表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/44

第17話:信じる心と神速の一撃

 マップ上に罠が生成された。

 地図上に仕掛けられた罠の数はなんと1000以上。

 頭おかしい数だ。

 レベル70になるとこれだけの量をばら撒けるのか。


 どうやら広範囲に罠をばら撒くことができるスキルのようだ。



 リリアをその場に待機させる。

 罠が仕掛けられている場所を観察する。

 討伐隊の話通り、罠はステルス化している。

 肉眼ではまったく罠が見えない。


 踏むと起動するのだろうか?

 地図上では『睡眠の罠』と表示されている。

 少し距離を置いて、罠のあるであろう場所に向かって小石を投げる。

 カチッと音がして睡眠ガスが真上に噴射された。


 衝撃を与えれば起動するのか。


 罠の作動から数秒後。

 地図上から罠が消滅した。


 なるほどなるほど。

 発動後は自動で消滅するのか。

 突然生成されて起動したら消滅する性質。

 スキルとみて間違いない。


 たしかに初見殺しだな。

 地図スキルがなかったら間違いなく踏んでいる。


 地図上に表示された罠を避けながら慎重に進んでいく。

 とはいえ、1000個もばら撒かれたらどこを歩こうと罠がある。

 地図がなければ歩くことも困難だ。



 そんな中、

 ゴブリン鉈兵とゴブリン棍棒兵が現れた。

 その数はそれぞれ十体ずつ。

 ゴブリン達は俺達を見つけると奇声を出しながら向かってくる。

 あいつらがいる場所にも罠があるはずなのだが、なぜか罠は反応しない。


 どうやらゴブリン達は踏んでも作動しないようだ。


「どうやら奴らは罠を踏んでも効果がないみたいだ」

「えっ? なにそれずるくないですか?」

「敵のスキルなんだ。多少は理不尽だと思わなきゃ」

「どうしますか? 奴らを倒そうにも下手に動くと罠を踏んでしまいます」

「案ずるな。今回は逆にそれを利用してやろう」


 アイテムボックスからブーメランを取り出して投げる。

 ブーメランは奴らの足元につき刺さる。

 カチッと罠が作動した。

 ゴブリン達が麻痺で動けなくなった。


「なななななな!? ご主人様!? いま何をなさったのですか!?」

「こちらから罠を作動させてやったんだ」

「流石ですご主人様!」

「ふっふっふ。こっちも地図のおかげで罠の位置が完全にわかっているんだ。上手く利用すれば敵の武器はこちらの武器にもなる。臨機応変ってやつだよ」


 発動後の罠まで効果がなかったら、流石にいったんポータルで避難したかもしれないが、どうやら発動すれば普通に効くようだ。

 次のブーメランを取り出す。

 今度は睡眠の罠が起動するように投げる。

 こちらに到着する頃にはゴブリンの数も三匹に減っていた。


 今度はリリアに地図を見せる。


「リリア。そろそろ修行の成果を見せるぞ」

「わかりました」

「この近辺にある罠の位置だけを覚えろ。他は覚えなくてもいい」

「罠の数は四つですね」

「できるか?」

「もちろんです」


 リリアはこくりと頷く。


 この一週間、罠の位置を覚えて動く訓練をした。

 その結果、四つまでなら正確に記憶できるようになった。

 俺にできることはリリアが戦いやすい環境を作ってやることだ。


 地図を数秒ジッと見つめて、罠の位置を記憶する。

 罠を踏むことなくすべてのゴブリンを対処できた。


 

 新しいゴブリン兵がやってきた。

 盾兵、槍兵がそれぞれ10体ずつ。


 近距離の罠は巻き込まれるリスクもあって迂闊に起動できない。

 だから中距離の罠を積極的に潰す。

 近距離まで近づいてきたら、あらかじめ覚えておいた罠を踏まないように対処。

 誤って踏んでしまうリスクさえ無くしてやれば、リリアは絶対に負けない。


 大太刀というリーチの長さを活かして、リリアは苦戦することなく戦う事ができた。

 盾兵だろうと関係ない。

 盾ごと胴体を真っ二つにする絶対的なパワーがあった。

 近距離での歩数と合わせて、射程距離はおおよそ『十メートル』といったところか。


 地図の一部に違和感を覚えた。

 東の方角にゴブリンが三匹いる。

 しかし、そのゴブリン達はそこから動こうとしない。

 まさか弓兵か。

 敵と交戦中のリリアは気付いていない。

 はやく知らせねば。


「気をつけろリリア! 東の方角に弓兵がいるぞ!」

「……!! はあ!!」


 リリアが驚異の動体視力で弓矢をはじき落とす。

 やはり、二十メートルほど先に三匹の弓兵がいた。

 

「ありがとうございます! ご主人様!」

「こいつらは俺が対処する!」


 弓兵の手前には麻痺の罠が仕掛けられている。


 落ち着いて音爆弾を投げる。

 奴らは慌てふためく。

 その隙に近づいていきブーメランで罠を起動。

 弓兵は悲鳴を上げて倒れていった。


 弓兵は危険だな。

 率先して倒していくか。


 リリアに弓兵を優先して倒す事を伝えた。

 俺達の作戦は上手くいった。

 ピンチに陥ることなくゴブリン兵を倒していく。


 危惧していた弓兵も罠に守られていることが多いので、音爆弾で怯ませてからブーメランで罠を起動させてやれば勝手に戦闘不能になっていく。

 逆に罠がなければリリアを突っ込ませてそのまま終わりだ。




 この調子でどんどん進んでいく。

 ゴブリンを30体ほど倒した頃だろうか。

 突然、地図上から罠が消えた。


 俺は立ち止まった。


「ご主人様。どうかしたんですか?」

「消えた」

「えっ? 消えたって何がですか?」

「地図上から罠が消えたんだ」

「!! それは本当ですか!?」

「うむ。どうやら罠を利用されていることに気づいたようだ」

「……ご主人様のおっしゃっていた通りになりましたね」

「ああ、ここまでは想定内だ。リリアよ。罠が消えたからって気を抜くなよ。次は面倒なタイミングで第二波がくるぞ」

「心配いりませんよ。私達には最強の『切り札』があるんですから」

「お前が言うのか……」

「だって本当の事じゃないですか。ご主人様は本当に私の事が好きなんですね」

「うるさい黙れ。戦いに集中しろ」

「はーい!」


 リリアは元気にそう答えた。


 ゴブリンの集落を見つけた。

 広場のような場所でシャーマンゴブリンが俺達を待ち受けていた。

 大量の髑髏を首に巻いており、手には杖を握っている。

 他のゴブリンと比べると背が高い。

 シャーマンゴブリンはこちらを指差しながら部下に命令している。


 ゴブリン達が一斉に向かってくる。

 数は60匹ほどだ。


「どうします?」

「罠がないなら普通に戦うまでだ」


『召喚の加護』より長剣を呼び出して、リリアと共に剣を構える。

 ゴブリンが迫ってくる。

 棍棒攻撃を受け流して胴体を一閃する。


「流石ですご主人様! とても素晴らしい一太刀です!」

「少しは見直してくれたか?」

「見直すなんてとんでもない! 私はご主人様の事が大好きですから! ご主人様のことがもっともっと好きになっただけです!!」


 リリアが成長したように俺も成長した。

 半年前の弱かった俺とは違う。


 **********

 シルヴィル

 種族 人間

 レベル40

 ステータス

 HP:120

 パワー:130

 スピード:150

 **********



 レベル40という大台にしては、

 決して高いとは言えないステータスだろう。

 しかし、すべてのステータスが数倍近く上昇していた。

 これまでの俺と比べると見違えるように強くなっていた。


 はっきりとした理由はわからない。

 でも、リリアの笑顔を思い浮かべると剣を握る手に自然と力がこもる。

 この感覚が答えなんだと思う。


 カウンターを決めながらゴブリンを次々と倒していく。

『ステータス共有の加護』により、お互いの方角がわかるため混戦になっても見失う心配がない。

 敵の方が圧倒的に多いはずなのにリリアと一緒に戦うと負ける気がしなかった。


 シャーマンゴブリンは『最後の抵抗』を見せた。

 一度消去した罠を再設置させたのだ。


 俺達の周りに大量の罠が仕掛けられた。

 地図を持たないリリアはその場からまったく動けなくなった。


 ゴブリンの集団がリリアに襲い掛かる。

 絶体絶命という奴だ。


 しかし、俺はまったく焦っていない。

 こういう場合の『対処法』を一つだけ教えておいたからだ。


 リリアと目が合った。

 俺達は無言で頷いた。



 昨日の会話を思い出す。


「もし相手の罠がスキルによるものだった場合、一度消した罠をまた再設置なんてこともありえる」

「ええ!? なんですかそれ!? めちゃくちゃずるいじゃないですか!?」

「タイミング次第ではまったく動けなくなる恐れがある。だから罠に囲まれて動けなくなった時の対処法を教えておこうと思う」

「流石ですご主人様! いったいそれは何ですか?」

「とても単純だ」


 俺はゆっくりと伝える。
















「変身後のトップ速度で敵を一掃するだけだ。攻撃も罠も当たらなければどうということはない」





















 リリアの瞳から尊敬の念が消えた。


「いやいやいや! 要するにただのごり押しじゃないですか!!?」

「別にいいんだよ。俺の作戦にこだわりすぎると、本来の動きができなくなる。むしろ弱体化する場合だってあるんだ。お前にはそうなって欲しくない。お前はお前のままが一番だ」

「どういう意味ですか?」

「お前の力を一番信じているってことだよ。俺が考えたどんな作戦よりも、お前の信じる『本気の一振り』の方が100倍強い。だから俺の切り札はお前自身だ」


 俺はリリアにそう言った。

 俺の作戦なんてあくまで保険なんだ。

 本当に信じているのは作戦なんかではなく『リリア』なんだ。



 リリアはゴブリンの攻撃をジャンプで避ける。

 五メートルも高く跳躍した。


 上空でスキルを発動する。


「変身!」


 まばゆい光と共に最強の白狐族が現れた。

 少女の姿からリリア様へと変身した。


「ご主人様は私を信じてくれている。だったら私もご主人様の想いに応えるだけよ。白狐族の本気、アナタ達に見せてあげるわ!!!!」


 リリア様は地上に着地する。

 カチッと音が鳴り、足元の『睡眠の罠』が作動する。

 しかし、戦闘モードのリリア様にとって罠はあまりにも遅すぎた。

 リリア様の姿が一瞬で消える。



 次の瞬間、周囲のゴブリンが斬撃によって消し飛んだ。



 罠があちこちで作動しまくる。

 しかし、リリア様の動きは一切止まらない。

 いくら罠を踏もうとも、発動する頃には既にそこからいなくなっているからだ。

 どんな罠も当たらなければ効果がない。

 リリア様のトップ速度は『超神速』。

 罠ごと踏み抜きながら戦場を駆け抜けていく。

 ものの数秒ですべてのゴブリン兵を撃破した。


 リリア様は優雅に着地する。


「残っているのはアナタだけね」


 視線の先には、シャーマンゴブリン一匹のみ。

 シャーマンゴブリンはリリア様の圧倒的な強さに狼狽えている。


「懺悔の用意はできているかしら。これですべて終わりよ」


 リリア様とシャーマンゴブリンの距離は約二十メートル。

 しかし、リリア様にとってその距離はゼロに等しい。


 刀身を左の奥から振り抜くための構えをとる。

 すべての力をその一振りに集中させる。

 この攻撃は誰にも避けられない、彼女の本気が宿っている。


「『フォックススラッシュ』!!」


 決め技と共にシャーマンゴブリンを葬り去った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ