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第6話:目覚め

 甘美なる匂いによってもたらされた、朝の目覚め。

 目の前にはリリア様がいた。

 リリア様があどけないとも言える寝顔で眠っていた。

 白色の髪は、カーテンの隙間より射し込んだ光でキラキラと輝いている。

 彼女のケモミミを撫でてみる。

 小動物に触れた時のような優しい柔らかさがあった。

 温かくてふわふわしている。


「ん……」


 くすぐったそうに全身をピクリと震わせた。

 彼女の表情は色っぽく、すごく性的であった。

 彼女に抱きついて自分のリビドーを発散させたい、そういう気持ちになった。

 それをごまかすように、俺は仰向けになった。

 知らない天井だった。


「ここは……どこだ?」


 上体を起こして部屋を見渡してみる。

 ここが自分の屋敷の寝室であると気づくまでに二十秒ほどかかった。

 昨夜は暗くてわかりづらかったものの、改めて豪奢な寝室だとわかった。


「そうか……俺は屋敷を買ったのか……」


 昨日は色々あったな。

 屋敷を買って、かわいい弟子であるレラともお喋りして、雪の民も手に入れた。

 さらにリリア様とスキンシップまでした。

 一人足りない? そんなの知らん。

 世界のすべてを手に入れてしまった気分だ。

 なんたる昂揚感、幸福感、祝福感。

 最高に幸せな気分だ。


 屋敷を買ったことで、安住の地というものを手に入れてしまった。

 隣の部屋に気を使う必要もない。

 チェックアウトという時間制限がない。

 一日中ベッドの中でイチャイチャしても許されるのだ。

 そうだとわかると、ますますリリア様に甘えたくなった。

 ふたたび横になって、リリア様の方へと寝返りをうった。


 彼女を抱きしめて、ピンク色のパジャマに顔を寄せた。

 とても安心する香りだ。

 また眠たくなってきた。

 幸せを感じながら、また、静かに目を閉じた。



 目を覚ますとリリアがこちらを見ていた。

 すでに変身を解いており、優しい表情で俺を眺めていた。


「おはようございます、ご主人様」


 彼女は笑顔で挨拶をした。


「おはよう、リリア」

「昨日はありがとうございます、ご主人様。とても気持ち良かったです」


 彼女は顔を赤くした。

 だが勘違いされるようなことは言ってはいけない。

 リリアが言ったのは『スキンシップ』の事だ。

 ケモミミを揉んだり、たくさんキスをしたり、そんな感じだ。

 現にいまのリリアは裸体ではない。

 ちゃんとピンク色のパジャマを着ている。


 一年後には世界旅行をする予定なのだから、赤ちゃんができるような行為は、一旦我慢するつもりだ。

 もっとも、俺の下半身に信用はないので、それもいつまで続くかわからないが。


 リリアが俺の頬に手を触れる。


「ご主人様にワガママを言っていいですか?」

「もちろんいいよ。今の俺なら何でも聞いてあげる」

「また私にキスして欲しいです。今度はこっちの姿でご主人様の愛が欲しいです」


 なんてかわいらしいワガママなんだ。

 言葉よりも先にリリアの唇にキスをした。

 結局、スキンシップはそれから昼間まで続いた。

 朝から頭の悪いバカップルぷりをいかんなく発揮した。


「ご主人様のことで一つ気づいたことがあります」


 スキンシップのあと、急にリリアは口を開いた。


「ふむ、それはなんだ?」

「ご主人様って絶対にロリコンですよね?」

「ロリコン? まさか、俺はロリコンじゃないはずだ」

「いやいや、そんなわけありませんよ。ご主人様は気づいていないかもしれませんが、変身後の私より、変身前の私とスキンシップをとっている時の方が、全体的に時間が長いんですよ」

「そ、そうなのか?」

「はい、じっくりと楽しむように味わっています。変身後の私とスキンシップをするときは、割とあっさりしているんですよね」


 心当たりがないわけではない。

 リリア様の時は、なんとなく安心してしまう。

 欲望から始まっても、最終的に理性が上回るというか。


「悪かったな。そういうつもりじゃないんだ」

「別に怒ってませんよ。どちらも私であることには変わりないので。ただ、ロリコンになってしまったら、これから毎日大変なことになりますよ。こっちの姿でいる時間の方が基本的に長いですから、毎日私を見てムラムラしっぱなしです」

「案ずるな。その時は寝室にポータルだ」

「さっそくダメ人間になってますねー。そろそろ起きましょうか。もうお昼ですよ」


 まだ昼間なのにもう疲れている。

 スキンシップのやりすぎも体によくないな。


 寝室を出て、部屋を一つずつ確認しながら一階を目指していく。

 雪の民はどこにいるだろうか?


「昨日の子はどこにいらっしゃるでしょうか?」

「わからない」


 地図で確認しようとしたその時だ。


「拙者はここでごじゃるよ」


 俺たちの目の前に、雪の民が天井裏から飛び降りてきた。

 リリアが悲鳴を上げた。


「びっくりしたな、驚かせるなよ」

「すまないでごじゃるな」


 雪の民はリリアをしげしげと観察する。


「一応質問なんですが、そちらはリリア殿でごじゃるか?」

「ああ、小さくなっているが昨日のリリアと同一人物だ。よく気づいたな」

「天井裏からこっそりと見ていたでごじゃるからな。二人の話を聞いていて、同一人物なんじゃないかと薄々察したでごじゃる。その姿は、スキルの力でごじゃるか?」

「大正解だ。リリアのスキルの影響だ。ちなみにこっちが本当の姿で、昨日のリリアが変身後の姿だ」

「なるほど。随分と面白いスキルでごじゃるな。姿を変えることができるなんてとても羨ましいでごじゃる。拙者もナイスバディになってみたいでごじゃる」


 雪の民は悲しそうに自分の胸を触った。

 彼女は不老だからこれ以上成長しないのだ。

 永遠のぺったんこである。


「大丈夫ですよ。ご主人様はロリコンですから雪の民さんの体でも満足します」

「おい。ロリコンなのは否定しないが、誰かれ構わず襲うほど飢えてないぞ」

「ははは、本当に仲がいいでごじゃるな。結構結構、昼食を作るでごじゃるから食堂まで来るでごじゃる」

「わあ! 本当ですか!?」

「拙者は雪一族でごじゃるからな。家事も大得意でごじゃるよ」


 俺たちは雪の民に連れられて一階の食堂へと案内される。

 貴族特有の長いテーブルだ。

 俺とリリアはそこに座った。


 およそ十分後、豪華な昼食がワゴンで運ばれてきた。

 香草を活用した肉料理が中心だった。


「おいひい!? この料理めちゃくちゃ美味しいですよ!」

「うむ、たしかに美味しい。素材の味を活かした味付けだ」

「料理も大得意でごじゃるからな」

「美味しいのは美味しいんだが、この食材どこから調達してきたんだ?」


 俺たちが到着したのは昨日の夜。

 食材を用意する暇もなかったはずだ。


「二人が来る前から拙者はここに暮らしていたでごじゃるからな」

「なるほど。食材があったのか」

「イエスでごじゃる。ちなみに足りない分は、お二人が寝静まったあとに、森で採ってきたでごじゃるよ」

「と、採ってきた!? ウソだろお前!?」

「ウソついてもしょうがないでごじゃるよ」

「お前……ほんと弱点がないな」


 雪の民、恐るべし。

 なんでもできる。


「流石のシルヴィル殿も拙者のすごさにびっくり仰天でごじゃるね~。基本的に『掟』にさえ接触しなければ、なんでもできるでごじゃるよ」

「掟? たびたびワードとして出てくるが、どんな掟があるんだ?」

「そうでごじゃるな……。

 一番有名な掟は、『奴隷の扱いを受ければ、死ななければならない』という掟でごじゃる。

 たとえば、あるじの代わりに賃金を稼ぐ、不当な暴力を受ける、などがそれに該当するでごじゃる。

 その時は、もはやあるじの奴隷とみなして拙者は自殺するでごじゃる」

「自殺するの好きだな。契約を解除したりはできないのか?」

「二つ目の掟に接触するからできないでごじゃるよ。仕えたくない時は死ぬしかないでごじゃる」

「ふむ……。なかなか複雑そうだな」

「常識の範囲内なら大体のことは命令できるでごじゃるよ。

 要するに、拙者任せにしないという気持ちが一番大事でごじゃるな。

 拙者もあるじの素晴らしい所をたくさん見たいでごじゃる。

 あるじの光を誰よりも近くで感じる、それが影にとっての最高の幸せでごじゃる」


 雪の民はそう答えた。

 あるじの光を誰よりも近くで感じたい。

 それが、彼女なりの影としての想いなのだろう。

 理解できなくもない。

 俺もパーティでは裏方だったからな。

 いつか捨てられるとわかっていても、パーティ仲間が成長した時はとても嬉しかった。



 カーン、カーンと音が鳴った。


「これは……?」

「玄関の呼び鈴の音でごじゃるな。誰か来たみたいでごじゃる」

「ふむ、誰だかわからんがとりあえず行ってみるか」

「ご主人様~。私もついてきましょうか?」

「リリアはそのまま食事を続けていいぞ。俺が対応するから」

「はーい!」


 俺は食堂を出た。

 雪の民に案内されながら玄関へと向かった。


 玄関の扉を開けた。

 そこには少女がいた。


 俺は、少女の顔を見て、悲鳴を上げた。

 なぜなら、俺の目の前にいたのは、半年前に死んだはずの魔法使い(エディア)だったからだ。

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