表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/44

第2話:白狐族のリリア

『奴隷の館 アナタに相応しい奴隷を売ります』


 看板にはそう書かれていた。


「ふむ、奴隷か」


 この世界には奴隷という文化がある。

 奴隷を買うことは合法だ。

 なんの罪にもならない。


 奴隷を買う。

 悪くない考えだ。

 なぜなら奴隷はご主人様を裏切ることができないからだ。

 これまでのように切り捨てられる心配もない。

 道徳的に買いづらいという気持ちもあるが、ネルケット様は「奴隷を買ってはいけない」とは一度も言わなかった。

 奴隷でも大切に扱えばいい。

 たとえ奴隷であっても『真の仲間』になりえるはずだ。


 ただの言い訳だということはわかっていた。

 奴隷を買った俺を見たら、ネルケット様はきっと悲しむだろう。



 でも、俺はもう裏切られたくない。



 足どりは自然と奴隷の館へと向かっていた。


「いらっしゃいませ。どんな奴隷をご希望ですか?」


 紳士服の男が現れた。

 こいつが奴隷商人か。

 俺を値踏みするような視線で見てくる。


「冒険者の仲間として使いたい」

「じゃあこちらがおすすめですね」



 コボルト 金貨5枚。

 ゴブリン 金貨4枚。

 リザードマン 金貨20枚。



 筋肉モリモリマッチョマンの奴隷を紹介される。

 ギリギリ手が届くお値段だ。


 コボルトを四体も買えばそれなりの強さになる。

 しかし、なにか違う。

 俺にはその違和感の正体がわかっていた。

 ただ、口には出せないだけだ。

 恥ずかしいから。


「とはいえ、彼らを買う方はあまりいません」

「どういう意味だ?」

「やっぱりみなさん。あっちの方面でも使いたいらしいので」


 ニイと笑って金歯を見せる。

 この野郎……。

 俺の欲しいものがわかっていてこいつら紹介したな。


「わかっているなら早くしろ。ぶっ殺すぞ」

「すいません。彼らも一部では需要があるんですよ」


 世の中には色々な性癖のやつがいるからな。

 否定はしないが。

 俺はガチムチよりも美少女が欲しい。

 真の仲間になりえるのは『美少女』しかない。


「あっ」


 いまわかった。

 あいつが俺をクビにした理由。


 あの野郎……ハーレムパーティを作りたかったんだな!

 俺を除けば全員女性だった気がする!!

 世界の真理が見えた気がする。


 冗談はこれくらいにして。

 巨乳のエルフ族を紹介された。


「エルフ娘か。ずいぶんと綺麗だな。もっと薄汚れた感じで紹介されると思ったよ」

「大切な商品ですからね」

「なるほど。理解理解」

「お客様の希望は巨乳、美女、めちゃつよでしたね」

「うむ」


 奴隷は道徳的にどうとか言っていた気がするが、彼女達を見ているとどうでも良くなってきた。

 エルフ族のおっぱいと一緒に旅ができるなんて最高じゃん。

 奴隷じゃないエルフ族なんて陰湿、怖い、排他的の三拍子揃った地雷だ。

 奴隷として支配したくなる気持ちもわかるよ。


「しかし、高いな……」



『上級魔法あり 爆乳エルフ族 金貨198枚!!!』

『お値段以上 爆乳ハーピィ 金貨156枚!!!』

『魔法使えます 爆乳ドワーフ 金貨146枚!!!』



 手持ちの資金は金貨20枚。

 金銭的に余裕で届かない。

 七年間冒険者生活を続けてこれだから、彼女らを買うなんて夢もまた夢。

 非常に残念だが諦めるしかない。

 条件をゆるくしよう。


「全部満たしてなくてもいいから相場を落としてくれ」

「かしこまりました。お客様のご希望に合う奴隷はこの辺ですかね」


『エルフ族(並乳) 金貨120枚!!』

『犬族 ハンマー使い 金貨67枚』

『猫族 剣使い 金貨45枚』


 ずいぶんと安くなってるがこれでもまだお高い。

 やはり雌奴隷を買うのは諦めるしかないか。

 仕方ない。

 もうコボルトで我慢しよう。

 あいつ俊敏で結構強いし。

 尻尾とケモミミをモフれるなら魔物でも構わない。

 ケモミミという言葉には弱いんだ。

 コボルトでもいい。コボルトでもいい。

 俺は自分の中で自己暗示する。


「あっ、でもアレならお客様の値段でも。いや、しかし……」


 いまの奴隷商人の言葉を聞き流さなかった。


「アレってなんだ?」

「実はですね。うちにいるんですよ」


 奴隷商人は耳打ちする。

 この場には俺たちしかいないのにもかかわらず。


「白狐族の奴隷です」

「白狐族か。それは驚きだな」

「だれも買いたがりません」

「それはそうだろう。この国では持ってるだけで罪だからな」



 白狐族。

 この世界の人間なら誰でも知っている負の種族。

 邪神と同じ種族として有名であり、『第一級魔物認定』されているほどだ。

 そんなヤバイ種族がなんでこんな所にいるんだ?

 こんな所と言っても『王都』なんだが。

 

「とても気になるな。ぜひ見せてくれ。白狐族をお目にかかる機会なんて滅多にない」

「あまり見ない方がよろしいですよ。全身を損傷しております」

「お客様が見たいと言ってるんだから見せてみろ。俺でもなんとか手が届く値段なんだろ?」

「はあ……。例の白狐族はこちらです。くれぐれも、彼女の事は他言無用でお願いします」

「わかってる」


 小部屋に案内された。

 小さな檻には布がかぶせられている。

 奴隷商人が布を取り払う。

 そこには一人の少女がいた。


「!!」


 顔の右側が焼けただれている。

 左腕の肘から下が欠損している。

 薄暗くて全体像は見えなかったが、ひどい虐待を受けた跡があった。


「なんだ……これは……」


 少女の惨状を見てひどくショックを受けた。

 俺は言葉を失っていた。


「前の持ち主が相当ひどい方でしてね。

 白狐族を自分の怒りのはけ口として暴力を繰り返したそうです」


「正直なところ私も同情しましたね。これは流石にやりすぎだと思いましたよ」


「とはいえ、こちらも商売です。相手はお得意様ですし。買いましたよ。ですが売れない商品をずっと置いておくわけにもいきませんよね。お客様にはぜひ買ってもらいたいと思っております」


 奴隷商人は涙交じりに説明した。

 よく喋る男だ。

 少し芝居がかっている。

 少女に対して情を誘っているのが透けて見える。

 とはいえ、彼女を買ってもらいたいと思っているのは確かだろう。

 商売半分、同情半分。

 こんな感じか。


 少女を観察してみる。

 顔の火傷が痛々しい。

 全身のあちこちに打撲や切り傷などの酷いがあった。


 こんなに酷いのになぜ治療しなかったのだろう。

 欠損はともかく全身の傷くらいはプリーストの力で……ああ、この子は白狐族か。

 違法の商品だから治療できないのだろう。

 教会からプリーストを呼ぶのはリスクが高い。

 また、コストもかかる。

 買い手が見つからない状況での治療は現実的じゃない。


 とはいえ、これはチャンスだ。

 俺には『スーパーポーション』がある。


 冒険者時代に培ったコネと運で手に入れた最強の治癒ポーションを持っている。

『スーパーポーション』を使えば少女の傷を完全に治せる。

 欠損だって治せるかもしれない。

 いや、治せるはずだ。

 欠損も治せるって説明受けた。


 買うと違法になるリスクも俺にはあまり関係ない。

 俺のスキルは索敵だけが能力というわけではない。


『オプションスキル』と呼ばれる派生スキルも備わっている。

 この派生スキルを使えば、少女の白狐族というデメリットを消すことができる。


 怪我の治療と種族の隠滅。

 俺のコネとスキルがあれば両方とも対処が可能だ。


 そう考えるとかなり魅力的な買い物だ。

 白狐族は獣人だ。

 身体能力は人間よりも遥かに高い。

 上手く育てれば心強いアタッカーになる。


 奴隷商人に見えない角度で俺はにやりと笑う。


「ちなみに彼女の値段は?」

「本来なら金貨25枚ですけど、買ってくださるなら手持ちの資金と同じ金貨20枚に割引しますよ」


 かなり良い流れだ。

 心の中でガッツポーズをとる。

 

 だが、落ち着け。

 金貨20枚は俺の全財産だ。

 ここで選択肢を誤れば詰んでしまう。


 白狐族というワードもやはり気がかりだ。


 とりあえず、少女に話しかけてみよう。

 買うかどうかは彼女の様子で判断だ。


「ひっ!? リリアに痛いことしないで!」


 少女は悲痛な表情を浮かべた。

 檻の奥に逃げ込んで震えている。

 人間に対してかなり怯えている。

 これまでに相当ひどい扱いを前の持ち主に受けてきたようだ。


「断じてアナタ様に怯えているわけではございません。これは人間に対する共通の反応でございます」

「わかっている。それがわからないほど馬鹿じゃないよ。もう一回この子に話しかけてもいいか?」

「もちろんです」


 もう一度少女に話しかけてみる。


「名前はなんだい?」

「~~~!?」

「キミは何歳だい?」

「~~~~~~!?」


 まるで話が通じない。

 知らない人を見たことで相当パニックになっている。

 奴隷商人が呪文を唱える。

 少女は首を押さながらその場で悶え苦しんだ。


「おい。なにをしている」


 俺は奴隷商人を睨む。


「ですが、お客様。大人しくならなければ困るのは彼女自身でございます。ここはどうか寛大な対応を」

「……たしかにそうだな。あの状態では会話どころではない」


 奴隷商人は一呼吸おいて口を開く。


「リリアよ。この方はこれからアナタを買うかも知れない大切なお客様だ。失礼のないようにしなさい。お前の期限はあと二日なのだぞ」

「わかり、ました……」


 少女は小さく頷いた。

 体育座りの体勢で顔を伏せた。

 ぐすん、ぐすんと泣き声が聞こえてくる。


 少女に同情した。

 白狐族だと偏見を持っていたがどうやら俺の誤りのようだ。

 この子は人間の少女となんら変わらない。

 彼女を見てると、自分の欲望のままに行動しようとしている自分が恥ずかしく思えた。


 今度は怯えながらではあるが受け答えははっきりしていた。



 名前はリリア。

 苗字はない。

 年齢はわからない。

 両親はすでに死んでしまった。

 両親が死んだあとすぐに人間に捕まってしまった。


「ママ……ママ……。リリアを助けて……」


 リリアは両手で顔を覆いながらまた泣き始めた。

 欠損した左腕がその仕草をいびつなものへと変えた。


「いかがですか?」

「可哀想な子だと思う」

「左様でございます。お客様のようなお優しい方に引き取られるのが、リリアにとっても幸せでしょう」

「この子を買うよ。ここまで見せられたら放っておけない」


 俺は全財産を払ってリリアを奴隷として買った。


メインスキル

『地図』


オプションスキル

スキルの派生効果。現在シルヴィルは5つの特殊能力を持っています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] オプション気になる。 [一言] ああ、他作品だとモフモフ可愛い系もいるからでしょね。 若しくは犬種が知りたい的な。 他には体はどうなってる?とかかな。 人とかドワーフとかゴブリ…
[良い点] 奴隷に高価なアイテムと全財産を使うって、普通の人だとなかなかできないですね。優しい主人公にとても好感が持てます。 [気になる点] コボルトってどんな感じの生き物でしょうか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ