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第8話:依頼開始

「勢いでメルディ殿の馬車に乗っちゃいましたが、我々はどうなるんでしょうか? 地下迷宮のノウハウなんてないでごじゃるよ」

「まあどうにかなるだろ。宮廷魔術師のメルディとお前がいるんだ。そこら辺のダンジョンで手こずるなんてありえないよ」


 雪の民の強さは言わずもがな、宮廷魔術師もかなり強いと聞く。

 メルディは現在レベル53。


 レベル65のエディアには劣るものの、同年齢でこのレベルは破格だ。

 冒険者ならAランクに片足を突っ込んでいる。

 それに魔法使いの場合、レベルよりも『魔法の質』が大事だ。

 彼女の場合は宮廷魔術師。

 その質がすでに保証されている。

 また、『テレポート』の魔法精霊と契約している時点で、かなりの数の魔法精霊と契約できることを意味する。

 レベル以上の実力があるはずだ。


あるじが大丈夫だとおっしゃるなら、拙者はいいんですけど……」


 雪の民はちらりとメルディの方を見た。

 現在、メルディは読書をしている。

 俺たちを強引に連れてきた本人だが、そんなことを気にしている様子もカケラもない。


 そこは彼女の良さだと思っている。

 下手に遠慮されるよりは話しかけやすい。


 フローラの森まで結構距離がある。

 まずはお互いに会話でもして親睦を深めよう。


「メルディさん、メルディさん。少し聞きたいことがあるのですが」

「今は本を読んでいる途中だ。私に話しかけるな」


 話しかけちゃダメらしい。

 じゃあ雪の民とスキンシップをしよう。


 雪の民と月並みな会話をした。

 どんなタイプの男が好きかとか、どんな食べ物が好きかとか、どんな趣味があるかとか、大体そんな感じだ。


 ちなみに好きなタイプは、笑顔が素敵な男性。

 好きな食べ物は、かきごおり。

 趣味は人形劇鑑賞。


 わりと普通だった。



 馬車に乗って一時間が経過した時だった。

 一人で本を読んでいたメルディが、不意に顔を上げて雪の民を見ながら口を開いた。


「ところでお前は誰だ? いつからここにいた?」

「ひどいでごじゃる!? ずっとあるじの側にいたでごじゃるよ」

「ふうん、記憶にない。貴様の存在感が薄いのが悪い」


 理不尽すぎる。

 ただ、雪の民もそれくらいで怒ったりはしない。


「拙者ほど存在感がある喋り方をしてる人いないでごじゃるよ」


 それはそれで影としてどうなんだろう。


「この子は雪の民だ。今は俺に仕えている」

「初めましてでごじゃる。拙者は雪の民でごじゃる。あるじの安心安全をモットーに頑張っているでごじゃる」

「ほう……種族全体が婚活に特化して、婚活する事でしか生きられないと言われているあの婚活族か」

「婚活じゃなくて影の世界でごじゃる! その言い方だと婚期を逃した可哀想な種族みたいでごじゃる!」

「名前はなんだ?」

「名前はまだないでごじゃる」

「だったら宮廷魔術師であるこの私が名前をつけてやろう。

 そうだな。

 雪の民ということを考慮して、ひんやりとしたイメージからアイスクリームなんてどうだ?」


 だからなんでお前らのつける名前は食べ物なんだよ。

 ちゃんと人の名前をつけろや。


「絶対にイヤでごじゃる!」

「そうだそうだ。雪の民が言う通りだ。

 ちゃんと人の名前をつけなきゃダメだ。

 ところで、俺はフィーリアがいいと思うぞ」

あるじもふざけないで欲しいでごじゃる。リリア殿にチクるでごじゃるよ」

「やめてくれ、マジで殺される」


 雪の民はため息を吐いた。


「リリア殿で思い出したのですが、急にいなくなると心配しちゃいますね。ちょっと今から屋敷まで戻って伝えに行ってくるでごじゃる」


 馬車の扉を開けて、走行中にも関わらず外へ飛び降りようとしていた。

 びっくりした俺は慌てて雪の民を止める。


「や、やめろバカ!」

「きゃああ!? いきなり、な、なにするんですか!?」

「それはこっちの台詞だ。走っている途中で飛び降りるなんて危ないだろ」

「だからって、きゃあ!? む、胸を揉まないで欲しいでください! ハレンチですよ!」


 うっかり胸を揉んでしまったようだ。

 雪の民のおっぱいはかなり小さい。

 だが、たしかなふくらみを感じることができた。


 なんとか彼女の飛び降りを阻止できた。

 雪の民は、女の子座りの体勢で荒い呼吸をしている。

 いくら彼女とはいえ、いきなりおっぱいを触られるのは恥ずかしいみたいだ。

 とても悪いことをした。


 でも仕方ない。

 雪の民を止めるための不可抗力だ。


「はあ……はあ……。あるじは淫獣でごじゃる……」

「悪かったな。しかし、馬車から飛び降りるのは本当に危ない。雪の民には怪我をして欲しくない」

「わかってますけど、ちゃんとリリア殿に伝えないと」

「案ずるな、リリアも子供ではない。

 俺がいなくなったからといって泣き喚いたりはしない。

 それに俺には『連絡の加護』がある」

「『連絡の加護』?」

「ああ、遠くにいる相手と自由に連絡を取れる便利な加護だ」


 俺のスキルには必ず加護が付属している。

 例えばメインの『地図』には索敵や探知のようなサポート機能に加えて、他人の認識を阻害する『認識阻害の加護』がついている。


 オプションスキルの『アイテムボックス』には『召喚の加護』。


『パーティシェア』には『ステータス共有の加護』。


 こんな具合だ。

 残り三つのオプションスキルを含めれば計6個加護を持っている計算になる。


 もちろん超便利な『ポータル』にも加護が付属している。

 どんな加護かというと、これがいま口にした『連絡の加護』だ。

 俺の方からパーティメンバーに連絡をする事ができる。

 普段は使う事がないが、急用で遠くに行かざる得ない時に役に立つ。

 ただし、相手から俺に連絡することはできないので注意だ。


 ステータス画面を操作して『連絡の加護』を発動する。


「もしもし」

『はい、リリアです』

「急用が入った。今日は帰りが遅くなる。以前も言っていたようにプライベート大作戦だ」

『わかりましたー』

「いつも言ってるが人様に迷惑だけはかけちゃいけないぞ」

『ご主人様じゃないんですから』

「なんだと貴様。その言い方だと、まるで俺がいつも誰かに迷惑をか」


 ブチッ。

 通話が切れた。

 くそっ、ご主人様がまだ喋ってる途中なのに切りやがった。


あるじ。今のはいったい。リリア殿の声が聞こえていました」

「通話の加護というものだ。パーティメンバーに連絡を入れる事ができる」

「ほほう、便利な加護でごじゃるな。拙者にも連絡を入れてもらうことできるでごじゃるか?」

「できるぞ。このパーティ登録ボタンを押してもらえばいい」


 雪の民に俺のステータス画面を見せる。


「おや? 拙者のステータス画面にはそんなボタンついてませんよ」

「ステータスには個人差がある。

 俺の場合、パーティが関係する加護を持っているので、こういったボタンもステータス画面についている。

 逆に言えば、加護の種類によってはない場合もある。

 雪の民の場合、スキルを持っていない時点で加護を所有していない。

 要するにこういったボタンもないということだ」

「そ、そうなんですか」


 雪の民はがっくりと肩を落とした。

 すごく残念そうな顔をしている。


「人それぞれだ。雪の民には雪の民にしか持ってない強みがある」


 ボタン一つで一喜一憂するのもつまらない。

 彼女の個性を尊重していきたい。

 彼女には魔力がある。


「お心遣いありがとうございます! あるじのお言葉、しっかりとこの心に刻み付けておきます!」


 雪の民は元気を取り戻した。


 せっかくだから雪の民からも連絡できるようにしておこう。

 普通なら俺の方からしか連絡を入れることはできないが、『パーティシェア』の効果で加護を使えるようにしてあげれば、雪の民からも連絡を入れることができるようになる。


 雪の民にそのことを伝えた。


「おお! なんと素晴らしい! ぜひ『パーティシェア』もかけてほしいでごじゃる!」

「喜んでもらえてよかったよ」

「リリア殿もこの加護を使えるのですか?」

「今は使えない。ちょっと色々あってな、加護を外している。面倒だと思うが、リリアの前ではできるだけ使わないで欲しい。嫉妬するから」

「了解でごじゃる」


 三ヶ月前、俺はリリアにこの加護を渡した。

 だが、二週間もしないうちに解除した。

 理由は簡単。

 何かあったわけでもないのにひたすら連絡してくるからだ。


 リリアにこの連絡の加護を渡した時はすごかった。

 少しでもリリアの目の届かないところに行くと、某Lアプリもびっくりな勢いで連絡が入る。

 一日で履歴が100件を超えるのもザラだった。


 流石にこのままではいけないと判断して、リリアから連絡の加護をそれとなく取り上げた。

 言い訳を考えるのにマジで苦労した。


 通話中に言っていたプライベート大作戦も、リリアの束縛を逃れる……じゃなくてリリアの自立を目指したものだ。


 『パーティシェア』で加護を付加する。

 貰ったものはすぐに使いたいよね。

 雪の民はさっそく俺に連絡を入れてきた。


『もしもし、こちら雪一族でごじゃる』

「こちらシルヴィル」

『おお! ステータス画面からあるじの声が聞こえてきます。なんだか闇の取引って感じがするでごじゃるね』

「取引するものなんて何もないがな」

『通話に関してのルールなどは決めてますか?』

「特に決めてないが、一日100件以上連絡してきたりとかしなければいいぞ」

『そんな狂ったようなことしませんよ』


 どうやらリリアは狂っているらしい。


『拙者はあるじからの連絡を最優先します。

 緊急時はかけるやもしれませんが、基本的にこちらから連絡をかけることはないと思って欲しいでごじゃる。

 あるじと拙者は光と影。

 影はどんなときもあるじを裏で支えます。

 出しゃばる事はしませんよ』


 あまりにも完璧すぎる回答。

 もう少し我を出してもいいのよ?


「ふむ、中々面白い加護だな。私にも加護をかけてもらうことできるか?」

「もちろんだ」


 メルディにも加護をかけた。


『も、もしもし』

「はい、シルヴィルです」

『おお! これはすごい! こんなの魔法でも見たことないぞ!』


 喜んでもらえて何よりだ。

 これで三人とも自由に連絡を取れるようになった。

 そんな会話をしているうちに馬車は目的地に到着した。


メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能

○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。連絡の加護と併用すれば通信も可能

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