「徳富蘇峰記念館をたずねて」紅子と玖里栖の1日。
「徳富蘇峰記念館を訪ねて」紅子と玖里栖の一日。
作 仙川ゴロー
白野紅子ーーーーー奥寺テーラ
赤石玖里栖ーーーーー春
佐久間禄朗ーーーーー仙川ゴロー(声のみ)
※ 全員大学生でバイト仲間
§ 1
〇 二宮駅「ガラスのうさぎ」像前
写真を撮ってもらった方に礼を言う紅子と玖里栖
玖里栖 「やっと落ち着いた。
見晴らしの良かった湘南平も広かったけど、えっと明治記念大磯邸園だっけ。
あそこも広かったね。
吾妻山公園は今度行こうか」
紅子 「そうだね。
整備中だったから邸内に入れなかったのは残念だったね。
公開したらまた行きたいなあ」
玖里栖 「ホント。
さて、お昼も済んだし次はどこに連れてってくれるの、紅子?」
紅子 「ここから十分くらいかな。
徳富蘇峰記念館に行こうかなと思って」
玖里栖 「トクトミ?」
紅子 「作家の徳富蘆花がいるでしょ。
そのお兄さんが徳富蘇峰と言って、蘇峰が残した蔵書や書簡を展示してるんだ」
玖里栖 「へー(あまり良く分かってない)」
紅子 「梅の庭園も有名なんだけどね」
玖里栖 「そうなんだ、よし!レッツゴー」
サクサク歩き出す玖里栖
遅れる紅子
玖里栖 「?どした紅子」
紅子 「ーーーーーなんでもない。
行こう」
歩き出す二人。
§ 2
〇 記念館前の道
やってくる二人。
紅子 「この蘇峰さんていうのは、江戸末期に生まれて95才まで長生きした思想家とかジャーナリスト、ていうのかな」
玖里栖 「思想家?!怖いなあ」
紅子 「いやあ、日本の国や日本人の生活を良くしていこうと訴えたり、新聞のように文章で表現する人のことだよ。
熱い心は持っていただろうけど」
玖里栖 「さすが歴女、詳しいね。地元の人間だから尚更か」
紅子 「幕末に活躍した人を追っかけてたら、徳富蘇峰が出てきた。
近くに記念館があるって知って何回か来たんだ」
〇 記念館の門前
門をバックに自撮り。
玖里栖 「あ、ここ、元蘇峰さんちじゃないんだ」
紅子 「秘書の方の邸宅。
自分の死後に若者の役に立つだろうと蔵書や知人との書簡を秘書に託したの。
この書簡、手紙のことね、これが膨大で『手紙の記念館』として有名なんだって」
§ 3
〇 梅園の前
立ちすくむ二人。
入れない梅園。
玖里栖 「梅が咲いてないからやってないかあ」
紅子 「スマソ」
玖里栖 「しょうがない、しょうがない」
紅子 「ーーーーー私そゆとこあるよね」
玖里栖 「まあねえ」
紅子 「NHKでも紹介されたんだけど、ワビサビで趣があるんだけど、水仙も綺麗なんだけど、、、」
玖里栖 「入れないんだからしょうがないじゃん」
紅子 「だけど、だけど、、、」
玖里栖 「しつこい。そうゆうとこよ。
おっちょこちょいな上に、ぐじぐじ」
紅子 「ーーーーーーーーーーーーーーー」
玖里栖 「ーーーーーなんでこの時期に誘ってくれたか分からないけど、嬉しかったよ」
紅子 「ーーーーーホント?」
玖里栖 「うん」
§ 4
〇 記念館の扉前
紅子 「新島八重、っているでしょ」
玖里栖 「ん?」
紅子 「幕末のジャンヌダルク」
玖里栖 「んーーーーー」
紅子 「幕末の会津戦争の時に男装して戦ってたんだけど、サバゲーの時の玖里栖の雰囲気が新島八重に被るんだよね」
玖里栖 「ハハハハハ」
紅子 「私にないものをすべて持ってる感じが憧れてるんだ、二人に」
玖里栖 「何も出ないよ」
紅子 「八重の旦那さんが新島襄で、今の同志社大学を創設したの。
そこに入学したのが徳富蘇峰」
玖里栖 「おー繋がった」
紅子 「在学中は八重さんを良く思ってなかったらしいけど、晩年は仲良しだったみたい」
玖里栖 「そうなんだ、私も蘇峰さんに嫌われるところだった。
あぶない、あぶない」
紅子 「手紙も何通か有って、記念館でむかーし特別展が開かれたんだけど、それ以来毎年見に来てるんだ」
玖里栖 「私、歴史に疎いけどちょっと楽しみになってきたぞ」
紅子 「ホント?よし入ろ」
ドアを開けて入る二人。
§ 5
〇 記念館内
を見回す二人。
玖里栖「書物と書簡?だらけではあるけれど、他にもいろいろあるね。
あ!くまモン(く↑まモン)!」
紅子 「くまモン(くまモン→)ね。
徳富蘇峰は熊本県出身だからね」
玖里栖 「(イントネーションどっちでも良いじゃん!)ああ、それで来たんだ」
紅子 「他にも、ほら政治家の人や皇室の人も来てるよ」
玖里栖 「ホントだ、重要な資料が豊富なんだろうね」
紅子 「(パンフレットを読みながら)『徳富研究の宝庫であるだけではなく、日本近代史の一大宝庫でもある』と評されてます」
玖里栖 「棒読み(笑)」
〇 紅子の脳内
紅子の声「え、私を呼んだのって?」
禄朗の声「ごめんごめん、赤石玖里栖さん?のことなんだ」
紅子の声「ーーーーーうん」
禄朗の声「仲良いでしょ?」
紅子の声「普通」
禄朗の声「おけおけ、仲を取り持ってよ」
紅子の声「はあ?」
禄朗の声「ちょっと良いなあと思って」
§ 6
〇 大書きの書やスライドショーの前
スライドショーを見てる玖里栖、の後ろにやってくる不貞腐れ気味の紅子。
紅子 「玖里栖、あのさ、」
玖里栖 「偉人でも時代に翻弄されてたんだねー」
紅子 「え?」
玖里栖 「いやあ、いくら思想家とはいえ時代の流れには抗いづらいのかなあって。
いつの時代の人も大変だったんだなあ、うんうん」
紅子 「(吹き出す)なあに変な言い方」
玖里栖 「どんな立派な人でも悩んでるんだから、紅子も悩みはあってもいつまでも引きずるなってこと」
紅子 「ありがと、分かった。
やっぱり凄いね、玖里栖は」
玖里栖 「何も出ないよ」
笑う二人。
§ 7
〇 扇風機とラジオ
を見て、目を丸くする玖里栖。
玖里栖 「うおお、クラシカルで可愛いなあ!」
紅子 「ね!良いでしょ?でもね、この扇風機、重いんだよ。
なぜかって言うと、プロペラの遠心力で吹っ飛ばないように、だって」
玖里栖 「(爆笑)そうなんだ!(蘇峰と彦市の写真を見て)良い顔してるね」
紅子 「そうだね」
〇 印章
紅子 「たくさんハンコがあるでしょ」
玖里栖 「そうだね、かわいい。
私も京都で作ってもらったよ」
紅子 「へー!そうなんだ、良いね!
(意を決して)ねえ玖里栖」
玖里栖 「(印章を見ながら)うん?」
紅子 「禄朗くんているでしょ?」
玖里栖 「ロクローくん?」
紅子 「土日の遅番の佐久間君」
玖里栖 「(少し考え)あー、紅子と仲良い」
紅子 「そうでもないけど。
その佐久間くんが玖里栖と話がしたいって。
会ってもらえないかな」
玖里栖 「うーん、いいよ大丈夫(NG)」
紅子 「え、どうして?」
§ 8
〇 近世日本国民史
玖里栖 「いやあ、すごい本だね。
これ全部蘇峰さんが書いたの?」
紅子 「うん。
ねえどうして会ってあげないの、会ってくれないの?」
〇 パスポートや拾った葉など
玖里栖 「えーいやあ、別に。
会わなくても良いんじゃないかなあって」
紅子 「禄朗くんは会いたいって言ってるのに」
玖里栖 「私は会いたいと思ってない。
あ!トルストイ!え?マジッ?アハハ、庭の葉っぱかあ。
何でも取っておいてるなあ」
紅子 「キリシタンの小西行長の子孫の紹介で会ったみたい。
会ってあげなよ、私からもお願い」
玖里栖 「詳しいね。
あいつ、紅子を出汁に使いやがって」
§ 9
〇 ”書”に親しむシリーズ
紅子 「あいつって」
玖里栖 「(シリーズを見ながら)あ、ごめん。
彼とは前に会って話したことがあるんだよ」
紅子 「ーーーーーそうなの?」
玖里栖 「うん。
それでもう良いやって(『才女編1』を手に取る)」
紅子 「そうなんだ」
玖里栖 「特に関心はなかったけど、今日はちょっと思うことあるね」
紅子 「エ、ホント?会ってくれる?」
玖里栖 「あの、、、、ヘタレ!」
紅子 「キャーーー!(アワアワ)」
玖里栖 「あーーーごめーん!」
周りを見渡す二人。
紅子 「お願いしますよ」
玖里栖 「(敬礼)失礼いたしました。
怒りの沸点に到達してしまいました」
§ 10
玖里栖 「紅子の好きな新島八重さんのがあるじゃん」
紅子 「はい、既に買って持っております」
玖里栖 「さすがです、読めるの?」
紅子 「勉強した。
崩し字辞典とかで」
玖里栖 「へ~~~私もどれか買おうかな、教えてくれる?」
紅子 「もちろん!」
玖里栖 「さんきゅ!これにしよう、『芸術家編1』」
紅子 「お~~、その心は?」
玖里栖 「初代、中村吉右衛門先生!『鬼平犯科帳』が好きなのだ。
ドラマは二代目だけどね」
紅子 「なるほどね、良いんじゃない」
玖里栖 「ね」
紅子 「玖里栖、あのさーーー」
玖里栖 「あ、すみませーん、これ下さあい!」
§ 11
〇 記念館の門前
玖里栖 「いやあ、良い買い物をした」
紅子 「聞いて、玖里栖。
なんでそこまで怒るの、禄朗くんに」
玖里栖 「えーーー?なんでって(少し考えて)行くか、あそこ!」
紅子 「え、どこ行くの?」
玖里栖 「行くべ行くべ」
紅子の手を取り早足で突き進む。
〇 吾妻山公園頂上
息切らし、バテバテの二人。
玖里栖 「いやあ、しんど」
紅子 「参りました」
玖里栖 「子供のころに、よく行ったって言うから、なめてました」
紅子 「久しぶりだからきついわ」
〇 坂道や階段
ガツガツ進む玖里栖とついていく紅子。
紅子 「ちゃんと教えて玖里栖、禄朗くんと何かあったの?
尋常じゃなかったよね、さっきの怒り方」
玖里栖 「ゴメン私ホントあーゆうのダメなんだ。
グダグダ面倒くさいタイプ。
しっかり断ったんだよ前に。
なのにまだ未練残して。
しかも紅子を利用してさ。
あーー、また思い出してムカムカしてきたぞ!」
紅子 「やめてー、叫ばないでね」
§ 12
〇 頂上
座っている二人。
玖里栖 「紅子、禄朗くんと付き合ってないけど、好きっぽいよね」
紅子 「仕事を手伝ってくれて良い人なんだよね」
玖里栖 「あそう。
普通じゃね、そんなの。
私の手伝いもしてくれるけど、近づきすぎんだよねあいつ」
紅子 「えーそうなの?私にはそんなの無い」
玖里栖 「告白してみたら?お勧めしないけど」
紅子 「普通応援してくれるんじゃないの?」
玖里栖 「だって良いと思ってないんだからしょうがないじゃん」
紅子 「なんだかなー。
なんか無くなってきた、気持ちが」
玖里栖 「ハハハ、ごめんね」
紅子 「ううん、良いよ」
玖里栖 「あわてないで、ちゃんと見つけてみ」
紅子 「そだね」
紅子の手に自分の手を添える玖里栖。
終わり