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第三話 扇(1)
(某所某店)
ほう、綺麗な扇だなあ。ううん? 買いたいが……だめだな。俺の財布の中身を見てみろ。ほらこんなに金がない。
あっ、お前が買うのか? ううん。いいさいいさ。そっちに縁があったんだろうよ。うんうん、きれいな扇だ。俺もそう思っていたんだ。
とくにこの金の配色がいい。
……? どこの方言だって? そんなにおかしいか? まぁ、本当に田舎の出だから仕方がないんだ。
ほう、あんたは収集家なのか。ならこれはいい、しっかり使われているがそれでも丁寧にされていたのがわかる。これはすぐに壊れてしまうだろう? 子供の手に渡ったならすぐだ。投げられたりするだろう?
もちろん、褒めているのさ。
目の付け所が違うとね。
うん、そうだな。もう行くといい。奥さんも待たせてるだろう?
ではな。
あら、あなた。
どうしたの、その箱。え? 買った? 中身は?
え? こんな物……。
たしかに、綺麗だけどそれってただの……。