第一話 熱(3)
「どうぞ」
「お邪魔します」
大食い企画を無事に終了し一行は家に戻った。部屋に招き入れられた百合哉は周囲を見渡しうなずく。
「ここの家は格安だったんです。隣の家が事故物件で」
おずおずとドコロが言う。
「そうなんですか。ううん、でも今回は関係ないと思いますよ。どこから音がなりますか?」
「和室の方からです。普段、ふすまは閉めているんですが」
そのふすまは今開いている。一人通れそうな、けれど、この体格が良いメンバーでは通れなさそうな具合に少しだけ。
百合哉は遠慮なくそのふすまを全開した。中は普通の和室。メンバーの私物がそれぞれ置かれているが、いつもなぜか四隅に移動されてしまう。
「物が勝手に移動するんです」
ショウが言うのを聞いて百合哉は頷いた。
「お話があります。皆さんが落ち着いて話を聞ける場所はありますか?」
応接室、もしくは収録場所。そう例えれば聞こえはいいだろう。だが、そこも他の部屋と同じように混沌としている。
テーブルと大きなソファが二つ。銀ラックには大量のキャラクターグッズが並び、視聴者からいただいた物やトークショーでの記念品が飾られている。それが無秩序に並べられ、展開されており散らかったように見えるだろう。
「あの、カメラ回していいですか?」
「かまいませんよ。ですが、私は機械と相性が悪いので壊れてもいい機材でお願いします」
壊れてもいい機材。それを聞いてメンバーは顔を見合わせた。壊れてもいい機材なんてない。そして悩みに悩んだ末、サブカメラを使うということになり、他の貴重な機材は別室に移動した。
カメラと向かい合うように置かれた大きなソファーに全員が座る。動画投稿者特有の挨拶を済ませたのを確認してから百合哉は話し始めた。
「先に言っておきますが、私は霊能者ではありません。聞き手なんです。語り部の逆、ひたすら怪談話を聞くだけの人間です」
百合哉はリーダーの隣に座り、カメラに向かいながら話す。その一挙一動はどこか慣れているように思わせる。
「ひたすら怪談を聞くだけ? そんな職業があるんですか」
「はい。誰にもできない話をしてスッキリしたい方はたくさんいるでしょうし」
「懺悔室的な?」
サトーの言葉に百合哉を除いた全員からツッコミが飛んでくる。そうしているうちにまた壁に爪を立てる音が聞こえた。メンバーはハッとして音がどこからなったのかを目で探そうとする。
「彼女、怒ってるわけではないのでそこまで気にしてはいけないですよ」
まるで今も見えるかのように百合哉が言う。
「怒ってるわけではない?」
「そうですね。例え話をさせてください」
百合哉はそう言って座る角度をすこしずらしてメンバー全員を見た。