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第9話:ラフローグの大迷宮 前編

 『フローラの地下迷宮』。

 大自然の中にぽつんと、地下へと繋がる石階段があった。

 注意して歩かないと見過ごしてしまいそうなほど、唐突にあった。


「これが迷宮の入口だ」

「もっと禍々しいものだと思っていました」

「中へ入るとわかる。迷宮は神聖な雰囲気に包まれている。きっと雪の民も迷宮の虜になるだろう。『ラフローグ様』の作り上げた迷宮に我々人間は感謝しなければならない」


 とりあえず、入る前に迷宮を褒めておいた。

 これは大事な儀式だ。


 迷宮に足を踏み入れる。

 迷宮内部は明るく、視界も良好。

 光源にはまったく困らない。

 白色を基調とした内部で、フロア全体が石で作られている。

 

 さっそくスキルを発動して、マップを開いてみる。

 地下一階はかなり広い。

 複雑に入り組んでおり、T字路や行き止まりもあちこちにあった。

 マップの中央には長方形の広場。

 そこには魔物が二十匹ほどいた。


 誰かによって、意図的に作られているとわかるマップ構造だ。


あるじ。迷宮を攻略する上で注意すべきことはあるでごじゃるか?」

「『魔法陣の罠』だ。迷宮には挑戦者を撃退するための罠が各所に仕掛けられている」

「罠でごじゃるか。厄介でごじゃるね」

「案ずるな。罠の場所はすべて俺の地図で探知できる。お前はそれを踏まないように立ち回ればいい」

「わかったでごじゃる!」


 迷宮攻略と冒険の大きく違う所はトラップの有無だ。

 地下迷宮ダンジョンには『魔法陣の罠』という可視タイプの罠があちこちに設置されているため、踏むと発動する。

 破壊はできないものの、場所は常に一定なので調査しておけば危険度が落ちる。

 ただ、うっかり踏んでしまうという場合もあり、油断はできない。


「シルヴィルは迷宮をどれくらい知っている?」

「そこそこってところだな。熟練ほどではないが、大事な知識は網羅しているつもりだ。これでも一年程は迷宮攻略組の斥候せっこうだったからな」


 パーティ仲間が死んで以降、一回も入っていないが……。

 迷宮攻略は冒険よりも死亡率が高いとされている。

 正直、俺もトラウマがないわけではない。


「ほう、ならば頼りにしているぞ」

「任せておけ」


 雪の民はというと、フロアを見渡したり、壁を叩いたり。

 初めての迷宮に好奇心旺盛だ。

 とても微笑ましいが、ピクニック気分なのは、あまり良くない。

 迷宮攻略は、死の危険と隣り合わせなのだ。


「随分と綺麗なフロアでごじゃるねぇ~。これって誰が作っているんですか? 間違いなく自然発生的にはできないでごじゃるよね?」

「今のところ、ラフローグ様が作っている可能性が一番高いと言われている」

「ラフローグ様?」

「迷宮を作ることを趣味とする女神だ」

「へえ、そんな女神がいるんですか。なんで迷宮を作っているんですかね?」

「流石にそれは俺も知らない。本人に聞いてみるしかない」


 その目的は未だにわかっていない。

 今のところ一番信憑性が高いのは、女神ラフローグが『暇つぶし』で作成したというものだ。


 ラフローグは気分屋で有名。

 たぶん細かい事は考えていない。

 その時のノリで作っているはずだ。

 テンション高いときは迷宮もかなり凝っているが、テンションが低いときはマジで雑。

 それがラフローグの特徴だ。


「忘れないうちにもう一つ。迷宮内でラフローグ様の悪口は厳禁だ」

「へえ、なにかあるんでごじゃるか?」

「急に迷宮の難易度が跳ね上がる」

「なにそれ怖いでごじゃる」


 とある迷宮をクリアした冒険者が、ラフローグの教会前で、迷宮を「クソ簡単だった」と自慢した翌日に、迷宮が異常なほど高難度化していた事例が、過去に何度かあるためだ。


 一番有名な事例は世界七大迷宮の一つとされる『ラフテリアの迷宮』だ。

 攻略者の剣聖ラフテリアがイキった結果にガチガチに高難度化した迷宮だ。

 ダンジョン攻略後、よせばいいのにラフローグの教会の前で、

「あんな簡単なダンジョン、猿でもクリアできますよ。いったい何年ダンジョン作っているんですか? 私の方がもっと面白いダンジョン作れます」

 と、明確なダンジョン煽りをしてしまったせいで、初級レベルから超S級レベルにまでランクアップした。


 ちなみにその『ラフテリアの迷宮』は、王都から徒歩二十分という近場にあるから恐ろしい。

 現在は王国側の指示で入口が完全封鎖されているから犠牲者は出ていない。


 その代わり、「バランスが良かった」と褒めてあげるとラフローグが満足するからか、難易度が上昇しない。

 だから迷宮攻略の際は、嘘でも称賛してあげる姿勢が大事だ。

 入口の時点で俺が褒めておいたのもそれが理由だ。


 ちなみに難易度が下がることはない。

 どんなに不満を言っても、難しいダンジョンは難しいままだ。

 上げることはともかく、難易度を下げることは彼女のプライドが許さないのだろう。

 ステラやクレッセントと同じく、彼女も面倒な性格の女神なのだ。



 メルディの迷宮調査はかなり危険な仕事だ。

 気分屋の女神が作った迷宮を調査しなければならない。


 地図を開いて索敵を始める。


 ビードル レベル2

 ビードル レベル3

 トレント レベル4


 地下一階は普通のレベルだ。

 俺の経験上、このダンジョンは『Cランク』だ。

 初心者向けに作られている可能性が高い。


「植物系の魔物が多いな。自然系統をイメージして作成していると見た。ともかく、最深部まで行ってみないとわからないな。中盤から難しくなるタイプもある、油断はするな」


 メルディは冷静にそう答えた。


「メルディは地下迷宮の経験がどれくらいあるんだ?」

「半年もない。資料で調べたものが大半だ」


 宮廷魔術師としてはかなり若い。

 流石に経験値は多くないみたいだ。


「だが案ずるな。私は『アイツ』と同じような二の舞は踏まん。そのために地図スキルを持つお前に協力を頼んだのだ」


 それにしては攻略人数が少ない。

 迷宮攻略の基本人数は六人だ。

 前衛二人、中衛一人、遊撃一人、後衛二人。

 これが一番ベストと言われている。


 俺たちはその半分の三人。

 しかもメルディの場合は、元々一人で乗り込むつもりだったのだ。

 命知らずというレベルではない。

 罠を踏んだらどうするつもりだったんだ。


 メルディにも注意を払わないとダメだな。

 真面目な割にポンコツっぽいところがエディアと似ている。


 今回の迷宮調査。

 おそらく、ごり押しは利くと思う。

 雪の民がいるのがデカい。

 雪の民の得意とする鷹剣は機動力が凄まじい。

 彼女一人で熟練パーティの連携攻撃に匹敵するほどだ。

 雪の民はそれほどまでに強い。


 地図上に映っていた魔物三匹とエンカウントする。



 ビードルは芋虫の魔物。

 口から糸を吐いて、動けなくなった所を毒針で刺す。


 トレントは全長二メートルの木の魔物。

 特殊能力はなく、殴られると痛い。



 危険度が高いのはビードルだ。

 あいつの毒針をくらうとマヒ状態になる。


「お前ならどうする?」


 あら、意外と慎重。

 メルディは俺に作戦を尋ねてきた。


「雪の民だな」

「わかった。オイ、お前がやれ」

「はいでごじゃる」


 雪の民は剣を抜いて三匹と交戦する。

 片手で数えられる間に魔物三体を倒した。


 メルディは雪の民の強さを見て、とても驚いている。


「あ、あれが本物の鷹剣か。私の知っている鷹剣とはまるで違う」

「ふっふっふ……拙者の鷹剣と人間さんの鷹剣を同列に考えたらダメでごじゃるよ」


 雪の民は誇らしげだ。

 ドヤ顔がとてもかわいい。


「よしっ、この調子でどんどん行くぞ。今日中にこのダンジョンを『完全攻略』だ」

「え? 流石にそれは無理なんじゃ……」


 ダンジョンの平均攻略日数は三日だ。

 この広さなら五日ほどかかるはずだ。


「必ずできる。私を信じろ」


 ダンジョンを進んでいくと別の敵とエンカウントした。

 敵の種類は先ほどと同じだ。

 というか、地下一階はビードルとトレントしかいない。


「次はどうする?」

「雪の民だな」


 雪の民が魔物を倒した。

 さらに進む。


「次はどうする?」

「雪の民だな」


 雪の民が魔物を倒した。

 さらに進む。


「次はどうする?」

「雪の民だな」


 雪の民が魔物を倒した。

 さらに進む。


「次はどうする?」

「雪の民だな」


 雪の民が魔物を倒した。

 さらに進む。


「次はどうする?」

「雪の民だな」

「お前いつもそればかりじゃないか!!」


 メルディは激怒した。

メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能

○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。連絡の加護と併用すれば通信も可能

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