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ORATORIO・SaGa  作者: しおん
16/17

16 ラスボスVSナユタ

 奥に、鎮座しているのは魔獣の女王、名をゴルゴーンと呼ぶ。ゴルゴーンとは、恐ろしいもの、の意。

 とにかく巨大で、上半身は人間の女性の姿をしているけど、腰から下は固いウロコで覆われた大蛇だ。長い尾が、とぐろを巻いている。

 背には四枚の羽。

 その長い髪は蛇と化し、向かって来るものに襲いかかる。

『待ちわびておったぞ、人間よ。妙な気を発するそなたらは何者か』

 ゴルゴーンの声は空から落っこちてくるみたい。

 あぁ、なるほど。戻れなくなったり、階層をすっ飛ばしたりしてたのは、こいつ、ゴルゴーンの仕業か。

「僕ら、人間じゃないんだよ。ホムンクルス」

『なに? 賢者の石の精製に成功した者が現れたのか。その肢体、引き裂いてつぶさに調べてやる』

「我が呼び声に応えよ! 空斬裂破」

 ユーリが先制攻撃をかましたけど、攻撃はゴルゴーンの表面を弾いただけで、ダメージを与えることは叶わなかった。

「やはり、通らないか」

 ユーリはじり、と汗をかいて拳を握りしめた。

「ねぇ、ユーリ。『あれ』使ってもイイ?」

 僕はユーリに許しを請うた。

「ああ、いいだろう。『あれ』が通用しなければ、我々はここでおしまいだ。好きなだけ暴れてくるがいい」

 許しは得た。

 『あれ』は強力過ぎる力だ。おいそれと使うなと、普段からユーリに固く禁じられている。もしものときの為の、奥の手だ。

 僕は、ユニークスキル『捕食』を使って、アースシアで五十年前にルキが封印した魔人アザゼルを吸収した。この身に魔人の力を内包しているってこと。

 それから、もう一つのスキル『絶対服従』でアザゼルは完全に言いなり。

 体内に魔人の力を宿してるなんて、チート過ぎてめったやたらと使えないでしょ?

 こんな大ピンチのときでもなければ。

『アザゼル、力を貸して』

 内に宿る、アザゼルに願う。

 すると、

『諾なり』

 と返答があった。

 僕はゴルゴーンに向かって、歩き出した。

「ユーリ、『あれ』って何?」

 背後で訳の分からないユジュンが、ユーリに尋ねていた。

「ああ、おまえは見たことがなかったな。魔人アザゼルの力の行使だ」

 一歩、歩みを進める度に、僕の姿が変態する。

 一歩。足が大きくなり、骨格が変化する。

 一歩。脚が伸び、胴が伸び、腕が伸びる。

 一歩。身長が百八十五センチ、体重が七十五キロの成人男性になる。

 一歩。髪が白髪になりながら、床に着くほど長く伸びる。

 一歩。目が裏返り、戻ったときには、本来、白目である部分が黒くなり、黒目である部分が赤くなる。僕の双眸は魔人特有のそれに変化していた。

『小癪な』

 ゴルゴーンへと続く道の半ばで、僕は魔人の姿を乗っ取った、二十七歳当時のルキフェン・リンドウの姿に変貌を遂げた。

 子供のままでも力を行使できないこともないけど、限定的だ。大物相手に全力を出すには盛年の姿をとる必要がある。

『な、なんだ。その気配は。まるで魔人ではないか』

 一瞬、ゴルゴーンが恐れをなして怯んだ。

 ゴルゴーンがひと束の髪を蛇に変えて、襲いかかって来た。でも、その蛇が僕の元まで届くことはなかった。

「『荒刃(キラー)』」

 届く前に見えない刃で蛇の頭は切り落とされていた。その刃は黒い炎から発生している。

 僕はただ、歩きながら、手刀で袈裟斬りの振りをしただけだ。

 ビチビチと、落とされた蛇の頭が床で跳ねる様は、滑稽だった。

『さ、再生せんっ』

 ゴルゴーンの再生能力より、僕の黒い炎が細胞を死滅させる負荷の方が、より勝っているようだ。

 その後も蛇が次々襲いかかって来たけど、その全ての頭を僕は袈裟斬りしただけで落としていった。

 隙をかいくぐってきたものは、

「『爆炎(バースト)』」

 内側から灼いて爆裂させた。

 血が巡る、気が走る、鼓動が波打つ。

 溢れる魔人の力が、肉体という檻を破って飛び出しそうだ。

 僕はその強烈な破壊衝動を抑え込んで、両手に熱のない黒い炎を宿した。

「『地獄の炎(ヘルズ・ファイア)』」

『ぐあああああ』

 ゴルゴーンを黒い炎が焼く。じりじりと、底辺から広がってやがては全身を焼く。

「『爆炎』」

 僕は右手を上げると、ゴルゴーンの腹に風穴を開けた。

「これくらいじゃ、死なないんだっけ。もちろん、これで終わりじゃあないよ」

 ゴルゴーンの腹の向こう側の景色が穴越しに見えた。

 僕は赤い目を弓なりに細めた。

『うがぁぁあ!』

 ゴルゴーンが狂ったように、髪を蛇に変えて攻撃してきた。加速したそれらを僕は残らず捌く。

「じゃあ、仕上げ」

 のたうち回ってるゴルゴーンに、制裁を加えるべく、僕は右手を天高く掲げた。

 双眸を閉じ、イメージコントロールする。

「『ゼノ・ブレイド』」

 上空高くに、百はあろうかと言う、光で出来た剣の大群が現れた。

 『ゼノ』イコール、ラテン語由来で『異物』または『他人』を意味する。

「行け」

 僕は右手を振り下ろした。それを契機に、光の剣がゴルゴーンの全身を一斉に貫いた。ゴルゴーンはさながら、ハリネズミの背中みたいになった。

『ぎゃああああーー!』

 ゴルゴーンにとっても、致命的な被弾だったんだろう、ダメージに耐えきれずに頭の先から赤い光になって消えていく。

 へぇ、ラスボスも他の魔獣と同じように分解されるんだ。

 もしかして、どっさりご祝儀つきの経験値が得られたりするのかな?

 だったら、ラッキー。

 そう思った途端、僕の視界は暗転した。

 気付いたら、真っ暗な空間に漂っていた。

 少しずつ、下降しているらしく、足下に人の影が確認出来た。

 その人影は黒衣にとんがり帽子に、右手にはホウキといった物語に出て来るまんまの、紛うことなき『魔女』だった。

 僕は、彼女を頭上から見下ろす位置で停止した。

 こちらを見上げてくるその顔は、ゴルゴーンと同じ人のように見えた。

「……あなたは?」

『私はラプラスの魔女。ゴルゴーンの正体である』

 このダンジョンの主的なものかな。

 ラプラスの魔女はホウキで地面を突いた。落語家が、場面転換の際に扇子を叩くように。

『よもや魔人の子が攻略しに現れるとは思わなんだ』

 ダンジョンのラスボスより、一国を一夜にして滅ぼすほどの力を有した魔人の方が、上回ったようだ。ま、最初っから分かってはいたけれども。

『その力をもって何とする』

 ラプラスの魔女は僕に問いかけた。

「世界中のひとが笑顔でいられる世の中を作りたい。その障害となり得るものを、この力を使って排除するんだ」

 僕は、ユジュンならきっとそう答えるだろうなぁって思って、そう言った。

 ラプラスの魔女がまた、コンコンとホウキで地面を突いた。

『因果律予測。それが私を食らって得られる能力だ』

「因果律予測?」

『少し先の事象を先読み出来る力だ』

「予知能力的な?」

『うむ。そなたのような者が現れるのを、ずっと待っておった。我が力、預けようぞ』

「じゃあ、遠慮なく捕食させてもらうね」

 僕は口から、ラプラスの魔女を吸い込んで『捕食』した。空間が歪んで、人一人を口から吸い込むと言う現象は、傍から見ると、それなりにシュールだ。

 これで僕は新たなユニークスキル、『因果律予測』を手に入れた。

「う、うわあ!」

 次の瞬間、僕が意識を取り戻して、聞いた第一声がユジュンの悲鳴だった。

 ユジュンは突如現れた僕の姿を恐れて、ユーリの後ろに隠れていた。

「ナユタ。魔人化を解け」

 ユーリがやれやれと息を吐いた。

「うわ、グロ……ホントにナユタなの?」

 ユジュンが恐る恐る、ユーリの背から顔を出して、僕の様子を伺っている。

 そう、あからさまに畏怖されると、傷つくなぁ。

「うん。ユジュン。僕だよ。完全に魔人化すると、こうなるんだ。セラフィには絶対見せられない」

「声まで大人だ」

「そりゃあね。じゃ、もとに戻るね」

 僕は魔人化を解除した。

 瞬きをする、その一瞬で、僕の姿はもとの子供の姿に戻った。

 そこで初めて気が付いたけど、僕たちが今いる部屋は、どう見ても宝物庫だった。

 金銀財宝が見渡す限り部屋いっぱいに積み上がり、光を灯したかのように明るく辺りを照らしている。これがダンジョン攻略のご褒美?

「僕、どのくらいいなくなってた?」

「うん、けっこう長い時間消えてたよ」

 僕が元の姿に戻って、安心したんだろう、ユジュンが側まで寄ってきた。

 ラプラスの魔女との対話は、時間の流れが違って、感覚がズレているのかも。

「ともかく、ナユタによって、我々は命を繋いだ。礼を言う」

「いや、そもそも、僕らじゃなかったら、ゴルゴーンと相対することもなかったわけだし」

「そうか。そうだったな。このトラブルメーカーめ」

 ユーリが手のひらを返した。

「ねぇ、レベル、どのくらい上がった?」

 僕らはオビイト・ジェムを見せ合った。ユジュンは四十、ユーリは二十。僕に至っては、ゴルゴーンを退けたのが大きかったのか、六十もレベルが上がっていた。

「うわあ。大台に乗っちゃった」

 僕は穴が空くほどジェムを見つめた。

「ある程度の収穫はあったな」

 ユーリもそこそこの満足振りだ。

「わーい」

 ユジュンはジェム片手に舞い踊っている。

「そろそろ、外に出るか」

 ユーリがドアを開け放つと、そこは地上だった。

「これは……」

 ユーリが第一歩を踏み出して、外に出た。

 僕と、ユジュンも後に続く。

「どういうことだ」

「ゴルゴーンを倒して、ダンジョンを攻略したから、ダンジョン自体が消滅したんじゃないの?」

 ダンジョンは攻略されると一夜にして消える、というのが定説だ。

 振り返ると、ドアも消え去って、金銀財宝の山だけが残っていた。

 辺りは静まりかえっていて、日が昇ったばかり、と言った風景だ。

 その静寂を破る、バタついた足音が森の方から近づいて来た。

「君たち、君たちが、第十三迷宮・ラプラスを攻略した冒険者かい?」

 二人組の男性二人が息せき切らせて間近まで近寄ってきた。

 僕たちが唖然としていると、

「知らないのかい? 街中が揺れに揺れたんだよ。ゴゴゴゴと地響きがしてね、すごかったんだ。これはダンジョンになにかあったな、と思って馳せ参じたって訳だ」

 のっぽのその男性は新聞記者で、もう一人の太り気味の男性はカメラマンだと名乗った。

 僕たちは取材を受けて、何枚か写真を撮られた。さすが、日々スクープを狙ってる新聞記者。情報を嗅ぎつける嗅覚が半端ない。

「ユーリ、今、何時?」

 僕は、はっと気付いてユーリに時間を確認した。

「午前六時だ」

「ユジュンをアースシアに送り届けなきゃ!」

 僕は『暗黒』を顕現させて、背に飛び乗った。

「ユジュンも早く!」

「え、あ、うん」

 ユジュンが『暗黒』の背に、よいしょと上ってきた。

「じゃあね、ユーリ! 後はよろしく!」

「ユーリ、いろいろありがとー!」

 突然の別れにも関わらず、ユジュンはユーリに礼を伝えることを忘れなかった。

 黒い竜が森を飛び立つ。

 吹き荒れる風の中で、

「達者でな!」

 ユーリが手を振っていた。

 そのユーリが豆粒みたいに小さくなる。

 ある程度の高度まで達したところで、『暗黒』は上昇をやめ、真っ直ぐ飛行し始めた。

「急にどうしたっていうの? ナユタ」

「だって、猶予は十日間だって、君のお父さんと約束したじゃない」

「あーそっか。今日が十日目か。長いようで短かったな。うん? 短いようで長かったのかな? ダンジョンにいたせいで時間の感覚が変になっちゃったよ」

 ユジュンが、頭を捻って考えあぐねていた。

「何せ、片道十三時間かかるんだからね」

 このときの僕は、ダンジョン攻略が新聞記事になって、しかも一面で大きく扱われることになるなんて、夢にも思ってなかったんだ。


トルキア・コソコソ話。

「ゼノブレイド」っていうゲームがあるけど、特に関係はないよ。

「ゼノ」のラテン語由来の意味は本当だよ。

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