第二話 社(4)
早速友人たちを連れて寺に挨拶をした。事情を説明すれば住職は快く同行を許可してくれた。そして、その足で事故現場に向かい深く頭をさげた。
紹介された営繕屋の腕は確かで今度は草木に埋もれない、しかし悪目立ちしないよう板が設置された。それだけではなく風で倒れないように工夫がされている。
「これはただの板ではなく、供養塔です。ここは野生動物がよく飛び出してきて轢かれてしまうので……」
住職はそう言いながら改めて作り直した供養塔を撫でた。
学生の身分としてこの出費は痛手だったが、あの恐怖体験が続くよりは断然によかった。
「おそらく」今度は、若い営繕屋が呟いた。少し顔が青い。「『俺たちは関係ない』と言った男性はあなたたちではなく、この供養塔を見て言ったんだと思います」
それは独り言だったのだろう。けれど、確かに草太の耳は届いた。
最初から怯えた様子を見せた男性は最初から分かっていたのだろう。だから一緒に連れていた友人に絡むなと注意をし、そして逃げるように説明をつけずに去って行った。
射抜くような、責めるような青い瞳。そこであの若い男を見て抱いた違和感がわかった。
あの瞳には光がなかった。スマートフォンの明かりに照らされていても、その瞳は光を全て吸い込むようにただ深い海のような色を浮かべていた。
慌てて彼から受け取った紙を見ると、それは焦げたように真っ黒に汚れている。
「もしかしたらその青年は、この供養塔を交換して欲しいとやって来た使いなのかもしれませんね」
住職が言った。
「でも、だからって祟らなくてもいいのに」
という言葉は喉に詰まって出ることはなかった。
営繕屋が工夫を凝らしたはずなのに、今日は風もない快晴だというのに一度供養塔が揺れた。それは彼らを許したのか、それともまだ怒っているのか誰もが理解できない。
ただ、それ以降草太たちを襲う不可解な現象はぴたりと止んだ。