第11話:クエストの同伴
青年の名前はマルス。
少女の名前はレラ。
二人は幼馴染で同年齢。
彼らはルーゼンベルグという小さな町から半年かけてやってきた。
マルスは前衛の剣士、レラは後衛の魔法使い。
王都までの道中でたくさんの魔物を倒したらしく、実戦経験も豊富。
なんと大型の魔物であるレッドベアまで倒したとのことだから大したものだ。
「どうだすごいだろう。第二級魔物認定のレッドベアまで倒したんだぜ。第四級なんかには遅れは取らない!」
「いやいや、うちのご主人様も負けてはいませんよ。なんせゴブリンにも勝てないんですから」
リリアちゃんよ。
そこは自慢するポイントじゃない。
むしろ逆効果だ。
「私達はずっとコンビで戦ってきました。私が魔法でサポートして、マルス君が強力な一撃で魔物を倒す。自慢ではありませんが実戦でまだ一度も負けたことがないんですよ」
サポート&アタック。
単純ではあるが決まれば強い戦法だ。
王都を出発して二日。
デビルラビットの出現場所であるマルータの森に足を踏み入れる。
徒歩で向かったのでここまで二日ほどかかった。
「少し疲れているみたいだな、リリア」
「いいえ。森で暮らしていたので体力には自信があります」
リリアの表情には疲労の色が見え隠れしている。
「無理をするな。顔に出てるぞ。次の休憩ポイントまでおんぶしてやる」
「ご主人様にそんなことをさせるわけには……」
「俺の事は気にするな。リリアはもっと俺を頼っていいんだ。リリアのために何でもすると約束した。だから、これくらいの事ならいくらでもさせてほしい」
「わかりました。ご主人様。少し背中に失礼します」
「ほいきた。手が塞がってしまうから地図の確認だけは頼めるか?」
「はい、任せてください」
地図を手渡してリリアを背負った。
リリアは俺の代わりに地図を確認している。
俺の地図スキルは俺が許可すれば他人も見ることができる。
地図の読み方はすでに教えているので問題ない。
「シルヴィルさんはすごいですね」
「え? すごいってなにが?」
レラが感心した顔で俺に話しかけた。
なにかすごいことをしたっけ?
「二日も歩いているのに全然疲れていません。料理もお上手だし、地図も正確に読めています。私たち二人なら森の中で迷ってしまってこんなに順調に歩けませんよ」
「これでも七年近く冒険者をやっているからな。雑務は人並みにできるよ」
「そんなことありませんよ。私達なんて半年も冒険者やっているのに未だに野宿の準備に時間がかかるんですよ。野宿中に奇襲されることもよくありますし。そういう意味ではシルヴィルさんと一緒にいると安心できます」
レラは俺を絶賛した。
褒められたら嬉しい。
俺は柄にもなく照れてしまう。
「だが弱ければ意味がない」
マルスがそう言った。
彼の言葉には明確な悪意があった。
「……マルス君。まだ言っているの」
「だってよぉ。レラったらここ二日間、あいつを褒めっぱなしじゃないか」
「もしかして嫉妬しているんだー。かわいいー」
「別に嫉妬なんてしてないし!」
「あはは、事実だからしょうがないじゃん。評判ほど無能ってわけじゃないし、むしろ優秀だよ。私たち経験の浅い冒険者にとって、一番必要なのは、シルヴィルさんみたいな熟練の冒険者だよ」
「けっ、なにが熟練の冒険者だ。冒険者で一番大事なのは戦う力だ。戦えない奴はどんなにベテランでも戦力外だ!」
機嫌が悪くなったマルスは石ころをつよく蹴った。
「ごめんなさい、シルヴィルさん。マルス君は頭が固いから、一度決めつけると言ってもなかなか聞かないんです」
「別に気にしてない。慣れているからな」
マルスと同じ評価をする冒険者はたくさんいた。
悲しいことに嫌味に慣れてしまったのだ。
俺も大人だ。
これくらいで怒ったりはしない。
「流石シルヴィルさん! マルス君と違ってとても優しい。マルス君とのパートナーをやめて、私もシルヴィルさんのパーティに入っちゃおうかなぁ~」
「なっ!!?」
マルスはひどく動揺した。
レラはいじわるな笑みを浮かべてマルスを挑発する。
口の端から見える八重歯がチラリと光る。
「お、おいそれは本当かよ!?」
「ん~~? どうしたのマルス君? そんなに動揺しちゃって」
「アイツのパーティに入るって話だよ!」
「マルス君の態度によるかなぁ。そうやって、いじわるな事ばかり言うんじゃ、私もマルス君のことを嫌いになっちゃうかも」
「ぐっ……!」
「マルス君。他人の良い所は素直に褒めないとダメだよ」
「わかったよ、アイツが優秀なことは認めるよ。だからその、俺のパートナーやめるってのは……」
「むぎゅ~!」
レラはマルスに抱きついた。
マルスは顔を真っ赤にして慌てる。
「あわわわわわ!? ど、どうしたんだよ、急に抱きついたりなんかして!? は、恥ずかしいだろ、離れてくれよ!」
「やーだっ! だって私はマルス君の事が大好きだもん。絶対に離さないよー!」
たいへんいちゃついておられる。
これだからカップル冒険者は困る。
とはいえ、レラは結構やり手だな。
扱いづらいはずのマルスを手玉に取っている。
「せめて魔物でも出てきてくれたらかっこいい所見せてあげんのによー。誰かさんのせいで全然エンカウントしないじゃないか」
「魔物と会わないことは良い事ですよ」とレラが言った。
「はやくデビルラビットの奴出てこないかなぁー」
地図スキルのおかげでこの森にいるすべての魔物の位置がわかる。
魔物とエンカウントしなければその分早く進める。
疲労も蓄積しない。
少しでも体力を温存してほしいという善意のつもりでやっているが、血気盛んな彼にはあまり伝わらないご様子。
こればかりは仕方ない。
冒険者は血の気が激しい奴が多い。
魔物と戦うのが好きだから冒険者を続けている奴もいるくらいだ。
「ご主人様。もし魔物が出てきたら私はどう動けばいいのですか?」
「今回は戦う必要ない。俺の背中の上で、彼らの戦いを見学すればいい」
「ええ!? 私戦わないんですか!?」
「今回はいわば体験授業だ。リリアよ、彼らの戦い方から魔物との立ち回り方を学んでくれ」
「まさかご主人様。そこまで考えて彼らと同行することを決めたのですか!?」
「当たり前だ。善意だけで助けようなんて俺はお人よしじゃない」
「流石ですご主人様!」
デビルラビットが怖いといっても所詮は第四級。
彼ら二人なら問題なく倒せるだろう。
俺達はあくまで保険だ。
「あっ、ご主人様! デビルラビットのマークがありました。まっすぐの方向へ、ここから500メートル先にいます」
「ついにお出ましか」
リリアの言葉通り、数分ほど歩くとデビルラビットを見つけた。
身長は一メートルほど。
意外とでかい。
リリアは背中の上から彼らの詳細情報を伝えていく。
デビルラビット
兎族 レベル3
デビルラビット
兎族 レベル5
デビルラビット
兎族 レベル7
「デビルラビットが三匹もいますね。奥のラビットがレベル3。手前がレベル5です。少し距離が離れている所にいるのはレベル7です」
「よっしゃ! ついに見つけた!」
マルスは長剣を構える。
「マルスよ。デビルラビットは初めてだったな。あの角に注意しろ」
「わかっているって! 心配すんな、俺は強えから! レラ! 行くぞ!」
「はいはーい! リリアさん、シルヴィルさん、私たちの華麗なる戦いをとくとご覧あれ!」
マルスは剣を下に引きながら突撃する。
レラもマルスの背中を追う。
デビルラビット達も臨戦態勢に突入する。
戦闘が始まった。
マルスは彼らの角に注意しながら眼前まで接近して横斬り。
鋭い一撃はデビルラビットの胴体を容易に真っ二つにした。
一匹目を処理できた。
「援護します! ウィング!」
ポケットからカードを出して前方に投げる。
カードはクルクルと横回転。
杖の先端でカードの表面を小突くと、
『カーン』という音と共に風魔法のウィングが発射された。
風は物理的な質量を持っており、
あっという間に残りの二匹を絡め捕った。
動きを封じられた所をマルスが攻撃。
ズドンズドンと重い一撃を当てて葬っていった。
戦闘開始からほんの5秒ほどでデビルラビット三匹を撃破。
たしかに強い。
彼らの強い自信も頷ける。
「驚いたな。二人ともかなり強いじゃないか」
「だから言っただろう。町から王都まで何度も魔物と戦ってきた。俺の『虎剣』は誰にも負けないぜ!」
マルスはドヤ顔で答えた。
「虎剣とはなんですか?」
リリアが質問する。
リリアは森暮らしが長く、虎剣の存在を知らないようだ。
いずれ詳しく説明しないといけないな。
今回は虎剣の概要だけ伝えておくか。
「世界三大流派の一つだ。大型魔物を倒すほどの威力がある剣を得意とする」
「はへー。なんだかすごそうですね」
「お前のパワーをそのまま剣に乗せたような剣だよ」
「それって褒めているんですか~?」
虎剣は威力が高い反面、地面を踏みしめながら戦うので集団での立ち回りが悪くなる欠点もある。
でもその弱点はレラの風魔法でカバーできる。
それが攻守ともに隙のない連続攻撃を可能としている。
「それに加えて攻撃スキルの『連撃』を使えば、あのオークだって数秒で倒せるぜ」
「また始まった。調子に乗るとすぐに自慢する。そういうところ良くないと思うよ」
「仕方ないだろー。事実なんだから。どうだシルヴィル、俺はすごいだろう!」
「たしかにお前はすごい。ここまで強い虎剣を見たのは生まれて初めてだ」
「へへん。まいったか!」
「負けてしまったよ。俺の降参だ。マルスよ、お前ほどレラに相応しい剣使いはおるまい」
「はははは、わかればいいんだよ」
単純な性格で助かる。
ポイントさえ押さえればとても扱いやすい。
ニコニコ笑顔でマルスを見つめているレラに視線を移す。
俺の視線に気づくと、こてんと頭を横に傾けた。
「シルヴィルさん、私をじっと見つめてどうかしましたか?」
「魔法について聞きたいことがある」
「私が答えられる範囲なら答えますよ」
「コントロールが難しいとされる『ウィング』をかなり使いこなしていたが、レラは他にどんな魔法が使えるんだ?」
「他には『ヒーリング』と『ジャンプ』の魔法と契約しています。とはいえ、『ウィング』ほどは使いこなせておりません」
「ふむ。三つも使えるのか。二人とも大したものだな」
「えへへ。マルス君と一緒ならどんな敵にだって負けませんよ」
「ああ! レラの言うとおりだ! 俺とレラのコンビは最強だ!」
とても仲のいい良いコンビだ。
真の仲間というのは彼ら二人の事だろう。
機嫌が良くなったところで、今度はマルスの方から俺に話しかけてきた。
「そういえば、アンタ達はどうやって戦うんだ?」
「全部リリアに任せてるよ」
「男のくせに情けねえな……」
「うるせえな。仕方ないだろ。ステータス低いんだから戦おうにも戦えないんだよ」
「ふうん。そのお嬢ちゃんは強いのか?」
「パワーが360ある」
「ファ!? ウソやろ!? バーサーコングと同じ数値じゃねえか!」
「そうだよ。俺の後ろにはバーサーコングがいるんだ。あまり失礼なことを抜かすとお前の首を引きちぎいたただがだあだだああ!? リリアさんやめてください!? 首がへし折れる!」
「ご主人様は私をモンスターか何かだと思っていませんかー?」
「おかしな二人だなぁ!」
俺とリリアの様子を見て、マルスは呆れ、レラはニコリと笑った。
デビルラビットのおかげで多少は打ち解けたようだ。
ありがとうデビルラビット。
素材を回収してまた歩き始める。
「魔物はまだ残っているか?」
「まだまだいますよ。北の方角に五匹もいます」
「よっしゃ! どんどん行くぞ!」
俺達四人はどんどん進んでいく。
順調にデビルラビットを倒していく。
この様子だと『アレ』を使う必要もなさそうだな。
二十体のデビルラビットを倒したところだろうか。
今回も危なげなく勝利した。
視界の端にデビルラビットがまだ一匹残っていることに気づいた。
「あれはレベル8ですね」
と、リリアが丁寧に補足する。
デビルラビット
兎族 レベル8
そいつはこちらに向かってくることなく、チラチラとこちらを見ながら俺達から距離をとっていく。
この妙な動き……。
まさか。
嫌な予感がした。
「おらおら! 待ちやがれ!」
「マルス君待ってよ~。一人じゃ危ないよ~!」
「おい待て二人とも! そいつを追うな!」
二人はデビルラビットを追って森の奥へと走っていく。
あっという間に見えなくなった。
俺は舌打ちする。
「どうかなさったのですか?」
デビルラビットは誘い込みが得意。
アイツは囮だ。
このままだと二人が危ない。
メインスキル
○地図
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オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
○ポータル 登録した三地点へのワープ機能
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