第2話:三大流派
※マルスとレラは別の作品にも登場しますが別人です。
世界観は根幹からまったく異なるので、そっくりさんだと思ってくだされば幸いです。
管理局で手続きを済ませた。
これであの屋敷は晴れて俺達の持ち家になった。
屋敷を購入した特典として土地代を10年分免除された。
10年目以降は5年ごとに金貨5枚を支払う必要が出てくるが、額もそれほど多くないし、その時になってから考えればいいだろう。
今は屋敷を無事買えたことを喜ぼう。
あとは新居に行ってお楽しみをするだけだ。
おっと、その前に繁華街で夕食も済ませておかないとダメだな。
これからの事を考えると自然と口元がニヤけてしまう。
「あっ! 師匠ではありませんか!」
「シルヴィルさんにリリアさん! こんにちは!!」
マルスとレラと偶然出会った。
「師匠! もしよければこれから俺と修行に付き合ってくれませんか?」
タイミングが悪いな。
リリアと早くスキンシップをしたくて仕方ないのだ。
丁重に断らせてもらおう。
「悪いなマルス。今は忙しいんだ! お前の修行に付き合っている暇はない!」
「そうですか。残念です……」
捨てられた子犬のような悲しそうな顔をした。
いくら悲しそうな顔をしても無駄だ。
ノーダメだ。
今の俺はご主人様としての務めを果たすことしか頭にない。
「マルスさんは修行熱心ですね」
「はい。ぜひこの手で倒したい強敵が現れました。だからもっと強くならなければいけないと思ったんです!」
「へえ。そんなに強い相手なんですか」
まずい。
強敵と聞いてリリアが食いついてしまった。
リリアはこう見えて戦うことが大好きだ。
戦いのおかげで自分のアイデンティティが確立されたようなものなので、強敵と聞くと「ワクワクすっぞ!」みたいなテンションになってしまう。
「ご主人様。少しくらい彼の修行に付き合ってあげてもいいのでは?」
「しかしリリアよ。これから今から俺たちは新居に行くのだぞ。色々と準備も必要だし、マルスの修行に付き合っている時間はない」
「別に急いでませんから今日はホテルでもいいですよ。家に行くのは明日にしましょう」
「流石リリアさん! ありがとうございます!!」
突然の裏切り。
忠臣に後ろから刺されたような気分だ。
やだやだ、俺は新居でリリアと夜の貴族様ごっこしたいの!
「新居ってなんのことですか?」とレラが聞いた。
「ご主人様が私のために家を買ってくださったのですよ」
「い、家を買った!? それは本当ですか!!?」
「はい!」
「すごい方だとは前々から思っておりましたが、本当にすごいです。流石ですシルヴィルさん! シルヴィルさんが買ってくださった家。いったいどんな家なのでしょう?」
「とても大きな屋敷ですよ」
「まあ! お屋敷なんてほんと素敵!」
レラが目を輝かせる。
やはり女性の憧れは立派なマイホームなのだろう。
「リリアにはとてもお世話になった。これくらいしてあげるのは男として当然だ」
「やはりシルヴィルさんはすごいです。ウチのマルス君も見習って欲しいです」
「なんでそこで俺が出てくるんだよ。それはともかくおめでとうございます。ついに屋敷を買ったんですね。ぜひ俺たちにも見せてくれませんか?」
かなり悪い流れだ。
このままでは二人がついてきてしまう。
明日とかなら全然構わないんだがタイミングって大事じゃん。
今日はリリアと二人でイチャイチャしたいの。
「ダメだよマルス君。シルヴィルさんはこれから準備で忙しいんだから。私達がついていったら迷惑になっちゃうよ」
よく言ったレラ。
レラは本当に空気読める奴だ。
「うむ。レラの言うとおりだ。
家というのは買ったからすぐに住めるというわけではない。
荷物をまとめたり、整理したりする時間が必要だ。
二人に見せるのは全然構わないが一日ほど空けてほしい」
「忙しいなら俺らが手伝いますよ。師匠の苦労を少しでも減らすのは弟子として当然です」
少しは空気読めやクソガキ。
ありがた迷惑だ。弟子を破門にすっぞ!
「えっ!? 手伝って下さるのですか!? マルスさんありがとうございます!!」
あーもうめちゃくちゃだよ。
馬鹿が二人もいると計画も上手くいかなくなる。
もしこのまま屋敷まで連れて行ったら、その場の流れで今夜泊めなければならなくなる。
それだけはなんとしても阻止したい。
リリアとイチャイチャできなくなる。
くそっ、仕方ない。
マルスの修行に付き合ってそれとなく帰ってもらおう。
レラなら俺の気持ちを察してくれるだろう。
屋敷の到着が少々遅れるだけだ。
なにも問題ない。
リリアとのスキンシップさえ潰されなければいい。
「待て待て。話が逸れてきている。今は俺の屋敷よりもマルスの修行が大事だろ?」
「忙しいなら今日じゃなくても全然構いませんよ」
「気が変わったんだ。お前の剣の修行に付き合いたくなってきた」
「本当ですか!? ありがとうございます! 流石です師匠!」
やれやれ。
懐きすぎた弟子にも困ったものだ。
「すいませんシルヴィルさん。マルス君が迷惑をかけて」
「いいんだ。
奴も悪気あって言ったわけじゃあるまい。
少々空気が読めないだけだ。
明日以降なら全然構わないから気軽に声をかけて欲しい」
「わかりました。では日を改めてまた来ますね」
「うむ。その時は歓迎するよ。そうそう、屋敷には魔術書もたくさん置いてあったから自由に読んでいいよ」
「魔術書ですか。それは楽しみです」
話もまとまったことだし、俺たち四人はギルドに併設されている訓練所へと向かった。
この訓練所では剣の訓練や魔法の試し打ちなどができる。
冒険者の大半はここを使っている。
ちなみに俺はあまり使ったことがない。
リリアのスキルや種族など、秘密にしておきたい事が多いため、訓練所の使用をできるだけ避けていた。
流石に全然使わないのは怪しまれるので、当たり障りのないように使う程度はしていた。
メインの修行は森の中でこっそりやっている。
俺の場合、地図とポータルがあるから、森で修行をしても魔物に襲われる心配ない。
ちなみにマルスはリリアの秘密を知らない。
信用していないわけではないが、リリアの秘密を教えると、つい口を滑らしそうだから内緒にしている。
逆にレラはすべての秘密を知っている。
リリアのスキルから、リリアの種族まですべてを教えた。
俺は彼女を全面的に信頼している。
話を上手く合わせてもらうために彼女の協力は必要不可欠だ。
「マルスよ。今日はなんの修行をするために俺を誘ったんだ?」
「師匠からカウンター技を伝授してもらいたいんです」
「カウンター技? 俺から? 冗談だろ? 人に教えるほど上手くねえぞ」
「なにを謙遜なさっているのですか。師匠がカウンター技の達人であることは私も知っております」
「心当たりがない」
「以前私と剣の稽古をしてくださったときに虎剣の攻撃を受け流したではありませんか」
一週間ほど前に俺はマルスと剣の稽古をした。
元々はリリアの対虎剣の訓練のつもりだったのだが、色々あって俺もマルスと剣の手合せをした。
結果だが俺が勝ってしまった。
ステータスではあっちの方が上だったが、対人戦の技術がまだまだ未熟だった。
俺の場合は孤児院で散々剣の訓練したということもあったし、マルスよりも強い虎剣使いの知り合いもいた。
仮にもAランクだった剣士と比べると、スピードとパワーも劣る。
俺でも充分に対応できる実力だ。
「あー、前回のアレね。あれは俺がすごいというより、お前が対人慣れしてないだけだ。訓練すれば誰でもできるようになる。俺みたいなニワカ剣士じゃなくて、ちゃんとした虎剣使いに聞いたほうがいいぞ」
「そんなことありません。俺は師匠から教わりたいんです! この通りです師匠、俺にカウンター技術を教えてください」
マルスは俺に全力で土下座した。
やれやれ。
ここまでされたら教えざる得ない。
「頭を上げろ、マルス。お前の望み通り教えてやる」
「本当ですか!?」
「ただし、条件がある。
俺の説明を全部鵜呑みにするのはやめろ。
俺はどこまで行っても本物の剣士ではない。
だから間違った説明も普通にする。
俺の説明が終わったら、ちゃんと他の虎剣使いの説明も聞いておくんだ。
剣の道は千差万別。
一人の話だけを信じるな。
たくさん勉強した上で自分の中の答えを見つけろ」
「は、はい!! 師匠のありがたいお言葉。しっかり心に留めておきます!!」
「うむ。それでは剣の修行を始めようではないか」
とりあえず、孤児院の院長ことネルケット式でマルスに剣術を教えるか。
マルスはすでに立ち上がっており、剣を素振りしている。
気合十分のご様子だ。
「マルスは虎剣の事をどこまで知っているんだ?」
「と、いいますと?」
「虎剣の長所や短所とかそんなんだ」
「師匠……。いくらなんでも俺を馬鹿にしすぎです。俺だってそれくらいわかりますよ?」
「ほう、じゃあ言ってみろ」
「虎剣は世界最強の剣! どんな大型の魔物もぶった斬ることができる無敵の威力!! 弱点なんて何一つありません!!」
はい論外。
こいつ全然理解してない。
今までよく冒険中に死ななかったな。
レラのサポートがそれだけ優秀だった証拠だろう。
レラも呆れた顔でマルスを見ていた。
「どうしてこうなるまで放っておいたんだ」
「マルス君、人の話を聞くのがとても苦手なんです。シルヴィルさん。彼のことは赤ちゃんだと思って指導をよろしくお願いします」
「わかった。できるだけ努力してみよう」
「ありがとうございます。シルヴィルさんの説明をちゃんと聞くんだよ、マルス君」
「えっ!? なんでみんな同情したような目で俺を見るんだ! あと俺は赤ちゃんじゃねえ!」
マルスがなんか喚いているが全部無視だ。
さてさて。
どこから説明したらいいか。
この様子だと他の流派の事も知らなそうだ。
相手は赤ちゃんだ。
基本的な所から説明していこう。
「マルスは世界三大流派のことを知っているか?」
「聞いたことはあります。虎剣、鷹剣、兎剣の三つの事ですよね」
「うむ。剣の流派というのは、時代と共に増えたり、減ったりするものだ。
しかし、この三つの流派は違う。
どの時代でも猛威を奮ってきた。
まずマルスに教えるのはこの三つの基礎知識だ。
これを知らないことには対人戦ではまず勝てない。
三大流派は魔物ではなく、同じ人間を殺すために生み出されたものだからな」
普通に魔物を倒すだけなら流派なんていらない。
レベルを上げて物理で殴るだけでいい。
魔法やスキル連打でゴリ押ししてもいい。
しかし、人間は違う。
剣だけではなく、スキルや魔法も使える。
包囲殲滅陣みたいに実力差を補う知恵も持ち合わせている。
同じ人間を倒すために戦争の中で人間が生み出した闇の技術。
それが世界三大流派だ。
――――――――――――
世界三大流派。
別名『三獣剣』と呼ばれている。
虎、鷹、兎の三種類。
彼らの動きを倣って、上手く剣に取り入れたことからそう名付けられた。
剣の歴史はとても長く、建国前にまで遡る。
およそ千年という歴史の中で、
鷹剣、兎剣、虎剣、猿剣、牛剣、鼠剣、犬剣、猪剣、竜剣、羊剣、蛇剣、馬剣、猫剣、狐剣とたくさんの流派が開発された。
その中でも特に有名なのが虎剣、鷹剣、兎剣の三つである。
この三つを総称した感じだ。
今回はこの三つをメインに説明していこうと思う。
虎剣
パワーと剣速に全振りしたような剣術だ。
大型の魔物を仕留めたい場合は虎剣がお勧めとされている。
冒険者の大半がこの虎剣を習得している。
剣速とパワーが凄まじいので、こちらにばかり意識が向きがちだが、『後の先』と呼ばれるカウンター技も持っている。
パワーだけだとタカをくくると思わぬ反撃をくらう。
攻守共に隙のない剣術だ。
一方で『集団戦が苦手』だ。
常に地面を踏みしめながら戦うため機動力を失うのだ。
次は鷹剣。
朝に出会った『雪の民』が得意とする剣術だ。
別名『高速飛行剣術』とも呼ばれており、低空から中空を滑空するように戦う。
虎剣とは対照的に集団戦が大得意であり、包囲殲滅陣みたいなノリで囲んだとしても一瞬で覆してしまうほどの機動力がある。
じゃあ一対一なら弱いのか?
いいや、タイマンでもめちゃくちゃ強い。
スピードを活かした高速攻撃ができる。
雪の民の場合は、虎剣の『後の先』を『後の先の先』で返すほどの頭おかしい反応速度を見せる。
虎剣を最強だと信じて疑わない剣士が、雪の民に一方的にボコられているのを見た時は流石に可哀想だと思ったよ。
虎剣とは違って欠点は一つもない。
マジで強い剣術だ。
強いていうなら雪の民が使わなければ精度がかなり落ちるといったところか。
同じ実力の虎剣使いと鷹剣使いなら高確率で虎剣使いが勝利する。
最後に兎剣。
個人的にコレが一番最強だと思っている。
跳び手、斬り手という独特のパートナー制を取っており、二人で一つの剣術だ。
跳び手がサポート。
斬り手がアタック。
これを基本戦術としている。
一見するとあまり強くなさそうだが、『役割交換』と呼ばれる技がかなり凶悪だ。
跳び手と斬り手の役割が一瞬で切り変わるというもの。
単純であるがゆえに応用がかなり利くため、技のバリエーションも三大流派の中で最も多い。
世界で知らない人はいないと言われているほどの英雄。
剣聖ラフテリア、剣聖ユーリもこの兎剣の達人だ。
彼らはこの兎剣によって100年前の魔王を葬っている。
欠点は片方が動けなくなると大きく弱体化することだ。
兎剣の技はパートナーがいること前提であることが多い。
ちなみに使い手は夫婦や兄弟、姉妹のように近い関係の者が多い。
上記の英雄二人も夫婦だ。
――――――――――――
兎剣(熟練)>雪の民の鷹剣>兎剣(一般)=虎剣>鷹剣>兎剣(一人)
大まかな強さはこんな感じ。
どれも強力であるが誰が使うかによって実力が大きく左右される。
マルスは虎剣使いなので修行を頑張れば良いところまでは行くと思う。
「わかったか?」
「大体わかりました。一つ質問なんですが、雪の民はどうやって倒すんですか? 師匠の話を聞く限りだと彼女らを倒す方法がないみたいですけど……」
「知らん。そんな事は俺の管轄外だ。奴らは気合いと根性で倒すしかない」
「そうですか……」
マルスはガックリと肩を落とした。
メインスキル
○地図
・索敵機能
・罠探知機能
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。
○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能
○パーティ共有の加護 パーティの現在位置がわかる。連絡の加護と併用すれば通信も可能