クレッシェンド:だんだん強く
「なんでー!! どこの扉を開けても外に出られない!!」
イアは迷子になっていた。馬車の中を走り回り、色々な扉を開けていく。
「ど、どうしたの?」
自分の部屋に突然入ってきたイアにトールは困惑する。そして血だらけなのを見て、さらに困惑する。
「そしてなんでそんなに血だらけなの!?」
トールが聞くとイアはクロノがご主人であるトールに訓練について何も伝えていないことに驚く。
「わ、私のことはどうでもいいから、外に出たいの!」
トールはこれを聞いてイアがなぜ外に出たがっているのかを理解する。
「もしかしてさっきの悲鳴のことかい? クロノが普通の魔物だって言ってたから大丈夫だと思うけど、、、」
イアはクロノが嘘をついていることにまた驚く。クロノはトールのことを信用していないのではないかとも思ってしまう。しかしそれについて言及している暇はなかった。
あの強さを誇るララから致命傷を防ぐ役割をしていたと言うことはルルもかなりの実力者なはずだ。そんなララとルルががあんなにも急いでいたことやクロノがトールに嘘をついていたことから、相手が相当強いことが容易に想像できる。
「でもルルさんが相手は蛇王教の人かもしれないと言っていました。なので心配なんです。外に行かせてください!」
言わないと外に行かせてくれなさそうなのでイアがトールに真実を告げる。
「なんだって!? 本当か!」
イアが頷くとトールは悲しそうに「そうか」と呟いた。
「なら、なんで戦闘音が聞こえな、あっ、、、」
トールはクロノのことを信頼し、一応クロノにも馬車の機能のONとOFFを切り変えられる権限を与えていたことを思い出した。
「クロノ、、、馬車の外からの音を遮断したのか、、、」
トールは悲しむが、イアは慰めることをせずにもう一度聞く。
「外に行かせてくれますよね」
しかしそれよりもトールには心配なことがあった。トールはイアに質問を投げかける。
「行かせてあげてもいいんだけど、傷だらけの理由だけ聞かせてくれないか?」
傷だらけの理由は言いたくなかったが、他の人が命をかけて戦っている中で自分だけ安全なところにいる自分が許せないイアは外に早く出たかったので言ってしまう。
「クロノの指示でララとルルに戦闘訓練をしてもらっていたんです」
「ララとルルがそんなに傷つけたのか!?」
トールが驚くとイアが言った。
「クロノの指示で容赦はするなと」
トールの顔は絶望に染まる。
「本当にお客様に申し訳ないことをしました。ごめんなさい」
トールが謝りながら外へと繋がる扉を開く。
「いえいえ、気にしないでくだ、、、」
イアの言葉がそれ以上続くことはなかった。外に出ると文字通りの地獄が広がっていたからだ。
ララもルルもクロノも傷だらけで、ある一点を睨みながら倒れている。その視線の先には人が立っていた。その者の目は赤く、首には引っ掻いたような跡がいくつもあった。髪は地面に着くほど長く、白い。顔立ちはこの世の物とは思えないほど美しいが、かなりの猫背だ。手を口に突っ込み、何に高揚しているのか分からないが顔が赤く染まっている。その姿は誰が見ても異様な人間だった。その人間はその言動や容姿から仲間からこう呼ばれている。
『アノルマル』
「あぁ、ああ良い、、、良い良い良い良い良い!良い!!良い!!!良い!!!!良い!!!!! 素晴らしい!!!!!!!! 若い者が二人も馬車から出てきた!!!! 良い!!!!!!!! あぁ、その若さを!!! 美しさを!!! 私に頂戴!!! 頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴頂戴!!!!!!!!」
そう言いながら真っ直ぐイアとトールの方に突っ込んでくる。
「それ以上は行かせないのであります‼︎ 『暗黒夢雨』」
ルルがそう叫ぶと魔法陣がアノルマルの頭上に現れ、大量の槍を降らせる。その槍たちはアノルマルの体や顔を貫き、地面に刺さって固定された。しかし、アノルマルの肉体みるみる元に戻っていく。刺さった槍はアノルマルが力を入れると粉砕してしまった。
槍が刺さった時に飛び散った血は当然イアとトールの顔にもかかっていた。するとイアの頭の中に機械のような声が響いた。
『一定以上の傷を負っている状態で、他の人の血を口に含みました。条件を満たしたためEXスキル「血液形状変化」を開放しました。「血液形状変化」を開放したためスキル「吸血強化」を開放しました』
このタイミングでイアのハズレ職は進化した。
読んでくれてありがとう!
感想やアドバイスなどお待ちしています!!