表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/44

第14話:真の仲間

助ける義理もないのでボコボコにされるのを眺めた後、剣士クラウスに話しかけた。 


この時の俺はとてもいい笑顔で話しかけていたと思う。


「よう久しぶり。元気か~? ……って、酒くさっ!」

「……」


 クラウスはとても酔っていた。

 クラウスの目はよどんでおり、どす黒く濁っている。


「パーティを抜けてから色々あったんだが俺は元気にやっているぜ」

「……」

「お前はどうだ? 俺が抜けてから順調か?」

「……」

「エディアとティオとリンがいないけどどこに行ったんだ?」

「……」


 無視すんなよ。

 俺は舌打ちする。


 クソが。

 真のパーティじゃない俺とは会話すらしたくないってか。

 じゃあ勝手にしろや。

 俺もお前とは二度と喋らないつもりだ。


 背を向けて立ち去ろうとしたその時、クラウスはようやく口を開いた。


「三人とも死んだよ」


 思わず俺は振り返る。

 一瞬何のことを言っているのか理解できなかった。


「え?」


 死んだ? あいつらが?


「そんなわけあるか。お前ら一応Aランクの冒険者だろ。どこに死ぬ要素がある」


 ステータス平均300で虎剣上級の剣士クラウス

 魔法の名門とされるペテグロール家出身の魔法使い(エディア)

 プリーストの聖地であるリディット大教会所属のプリースト(ティオ)

 あのドラゴン族の血を引く武闘家(リン)


 彼らの強さは本物だ。

 第一級魔物とエンカウントしても余裕で撃退できるほど強い。

 死んだなんて未だに信じられない。


「全部お前のせいだ!! お前が何がしたんだろう!!!」


 こちらに向かって走ってきたクラウスから顔を殴られた。

 俺は地面に倒れこんだ。


「ご主人様!?」


 リリア様が悲鳴を上げて俺のそばに駆け寄った。


「貴様あああああああああああ! 私の大切なご主人様になんてことを!! 絶対に許さないわ!!」


 リリア様は激怒した。

 手元に大太刀を出現させてクラウスに刃を向けた。


 実はとあるスキルのおかげで、リリアも俺のアイテムボックスを使用できるようになったのだが、今はおいておこう。


 俺は慌ててリリア様を制止する。

 このままではクラウスが殺されてしまうからだ。


「やめろリリア! いますぐ剣を下ろせ!」

「……許せない許せない。この男だけは絶対に殺す!」

「お前の気持ちはわかっている。ここは怒りを抑えてくれ。頼むリリア。俺のためだと思って剣を下ろしてほしい」

「…………わかったわ。でも怒りを抑えるなんて無理よ」


 リリア様は剣を下ろしてくれた。

 何とかリリア様の暴走を止めることができた。


「ありがとう、リリア。剣を下ろしてくれただけでも十分だ。少し下がっていてくれないか。こいつとは俺が話さなきゃいけないんだ」


 リリア様を下がらせて再びクラウスと向かい合う。


「……シルヴィル。お前が何かしたんだろう。あっという間に敵から囲まれた。普段なら勝てたはずの敵だったのに。あのときはそうじゃなかった!!」


 クラウスは怒りを交えながら状況を説明した。

 話をまとめると。

 雑魚だと見くびっていた魔物にテリトリーまで誘い込まれて袋叩きにあった。

 そのせいでエディア、ティオ、リンの三人が殺されてしまった。


 はっきり言えば自業自得だ。

 俺は四人に冒険のイロハを教えた。

 ダンジョンでの立ち回り、交渉術、戦闘方法。

 孤児院で叩きこまれたすべての知識を教えてきた。

 反発されることも多かったが、しっかり教えてきたつもりだ。


 でも、彼らには届かなかったのだ。

 冒険者として一番大事な『殺されない』という約束を守れなかった。



 俺はため息をついた。

 クラウスに呆れたわけではない。

 自分の無力さが空しくなったのだ。

 ネルケット様になんて説明すればいいのだろうか。

 戦闘ができないだけじゃなく、仲間の指導すら満足にできなかった。


 ……くそっ。

 本当になんのために冒険者しているんだろうな。


 生意気な奴らだったが、俺だって思うところはあった。

 同じ釜の飯を食った仲なのだ。

 喧嘩別れしたとしても死なれたら辛いに決まってんだろうが。


 俺はクラウスの目を見据える。

 この時の俺は冷酷な目つきをしていたと思う。


「クラウスよ。俺を恨むなら好きに俺を恨めばいい。だが、どんなに恨んだところでエディアとティオとリンは帰ってこない。お前にできることは、今回の一件を反省して前に進むことだ。次はもっと上手くやれ」

「黙れ!」


 もう一度殴りかかる。

 しかし、今度は攻撃をもらわない。


「酔ってる奴の攻撃なんて当たらねえよ」


 酒に酔っているクラウスのパンチをかわして、腹に本気のパンチをお見舞いする。

 クラウスはゲロを吐き、腹を押さえたまま屈み込んだ。


 また殴りにくるかと思ったが、どうやらこれで終わりらしい。

 もう攻撃する気力は残ってないようだ。


「………すまない」


 クラウスはぽつりと呟いた。

 そして感情を爆発させた。

 それは怒りの言葉ではなく、後悔の言葉であった。

 死んだ三人の名を繰り返し叫んだ。


「みんなすまない。俺が全部悪かった! 俺が考えもなしに先に進んでしまったばかりに!」


 何度も何度も叫んだ。

 

「いくら泣いたところで死んだ奴は帰ってこないんだよ」


 俺はそう言い残してその場を去った。




 そして現在。

 ギルドをあとにしてホテルに向かっている。

 夜になっているので人通りが少なくなっている。


「悪かったな、リリア。食事をとるどころじゃなくなってしまった」

「ご主人様は悪くないわ。悪いのはすべてあの男よ」


 嫌悪感と怒りを滲ませている。

 リリア様が怒るのも無理はない。

 リリア様の目からみれば、自分のご主人様に何の理由もなく暴力を振るってきた悪い奴。

 事情はあの場で説明していたが、完全な部外者であるリリア様が理解できるはずもない。


「あいつも酒に酔っていたのだ。あいつを許してやってほしい。あいつもかわいそうな奴なのだ」

「それが理解できないのよ。たとえ理由があったにせよ、ご主人様を捨てた時点で……いいえ、申し訳ありません。ご主人様がそうおっしゃるなら彼を許しましょう」


 リリア様は俺の顔を見ると、ハッとした表情になり、言葉を止めた。


「すまないな。リリアには不安をかけてしまって」

「いいのよ。でも理由だけははっきり教えて欲しいの。ご主人様はなぜ彼の肩を持つの?」


 リリア様は俺の顔をジッと見つめた。

 翡翠色の瞳が俺の顔を映している。


「昔、あいつにスキルを褒められたことがあるんだ」

「え?」

「俺はあいつにスカウトされた。マップスキルを絶賛してもらった。俺がそれが本当に嬉しかった」

「でもそれは事実よ。いつも冷静で、判断力があって、ちょっとえっちだけど、なんでも上手くできるじゃない」

「最初からすべてできたわけじゃない。失敗を繰り返しながらできるようになったんだ」

「失敗を活かせることがご主人様の強みよ。それは本当にすごいことだと思うわ」

「ありがとう。リリア。そう言ってもらえると気が楽になるよ。だが、どんなに訓練しても一つだけできないことがあった」

「魔物と戦う事ね」

「ああ、そうだ。俺は冒険者にとって一番肝心な戦う事ができなかった。俺のステータスは一般平均よりも遥かに下回っている。レベル30ですらレベル1のリリアに届かないんだ。こればかりはもうどうしようもない。弱いと認めざる得ない」


 己の拳をギュッと握り締める。


「俺がどうして真の仲間じゃないと切り捨てられたのかわかるか?」


 リリア様は首を横に振った。


「俺がいなくてもパーティが回るようになったからだ。

 俺ができることは、どこまで行ってもほかの奴もできるようになることだったからだ。

 最初は色々とサポートに徹したよ。

 家事や交渉術は孤児院でいやというほど叩き込まれたからな。

 ほかの奴よりはできる自信はあった。

 現に最初はそれで上手くいったよ。

 わざとそういうパーティを選んだというのもあるけどな。

 でも、どんなにダメなパーティでも経験を積めば成長していく。

 徐々に俺の力なしでも上手くいくようになった。

 そうなれば俺はもうお払い箱だ」


 大変な環境でも必要としてくれる人がいるなら力が出る。

 しかし、必要とされていないなら何のために頑張ればいいのかわからなくなる。

 ミスも多くなってしまう。

 自信が持てなくなるからコミュニケーションもままならなくなる。


 その失敗を何十回も繰り返した。

 だからこれ以上俺は失敗をしたくなかった。


「俺はいま上手くやれている。

 奴隷という絶対に裏切らない『真の仲間』を手に入れて、自分のやりたいように冒険者生活を送れている。

 俺はこんな人間だ。

 お前を都合の良いように扱っているだけだ。

 俺はお前が思っている以上に俺は卑怯な奴なんだ」

「たしかに卑怯者かもしれないわね。アナタの気持ちはリリアにも伝わったわ」


 リリア様は静かに答えた。

 リリア様は怒っているだろうか。

 いや、怒っているに違いない。

 俺だって自分を物扱いされたら怒る。

 しかし、リリア様は分別が取れてる。

 たとえ怒りの感情が湧いても奴隷として俺の望む答えを返してくれる。



 しかし、リリア様は俺の予想しない返事をした。



「私は、それについての答え合わせなどしたくないわ」

「え?」

「今のご主人様は悲しそうな顔をしているもの。奴隷のリリアではなく、本当のリリアと関わりたいと思っているんじゃないのかしら?」

「……そうかもな」


 リリア様はすべてお見通しだった。


 たしかに奴隷は便利だが俺は『二人のリリア』とこんな関係を望んでいない。

 もっと対等な関係でありたい。

 でも、俺にはそれだけの勇気がなかったのだ。

 奴隷の首輪を外すという一歩を踏み出す事ができなかった。

 もし外せば、いずれリリアが俺の前からいなくなってしまうのではないかという不安があった。


「ご主人様は今も悩んでいるのかしら?」

「…………ああ。だけどもう大丈夫だ。リリアのおかげで吹っ切れた。今から奴隷の首輪を外すよ」


 リリアにはお世話になってきた。

 もうこれ以上彼女を縛るなんて俺にはできない。

 リリアに逃げられたらその時はその時だ。

 今度はもっと上手くやればいい。

 クラウスにも言った言葉を今度は自分自身に繰り返す。


「首輪を外す必要なんてないわ」

「え? でもそれじゃリリアは……」

「この私をナメないでちょうだい」


 リリア様はスキル解除ボタンを押した。

 変身前のリリアに戻る。

 リリアは大太刀を出現させる。

 そして。



 剣の刃先を俺の首元に突きつける。




「動いたら殺します」

「え? ええ!?」

「喋ると首を跳ね飛ばしますよ!」


 はい。

 リリアの突然の暴走。

 だがリリアよ。わかっているのか。

 ご主人様が死ぬと自分も呪いで死んでしまうんだぞ。


「死んでもいいです。ご主人様のいない世界に価値などありません」


 リリアははっきりとそう答えた。


「ふっふっふ、変身前の私だってこんな事ができるんですよ。ご主人様の生殺与奪の権利は私が握っております」


 リリアは楽しそうにそう言った。

 リリアの本気は伝わった。

 わかった。わかったからもう剣を下ろしてくれ。


「ダメです。ご主人様にはもう少しこのままでいてもらいます。今日からアナタのご主人様はこの私です」

「ファ!? いきなり何を言っているのリリアちゃん!?」

「ご主人様は私の痛みを愛で満たしてくれました。たとえ偽善であっても私が救われたことは変わりありません。だからこれが本当の気持ち……」


 リリアは大太刀を横に振りかぶる。


 直感でわかった。

 これは見せかけではなく、本当に刀を振るということが。

 リリアは大太刀を思いっきり横に振りぬく。

 刃先は俺の首に吸い込まれていく。

 俺は咄嗟に屈んだ。

 必然的に目線が低くなることになる。


 そして、気がつくと、俺はリリアにキスされていた。

 そのまま後ろに押し倒された。

 すでに剣を投げ捨てており、俺に全体重をかけながら首の後ろに手を回すリリア。

 そのまま何度もキスをする。


「リリアはご主人様が好きです。大好きです。だからリリアの愛を受け取って下さい。ご主人様、誰よりも愛しております。嘘ではありません、本当です」


 俺は唖然となる。


「リリア」


 リリアの目から大粒の涙がこぼれ落ちている。

 俺の頬に落ちて、ゆっくりと頬を伝う。

 その一粒一粒が俺の心の底にある空っぽの泉を温かく満たしていく。


「はい、ご主人様。私はリリアです。アナタの事が世界で一番大好きな本当のリリアです」

「リリア……。お前は本当のリリアなんだよな?」

「はい、ご主人様。奴隷としての今のリリアが本当のリリアなのです。100%のリリアです。ご主人様は今の私を見ても信じることができませんか?」


 俺は彼女の濡れた頬を撫でる。


「今なら信じることができる。リリアの鼓動から大好きという気持ちが伝わってくる」


 リリアの背中に手を回してこちらからも抱きしめる。

 どうして今まで気づかなかったのだろう。

 リリアはこんなにも正直に気持ちをぶつけてくれたのに。

 俺は本当にバカだなぁ。


「ご主人様が馬鹿なのは最初から知っています」

「おい。今めちゃくちゃ失礼なこと言ったぞ」

「流石ですご主人様!」


 その場の勢いでごまかされた。

 まあいいか。事実だし。無理に否定しようとは思わない。


 とはいえ、いつまでもこのえっちな体勢はマズイな。

 誰かに見られたら面倒なことになる。

 リリアの背中をトントンと軽くたたいた。

 リリアは名残惜しそうであったが俺の上からどいた。


 リリアを見つめる。

 どんなに落ち込んでいても透明な何かで心が満たされていく。

 リリアの事を考えると胸が温かくなる。


 これはなんていう気持ちなのだろうか。

 リリアが笑顔を見せる。

 その笑顔を見て、答えがすぐにわかった。

 多分、これが『誰かを好きになる』という気持ちなのだろう。


「ご主人様。お願いがあります」

「なんだ?」

「私の首輪はこのままにしておいてくださいね」

「理由を聞かせてくれ」

「これは絆の首輪です。私とご主人様の絆の証なのですから外す必要なんてありませんよね」

「そういうものなのか?」

「つけている本人がそう言っているんですからそうですよ」


 そういうものらしい。

 リリアが納得しているならそれでいい。


「あっ、すると問題がありますね。奴隷の首輪ではないのですから、ご主人様への呼び方で困ってしまいます」

「シルヴィルと呼び捨てでいいぞ」

「わかりました。ではこれからもご主人様とお呼びしますね」

「おい。前後の会話がかみ合ってないぞ」

「だってー。本当はご主人様も、名前呼びよりも、ご主人様と呼ばれるほうがお好きなんじゃないんですか? だってご主人様、ご奉仕してるときにご主人様と呼ばれるとすごく嬉しそうですもん」


 よく観察している。

 それは事実だ。でも仕方ない。

 ご主人様と呼ばれて喜ばない雄はいない。


「でも、ご主人様がどうしてもと言うのなら、たまには下の名前で呼んであげてもいいですよ、『シルヴィルさん』」


 リリアは楽しげに微笑んだ。

 どうやら彼女は小悪魔属性を身につけてしまったらしい。

 ただ、これまでみたいに全肯定奴隷ちゃんされるよりもずっと嬉しい。


 たぶん。


 この関係が俺が望んだ『真の仲間』なのかもしれない。


メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ