第一話 熱(5)
家主に話を聞いたところ、前の住人は高熱を出し救急車で搬送された先で亡くなったという。家ではなく病院先で死んだのだから事故物件ではないと家主は顔を真っ赤にして怒った。そういうことではないのだけれど……、と思いながらもメンバーは結局その家に住み続けることにした。
百合哉の言っていた心配ごとは的中した。今回の収録はデーター破損で何も記録さえていない。渋々「こういうことがありました」とだけ視聴者には説明をした。
「なので咳をする声が聞こえても気にしないであげてください」
「病人がいるからね」
「だったら俺らが騒いじゃいけないんだけど」
などといったおふざけにも視聴者は温かいコメントをくれた。
『前まで怖い雰囲気でしたけど、最近はなんだかあったかい感じがします』との自称霊能者からのコメントもある。中には『やらせ』などいったコメントがあったが、やはりどう言っても信じてもらえないとの理由で割り切ることにした。
廊下に物を置かない。というのは簡単に見えて簡単ではなかった。なにせ片付けが苦手なのと日常的に忙しいのだ。なので渋々床に黄色のテープをはり、そこから物をはみ出してはいけないというルールを新たに作った。
時折聞こえる足音や、勝手に水が出て勝手に水が止まる現象はやはり実際見聞きすると緊張したり振り返ってもしまうが、爪を立てる音や女の声は聞こえなくなった。
「収録行くぞ」
リーダーの声にメンバーが各々返事をする。
ぺたぺた。
不意に裸足で廊下を歩く音が聞こえた。いつものことだろうと全員は気にしていなかったが、玄関がきいと一人でに開き、そしてパタンと閉まった。
「完治したのか」
呆然とするメンバーの中で一人、ドコロがそう呟いた。
それ以降、おかしな現象は起きていない。