言ってはいけないこと
目が覚めるとトールは自分が荷物持ち用に作った人形、「太郎」の上で寝ていた。ちなみに太郎と呼んでいたのはトールとユナだけで、他の二人には人形と呼ばれていた。
そしてトールの隣にはトールが見たこともないくらい可愛い人形が寝ている。トールが起きた音が聞こえたのだろう、その人形も目を覚ます。
「あら、目が覚めたのね」
「人形がしゃべった!?」
人形だと思っていたものがしゃべったことにトールは驚きを隠せない。トールは人形を操ることはできても、会話させることはできない。
だからしゃべる人形を見るのはトールも初めてのことだった。するとその人形は呆れたように言った。
「あなたが私を作って、あなたが私をしゃべれるようにしてくれたのにそんなに驚くことはないんじゃないかしら」
「え?それってどういう、、、」
トールには意味がわからなかった。トールにはこんなに可愛い人形を作った覚えはないし、人形を話せるようにする技術なんてない。
いや、「なかった」の方が正しいかもしれない。
その人形は答える。
「全く、自分が初めて作った人形のことを忘れるなんていい度胸してるじゃない!」
「へ? もしかしてスズか!?」
「そう!! 私はスズ! あなたが初めて作ってとても大事にしてくれたスズよ!!」
トールは激変したスズの姿に驚きを隠せない。
「でも、こんなに可愛い人形じゃなかったと思うんだけど、、、。あとしゃべれるようにしたっていうのはどういうこと?」
確かに桃色の着物やツインテールの髪型、手のひらに乗るくらいのサイズ感など、スズに似ている部分はあるが顔が全然違うのである。
トールのスズの印象は『初めて作った人形だから、下手くそでとにかく可愛くない人形』である。
でも初めて作った記念にトールはずっと持ち歩いていた。
するとスズは怒ったような声で文句を言う。
「こんなに可愛い人形じゃなかったってどういうことよ!!」
「ご、ごめんなさい! とにかく可愛くない人形とか思ってしまいごめんなさい!」
トールはすぐに謝った。こういうのはすぐに謝ったほうがいいのだとトールは日頃の虐待から学んでいた。
しかしスズはなぜかさらに怒ってしまったようでトールの肩に飛び乗り、頬をペチペチと叩きながら言った。
「さっきよりひどくなってるじゃないのー!!!」
「ごめんなさーい! つい本音が!!」
「あ! 本音って言った!! 今この人言ってはいけないことを言った!!!」
そしてトールがスズの機嫌を直し終わるまで1時間近くかかったのであった。
ー1時間後ー
「ほへで? あいをひひたいんあっけ?(それで? なにを聞きたいんだっけ?)」
カコの実と呼ばれる甘い木の実をトールから貰い、すっかり機嫌を直したスズはトールの肩にのって可愛らしく足をパタパタしている。
トールは心の中でカコの実を常備しておくことを誓いながら、改めて聞いた。
「まず、可愛かったスズがなんでさらに可愛くなったのか。あと、僕がしゃべれるようにしたってのはどういうことなのか」
するとスズはとても簡潔に答えてくれた。
「えーっと、どっちも君に覚醒したスキルのおかげよ!」
「うん! 簡潔にまとめてくれてありがとう!! でも全然わからないかな!!」
簡潔すぎて完全に説明不足である。
「だーかーらー! 落ちてる間にスキルに目覚めたでしょ! それのおかげってこと! これからは思った通りの人形が作れるし、作った人形をしゃべれるようにしたり、自我を持たせたり出来るってこと!!」
スズの説明をわかりやすくまとめると、落ちているときに得た『人形生命付与』というスキルが近くにいたスズと荷物持ちの太郎に生命付与を自動でやってくれたのである。
しかし自動でやってくれるのはスキルを獲得した直後だけの特権らしい。太郎はトールを守るために自ら崖から落ち、死んでしまった。
ちなみにスキルによって自我が生まれた人形はその瞬間から人間と同じような存在になる。しかも1度死んだ自我持ちの人形は、普通の一般的な人形のように修復することができない。
ただしスズだけは例外で、スズにだけはいろいろな機能をつける『改造』という作業ができる。まぁスズも『改造』ができるだけで死んでしまったら元には戻らない。
そして顔が超可愛くなったのは、その後に得た『人形作りの巧み』というスキルのおかげだ。これからは自分の想像次第でどんな人形でも作れるし、今まで作った人形は作っていたときに考えていた姿に変わったらしい。
さらに今まで人形を作るために必要だった材料は人形を作ろうと思ったときにスキル側が出してくれるらしい。
「この能力強すぎないか」
「当たり前じゃない! なにせEXなんてかっこいい感じのスキルなんだから!」
スズはない胸を張り、自慢げに言う。スズは名前だけで強いと決めつけているが、これらの能力は実際強い。想像した人形を自由に作れるということは、簡単に言えば人形を通せばなんでもできるということだ。
トールは頭がいいのでこの事実にすぐさま気付いた。そしてトールはしばらくこの崖の下の森に籠もって人形を作ることに決めたのだった。
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