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第10話:ラフローグの大迷宮 中編

 メルディは激怒した。


「そんな事言われたって仕方ないだろ。節約できるなら魔力は節約しないと」

「ううむ、たしかにお前の言うことはもっともだが、しかし……」


 メルディも戦いたいみたいだ。

 俺も大人だ。

 彼女の気持ちを尊重しよう。


「……雪の民にばかり戦わせるのも大変だな。次はメルディに頼んでもいいか?」


 メルディは明るい笑顔を浮かべる。


「うむ、任せろ!」


 トレントが三体現れた。

 メルディは精霊カードを手にする。

 カードを前方に投げて、カードの表面を杖先で叩く。


 カーン!

 効果音と共に火魔法のフレアが具現化される。

 全長二メートルほどで、全身が炎の人型の魔法だ。


「『フレア』よ! 奴らを焼き払え!」


 彼女の指示が下されるとフレアが火炎弾を放つ。

 一撃で魔物三匹を焼き払った。


「やるじゃないか。メルディはフレアも使えるのか。他にはどんな魔法が使えるんだ?」

「属性系はすべて網羅している。無属性も入れると、49種類もの魔法精霊と契約している」

「49種類!? いくらなんでも多すぎるでごじゃる」

「ウソではない」


 メルディはポケットからカード達を取り出して、指先でズラリと広げる。


 うわすげえ。

 めちゃくちゃ所持している。


「驚いたな……。それなり契約しているとは思っていたが、こんなに大量の精霊カードを持っているとは思っていなかった」

「宮廷魔術師として当然だ」

「すごいでごじゃるな。拙者なんて一枚しかカードを持っていないでごじゃるよ」

「それが普通だ。精霊カードは入手が難しい。私は『姫様』のサポートがあったから効率よく集めることができたのだ」


 魔法は生き物だ。

 別名『魔法精霊』と呼ばれている。

 契約するためには見つけ出して倒す必要がある。

 メルディの場合は、王家の力があったから、ここまでの数の魔法と契約できた。


 魔法使いの平均所有数は一枚から三枚。

 他人から譲与、街で購入(高額)、実際に見つけ出す。

 方法は色々あるが、それでも入手は困難だ。


 余談であるが、

 魔術書を読んでも魔法を使えるようになるわけではない。

 だが魔術書には魔法精霊の特性や使い方などが詳しく書かれている。

 しっかりと読んでおければ魔法精霊を捕まえる時にも役に立つ。



 攻略を再開する。


 俺たち三人は順調に進んでいき、地下一階を攻略できた。

 中央のボスフロアもメルディのフレアで瞬殺した。

 すべて植物系統なので火魔法は効果抜群だ。

 抵抗されるまもなく終わった。


 俺たちの被ダメージはもちろん0だ。


 地下二階へと続く階段を見つけた。

 時刻を確認してみると19:00だった。

 迷宮なので昼夜という概念はないが、ずっと動いていると疲労も溜まる。

 適度な休息は必要だ。


 地下二階の攻略を明日にすることを伝える。


「区切りもいいし、今日はここで野宿しよう。二人ともご苦労さん」

「サンキューでごじゃる。雑魚とはいえ、連戦は疲れたでごじゃる」

「明日はもっと疲れることになるぞ」

「それは言わないお約束でごじゃるよ」


 休憩モードの俺と雪の民。

 しかし、メルディがとんでもない事を口にした。


「ダメだ。このまま攻略を続行するぞ」



 俺と雪の民はあっけにとられた。


「メルディよ。気は確かなのか?」


 俺はメルディに問いかけた。

 メルディは当然の事のように答える。


「もちろんだ。このまま攻略を続ける」

「めちゃくちゃでごじゃる! しっかり休まないと危険でごじゃる!」

「アイスクリームは黙ってろ!」

「アイスクリーム!? せ、拙者はアイスクリームじゃないでごじゃる!」


 アイスクリームならぬ雪の民も大騒ぎだ。


「まあまあ、落ち着けよアイス……じゃなくて雪の民」


 対照的に俺はとても冷静だ。

 こういう事は前のパーティでもよくあった。

 エディアが強行手段を取ろうとする時と似ている。

 こういう時は下手に怒らず、まずは理由を聞いてあげることが一番だ。


「まずは理由を聞かせて欲しい」

「この迷宮に冒険者がやって来るからだ。奴らがやってくる前に調査を終わらせなければならない」


 メルディの意図がようやくわかった。

 彼女は誰よりも早く、迅速に、迷宮を調査したかったのだろう。

 犠牲者を出さないための、彼女なりの不器用な優しさなのだろう。


 だが、彼女は一つ勘違いしている。

 冒険者はこの迷宮に行くことができないのだ。

 これはギルドの規則として決まっている。

 もし規則を破れば重い罰金が科せられるのだ。


「安心しろ。調査が終わるまで冒険者は来ない。ギルドの規則だ。だからお前が焦る必要なんてどこにもない」


 メルディは首を振る。


「いいや、奴らは必ずやって来る。ギルド内で話題になっているからな」


 やばい話が通じてない。

 冒険者が来るという強迫観念に支配されている。


「仮に来たとしても自己責任だ。そんな馬鹿共の事まで気にする必要なんてない」

「そうでごじゃるよ! まずは自分の命を大事にするでごじゃる!」

「私は宮廷魔術師として、その馬鹿共の命も守らなければならない。それに私は自分の命など惜しくはない」


 はっきりとそう答えた。

 その言葉には、絶対に譲れない彼女の信念が宿っていた。


「ついて来たくなければついて来なくてもいい。ここまで来てくれて感謝するぞ」


 メルディは地下二階へと勝手に進んだ。


「ど、どうするでごじゃるか」


 雪の民は慌てている。


「俺たちは、受付嬢から何度も、冒険者は自己責任だと言われている。

 だからメルディが下に行くのも自己責任だ。

 彼女の使命感は立派なものだと思うが、無謀すぎる。

 彼女についていっても、俺たちの身に危険が及ぶだけだ。

 お前を危険な目に合わせたりはできないよ」

あるじ……」

「俺はメルディについて行かない」


 俺は雪の民から目を背ける。



 本当の事を言えば。

 俺はメルディについて行きたかった。

 だが、これは俺一人じゃ決められない。


 あるじとして雪の民の命を守る義務がある。

 もし俺が強ければ、メルディについて行くという独断も、ギリギリ許されただろう。


 だが、俺は戦う力がない。

 雪の民に頼らざる得ない。

 俺の身勝手は彼女の命を危険に晒してしまう。


 もちろん、それを口に出す事もできない。

 雪の民にとって俺の願望は実質命令だ。


 だから俺ははっきりと行かないと断言した。


「拙者はあるじの影です。アナタの命令ならば、どんな命令も聞くでしょう。あるじがそれを心苦しく思っているのも理解できます」

「……」

「拙者はエディア殿を実際に見たことがありません。ですが、あるじにとって大切な方であることくらい、会話の中でわかります」

「別にそこまで仲が良かったわけではない。むしろ嫌いだった。あっちは俺の事をめちゃくちゃ嫌っていた」

「本当に嫌いならあんな優しい表情はしません。あるじがメルディ殿を見ていた目は、とても嬉しそうだったでした」


 雪の民の言葉は事実だった。

 たしかに嬉しかった。

 エディアにそっくりで、尊大な奴だと思っていたが、やっぱり嫌いにはなれなかった。


「拙者はあるじの気持ちを一番尊重したいと思っています。

 死んだ方は生き返りません。

 ですが、メルディ殿は生きています。

 今ならまだ間に合います。

 だからどうか、拙者に無茶な命令をしてください」


 雪の民は、俺の視界の先に立って、俺の両手を握り締めた。


「影にとって、友達を想うあるじの気持ちは、涙が出るほど眩しく見えますから」


 彼女の優しさに目頭が熱くなった。

 俺のワガママを光として受け取ってくれたことが嬉しかった。


「……アイツの無理に付き合うんだ。命の保証はできんぞ」


 雪の民は笑顔になった。


「承知ごじゃる! 拙者の力をぜひ活用ください!! 拙者はあるじのためならどんな敵だって倒してみせるでごじゃる!!」


 いつものごじゃる口調に戻った。

 素の喋り方と影としての喋り方は違うのかもしれない。

 でも、それを咎めたりはしない。

 彼女の気持ちは本物だったのだから。


「よし! じゃあさっそくメルディを追いかけるぞ!!」

「了解でごじゃる!! 全速前進でごじゃる!!」


 お互いの気持ちが一つになった。

 迷うことなく地下二階に足を踏み入れた。


 地下二階は一階よりもフロアが小さかった。

 さらに構造も単純。


 魔物の平均レベルが10上がり、

 新しい敵が二種類ほど追加されている。

 とはいえ、彼らも雪の民の敵ではない。


 最短ルートで進みながらメルディの元を目指していく。

 メルディがすべて焼き殺しているということもあり、敵もまったくいない。

 二階突入から五分ほどでメルディを見つけることができた。


 メルディは敵に囲まれていた。

 敵の数は六体。

 彼女の実力で囲まれるなんて不思議だな、と思ったが、よく見ると『召喚の魔法陣』が設置されていた。


 なるほど、あの罠を踏んだのか。


「雪の民! あの紫色の魔法陣を踏まないようにメルディを救出しろ!」

「了解でごじゃる!!」


 雪の民は足裏を爆発させて、低空を高速で飛行した。

 一度も地面に着地することなく、すべての敵を葬り去ってしまった。

 戦いを終えて、華麗に着地する後ろ姿はとても凛々しい。

 

「危機一髪ってところだったな」

「怪我はないでごじゃるか?」


 メルディは俺たちを見て驚いていた。

 だがすぐに不機嫌な表情になる。


「ふん、別にこれくらいピンチのうちには入らない」

「そういう所が姉とそっくりだと思う」

「姉と比べるな。私の方が優秀だ」

「悪い悪い、比べるのは失礼だったな」

「それよりよかったのか? 私は休憩なんて絶対にしないぞ」

「誰もお前のためにここまで来たわけではない。従者の雪の民がワガママを言ったからここまで来たんだ」


 俺は雪の民を指差した。


「なっ!? なにを言っているでごじゃるか!?」


 突然の責任転嫁で、雪の民はかなり驚いている。


「本当は地上に戻りたかったのだが、あいにく俺は戦闘能力がない。やれやれ、雪の民がワガママを言うから」

「拙者のせいではないでごじゃる! あるじがメルディ殿について行きたいと喚いたからでごじゃる!」

「記憶にないな。あと喚いてはいない。悪いのは全部雪の民だ!!」

「最低でごじゃる! 鬼でごじゃる! 拙者は主の奴隷でごじゃる! 自殺するでごじゃる!」

「そういうわけだ。帰るに帰れないから、最後までお前に付き合うよ」


 メルディは俯いて、帽子の唾を握りながら、俺たちから顔を背けた。


「ふん、好きにしろ」

「もちろん好きにさせてもらうさ。俺も、雪の民もな。お前を一人ぼっちにはしない。俺たちはパーティだ」


 メルディと無事仲直りできた。

 彼女も焦っていただけだ。

 悪気があってしたわけではない。

 俺にできることは、彼女の気持ちを少しでも受け止めてやることだけだ。



メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能

○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。連絡の加護と併用すれば通信も可能

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