呪化
(むぅ…どうしよう♪)
トールは悩んでいた。技量の差でダメージこそ負っていないものの、カルラが硬すぎて斬っても斬ってもただ黒楽天が折れるだけなのだ。いや、正確に言うと硬いというより斬った感触は確かにあるのだが、なぜか斬れていないと言う方が正しいだろう。
(このままじゃ平行線だな)
そう思ったトールは黒楽天を納刀し、素手でカルラに殴りかかる。
(確かに斬った感触はあるんだよね♪ なら考えられる可能性は3つ。ただ単に硬すぎる場合。2つ目は物理攻撃そのものを無効化している場合。そして3つ目が攻撃をそのまま反射している場合♪)
トールが本気で殴ってしまったら3つ目だった場合自分の腕が破壊されてしまう。だからトールは少し痛みを感じるくらいの力でカルラを殴り、どのパターンなのか確かめようとした。
しかしトールの拳がカルラに届く直前、カルラが不敵に笑ったのが見えた。トールは慌てて殴るのをやめようとするがもう遅い。
「バキッ!」
辺りに鈍い音が響き、トールの顔が苦痛に歪む。
「あぁ、最悪だ。攻撃を反射していると言うのは当たってたけど反射倍率を見誤っていたね…♪」
トールの右腕の骨は粉々に砕け、使い物にならなくなっていた。
「あっっはー! 形勢逆転だねェー!!」
今度は先程までとは打って変わってカルラの猛攻にトールがひたすら耐える番となった。
「ちっ、これは…キツいね…♪」
カルラの攻撃はとても大振りで、トールのことを馬鹿にしているような攻撃だったが隙があってもトールには反撃することが出来ない。
(どーしよっかなぁ…♪?)
トールがカルラの攻撃を避けながら作戦を練っていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「暗黒夢雨・改‼︎」
カルラとトールの頭上から大量の槍が降り注ぐ。
(あ、避けた♪)
ルルが主である自分ごと攻撃してきたことに違和感を感じたが、今は本来のトールと見た目が違うため、さほど気にはならなかった。
トールにとってはカルラがルルの魔法を避けたことの方が大事だ。
「君、魔法は効くんだね♪ ルル、合わせよう。事情は後で説明するけど僕はトールだ」
トールはルルの返事を待たずにカルラの方に走りアシストを待ちながら攻撃を避ける。しかしルルからのアシストは一向に来なかった。それどころか返事すらなかった。さすがのトールもルルのことが心配になり、ルルに視線を向ける。
すると見るからにルルの様子はおかしかった。具体的に言えば生気が全く感じられなかった。
「コ、ロス」
ルルが凄い物騒なことを言い始める。黒楽天により覚醒しているトールはこの症状のことを知っているようで納得したように言う。
「あぁ、呪化しちゃったのか♪ じゃあ俺は落ち着くまで逃げた方がいいね♪」
「逃すかよォー!!」
カルラの叫び声を無視してトールは馬車の中に飛びこむ。その瞬間トールは元の姿に戻り気を失った。
カルラがルルに殺されたのだ。今の一瞬で。
何があったのか、10秒前に戻ろうと思う。
トールが馬車に向かって走り出した直後、ルルが空に向かってジャンプしながら魔法を放った。
「漆黒魔法・冥闇月影」
その瞬間辺りが闇に包まれ、カルラだけがピンポイントで月の光に照らされる。
「あァ? なんだァこれは?」
カルラが困惑している間にルルが一言。
「破壊」
するとカルラの体がみるみる崩れ落ちていく。最後にカルラの目に映ったのは美しい満月を背にこちらを睨んでいる、宙に浮かんだ小さな少女だった。
「コロシタリナイ、マダウラミガハラセナイ」
ルルは敵を探しにどこかへと立ち去った。
ではルルがどうしてこうなってしまったのか。それを知るにはトールとカルラの戦闘が始まる前に遡る必要がある。
読んでくれてありがとう!
あと何話か投稿したら作者的強さランキング作ろうかなぁと思っている今日この頃。