第1話:真の仲間じゃないので
「キミは真の仲間じゃない!」
「なんで?」
「キミが弱いからだ! そんな『ゴミスキル』じゃパーティの足を引っ張るだけ! だからキミにはパーティを抜けてもらう!!!」
そういうわけで、俺はパーティを三行で追放された。
「はあ……。これからどうしよう。このままでは冒険者として生きていけない」
パーティ追放から『一か月』が経った。
俺はフラフラと王都を彷徨っていた。
未だに新しいパーティが決まっていなかった。
俺の名前はシルヴィル。
王都で活動している冒険者だ。
冒険者歴は7年。
そろそろベテランの域に入っているだろう。
しかし、見てわかるとおり、俺の冒険者人生は順風満帆ではなかった。
平均を大きく下回るステータスに『ゴミスキル』と吐き捨てられるスキル。
俺は数々のパーティから戦力外として追放された。
それでも冒険者として生きていけたのは、
『地図』というスキルを持っていたからだ。
このスキルは決して弱くない。
現在位置をいつでも確認できる上に索敵能力もある。
上手く扱えばどんな戦闘スキルよりも役に立つ。
だから初心者パーティには歓迎された。
経験も少ないし、戦闘能力も低い。
俺のスキルを使えば安全に戦う事ができた。
しかし、どのパーティも成長していくと、索敵なしでも上手くいくようになった。
『気配を感じる』という力は、どの冒険者も持っているため、索敵を用いずとも気配だけで敵の位置がわかるようになるからだ。
ゆえに索敵のみで戦うことが一切できない俺はすべてのパーティからお荷物扱いされた。
元々コミュニケーション能力が高いわけではない。
天才肌というわけでもない。
自分の価値を見いだせなくなればミスも多くなった。
一回でも失敗をすれば鬼の首を取ったかのような態度で馬鹿にされた。
今回のパーティは比較的長続きしたほうであった。
約二年ほど一緒のパーティだった。
剣士のクラウス。
魔法使いのエディア。
プリーストのティオ。
武闘家のリン。
剣士のクラウスにスカウトされて加入した。
素の実力は高かったが経験不足だったので、冒険者歴の長い俺が色々とサポートした。
DランクからAランク。
時間こそかかったが、彼らの実力に相応しい最高ランクのAまで昇格することができた。
その矢先に今回の追放だ。
奴らにとって俺は踏み台だったのだろう。
Bランクに昇格したあたりから薄々感じてはいたけれど、言葉に出されるとやはり辛い。
追放の理由は真の仲間じゃないからだ。
真の仲間ってなんだよ。
パワーワードすぎるだろ。
真の仲間じゃないと宣告されて以降、俺はスランプに陥っていた。
初心者パーティに転がり込んでも初歩的なミス。
索敵はできない、商人との取引では大損する。
これまでの経験がまったく活かせなくなっていた。
スランプはたびたびあったが、こんなに長く続くことはなかった。
理由は分かっていた。
仲間に頼らないと戦えないのに仲間を信用できなくなってしまったからだ。
それに対する自分の答えを見失ってしまった。
この一か月間、加入と追放を何度も繰り返した。
そして、今に至る。
俺の心は大きく疲弊していた。
そうそう、聞いてくれ。
さっきも三つのパーティに加入を断られたんだ。
「国に帰るんだな。お前にも家族がいるだろう」
「他を当たるんだな。ゴブリン倒せないマン」
「お前ごときが俺達のパーティに入れると思うな」
もはや一時的な加入すら断られる始末。
冒険者としての俺の信用は完全に地に落ちていた。
もはや俺に居場所はなかった。
やあやあ、諸君! 俺はベテラン冒険者のシルヴィル!!
俺のスペックを説明しよう!
雑魚スキル、魔法使えない、ゴブリンにも勝てない!
笑えるほど弱い!
泣けるぜ。
スランプを乗り越えるためにテンションを上げようとしたがダメだった。
これはもうだめかもしれないね。
すれ違った冒険者パーティが、俺を見てクスクスと嘲笑した。
「……なに見てんだよ。こっちを見るな! ぶっ殺すぞ!」
俺が怒ると、彼らはさらに笑う。
「やーい! ゴブリンすら倒せない敗北者!」
「さっさと故郷に帰っちまえ!」
「そうだそうだ! お前なんて誰も必要してない!!」
ちくしょう……。
何も言い返せない。
俺だって好きで弱くなったんじゃない。
しかし、冒険者で一番大事なのは戦う力だ。
戦う力がない俺はどこからも必要とされなかった。
人気のない朝の公園で、俺はベンチに腰かけて、虚ろな瞳で蟻地獄に沈んでいくアリを眺めていた。
昨夜も公園で野宿をした。
ここ数日間はずっと野宿。
もちろん節約のためだ。
明日の見えない不安で一睡もできなかった。
「これからどうすればいいんだろう」
孤児院に帰るという選択肢だけは取りたくなかった。
院長こと『ネルケット様』は冒険者として頑張る俺を応援してくれた。
ステータスの低い俺のためにすべての技術を伝授してくれた。
ネルケット様を悲しませる真似だけはしたくなかった。
でも、もう潮時かもしれない。
もう一度冒険者ギルドに行こう。
これでダメだったら孤児院に帰ろう。
公園をあとにして冒険者ギルドを目指すことにした。
地図スキルは使わなかった。
いや、使いたくなかった。
使えばまたミスをしてしまいそうだったからだ。
だが、これも俺のミスだった。
情けないことに俺は迷子になってしまったのだ。
王都はかなり広いため土地勘があっても迷いやすい。
見慣れない場所に迷い込んでしまった。
ここはどこだろうか?
辺りをキョロキョロと見回した。
すると、ある館の看板に偶然視線が止まった。
『奴隷の館 アナタに相応しい奴隷を売ります』
看板にはそう書かれていた。