チュートリアルと白髪の少年
「え?」
目の前には体を貫かれても生きている異質な人間がいて、戦っていたはずの仲間たちは全員倒れ込んでおり、急に自分のスキルが進化したのだ。イアの頭はとっくにパンクしていた。
(血液形状変化って何!? どーやって戦えば良いのか分かんないよ!!)
そんなことを思っていると、また頭の中に機械のような声が響く。
『初回限定サービスとして1分間自動戦闘を行います。是非戦い方を学んでください』
実はハズレ職というのはとても親切な設計になっていて、トールの時も自動でスズと太郎に生命を授けたように、進化すると最初はチュートリアル的なものをやらせてくれるのだ。
イアは自分の体が軽くなり、戦闘力が格段に上がったのを感じた。しかし、自分の意思で自分の体を動かすことはできない。
『自動戦闘開始します』
その瞬間イアはちょうど再生が終わったアノルマルに向かって走り出していた。スキルの声は周りに聞こえないため、トールから見たらイアが無策に突っ込んで行ったようにしか見えない。
「イア、行っちゃダメだ!!」
トールは慌ててイアを呼び止めるが、イアからの返事はない。
『このスキルは自身の血を使い、武器を生成することができます』
頭にそう流れると手に真っ赤な槍が出現する。
アノルマルが手を振りかざし、イアを切り裂こうとする。イアはそれを槍で受け止める。
『このように血で作った武器はとても硬いです。次に攻撃してみましょう。槍は突きが強い武器です』
イアはアノルマルの次の攻撃を受けずに避け、アノルマルを突き刺す。するとアノルマルが苦しそうに呻く。
「うぐっ!」
『一度血を飲んだ相手からは武器を通して血を抜き取ることができます。このままミイラにしてしまいましょう』
アノルマルは自分の血がなくなっていっていることに気が付き、慌てて槍を体から抜いて距離を取る。
「まずいまずいまずいまずいまずいまずい!まずい!!まずい!!!まずい!!!! それだけはまずい!!!!!! 死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう死んじゃう!!!!」
イアは余裕の表情でアノルマルを見つめる。アノルマルは警戒して動かない。するといつの間にか地面から生えていた真っ赤なトゲが後ろからアノルマルを貫く。アノルマルは驚いて声が出ない。
『自分の血と自分が口に含んだことのある血を持つ人間の血液から武器を生成することができます。トラップとして使うのがおすすめです。ここはアノルマルの血がそこら中に飛び散っているので生成し放題ですよ。こんな風に』
機械のような声がそう言うとアノルマルの周りに飛び散っていた血から大量のトゲが生成され、アノルマルを貫く。
すると、ルルの攻撃では全く動じなかったアノルマルが地面から生えているトゲを壊すために必死に暴れる。その間もアノルマルは血を吸われ続ける。
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだや、だ、、、」
『1分経ったため自動戦闘を終わります。お疲れ様でした』
イアの体が解放される。その瞬間アノルマルを貫いていたトゲが破壊される。
イアは最初、自動戦闘が終わったから自動で壊れたのかと思っていたが、目の前の男を見てすぐに考えを改める。
「うちのアノルマルを回収しに来たよ。本当は将来邪魔になるであろう君たちをここで処分したいんだけど、そんなことをしていたらアノルマルが死んじゃうからね。僕はこれで引かせてもらうよ。カルネーレで待ってる」
その白髪の十歳くらいの少年が極度の貧血で気を失ったアノルマルを抱えてカルネーレの方へ歩いていく。その姿は隙だらけに見えた。しかしその間トールやイアはもちろん、攻撃できたはずのララとルルでさえ攻撃しようと思わなかった。
クロノが仮に麻痺状態じゃなかったとしても攻撃しようとは思わなかっただろう。それくらいその少年の放つオーラには圧があり、それでいて美しかった。誰もが攻撃したら殺されると確信していた。
(カルネーレに行ったらあの少年を相手にしないといけないのか)
これはトールを含めて全員が思っていたことだ。
読んでくれてありがとう!
久しぶりに開いたらブックマークが増えていて嬉しかったので投稿!!
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