだった。


 プライベートな空間を作れる場所といったらホテルしかない。

 この場所から一番近くにあるホテルを探す。

 すぐに見つかった。

 南に二キロほど歩いた所にホテルがある。

 憲兵がうろついている様子もない。

 ここが今日の目的地だな。


 リリアに視線を移す。

 リリアは唖然としていた。


「どうかしたか?」

「ご、ご主人様。いま何もない所から物を出しましたよね!? す、すごいです! まるで魔法使いです!」


 リリアは俺のスキルを見てとても興奮していた。

 説明してやってもいいが、説明によってさらに興奮するリスクがある。 いまは目立たずに行動していきたい。

 口元に指をあてる。

 

「リリアよ。俺のスキルについてはあとで説明する。いまは静かにしてほしい」

「わ、わかりました。リリアは静かにします」


 自分の口を両手で押さえて黙りこむ。

 とてもかわいい仕草だ。


 スキルには『メイン』と『オプション』が存在する。

 スキルレベルが一段階上がると『オプション』が一つ増える。

 俺はそれを『オプションスキル』と呼んでいる。


 俺のスキルレベルは『レベル4』。

 メインの『地図』に加えて、スキルを4つ持っている計算になる。

 すべて戦闘とは関係のない補助スキルだ。

 そのうちの一つである、『アイテムボックス』を発動した。


 その名の通り、アイテムを入れることができる謎の空間のことだ。

 原理はよくわからないが生き物以外ならたくさん入る便利な機能だ。

 ナプラ湖の水がすべて入るほどの収納スペースがある。


 アイテムボックスからローブを取り出した。

 リリアにはこれを着て白狐族を隠してもらおう。


 奴隷の館をあとにして、リリアの手を引きながらホテルを目指していく。

 注意する相手は憲兵だ。

 ほかの奴は他人に興味を持ったりなんかしない。


 三十分ほどでホテルに到着した。


 やれやれ。

 なんとか誰にもバレずに到着できたな。




 あとは受付を済ませるだけだ。


 このとき俺は少しだけ油断をしてしまった。


 リリアの顔を受付嬢に見られたのだ。

 受付嬢は小さい悲鳴を上げた。

 リリアは慌てて顔を伏せたが受付嬢の表情は固い。

 フードをかぶっているので白狐族だとはバレていないと思うが、少女を暴行するやばい奴だと思われているに違いない。


 震えながら渡された鍵をとって部屋まで足早に進む。

 部屋に到着した。

 すぐに鍵をかける。

 これで一安心だ。


 白狐族の連れがいるというだけで、こんなに緊張するとは思わなかった。

 種族の問題を先に処理しておいた方が良いかもしれない。

 精神的に俺の身が持たない。


 リリアをベッドに座らせた。


「リリアよ。疲れていないか?」

「ごめんなさいご主人様。私の醜い顔のせいでご主人様が怯えられてしまいました」


 リリアは落ち込んでいた。


「リリアは何も悪くない。自分を責める必要なんてないんだ。だから顔をあげてごらん」

「ごめんなさい。ごめんなさい」


 リリアは俯いたまま謝罪の言葉を繰り返す。


「…………」


 いまの反応を見て、俺はリリアの治療から行うことに決めた。

 本当は白狐族の問題から解決していきたかったが、リリアの悲しそうな顔を見て気が変わった。

 まずは彼女に元気になってもらいたい。

 考えるまでもなかったな。

 女の子は笑っている顔が一番だ。

 それに勝る優先順位はない。


「スキル発動。『地図』」


 本日、二度目のスキルを発動する。

 俺の手元にマップ画面が表示された。


 レベル1 白狐族 リリア

 レベル30 人族 シルヴィル


 部屋の中央には俺とリリアが光る点で表示されており、レベルと種族が表示されている。

 マップの上を見渡して盗聴アイテムなどの類がない事を確認する。

 これから俺が行うことは内密であることが前提だ。


 現在、俺達は二階の203号室にいる。

 洗面所には浴槽とトイレ。

 パジャマ、タオル、歯ブラシ、石鹸が置かれている。

 寝室はシングルベッド。

 ベッドの下に使い古しのコンドームが落ちているのがわかった。

 ちゃんと掃除しろ。

 ホテルへの評価がかなり下がった。


『アイテムボックス』の中から『スーパーポーション』を見つけた。

 いざという時に使ってくださいと言われたのだが、そのいざという時が一回も来なかったので、ずっと『アイテムボックス』の中に眠ったままだった。

 使うならこのタイミングだろう。


「……リリア。これからお前の怪我を治療する。だから動かないでくれ。手元が狂うと困る」

「は、はい」


 ポーションをハンカチに染み込ませて顔や腕まわりの傷痕を拭いていく。

 すると。

 傷跡が光り輝いてみるみる塞がっていく。

 これにはリリアも絶句する。


「ご主人様!? これはいったい!? あの酷かった傷がふさがっていきます!?」

「まだじっとしていろ。今度は左腕の治療をする」


 対照的に俺は冷静だ。

 ポーションの使い方は心得ている。

 無言で治療を続けていく。

 リリアの左腕にポーションを直接かける。

 切断されていた腕が再生していく。

 ポーションの七割を使い切ったところで、リリアの傷を完全に治癒することに成功した。


「信じられません。わたしの左腕が完全に治っております」

「左腕だけじゃない。リリアの顔も元に戻っている。大丈夫、とても綺麗な顔だよ」


 手鏡をかざす。

 鏡にはリリアの傷一つない美しい顔が写っている。

 リリアは自分の顔を見て感動する。

 目の端に涙をためて、俺の顔をジッと見つめた。


「ご主人様は魔法使い様なのですか?」

「俺は魔法使いなんかじゃない。ただの変態さ」


 リリアの頭を優しく撫でる。

 そうさ。

 俺は尊敬されるべき人間ではない。

 下心丸出しで奴隷を買った変態だ。

 現にいまだってケモミミを触りたいから頭を撫でているだけだ。

 リリアのケモミミはふわふわとしている。

 ずっと触っていたくなる心地よさ。


「おっといけない。忘れるところだった。リリアよ。俺とパーティ契約してくれないか」

「け、契約ですか?」


 リリアは不安な表情を浮かべる。

 契約という言葉にトラウマがあるのだ。

 不安にさせないように言い回しを変えてリリアに説明する。


「怖がらせてすまない。俺は冒険者なんだ。リリアを俺のパーティメンバーに加入させたい」

「冒険者?」

「冒険者を知らないのか?」

「はい。リリアは馬鹿なので冒険者の意味がよくわかりません」


 ふむ、どう説明すればわかってもらえるだろうか。

 俺は思案顔になる。

 リリアはそんな俺の表情をジッと観察している。


「……ご主人様」

「ん?」

「ですが、私をパーティメンバーに加入させたいのでしたら、私はそれを受け入れます。ご主人様は私を助けてくださいました。私を傷つけないとも約束してくださいました。だから私はご主人様を信じます」


 リリアを騙しているようで気が引けたが、承諾してくれるならありがたい。

 マップ画面からパーティ画面へと切り替える。


 リリアにパーティ加入のボタンを押してもらう。

 これは本人に押してもらわなければならない。

 押してもらったのを確認する。

 無事加入成功だ。


 リリアに加護をかける。

 地図効果の『認識阻害の加護』を使う。

 気配を消したり、相手の認識を操作したりできる便利な加護だ。

 俺の地図スキルは、こういった感じのサポート効果をたくさん持っている。

 とはいえ、今は自慢がしたいわけではないので詳しい説明はのちほど。


 今はリリアの種族を『隠滅』することが大事だ。



 白狐族 レベル1 リリア



『リリアの種族をマップから消しますか?』


 →はい。


『代わりに新しい種族を設置する必要があります』


 100近くの種族候補が表示される。

 候補の中から人族のボタンを押す。



 人族 レベル1 リリア


『変更が完了しました。この情報はパーティメンバー以外すべてに適用されます』


 隠滅完了。


「これで誰もリリアが白狐族だとはわからないはずだ」

「……??? 私がどうかしましたか?」


 リリアはキョトンとした顔を浮かべている。

 俺の瞳に映っている今のリリアはケモミミ姿。

 しかし、鏡越しで確認した彼女の姿からはケモミミと尻尾が消えていた。


「もう白狐族だからと人間たちに怯える必要はないってことだ」


 俺はさりげなくそう伝えた。

 その時である。


「『アンロック』!」


 カチッと音が聞こえる。

 玄関の扉が乱暴に開いた。

 廊下には一階で顔を合わせた受付嬢がいた。


「憲兵さん来てください!  あの人が年端もいかない少女を虐待していたんです!」

「お前がロリコン暴力ぺドクソ野郎か! たとえ奴隷だとしても、暴力を振るうのは法律で禁止されているぞ!!」


 怖いおじさん達がぞろぞろと乗り込んできた。

 俺はすぐさま取り押さえられて床に顔を押し付けられた。

 リリアは呆然とした顔を浮かべている。


 くそっ、憲兵を呼ばれていたのか。

 かなりまずいぞ。

 あの加護は絶対ではない。

 俺のスキル欄を操作すれば簡単に解除できてしまう。

 加護を解除されるとリリアが白狐族だとばれてしまう。

 そうなれば俺は罪人だし、リリアもどうなるかわからない。

 その場で処刑も十分ありえる。


「もう大丈夫だ」

「この子がアナタの言っていた虐待された少女ですか?」

「はい! 間違いありません! 顔に大きな火傷の跡がありまし…………あれ、火傷の跡がない!?」


 受付嬢は信じられないものでも見るかのように仰天する。

 あれあれ?とその場で慌てふためいている。


「見たところ怪我をしている様子もないですが……アナタの見間違いだったのでは?」

「そんなはずはありません! 私は確かにこの目で見ました!」

「うーん……。奴隷のお嬢ちゃん。この男からいじめられましたか?」


 リリアの言葉ですべてが決まる。


「いじめるなんてとんでもない! ご主人様は私を治療してくださった命の恩人です! なんなんですかアナタ達は!? ご主人様に酷い事をして!! はやくご主人様から離れてください!!!!」


 リリアは一喝した。

 リリアが俺の事を慕っている事は伝わったらしい。

 誤解はすぐに解けた。

メインスキル

地図


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。


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[一言] ゴブリンロードとかドラゴンに変えられるかどうか。 自分なり、ペットなりを強者に変えたら、ゴブリン狩りくらいはソロ出来そう。(後にでも)
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