メイドの鏡のライカの悩み
(なんて話し始めようかな)
クロノと別かれた後、イアは別の部屋に荷物を置き、トールのいる部屋の前で悩んでいた。
(やっぱり回りくどいことはせずに直接聞くべきだよね!)
イアは覚悟を決め、部屋の扉を開ける。すると落ち込んでいるトールの姿が見える。
「こんにちは! 私はイアって言うんだけど、あなたはなんて名前なの?」
これに対してトールはめんどくさそうに答える。
「………トール」
「そう、トールさんっていうんだね! ところでなんでトールさんは悩んでいるの?」
トールはこの質問には答えない。するとイアが勝手に話を続ける。
「私さ、実はハズレ職なんだよね。だから」
イアは「だから悩んだこともいっぱいあったし、解決方法もたくさん知っている」と言おうとしていたが、途中で言うのをやめてしまう。自分がハズレ職だと明かした瞬間にトールがバッと顔を上げたからだ。
「本当?」
「え?」
「君がハズレ職って本当?」
イアは自分の発言を後悔する。ハズレ職だというだけで忌み嫌われることはよくあるのだが、まさかトールがそっち側の人間だと思っていなかったからだ。嫌われてしまったと思いながらも慌てて取り繕おうとするが、その心配は杞憂に終わった。
「僕も、僕もハズレ職なんだ!」
「え?」
しばらく沈黙が続く。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
イアが予想外の出来事すぎて叫ぶ。
その反応にトールは笑いながら言う。
「ハズレ職の人になら僕の悩みを伝えてもいいかもしれないね」
そしてトールは自分のハズレ職が進化したことや自分のせいでライカが腕を失ったこと、パーティーメンバーから虐められていたことなど様々なことをイアに話した。初めて自分と同じ境遇の人間に遭遇してトールも興奮していたのかもしれない。自分の本音をひたすら話しまくった。この人となら自分の辛さを、ライカに慰められた惨めさを理解した上で傷を舐め合うことができると思ったから。
しかしイアからトールが望んでいた回答は返ってこなかった。
「で、結局トールがこんなに悩んでいるのはライカさんの腕を自分のせいで失ってしまったからなんでしょ?」
「き、きっかけになった出来事は確かにそれだけど! 他にもたくさんのことで悩んできたのが爆発しちゃったというか」
イアは呆れるでもなく、怒るでもなく本心から疑問に思い、トールに聞く。
「なら、なんでもっと頑張らないの?」
「え?」
「自分の力不足のせいでライカさんに怪我をさせちゃったんでしょ? ならなんで、もっと強くなって次は守ってあげようとか思わないの? いじめにだって今はあってないし、ハズレ職も進化して強くなったんでしょ? なんで過去にいつまでも囚われ続けているの?」
ここまで言い切った後、イアは笑った。
「笑顔でいようよ、笑顔で!! 過去なんか今すぐ忘れて前を向こう! 今日守れなかったものを次は守れるようになろう!」
そしてイアはトールに手を差し伸べる。
「ほら、ライカさんに宣言しに行こ! 次は絶対守ります。僕はもっともっと強くなりますって!!!」
トールは涙を流しながらイアの手を取る。その手は女の子の優しい手だったが、トールには前を向き続けることで様々な苦労を乗り越えてきた強い手に思えた。
「覚悟はできてる?」
ライカの部屋の前でイアが聞くとトールは即答した。
「もちろん!」
「じゃあ、行っておいで」
そう言ってイアはクロノの元へお願い達成の報告へ行く。本当はイアも一緒にライカの元へ行くつもりだったが、トールが1人で行きたいと言うので1人で行かせることにした。
(もうトールは大丈夫だろう。きっと悩むことはあっても立ち止まることはない)
イアはそんなことを思いながらライトたちのことを考え、自分も頑張らなきゃと気合を入れ直した。
トールがライカの部屋に入ると、ライカはブツブツと何か言いながら悩んでいるようだった。トールがライカに話しかける。
「ライカ!」
よほど考えることに集中していたのかトールが部屋に入ってきたことに気付いていなかったライカがトールの声に驚く。
「ト、トール様!? どうしてここに!?」
「ライカに言いたいことがあってきたんだ」
「な、なんでしょうか」
ライカはトールに泣いた形跡があることに気が付き、心配になるが、とりあえずトールの話に耳を傾ける。
「今日はライカのことを守れなかったうえに心配までかけてしまってごめんなさい」
「い、いえいえ気にしないでください。それがメイドの仕事ですから!!」
ライカはトールのあまりの変わり様に動揺しているが、バレない様にわざと大きな声で返事をする。トールが話しを続ける。
「僕はみんなと一緒にもっと、もっともっと強くなって! それでいつかライカよりも強くなって! それで、それで!!」
トールは一息つき、まっすぐライカのことを見つめて言う。
「それで、いつかみんながピンチになった時は、今度はみんなのことを僕が助けるから」
「あはっ、あはははははははっ!!!」
トールの宣言を聞いたライカは心の底から楽しそうに笑った。
「な、なんで笑うんだよ!」
トールが不服そうに頬を膨らませる。
するとライカが言った。
「あたしより強くなる日なんていつくるんですかね! あたしも今よりどんどん強くなって行きますよ! あたしだって守りたい人ができたんですから!!」
トールは守りたい人ができたと言う発言に少し驚きつつもライカに言い返す。
「守りたいって気持ちなら誰にも負けないよ!!」
「あたしだって負ける気はありませんよ!!」
トールとライカは顔を見合わせ、そのまま見つめ合う。そして2人して大声で笑った。今日あったことを全部全部踏み台にして、次の自分へと進化する為に。辛い過去を笑い飛ばすために。
たくさん笑った後、僕は気になっていたことをライカに聞いた。
「そういえば僕が入ってきた時、何か悩んでいた様だけど大丈夫?」
「あぁ、あれはもう解決したので気にしなくていいですよ」
「あ、そうなの? ならよかった! なら僕はクロノとララとルルに元気になったって報告をしてくるよ」
そう言ってトールが部屋を出て行った後、ライカはつぶやいた。
「トール様がどうやったら元気になってくれるか考えていたなんて恥ずかしくて言えるわけないじゃないですか」
ライカは好きな人ができても主人を気遣う気持ちは忘れないメイドの鏡なのでした。
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