第10話:ゴブリンスラレイヤー
※マルスとレラは別の作品にも登場しますが別人です。
世界観は根幹からまったく異なるので、そっくりさんだと思ってくだされば幸いです。
あれから一週間が経った。
俺たちは順調にクエストをこなしていた。
リリアはとても優秀だ。
どんな魔物に対しても怯むことなく勇敢に立ち向かっている。
戦闘にも徐々に慣れてきた。
横斬りだけでなく、高速の踏み込みから連続攻撃などもできるようになった。
とはいえ、課題点も多い。
彼女は複数の相手と戦った経験が少ない。
敵の数が二体以上に増えると急に動きがぎこちなくなる。
また、何事も慣れ始めが一番危ないものだ。
油断すると足元をすくわれるかもしれない。
気を抜かないようにしていきたい。
今は一歩ずつ着実に前進を目指す。
俺達は依頼を受けるために冒険者ギルドに向かった。
さてさて。
今日はどの依頼を受けようか。
リリアを上手く生かしていきたい。
パワー360の超絶最強バーサーコングだとしても、パワーをぶつける相手がいなければ意味がない。
宝の持ち腐れだ。
土木業のクエストはどうだろう。
パワー360だから力仕事は得意なはずだ。
いや、やめておこう。
俺が耐えられない。
俺はパワー23。
リリアちゃん助けてーってなるのが目に見えている。
男として超絶かっこ悪い所を見せてしまう。
パーティは信頼関係が大事だ。
金を稼ぎながら俺の信頼も同時に上げていきたい。
偶然、マザーゾンビの討伐依頼を見つけた。
名前の通り、ゾンビを次々と生み出す化け物だ。
第一級魔物認定を受けている。
奴自体は雑魚だが、取り巻きのゾンビがウザい。
「リリア様なら簡単に倒せるのでは?」
ふと頭をよぎったのはリリア様のワンパンだ。
取り巻きのゾンビなんて、リリア様からしてみれば障害物でもなんでもない。
いや、リリア様の力を過信するのも良くないな。
彼女の力は未知数だ。
今回は見送る事にしよう。
初級クエストのハーブの採取依頼を手に取った。
「受付嬢さん。これにするよ」
「はい、わかりました。ハーブの採取ですね」
依頼掲示板の所にいるリリアを観察していると、受付嬢から急に話しかけられた。
「シルヴィル様」
「ん? なんだ?」
三つ編みで眼鏡をかけている美人さん。
赤い瞳でこちらをじっと見ている。
彼女は三年前から受付嬢をしている。
あまり会話したことはない。
顔馴染みではあるが仕事上の付き合いだけだ。
「最近、アナタに笑顔が戻ってきた気がします」
「……笑顔?」
「はい、笑顔です。笑った顔をよく見るようになった気がします」
「気のせいだろう。ギルド内で笑った記憶はない」
「リリア様と一緒にいるシルヴィル様は、とても幸せそうですよ」
受付嬢は微笑んだ。
「頑張ってくださいね」
「……ありがとうな」
「感謝は必要ありません。冒険者を正しく送り出すのも受付嬢の役目ですから」
自分の表情なんて一度も意識したことがなかった。
他人にはそう見えていたのか。
たしかに心当たりはある。
リリアと一緒にいると、とても安心する。
リリアにハーブの依頼を受けることを伝える。
「ご主人様のためにがんばります!」
とても張り切っている。
彼女の頭を撫でる。
ギルドをあとにしようと思ったその時だ。
「うーん! これを受けるか!」
「デビルラビットの討伐ですか。第四級なら余裕ですね!」
男女のカップルっぽい冒険者を見つけた。
彼らはデビルラビットの討伐依頼を引き受けている。
デビルラビットか。
第四級魔物認定を受けている魔物。
単体だと大したことがないが、誘導が上手いので油断すると囲まれて袋叩きに会いやすい危険な魔物。
彼らの服装を見る限り、駆け出しの冒険者という雰囲気が残っている。
誘導慣れしているとは思えないが大丈夫なのか。
たくさんのパーティを経験しながら冒険者を続けてきたので、冒険者の資質を見るのはわりかし得意になった。
彼らの実力はCランクってところだろう。
実力はあるが経験不足。
そんな感じがする。
「失礼ですが……」
俺の方から彼らに話しかける。
「なんでしょう?」
「デビルラビットの討伐歴はあるのか?」
「もちろんないけど何か問題でも」
これは危険だな。
デビルラビットは一度経験しておかないと足元をすくわれやすい。
青年は不審な目で俺を見ている。
「どちら様ですか?」
「俺はシルヴィルという冒険者だ」
「お前があのS級敗北者のシルヴィルか。お前の噂ならよく聞いている。雑魚過ぎてまたパーティに捨てられたんだってな」
とても不名誉な通り名が飛び出してきた。
青年は俺を指差して笑う。
すると青年と同世代だと思われる少女が青年を注意する。
「ダメだよマルス君。人をステータスだけで判断しちゃ。ステータスと評価は平均値っていつも言ってるよね」
「こいつは平均以下のステータスだし、ギルドの評価も最低だぞ。ミスばかりして他のパーティに迷惑をかける無能なんだ」
「ええ!? 可哀想……」
少女にまで同情されてしまった。
「こほん。俺のことはいい。駆け出しのお前らに忠告しに来たんだ」
「なんだと!? S級敗北者のくせに俺たちを指図にするのか!」
青年は俺を怒鳴った。
するとリリアが怒りの顔で会話に割り込んできた。
「ご主人様は敗北者なんかじゃない!! いまの言葉を取り消してください!」
「リリア。やめるんだ」
「ですがこの男の人! ご主人様を馬鹿にしました!」
「乗るなリリア。ゴブリン倒せないのは事実だ」
「ご主人様は私を救ってくれました。ご主人様は、ご主人様は私の英雄なんですううううわああああああああああああん!!!」
リリアは感情を爆発させて泣き出した。
これには目の前の青年も唖然。
「あーあ。マルス君最低。女の子泣かせちゃった」
「お、俺が悪いって言うのかよ」
「当たり前じゃん。ちゃんと謝りなよ」
青年は慌てふためきながらリリアに謝罪する。
「ごめんなお嬢ちゃん。俺が悪かったよ。すこし言い過ぎた。大人げなかった」
「ひぐっ……! わかればいいんですぅ……!」
青年はため息を吐く。
「やれやれ、シルヴィルといったな。特別についてくることを許可してやるよ。俺たちが弱くないって証拠を見せてやる」
「よろしくお願いします。シルヴィルさん」
少女は丁寧にお辞儀した。
そういうわけで、俺とリリアは二人組の冒険者に同行することになった。
メインスキル
○地図
・索敵機能
・罠探知機能
オプションスキル
○認識阻害の加護 対象に対しての他者の認識を変化させる。
○ポータル 登録した三地点へのワープ機能
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