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ORATORIO・SaGa  作者: しおん
8/17

8 冒険者ギルド

 中に入ると、ざわざわと冒険者で賑わっていた。

 バルも併設されていて、昼間っから酒をかっくらってる大人たちも多い。

「冒険者は昼間からお酒を飲むの?」

「クエスト達成したんじゃない?」

 活気あるバルを横目に、受付カウンターに向かう。

 受付には制服を身にまとった、キレイなお姉さんが立っている。

 僕らが近寄ると、にっこりと笑いかけてくれた。

「あら、こんにちは。双子くん?」

 例によってカウンターの高さは、僕たちの胸辺りまである。世間は子供に優しくはないように出来ているみたいだ。

「新しく、冒険者登録したいんですけど」

「お二人ともかしら?」

「いいえ。僕はもう済んでいます。彼だけ」

 僕は右手の中指に嵌めた指輪を見せつつ、ユジュンの左腕を持ち上げて、ハイさせた。

「そうなのね」

 何がおかしいのか、お姉さんはクスクス笑っている。

 子供だけで来ると、遊び半分だと思われるんだろうか。僕はユーリと一緒だったからなぁ。

「なにか、おかしいですか?」

 僕は憤然としてお姉さんを見上げた。

「いいえ、ごめんなさい。普段、血の気の多い人たちと接する事が多いので、何だか和んでしまって……」

 お姉さんは目尻に浮いた涙を拭ってから、

「新規登録ですね。登録料は大銅貨三枚です」

 お姉さんが、にっこり笑った。

 ユジュンはユーリからもらった小遣いの中から、登録料を支払った。

「では、こちらの書類に必要事項を記入して下さい」

 お姉さんが一枚の紙を取り出して、ユジュンの前に置いた。

「ほら、ユジュン」

 僕はユジュンを促した。

「え、えと。この羽根ペンで書くの?」

「そうだよ。ペン先にインクを吸わせて、書くんだよ」

「羽根ペンなんか、使ったことないよ」

「途中で掠れないように、インクを補充しながら書いてね」

「うーん」

 ユジュンは慣れない羽根ペンで、何度もインクの瓶と書類を往復させながら、書類に書き込んでいった。

 途中に細かい文字で、規律がびっしり書いてあるけど、それは追々説明するとして、とにかく空欄を埋めさせた。

「言の葉を使えますか、だって」

 書きながら、ユジュンが設問を読み上げた。

「ギルドに冒険者登録するのに、言の葉が使えることが最低条件の一つなんだよ。だから、教えたんじゃない」

「そうだったんだ」

「その代わり、使えさえすれば、年齢制限の下限はない」

「ふーん、できた!」

 ユジュンが羽根ペンを台に戻した。

 お姉さんが書き漏れや不備がないかを確認する。

「はい、完璧ですね。随分、遠くの出身なのね。最後に血判を押してもらいます」

 そうしたら、おしまいよ、とお姉さんは笑顔で告げた。

「えっ、血判って、指切るの?」

 ユジュンが怖じ気づいてる。

「まったく……この期に及んで。ちょっと、指先を針で刺すだけだよ」

「おれ、注射とか苦手」

「先端恐怖症なの?」

「そこまで行かないけどさ」

「はいはい、さっさと右手を出して」

 お姉さんが半ば強引に、ユジュンの右手を引っ張って、その親指の先を針で突き刺した。そして、ぐぐっと、書類の必要箇所に無理くり血判を押させた。見事な手並み。ユジュンは目をつむって、痛みに耐えていた。

「針で指の先っちょ刺されたぐらいで」

 僕は、ここで初めてユジュンを他愛ないと思った。嘲笑だ。

「だってさぁ……」

「さあ、始めますよ」

 儀式だ。

 お姉さんが目を閉じて、両手を合わせた。

「『グロウ・グロージング・エクスペリエンンティア』」

 ユジュンの書いた書面が宙に浮き、目の前で文字列が書いた順に発光して行く。まるで文字が浮かび上がるよう。

 同時に、天井に巨大な青い球体が現れ、そこに新たな文字、ユジュンの情報が書き込まれていくのが見える。

「『ハーモニア・ギルトトゥース・オビイト』新たなる契約をここに結ばん!」

 書面が光り輝き、その光の中から、何かが線で描かれ、立体的な形を成す。それは子供の手にも収まるくらいの、卵形の小瓶に実体化した。

 小瓶が、ユジュンの目の前にふわりと移動した。

「うわ、うわわ!」

 不意に落っこちてきた小瓶を、ユジュンは両手で取り落としそうになりながら、それでも手の中に収めた。

「はい、これで、あなたの生体情報及び、遺伝子情報はギルドバンクに登録されました。晴れてあなたはギルドに属する冒険者となりました」

 一仕事終えたお姉さんが吐息した。

「あははは、やった! でも、この小瓶はなに?」

 底面が銀の細工で覆われている、透明なガラスのようで全く違う異素材で出来た小瓶を、ユジュンが日の光に晒した。

「それはね、『オビイト・ジェム』って言って、モンスターを倒して得られる経験値を可視化するためのアイテムだよ。ほら、僕の見てみて。『グロウ』」

 すると、右手の中指に嵌めた指輪が、小瓶へとトランスフォームした。

 僕のジェムには、半分程まで金色の液体で満たされているし、表面に数字が浮き彫りになっている。

「これが、現在、僕が稼いだ経験値。レベルは、容器に示されている通り、六十六。これが満タンになると、レベルが上がって、またジェムが空になる。まぁ、どのくらい経験値が溜まっているかの大まかな目安になる、かな。正確な数値は、また別の機能で見られるんだけど」

 僕は、『リストア』と唱えてジェムを指輪に戻した。

「どうやんの?」

「うん、『システムコール・ステータス』」

 僕の指輪の上に、B5サイズのスクリーンが投影され、具体的なステータスが数値に変換されて表示された。通算獲得経験値から、力、素早さ、体力、魔力、防御力、運が六角形になっていたりだとか、ネクストレベルまでの数値とか、これまで倒したモンスターの総数や、面白いところでは踏破した距離までカウントされてる。

「ナユタの場合、素早さと魔力と運が極端に伸びてるね。おれは……丸坊主だ」

 そりゃあ、レベルゼロなんだから、ステータスもすっからかんだ。ユジュンはまっさらなステータス画面を表示させて、笑ってる。

「ユジュンは駆け出しだもの。スタートラインに立っただけ」

「レベルに上限はあるの?」

「いちおう九百九十九でカンストするっていう噂があるよ。でも、誰もそこまで到達したことがないんだ。あくまで都市伝説レベルの話」

「例えばユーリのレベルはいくつ?」

「えーと、確か百二十ちょいだったと思うよ」

 それから、カウンターを離れて、リクエストボードの前にユジュンを連れて行った。大きなボードには整然とクエストの内容が書き込まれたシートが並んでいる。

「これが、クエスト。お使い系から、何でも屋系から、モンスター討伐系からいろいろある。冒険者のレベルに応じて難易度が、SからEまでランク分けされてるんだ。このバーコードを指輪の魔導石に読み込ませると、受領出来る」

 指輪は長方形の魔導石が、途切れ途切れに埋め込まれていて、石の部分で読み取らせる。

「これも魔導石なの?」

「うん、そう」

「ほんと、用途が幅広いなぁ」

「『システムコール・クエスト』」

 と唱えると、また、さっきとは違う内容のスクリーンが投影された。

 現在、僕は何もクエストを請け負っていないので、当然、白紙だ。

「クエストを受領すれば、ここに表示される。細かな内容も確認出来るから、便利だよ。うっかり忘れてもだいじょうぶ。そして、達成したクエストは、こうして一覧で見られるんだ」

 僕は画面をスライドさせて、達成済みのクエストが記されたページを表示させた。

「結構な数、クエストこなしてるんだね」

 ユジュンがスクリーンを覗き込みながら、感心している。

「暇つぶしに、たまにやるんだよ。ソロだし、ほとんどがEかDランクの簡単なものだ」

 ユーリと一緒のときは、Cランクのクエストにも挑戦するけどね。

「新規とか至急とか、注釈がついてるのがある」

 ユジュンがボードに並んだシートを見て、違いに気付いたみたい。

「ほとんどが市民の困り事なんだ。だから、リミットが設定されてるクエストも多い。新しく追加されたクエストは二十四時間以内のものに限って新規として更新される。自分に合うクエストを探してる冒険者が見つけやすいようになってるわけ」

「同じクエストを受領しちゃって、他の冒険者と取り合いになったりしないの?」

「うん、それはない。指輪に読み込ませた時点で、『オーダー』って言うとそのクエストはボードから消えるんだ。複数人で請ける場合は、各人読み取らせた後に、『オーダー』って言えばオッケー」

「早い者勝ちだ」

「そういうこと」

「じゃ、この再登録っていうやつは……」

「前に請け負った冒険者が失敗したクエストが、再登録されたって意味」

「やっぱり。でもさぁ、指輪の状態で詳しいステータスが見られるんなら、ジェムに変化させる意味、なくない?」

「そんなことないよ。経験値の蓄積した様子を目で確認できるのって、数字で見るより快感なんだ。それに、指輪からジェムに変化させられるのは、冒険者の証だからね。指輪やジェム、片方だけ偽造して、冒険者を騙る輩もいるし。それにジェムはその個人、固有のものなんだ。本人以外は用をなさない」

「あー、さっきお姉さんが、生体情報と遺伝子情報を登録したって言ってたのは、そういうことか」

「そう。バンクに登録された情報と、ジェムの情報がリンクしてるんだよ。早い話が身分証明書」

 ユジュンは理解が早い。

 げにまっこと優等生だ。

 どうでもいいけど、さっきから受付のお姉さんがずっと後ろをくっついてくる。

「なんですか?」

 僕が怪訝な表情を向けると、

「いやあー、私のお仕事、とられちゃったなぁって。ぼっちゃん優秀~」

 お姉さんは胸の前で両手を振りながら、あはは、と乾いた声で笑っている。

 ああ。新人の案内は受付の担当か。

 そういえば、僕のときはユーリが全部説明してくれて、やっぱり受付のお姉さんが苦笑いしてたっけと思い出す。

 まるで、デ・ジャ・ヴ。

「ねぇねぇ、ナユタ。なにか、クエスト請けない?」

 ユジュンがそわそわしている。

「レベルゼロが何を言う」

 僕はぺしっと、ユジュンの脳天をチョップした。

「請けられるのは、せいぜい迷い猫探しか、無くした物探索くらいだよ」

「ちぇー」

 ユジュンはつまらなさそうに、唇を尖らせた。

「んーでも、こっちに一ヶ月も放置されてるクエストがあるなぁ」

 僕は端っこも端に表示されているシートに目を付けた。


トルキア・コソコソ話。

「システムコール」といえば「SAO」だよね。パクリじゃないよ、被りだよ。

……。……。……。

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