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第12話:音爆弾

 リリアから地図マップを受け取った。

 現在の状況をすぐさま確認する。

 彼らが向かっているその先にはデビルラビットの群れが待ち構えていた。

 その数はゆうに50体を超えるほどだ。


 最後の一匹はやはり囮だった。 

 奴らは自分達のテリトリーに敵を陽動する戦術を好む。

 いくら二人の戦法が強いとはいえ、囲まれてしまえば無力だ。

 あっという間に連携が崩壊して殺されてしまうだろう。


 自分のしでかしたミスに頭を抱えた。

 完全に油断していた。

 奴らを甘く見ていたのだ。


 俺自身が地図を見ていなかったことが一番の原因だ。

 リリアが見てるからヨシ!

 俺の怠慢がこういう事態を招いてしまった。


 彼女に責任転嫁だけは絶対にしたくない。

 すべての責任は俺一人にある。


 だが諦めるのはまだ早い。

 俺は最悪の事態に備えていつも準備を心掛けてきた。


 今回だってそうだ。

 市場で『アレ』を買ってきたのも、今回の事態を予測したからだ。


 俺は大きく息を吐いた。


 神は乗り越えられる試練しか与えない。

 これは『星神ステラ』が俺に課した試練なのだ。

 マルスとレラを救い出してこの状況を打開する。


 俺の心に決意がみなぎる。


「緊急事態が起きた。俺はこれから二人を追いかける」

「ええ!? 二人の身に何かあったんですか?」

「どうやら『運悪く』奴らに囲まれたようだ。このままでは長く持たない」

「そ、それは大変です! 早く助けに行かないと!」


 リリアはついてくる気満々だ。

 しかし、リリアを危険に晒すわけにはいかない。

 流石に危険すぎる。

 秘密兵器のリリア様だって、こういう状況での強さは未知数だ。

 まだまだ実戦投入は厳しい。 


 やはりベテランの俺が決めるしかない。


「リリアはここで待機してろ。俺一人で行く」

「そんな! 危険ですよご主人様! ご主人様には戦う力がありません。ここは私もお供します!」

「案ずるな。今回は秘策がある」

「秘策?」

「そうだ。とっておきの秘策だ。戦う力がなくとも頭を使えば勝てない勝負なんてないんだ」

「ご主人様の頭の中は煩悩しか入ってないじゃないですか」


 この子たまにひどい事言うよね。

 俺だって人間だから傷つくんだが?


「とにかく、リリアも俺を信じてほしい」

「ご主人様には死んでほしくありません」

「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だ。そのための秘策なんだ」

「……わかりました。ご主人様を信じます」


 リリアも納得してくれた。


 地図を辿って二人の元へと急いだ。

 二人はすぐに見つかった。

 しかし、状況はさらに悪くなっていた。


 二人は全身を負傷していた。

 とても疲労しており、

 レラにいたっては、杖の支えがなければ立つことすら困難な状態だ。

 奴らは二人をぐるりと囲むように密集している。


「……油断した。まさかこんなに数がいるなんて思いもしなかった」

「シルヴィルさんの言っていたことは本当だったのですね」

「悔しいがその通りのようだ。レラよ、足の怪我は平気か?」

「ちょっとまずいかも。右足に力が入らない」

「くっ、万事休すか……!」

「ううん。一つだけ方法があるよ。私がこれからウィングで道を作るから。だからマルス君だけでも逃げてください」

「馬鹿野郎!! お前を見捨てて逃げるなんてできない! そんなことするくらいならここで俺も死んだほうがマシだ!!」


 マルスの言葉にレラは涙を浮かべる。


「マルス君。もしここで死んだら一緒に天国に行こうね」

「……ああ。お前を一人ぼっちにはさせないから安心しろ」


 聞いているこっちまで恥ずかしくなってくる会話の数々。

 俺は前世で何か悪いことでもしたのだろうか。

 冗談はさておき、二人を助け出すのは中々骨が折れそうだ。

 だが不可能ではない。

 そのための準備もしてきた。


 俺は草むらをかき分けながら群れに近づいていく。


 デビルラビットの一匹が俺に気づいて襲い掛かってくる。

 額には鋭利な角が飛び出している。

 アレに刺されたらひとたまりもないだろう。

 だが問題ない。



 『召喚の加護』を発動する。

 俺の右手に音爆弾が呼び出された。

 襲い掛かってくるデビルラビットの目の前に音爆弾を放り投げる。

 額にぶつかった衝撃で音爆弾が爆発する。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!


 大きな爆発音が鳴り響いた。


「~~~~~!?!?」


 目の前のデビルラビットだけでなく、離れた位置にいるデビルラビットまで気絶した。

 俺は耳栓をつけているのでノーダメだ。


 今回の秘策。

 それは『音爆弾』だ。

 デビルラビットは聴覚が異常に発達している。

 数キロ先の足音ですら探知するほどだ。

 その聴覚を逆に利用したのが今回の音爆弾。

 彼らは音爆弾にはめっぽう弱く、近くで使用するだけで失神するほどだ。


 肝心の音爆弾であるが、

 アイテムボックスから『召喚の加護』を使って瞬時に取り出したのだ。

 『召喚の加護』とはアイテムボックスに付属している強力な加護。

 アイテムボックスを開かずとも瞬時にアイテムを取り出すことができる。


 普段は使用しないが今のように混戦状態ならかなり強い。

 なんせアイテムボックスの中身がすべて手札みたいなもんだからな。

 今度は別のデビルラビットが向かってくる。


 ふたたび『召喚の加護』を使う。

 新しい音爆弾を呼び出して放り投げる。

 また大きな爆発音が響く。

 今度は十匹もの数が気絶した。


 音爆弾のストックならたくさんあるぜ。

 市場からたくさん買ってきたからな。

 この戦闘がおわるまで音爆弾のストックが尽きることはないと思え。


 いつの間にか、奴らにとっての脅威対象が俺一人に変わっていた。

 奴らは次々と突撃してくる。


 だが甘いな。

 攻撃が単調すぎる。

 地図を確認しながら奴らの攻撃順番を予測し、攻撃をかわしていく。

 挟み撃ちに合わないように注意しながら音爆弾を投げていく。


 デビルラビットの数が残り一匹となった。

 最後の一匹はガッツがある。

 音爆弾でも気絶せず、そのまま角攻撃を仕掛けてきた。


「惜しかったな。その攻撃は俺に届かない」


 今度は音爆弾ではなく、『長剣』をアイテムボックスから呼び出した。


 デビルラビットを刃で受け流し、すり抜けざまに奴の首筋に剣を叩きこんだ。

 いわゆるカウンター攻撃というやつだ。

 最後のデビルラビットも気絶した。


 すべてのデビルラビットを気絶させることができた。

 俺は二人の元へと向かった。

 二人は唖然とした表情を浮かべていた。

 俺に助けられたのが未だに信じられないようだ。


 彼らの怪我を治さないといけないな。

 二人の怪我の度合いをチェックする。

 傷は多いが命に関わるほどの傷は受けていないようだ。

 とはいえ、今回は俺の不注意が招いた結果でもあるので、責任をとってスーパーポーションを渡した。


「二人とも怪我をしているな。ひとまずこのポーションを使って体の傷を治すといい」

「あ、ありがとうございます。シルヴィルさんには色々と迷惑をかけてしまいましたね」

「謝るのはこっちだよ。俺の不注意のせいで二人に危険な思いをさせてしまった」

「どうしてシルヴィルさんが俺たちに謝るんですか! シルヴィルさんは俺たちを助けて下さった命の恩人なのに!」


 マルスが強い口調でそう言った。


「マルス君、シルヴィルさんはいったい何者なんでしょう?」

「もしかして勇者様かも知れない」

「な、なるほど! たしかにそれなら全て説明がつきます。あの強さはまさしく勇者様です!」


 二人は俺に視線を戻す。

 その瞳には憧れと感動が宿っていた。


「「この方が勇者様」」


 俺が勇者?

 とても悪い冗談だ。

 二人はとんちんかんな事を言っている。


「いきなりどうした? 頭でも打ったか? 俺が勇者なわけないだろ」

「勇者様! 音爆弾をあんなふうに扱うなんてとても勉強になりました。本当に感動しました!」

「今まで本当にすみませんでした! どうか俺の無礼を許してください! 勇者様!!」


 頭が痛くなってきた。

 彼らは何度も勇者と言葉を繰り返した。


「勇者勇者と俺を崇めたい気持ちはわかったから早くポーションを使って傷を治してくれ。頭が痛くなる」

「「わかりました勇者様!」」


 二人は同時にそう答えた。

 早く回復して動けるようになってもらわないと困る。

 デビルラビットも気絶させただけでまだ生きてるし。


 傷の手当てが済んだのですべてのデビルラビットにとどめを刺していく。

 俺はパワーが低いので気絶させるのが関の山だからだ。

 とどめはすべて二人にやってもらった。



「ふう。これで全部ですか? シルヴィルさん」

「マップ上を確認した感じだと、すべての奴が倒されているな」

「やっと終わりました。シルヴィルさんが駆けつけていなかったら今ごろあの世行きでした」


 疲れ果てたレラがその場に座り込んだ。


「まったくだな。シルヴィルさんには頭が上がらないよ。シルヴィルさん、俺たちを助けてくれて本当にありがとうございます」

「冒険者として当然のことをしたまでだ」

「もう一度聞きますけど、シルヴィルさんは本当に何者なんですか? あんな洗練された立ち回りができる冒険者みたことありませんよ」

「訓練したからな。いずれ二人もできるようになる」


 七年も冒険者をしているんだ、俺だって『気配を感じる』くらいできる。

 地図と気配の二つを駆使すれば、集団での立ち回りもそう難しくない。

 

 俺ができる事は、経験を積めば自然とできるようになる。

 彼らにはその経験がなかっただけだ。

 俺はどこまでいっても凡人だよ。



 仕事を済ませたらリリアの元へと戻った。

 結構な時間放置していたので、リリアはとても拗ねていた。

 ご機嫌斜めだ、スキンシップも断られてしまった。

 とても残念だ。


「リリアさんの事は私に任せてください」

「頼む」


 女の子同士だからなんとかしてくれるだろう。


 ふと、マルスに視線を向ける。

 マルスは暗い顔をしていた。


「どうしたマルス。そんな暗い顔をして。クエストが達成できたんだからもっと明るい顔をしろよ」

「……シルヴィルさん。俺は、俺は本当にダメな人間です」

「どうしたいきなり」

「……俺はレラを守れなかった。己の強さに自信があったのにこのざまです」

「失敗なんて気にするな。今度は上手くやればいい」

「でも……!」

「レラの事が好きなんだろう。じゃあまた頑張れるはずだ」


 マルスの顔面が真っ赤になった。


「ど、どうしてそれがわかったんですか!?」


 あんなの誰が見てもわかるだろ。

 どうやらマルスは気づかれていないと思っていたようだ。


 マルスの頭に手を置いて、優しく頭を撫でる。


「マルスよ。お前は俺とは違ってとても強い。だから自信を持て。レラを守りたいという気持ちがある限り、お前はどこまでだって強くなれる。俺が保証しよう」


 マルスは己の涙を擦る。


「ありがとうございます、シルヴィルさん」

「気にするな。先輩冒険者として当然のことをしたまでだ」

「シルヴィルさんは俺の人生の師匠です。師匠と呼ばせてください!」


 勇者様の次は師匠か。

 忙しい奴だな。

 もちろん師匠という柄ではないので丁重にお断りしたが、マルスは俺の事を師匠と崇拝してやまなかった。


 やれやれ。

 面倒な奴と知り合いになってしまった。


 あの後ポータルで帰還したわけだが、ポータルの使用でますます尊敬されることになってしまった。

 リリアの社会見学として同行しただけなのに、

 なぜ俺が彼らの指導をするはめになってしまったのだろう。




 王都に帰還して一週間が経った。

 俺はいま宿屋でリリアと戯れている。

 いつものようにスキンシップだ。

 リリアもだいぶ俺になれてきたようで色々なご奉仕をしてくれるようになった。

 リリアに肩を揉んでもらっている。

 健全なご奉仕の定番といえばこれだ。


 リリアのマッサージは最高だ。

 パワーがあるから全身に伝わってくる。


「あー、そこすごく気持ちいいよ」

「ご主人様が喜んでくれてリリアも嬉しいです」

「リリアはマッサージの才能がある。マッサージ屋を開いてみないか?」

「そう言っていただけるのは大変名誉なのですが、私はご主人様だけの奴隷です。リリアはご主人様だけにご奉仕をしたいと思っております」


 リリアが耳元で囁いた。

 とても蠱惑的な言葉だ。

 俺の聖剣も反応してしまった。

 いかんいかん。

 あやうくえっちなスキンシップに発展しそうだった。


 色欲まみれの頭を振り払うように明日の予定を考えてみる。


 明日はなにをしようかな。

 いまのところ候補は三つある。



 1、リリア様とデートする。

 2、リリア様とデートする。

 3、リリア様とデートする。



 とても悩むな。

 リリア様とデートするしか候補にない。

 本当はリリアの技術面を強化したり、がんばったリリアにご褒美を与えたりなど色々とやる事があるのだが、俺の下半身はリリア様とイチャイチャすることしか頭にないようだ。


 リリア様とも最近会ってないし、そろそろおれの聖剣がリリア様を欲している頃合い。


 リリア様の検証という名目で己の聖剣を満足させよう!!

メインスキル

○地図

 ・索敵機能

 ・罠探知機能


オプションスキル

○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。

○ポータル 登録した三地点へのワープ機能。

○召喚の加護 アイテムボックスと接続できる。瞬時に取り出すことも可能

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 送還の加護 マップ上の地点にアイテムを送り込む、とか出来そう。 [一言] うーん、斥候系上位者だよねー、敏捷以外?は。 壁登りとかはわからないけど体力も移動力もあるし、敵の仲間だと…
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