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ORATORIO・SaGa  作者: しおん
15/17

15 ダンジョン攻略

 翌朝、パンとコールスローとベーコンエッグという献立の朝食を食べ終わった僕たちは、午前八時ちょうどにテントなどを撤収して出発した。

 五十階層も過ぎると、僕でもキツくなってくる。決め手に欠ける場面が多少見られるようになる。

 ユジュンは完全に後方支援に回って、銃で応戦している。

 六十階層を経過する頃には、ユーリが先に立って戦うようになっていた。

「うーん、固い!」

 僕は骸骨みたいなアンデッド系の魔獣の脳天に、短剣を振り下ろした上で、

「貫き通せ、貫通! は、い、だ、らーーぁ!」

 と、言の葉を駆使して、ほとんどゴリ押しで倒した。

「しゃーんなろ!」

 『はいだら』はやってやんぜ、みたいな意味。『しゃんなろ』はしてやったり、みたいな意味。

「無理はするな、ナユタ!」

 ユーリが剣を振るって、魔獣を沈めている。

 それでも、僕の刃が全く通らないわけじゃない。

 敵の弱点を突いて、効率よく退治していった。

 ユーリはダンジョン探索も慣れたもので、

「光よ、鎧となりて護れ、防護」

 と悪素から常に身を守りながら魔獣と相対している。

 さすがに、ユジュンのショートソードによる攻撃は用をなさなくなってるけど、『ベレッタ』による最大火力の銃撃は効いている。

 僕たちはいつの間にか、絶妙なコンビネーションを保って戦うようになっていた。

 そうして、とうとうたどり着いた、第百階層。

 ほとんどの魔獣はユーリが捌いたものを、僕とユジュンで処理するというのがパターンになっていた。

「潮時か……」

 襲い来る魔獣の群れを片付けたあと、ユーリが汗を拭った。

 僕と、ユジュンの様子を気にしている。

「戻るの?」

「ああ」

 ここまで来て、もったいないな、と思ったけど、僕はユーリに着いて、階層の入り口まで戻った。

 でも。

 ユーリが台座にジェムをかざしても、壁が消えないどころか、反応しない。

「どういうことだ」

 その後、僕とユジュンのジェムでも試したけど、台座は反応しなかった。

「どうするの? ユーリ」

 僕に問われたユーリは、しばし顎に指を当てて考えてから、

「先に進む他ないな」

 と、次の階層へと続く壁まで舞い戻ることを選択した。

 台座にジェムをかざすと。 

 ゴゴゴゴと大地が唸る音がして壁の向こうで、まるでダンジョンの構造が組み替えられているかのような不気味な響きが伝わってきた。

「ユーリ、なにが起こってるの?」

「分からん。こんなことは経験がない」

『次ハ、第百二十階層、デス』

 気味の悪いアナウンスが流れた。

 告げられたのは、ここから、二十層も下だ。

「ユーリ、どういうこと?」

「分からん。階層がショートカットされるなどという話は、聞いたことがない」

 それでも進むしかない。

 僕たちはゆっくりと階段を降りた。

 目の前に開けたのは、昨夜のセーフエリアみたいな、大空洞だった。

 そこに、魔獣の群れがいくつも群生している。

 それらが、一斉に襲いかかってくるのだ。その荘厳なる迫力と恐怖と言ったら、筆舌に尽くしがたい。

「『システムコール・アナライズ』」

 アナライズモードを呼び出して見るけど、標的を映しても何も表示されない。

 ユーリも、ユジュンも同じようにして、愕然としている。

「これは……ギルドのバンクにも登録されていない、初遭遇の魔獣だ。つまり、ここは、人類未到の階層ということだ」

 ユーリが呟いてから、唾を飲んだ。

「おれたちで、太刀打ち出来るの?」

 不安そうなユジュンに、

「やるしかない。おまえたち、『(はら)(から)』も呼び出しておけ」

 ユーリはそう腹をくくって年長者らしく命じた。

 ユーリは『(あり)()』と『何処(いずこ)』を。

 僕は『暗黒(エレボス)』と『(ニユクス)』を。

 ユジュンは『(ハレ)(アキラ)』を。

 それぞれ顕現させた。

 レベルもステータスも不明の魔獣の群れ相手に、こっちは『同胞』を使っての総力戦だ。

 敵は圧倒的な物量で押してくる魂胆だ。

 双方ぶつかって、戦いが始まる。僕たちも次々敵を蹴散らしてはいくけれど、数的不利は動かぬ事実。

「あっ!」

「ユジュン!」

 ユジュンが巨大な芋虫みたいな魔獣の群れに飲み込まれた。

 助けなきゃ!

 僕は急いで目の前の敵を葬り、ユジュンの元へ走り寄ろうとした。

 そのとき、ユジュンが飲まれた辺りから、光が放たれた。芋虫が吹っ飛ばされる。

 そこから、ユジュンを抱いて宙に浮き上がった青年は。

 袖と裾を引きちぎったような、粗野な着物を身につけ、全身入れ墨だらけだった。二刀流で、腰に刃こぼれした刀を差している。

『あっしの名をお呼びですかい? 我が主よ』

「ま、『(マダラ)』?!」

『如何にも』

 よく、命の危機に『同胞』が目覚めるというけど、ユジュンにとって、今がまさにそのときだったようだ。言うなれば『同胞』あるある。

「『斑』! 芋虫が無限に吐き出されてる根源の、あのでっかい繭をやっつけて来て!」

 ユジュンは状況をよく見渡せている。

 命じられた『斑』は、ユジュンを地面に下ろし、

『へーい』

 と、刀を抜いて、巨大な繭に向かって飛んで行った。 

「『夜』! 僕らを護って!」

 遅ればせながら、僕は、そう『夜』に命じた。もともと、『夜』は戦闘タイプの『同胞』じゃない。防御専門だ。

 彼女の護りは、鉄壁の護り。

 僕たちへのあらゆる攻撃を跳ね返す盾を展開させている。

 不意に大地が揺れて、発生源の方を見ると、どうやら『斑』が芋虫を吐き出す巨大繭を始末したようだ。縦、横に切り裂き、繭が割れて中から白いドロリとした液体が零れ落ちていた。あの、刃こぼれした刀でどうやって斬ったんだろうか。

 とにもかくにも、厄介な芋虫の無限流出は止まった。

 それだけでも、随分戦いやすくなった。

 どれも密林に生息する植物を巨大化させたような魔獣だ。炎の言の葉と、剣を使って次々葬っていく。

「刃よ唸れ、四重奏(カルテツト)!」

 これまた肥大したラフレシアみたいな魔獣の群れに向かって、ユジュンが言の葉を放つ。

「刃よ唸れ、五重奏(クインテツト)!」

 ユジュンは調子づいたのか、空気の刃を二陣、三陣と立て続けに、鎌首をもたげたラフレシアを切り裂いていく。

「刃よ唸れ、六重奏(セクステツト)!」

 発するごとに威力が増し増しになってる。

 口に凶暴な牙をたくさん生やした、危険極まりないラフレシアの群れは全滅した。

 おやおや。これは、ユジュンってば将来は腕利きの言の葉使いになり得るかも?

「やったね!」

 ユジュンは空から降りて来た『斑』とハイタッチをしていた。

 そうして、一時間も戦っていただろうか。

 見通しのいいこの階層に、魔獣の姿は見えなくなった。

「や、やったの……?」

 僕のとなりでユジュンがたまらず、両ひざを地面についた。

「少なくとも、この階層は一掃出来たはず」

 僕も肩で息をしながら、短剣二振りをホルダーに収めた。

「問題は、これがいつまで続くのか、ということだ」

 しかし、ユーリの杞憂は裏切られることになる。

 皆の『同胞』は、あっち側へとりあえず返した。むやみに顕現させ続けると、精神力を削られるので。

 魔獣を掃討し、安全を確保したことで、一時休戦。

 僕たちは遅めの昼食、兼、早めの夕食を食べて休息した。

 そこでもやっぱり、ユーリは僕らに断ってから、煙草を呑んだ。

 そして、山あり谷ありの複雑な地形を結構な時間をかけて進んだ。

「あ、あった!」

 ユジュンが疲れも見せずに、我先にと台座の元へ走って行った。

 やっとのことで見つけた次の階層への壁の前まで行き、台座にジェムをかざすと、またしても壁の向こうで、ゴゴゴゴと何かが蠢いていた。

「何かの意思に導かれているのか?」

 ユーリがそんな予言めいた言葉を吐いた。

『次ハ、深層二百階デス』

 一気に八十層もすっ飛ばした! しかも、深層って最下層ってことじゃない。

 壁が消えると、階段ではなく、廊下が続いていた。

「ふははは」

 極限状態にあるにも関わらず、ユーリが笑った。

「これは、マズイな」

 廊下を抜けると、見たこともない紺碧の石で囲まれた、広い空間に出た。

「ラスボスだ」


トルキア・コソコソ話。

「しゃんなろ」は「ナルト」の春野サクラの決めぜりふとして有名だけど、「はいだら」の出典がどこか分かる人いるかなー?

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