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第7話:生き写し

 エディア・ペテグロール。

 ペテグロール家の一人娘で上流貴族。

 上流貴族から冒険者になった、かなり珍しい経歴を持つ。

 俺が二年間所属していたパーティの『魔法使い』を担当していた。

 実年齢は18歳であるが、外見は幼く、13歳ほどに見えていたので、パーティ内からはエディアちゃんと呼ばれていた。

 典型的な身内贔屓の性格で、パーティメンバーには優しいが、それ以外にはめちゃくちゃ厳しい奴。

 他人には一切容赦しないので、アイツが原因で交渉が拗れたことも何度かあるほどだ。

 ちなみに俺にはクソ厳しかった。

 仲間としてあまり認識されていなかったのがわかる。

 名前で呼ばれたこともロクにない。

「お前」か「オイ」と呼ばれる事が圧倒的に多かった。


 とはいえ、悪い所ばかりではなく良い所もあった。

 強さに対して貪欲で、吸収力が高いという点だ。

 たとえ俺の意見であっても、自分の強さに繋がるとわかればすぐに吸収した。

 パーティの中で一番強くなったのは間違いなくエディアだ。


 その反面、それ以外に対しての吸収力は最悪で、雑務を一切覚えようとしなかった。

「そんな事を覚えても何の役にも立たない」と断言するほどだ。

「お前の毎日食ってる飯は俺が作ってるんだが?」

 と、プツンしそうになったこともしばしば。


 また、雑務に対して相当な拒絶反応があるみたいで、俺が他のパーティメンバーに雑務を教えようとすると徹底的に妨害するほどだ。

 おかげで他のパーティメンバーは雑務をまったく覚えることができなかった。


 あまりの敵意の強さに俺もびびって、真っ先にパーティの要注意人物にいれたくらいだ。

 背は低いが、インパクトだけはデカい魔法使い。

 それがエディア・ペテグロールだ。


「お前がシルヴィルだな」

「な、なんでお前が生きているんだ? お前は半年前に死んだはずじゃ」

「お前をあの世に連れていくために冥界からやってきたのだ」

「なっ!!?」


 少女は俺の反応を楽しむように笑う。


「もちろん嘘だ。

 くくく……かなり驚いているみたいだな。

 お前の知っているエディアは、私の『双子の姉』だ」


 な、なんだってー!?

 妹さんがいるなんて一度も聞いた事がないぞ。


 いや、冷静に考えてみればわかるか。

 上流貴族の一人娘が、なんで冒険者なんかやってんだよって話になるわけだし。

 普通に考えればありえない。

 ちゃんと跡取りが他にもいたのか。


 俺は少女の言葉に納得する。


「な、なるほど。エディアの妹さんでしたか。なぜこんな場所にいらっしゃったのですか?」

「鈍感な奴め。私はシャーマンゴブリンの件で来たんだ」


 シャーマンゴブリン。

 俺が一週間前に倒した第一級魔物。

 パーティ仲間の三人を殺した俺の因縁の相手。


 少女の姉は、そのシャーマンゴブリンに殺された。

 そいつを倒した俺のもとに彼女がやってきたとしても不思議ではない。

 問題はどんな理由でやってきたのか。


 姉のインパクトが強すぎて、つい警戒してしまう。


「まずは私の自己紹介から始めよう。

 私の名前は『メルディ・ペテグロール』。

 ペテグロール家の次女であり、エディア・ペテグロールの双子の妹だ。

 現在は、『宮廷魔術師』としてメルゼリア王家に仕えている」


 メルディは尊大な態度で自己紹介した。


 改めて、俺は彼女を観察する。

 三角帽子に黒いローブ。

 鮮やかなエメラルド色の髪は腰までかかり、長い髪の一部を胸元に寄せて垂らしている。

 典型的な魔女衣装だ。


 見れば見るほどエディアに似ている。

 顔も、外見も、喋り方までそっくりだ。

 彼女の生き写しという言葉がよく似合う。


 でも、性格はちょっと違う。

 あまり敵意を感じない。


「メルディさんか」

「さん付けはいい、敬語も不要だ。メルディで充分だ。お前には借りがあるからな」


 敬語は必要ないらしい。

 じゃあ普通の口調に戻すか。


「……わかった、普通に喋るよ」

「それでいい。お前はシャーマンゴブリンを倒した。それは私にとって大きな意味を持つことだ」

「シャーマンゴブリンが姉の仇だからか?」

「ああ、そのとおりだ。

 私は宮廷魔術師という立場上、討伐隊に参加する事が出来なかった。

 実の妹でありながら、姉の仇を討つことができない自分の不甲斐なさが悔しかった。

 だが、お前は私の代わりに奴を倒してくれた。

 お前がシャーマンゴブリンを倒してくれたことで胸のつっかえが取れたのだ。

 だから、姉の代わりにお前に礼を言いにきたのだ」


 メルディはゆっくりと頭を下げた。

 言葉使いは高圧的だが、彼女の言葉にはしっかりとした感謝の気持ちが込められていた。


「頭を上げてくれ。

 俺もアイツには恨みがあった。

 大切な友達を殺されたからな。

 だからメルディの気持ちは充分伝わった」

「そうか。気を使わせてすまなかったな。いずれにせよ、お前のおかげだ。あと、白髪の女の……」

「リリアか?」

「ああ、そいつにも感謝を伝えておいてくれ」

「ちょうどいま家の中で飯を食っているから会ってみるか? 立ち話もなんだし、中へ入るといい」

「いや、遠慮しておく。私はこれからすぐに『仕事』がある」

「そうか……残念だな……」


 メルディは俺の反応をジッと観察している。


「もし良ければだが、お前に協力を頼みたいことがある」

「協力?」

「ここに来た二つ目の理由だ。

 実は王都の近くにあるフローラの森に『地下迷宮』が発生した。

 まだ誰も足を踏み入れていない未知の迷宮だ。

 今からそこへ、宮廷魔術師として調査に向かうつもりだ。

 そこでだ。

 地図のスキルを持つお前に、『地図作り』の協力を頼みたい。

 お前がいれば作業がスムーズに進むはずだ。

 もちろん、強制はしない」


 地図の存在しない未知の迷宮において俺のスキルはかなり強い。


「別にかまわないが……」

「そ、そうか。引き受けてくれるか!」


 メルディは年相応の嬉しそうな顔を浮かべた。

 知り合いの妹の頼みだ。

 引き受けないわけがない。


「じゃあちょっと準備するから待っててくれ」


 戦闘要員のリリアを呼んでこようとした。

 しかし、意外な言葉をメルディは口にした。


「ダメだ、一秒も待てない。行くと決めたからにはすぐに行くぞ」

「は?」

「『テレポート』!」


 メルディは精霊カードを取り出してテレポートの魔法を発動した。


 目の前の景色が王都の入口前に変わる。

 テレポートでここまで飛んだのだ。

 既にそこには馬車が用意されていた。

 メルディは駆け足で馬車に飛び乗った。


 あまりにも唐突すぎる出来事に、俺は唖然となってしまう。


「こ、これはテレポート!? 超高位魔法と呼ばれるあのテレポートでごじゃるよ!?」


 どうやら雪の民もテレポートに巻き込まれたようだ。


「こんなもの、高位魔法の内に入らない。早く乗れ、いつまで私を待たせるつもりだ!!」


 メルディは馬車の中から激怒する。

 強引すぎるよこの人。


「あのあの、メルディさん? 俺の相棒であるリリアがいないんだが大丈夫なのでしょうか?」

「問題ない、元々一人でやるつもりだったんだ。

 お前の役目は『地図マップ』の記録だけだ。

 戦闘はすべて私が担当する。

 とにかく、早く馬車に乗るんだ!

 グズグズしてるならここに置いていくぞ!」


 あっ、やっぱりエディアの妹だわ、コイツ。

 こういう強引な所がよく似ている。


 なんだか懐かしさを覚えた。


メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能

○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。

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