第15話:Aランク昇格
剣士と再会して半年。
とくに問題もなく冒険者生活は過ぎていった。
クラウスは冒険者を引退したらしい。
仲間が死んだトラウマで引退。
よくある話だ。
俺も数十回ものパーティ生活のなかで二回ほどパーティの死を経験したことがある。
決して傷つかなかったわけではなかったが、雑魚スキルという都合上、乗り越えなければ生活できなかった。
喧嘩別れしても同じ飯を食った仲だ。
仲間の死を乗り越えて欲しいと思う。
まあ、男は単純だからキャバクラで気持ちいいことすれば大抵すぐ治るけどな。
やっぱりおっぱいは偉大だわ。
最後の一言で台無しである。
現在、俺とリリアは森にいる。
サイクロプス討伐のためだ。
リリアはサイクロプスと対峙しており、自分の何倍もある緑色の巨体を見上げている。
一見するとリリアの勝利は絶望的に思えるだろう。
しかし、俺はリリアの勝利を信じて疑わなかった。
なぜなら彼女には超最強スキルがあるからだ。
「変身!」
リリアはスキルボタンを押してリリア様へと変身する。
ロリな姿から大人の女性へと急成長した。
リリア様は大太刀を出現させて優雅に回転させる。
「……サイクロプス。第一級魔物として中々強いらしいけれど、私のご主人様を想うハートの前には、どんな敵も立ち塞がる事すらできないわ!! 白狐の一撃をくらいなさい! フォックススラッシュ!!」
神速としか言いようがない速度で肉薄すると、サイクロプスの巨大な体を真っ二つにする。
たったの一撃でサイクロプスを倒してしまった。
リリアはあれから精神的に大きく成長した。
両想いになったという自覚が芽生えたようで自発的に行動することが多くなった。
変身も自分の意思で使用するようになった。
誰にも負けたくない。
ご主人様の一番でありたいという強い意思が彼女を強くしたのだ。
俺は彼女の成長を嬉しく感じた。
「やったな! これでリリアも冒険者ランクがAに上がったぞ!」
「また一歩アナタに近づけたわね」
「リリアはすごいな。たったの『半年』で最高ランクなんてなかなかできることじゃない」
「当然よ。私はアナタの相棒ですもの。まだまだ満足していないわ。白狐の本気はこれからよ」
リリア様はクールに答えた。
その言葉には揺らぐことのない決意が宿っていた。
「ところでご主人様。Aランクに昇格した相棒にご褒美はないのかしら?」
背中に腕を組んで上目使いで話しかける。
この仕草はリリア様が俺に甘えたい時の合図。
「ふむ。具体的にどういうのが欲しいんだ?」
「ご主人様の愛が欲しいわ。もちろん断るなんて選択肢は存在しないわよ。私がこんなにアナタの事を愛しているんですもの。アナタも最上級の愛を私に与えなさい」
リリア様は両手を広げる。
自信満々に答える彼女は、初めて出会った時よりもっと強く輝いて見える。
彼女の要求どおり、俺は彼女を抱擁する。
「これでいいか?」
「ええ、ご主人様。アナタの鼓動を感じているとすごく安心するわ。このまま私を離さないで」
「当たり前だろ。リリアが俺を愛してくれるように、俺もリリアを誰よりも愛しているつもりだ」
リリア様の白髪を撫でる。
そのまま見つめあってキスを交わす。
我ながらかなりのバカップルだと思う。
でも仕方ない。
好きなものに嘘はつけない。
俺は彼女が好きだ。
変身前も、変身後も同じくらい愛している。
存分に満足したところでリリアは変身を解いた。
「ご主人様は本当に私が好きなんですね~。ご主人様って変態さんなのかもしれませんね」
「なにを今更。お前も途中からノリノリだったじゃないか」
「相手がご主人様ですからね。テンションあがらないわけないですよ。巨乳も楽しめて、ロリも堪能できる。私のお味はいかがでしたか」
「よし帰るぞ」
「ああん、待ってください~」
リリア様だけでなく、リリアもだいぶ明るくなっている。
最初の頃と比べると冗談を言う回数も増えてきた。
順調に小悪魔ちゃんになっている。
まあ、いくら強くなろうとベッドの上では俺が勝てるけどな。
冒険者ギルドに帰ってクエストを完了する。
受付嬢はAランクの冒険者カードを渡す。
リリアはとてもはしゃいでいる。
「見てくださいご主人様! Aランクの冒険者カードですよ。私に似合いますか!?」
「とても似合うよリリア。ほほえま~」
「ついにAランクになったのです。これでもうどこにだって冒険できますね。手始めにセイレーン王国に行きます? それともロードス王国? あえて地図のない領域に行くのも悪くありませんよ。どんな相手だろうと私が一撃で倒してみせます!」
「まあまあ。嬉しいのはわかるが落ち着きたまえよ。メルゼリア王国はかなり広いんだ。リリアが冒険していない場所はたくさんあるぞ。むしろ行ってない場所の方が多いくらいだぞ」
「そうなんですか!?」
「だてに世界三大王国と言われていない。まあ心配するな。すぐに全部連れて行ってやるよ」
いまのリリアの強さなら問題ない。
どこに連れて行っても通用する強さだ。
あとは俺が成長すれば完璧だな。
彼女の笑顔に応えられるだけの男になりたいと思っている。
そのためには精進あるのみだ。
翌日。
俺達は新しいクエストへと向かっている。
今度の依頼も討伐クエストだ。
敵はシャーマンゴブリン。
奴を討伐できればたくさんの報酬を手に入れることができる。
長旅には資金が必要だ。
資金が多ければ余裕も出る。
リリアとたくさん楽しむためにも資金集めは欠かせない。
とはいえ。
シャーマンゴブリンは中々の強敵だ。
索敵能力がかなり高いからな。
リリア様がいくら強いとはいえ油断は禁物だ。
「ご主人様の前のパーティもシャーマンゴブリンにやられたんでしたよね」
「まあな。だが勘違いするな。これは復讐じゃない。たまたま依頼が残っていたんだ」
リリアもすでに知っていた。
今から引き受けるこの依頼は俺と深い因縁がある。
このシャーマンゴブリンは半年前にAランクの冒険者パーティを壊滅させた。
皮肉にも、俺はその冒険者パーティと全員顔見知りだった。
剣士のクラウス。
魔法使いのエディア。
プリーストのティオ。
武闘家のリン。
生意気な奴らだったが嫌いじゃなかった。
俺にとっては大切な仲間だった。
昔の俺だったら雪辱戦なんて決してやらなかっただろう。
危険だと思ったら決して関わらないようにする。
でも今回は違う。
過去と決別するために俺は逃げない。
この半年間、わざとこの依頼を受けなかった。
Aランクのメンバーが殺されたのだからそれ相応の準備が必要だと判断したからだ。
だからリリアがAランクになるまで待った。
幸運なことにシャーマンゴブリンの依頼は残っていた。
当然だ。
殺された奴らは仮にもAランクなんだ。
王都でもトップクラスの連中だったんだ。
そう簡単に狩られるわけがない。
狩られてもらったら困る。
こいつは『俺達』で倒さなければならない。
死んでいった仲間…………いや、『大切な友達』のためにも俺はこいつを許さない。
メインスキル
○地図
・索敵機能
・罠探知機能
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。
○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能
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