第3話:泥棒さん
※マルスとレラは別の作品にも登場しますが別人です。
世界観は根幹からまったく異なるので、そっくりさんだと思ってくだされば幸いです。
マルスに剣の指導をした。
『ネルケット式』の指導方法によって、マルスは一時間ほどでカウンターをマスターした。
「ご主人様すごいです!」
リリアが俺を称賛する。
「師匠の説明はとてもわかりやすかったです。また今度剣を教えてもらってもいいですか?」
「別にかまわないぞ。ニワカ剣士の俺で良ければな」
「ニワカ剣士なんてとんでもない!! 師匠は指導の天才です!」
「優秀な剣士が優秀な指導者とは限りませんからね。シルヴィルさんの場合は、マルス君のわからないところを丁寧に説明してくださるので、剣士ではない私も理解できたくらいです。本当にすごいと思います。シルヴィルさんは先生に向いてますよ」
そう言ってもらえると嬉しい。
「ご主人様はどうしてそんなに人にものを教えるのが上手いんですか?」
「最初から上手かったわけではない。少しずつできるようになったんだ」
「そうなんですか! ご主人様は努力家なんですね!」
リリアちゃんは本当に俺を褒めるのが上手いなぁ。
今日はたくさんスキンシップだ。
耳かきサービスもつけてやろう。
それはそうと、俺が上手いのは当然だ。
俺はネルケット式という指導方法を参考にしている。
ネルケット式とは、孤児院の院長であるネルケット様が考案した指導方法だ。
ネルケット式は三つの特徴がある。
1つ目は褒める指導だ。
ネルケット式は基本的に褒めて伸ばす。
上手くできたらしっかりと褒める。
相手のやる気を促進するような指導を心掛ける。
2つ目は説明する指導だ。
指導する際、相手と意見がぶつかる可能性がある。
その際、丁寧にわかりやすく、なぜダメなのかを一つずつ説明していく。
3つ目は上下関係を意識する指導だ。
これが一番重要視されており、とにかく上下関係を徹底する。
指導する際、ナメられるという事態があってはいけない。
どんなに1つ目、2つ目を上手く達成できても、格下と思われたら、その後の指導が上手くいかなくなってしまう。
上下関係を徹底しながら、わからない所は丁寧に解説して、上手くできたらしっかり褒める。
これをぐるぐると繰り返すように指導していく。
単純だが効果は絶大だ。
とはいえ、俺も昔からできていたわけじゃない。
ネルケット式で指導できるようになったのはここ最近だ。
俺はこれまで3つ目が上手くできなかった。
「戦闘できない」という欠点がデカすぎて、自信が持てず、知らず知らずのうちに相手にナメられていたからだ。
だが、リリアのおかげで俺は変わることができた。
自分の中で確固たる答えを出せるようになった。
そういう意味でもリリアは俺の恩人だ。
「日も暮れてきましたね。そろそろ帰りましょうか」
「ああ! 今から師匠の屋敷に行って手伝わないとな」
「なに言っているの? 私たちはホテルに帰るんだよ」
「ええ!? でも、師匠の貴重な時間を使ってしまったんだから、俺達が手伝わないと悪いって」
「案ずるな。屋敷の方は俺とリリアで上手くやる。お前は今、とても成長している。屋敷の手伝いよりも、剣の腕を磨く時間の方が大事だ」
「な、なんてありがたいお言葉! 師匠はそこまで俺の事を思ってくれていたのですね」
「案ずるな。お前は強くなる、案ずるな」
「どうやら『案ずるな』という言い回しが気に入ったみたいです」
うるさいリリア、余計なこと言うな。
マルス達を帰宅させて俺たちは晴れて自由の身。
屋敷へ到着した頃には、すっかり日が暮れていた。
玄関の扉を開くと屋敷の内部はまっくらだ。
「ま、まるでお化け屋敷みたいですね」
新居に来て初めての言葉がそれって悲しくならないか?
ここまで屋敷内が暗いと整理整頓は無理だな。
屋敷へと急いだのは失敗だった。
今夜はおとなしく諦めて、ホテルに一泊した方が良かったかもしれない。
とはいえ、ここまで来てホテルまで引き返すのもちょっと悔しい。
リリアの意見を聞いたうえで決定しよう。
せっかくの新居なんだ。
気持ちよく入居したいものだ。
「リリアよ、正直こんな暗いとは思わなかった。完全な俺のミスだ。『魔光石』の設置も難しそうだし、今日はいったん引き返すか?」
「そ、そうですね。帰りましょうか。すごく怖いです……」
リリアも繁華街に戻りたがっている。
仕方ないよね。
いつも泊まっているホテル付近に飛ぶため、俺は『ポータル』の準備をする。
その際、地図画面を開く必要があるのだが、俺は存在してはならないモノに気づいてしまった。
???
レベル71
誰かが屋敷の内部にいた。
完全に不法侵入。
泥棒さんだ。
つーかレベル高いなコイツ。
「だれか知らない奴が屋敷の中にいる」
「えっ!? それマジですか!? ゆ、幽霊なんじゃ……」
「幽霊は地図に映らないよ。ただの泥棒だ」
「泥棒さんですか。私たちの愛の巣に居座るなんて許せませんね」
「そうだな、今から向かってとっちめてやろう」
アイテムボックスよりカンテラを取り出して、火をつける。
地図を広げて、俺達は泥棒のいる場所を目指すことにした。
泥棒は屋敷内を歩き回っており、ときおり部屋に入っては、部屋内部を物色するように動いている。
「リリア。いつでも奴をぶっ殺せるように変身しておけ」
「はい、わかりました。『変身』!」
リリアはスキルを発動してリリア様に変身する。
「変身完了よ。ご主人様、奴はいったい何者なのかしら?」
「わからない。動きを見た限りだと、ただの浮浪者というわけでもなさそうだ。なにかを探しているのかもしれない」
「ふうん、なんにせよ見つけ次第、真っ二つにすることには変わらないわね」
「ぶった斬るのはできればやめてくれ。屋敷が血で汚れる」
「ご主人様らしいわね」
泥棒のいる部屋の前に到着した。
すると泥棒の動きが止まる。
「どうやら相手もこちらに気づいたみたいだ。扉を開けた瞬間に戦いが始まると思え。敵はレベル71だ。気を抜くなよ」
「一瞬で終わらせるわ」
俺はドアノブに手をかけて、思いっきり扉を開く。
その瞬間、戦闘が始まった。
始めに動き出したのは相手側。
扉を開けてすぐに見えた人影が、一瞬で消える。
次の瞬間、ドンドンドンドンと雷鳴のような音を鳴らしながら、青い光がイカズチの軌道を描くように高速で迫ってくる。
だけど、リリア様はその速度に一瞬で対応して、カウンターパンチを叩きこむ。
敵を一発で無力化した。
安心安全の強さだ。
泥棒はリリア様の足元で気絶している。
「よくやったリリア。よく今の動きに対応できたな」
「当然よ。私を誰だと思っているの? そんな事よりもご主人様、この子……」
リリア様は泥棒を指差した。
リリア様の足元に視線を落とす。
「おや?」
俺はこの子を見たことがあった。
レベルも一致している。
間違いない、この子は、朝に出会った雪の民だった。
メインスキル
○地図
・索敵機能
・罠探知機能
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。
○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能
○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。連絡の加護と併用すれば通信も可能




