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雪の降る夜、サンタクロースを捕まえに。

作者: 堀田シヲン
掲載日:2019/09/27

「明日、サンタクロースを捕まえに行こう」


 冬休みの最中、コンビニでパンを頬張っているときに、缶コーヒーを飲んでいる三多カズキにそう言われた。

 はあ? とか言っちゃったけど、カズキは冗談を言わないやつだっていうことはわかっていた。多分、大真面目に言っているんだと思う。


「サンタクロース、捕まえたくない?」


 今日はクリスマスイブの前日、つまりはサンタがプレゼントを配る前日だ。そんな急に言われたって、俺には予定がある。大事な大事な予定だ。俺には彼女がいる。彼女との貴重な時間を割いてまでサンタクロースなんて非現実的な存在を捕まえに行く余裕なんてない。


「大丈夫。ミズキには許可を取っておいた」


 はあ。まあミズキはどこかファンタジックなものを信じている側面があるからな。そういうことを言いだしてもおかしくはないだろう。


「そのかわり、プレゼントはたくさんもらってきてよ、だってさ」


 それは暗に俺にプレゼントをたくさん用意しろってことじゃないのか。はあ、と溜息を吐く。それは白く固まって空中に浮かんだ。


 俺は冬が好きだ。まだ今年は雪が降ってないけど、この寒い感覚はいやでも神経をとがらせてくれる。なにより、背筋が自然と伸びるのだ。なぜか冬になると自信がつくやからも多いだろう。俺もその中の一人だ。


「じゃあ、明日、22時に小学校前な」


 それだけ言い残して、カズキは缶コーヒーをゴミ箱に投げ入れ、去っていった。缶はなげられるまま、ゴミ箱へと吸い込まれるように消えていった。器用なやつだ。


 とりあえず、寒い。気温は何度か知らないけど、この様子じゃあ、明日は雪かな、なんて思って、家に帰ることにした





 「よう、来たな」


 日は変わって12月24日の夜10時、俺たちは約束の小学校前まで来ていた。家を出る時に、親にどこに行くのと聞かれたが、いや、ちょっと夜の散歩に、とだけ伝えたら、ふうん、そう。気を付けてね。とだけ言われた。こういう部分は寛容なのだ。ありがたい。


「あれ、なんでお前ギターなんか持ってんの」


 カズキは背中にギターケースを持っていた。おそらくアコースティックギターだろう。


「きっとサンタクロース、音楽好きだぜ」


 なんて、真顔で応えるカズキ。

 はあ、、そうですかなんて、呆れながらも俺は言う。


「お前は歌うんだよ」

「はあ?」

「ギターには歌だろ」


 だってお前、歌うまいし。

 だって。俺はそんな意識ないんだけどなあ、なんて思いながら、わかったよ、しょうがない。なんて言った。

 カズキは、よし、決まりだなと言って、にこやかに笑う。


「で、どこ行くの」


 俺がそういうと、カズキは隣町の展望台だという。ここから1時間半はかかる。

 間に合うか?と問うと、まあ、大丈夫じゃない? なんて全く計画性がない返事がもらえた。

 まあ、ここでなんやかんやしててもしょうがないということで、持ってきた自転車にまたがり、早速出発することにした。




 道中は、軽くいって、地獄だった。冷たい夜風が顔に吹きすさぶわ、途中に暖をとれるコンビニなんてないわ、カズキは無言だわで、話にならなかった。こんなことなら、ミズキとクリスマスパーティーしたほうがよっぽどましだったと思わざるを得ない。


「なあ、カズキ」


 自転車をこぎながら、おれはカズキに向かっていった。


「サンタクロースなんてほんとにいるのかよ」


 いるよ、絶対に。

 なんて、軽く答える。もしもいなかったら、一発殴ってやる。そう心に決めて、目的の展望台に向けてまたペダルをこぎ始めた。




 1時間ほどたって、ようやく展望台に着いた。いそいそと自転車から降りて、自販機を探す。缶コーヒーを2本買って、一本をカズキに投げてやった。


「・・・なにこれ、クリスマスプレゼント?」

「安上がりだなあ、お前。それでいいなら、プレゼントにしてやるよ」


 カズキはきょとんとした顔で俺の投げた缶コーヒーを眺めていたが、すぐに微笑みに変わった。


「ありがとな」


 よせやい、照れくさい。

 そんなことよりも、目指すはあの展望台だ。あそこでサンタクロースを捕まえるんだろ?


「ああ、あそこで、捕まえる」


 カズキはギターを背負って、俺はジャンバーを着こんで、展望台に上り始めた。




「・・・来ないな」

「まだ待てって」


 展望台に上ってから、10分は過ぎた。まあ、そんなに早く来ないだろうということはわかっていたが、この寒気の中でじっとしているのはちょっとしんどい。


「そうだ」


 そう言ってカズキは、背負っているギターケースに手をかけた。ギターを弾くのだろう。

 俺はカズキのギターは好きだ。決して上手いとは言えないが、どこか温かみのある音色がする。ギターの種類だろうか。でも、本人が言うには、2万円くらいで買った安物だと言っている、不思議だ。


 ギターケースからギターを取りだして、チューニングを始めた。ビィン、ビィンという間抜けな音がする。


「ふははっ」

「笑うなよ」


 やがてチューニングが終わり、カズキはみんなが知っている有名な曲のイントロを流し始めた。


「ほら、お前が歌うんだよ」

「ええー・・・まあいいけど」


 誰もいない12時近く、この場所でギターを弾くカズキと、歌う俺。なんだか、この瞬間だけ、すごく特別な時間が流れているような気がして、気分が高揚したものだった。





 12時過ぎ、待っても待ってもサンタクロースは現れない。

 まあ、こんなもんか。と思って、カズキに、帰ろうぜと言った。


「その前に、俺ちょっとトイレ」


 そう言って展望台から降りていくカズキ。ギターケースを置いたままだった。盗む奴なんていないと思うけど、もしもの為だ。一応俺はここに残っておこう。




 ・・・変だな。10分経っても戻ってこない。男のトイレなんて長くったって5分くらいで終わるはずなのに。少し嫌な予感がして、カズキを探しに行くことにした。もちろん、ギターも忘れずに。


 展望台を降りると、カズキは自販機の前で呑気にコーヒーをすすっていた。なんだよ、心配して損した。


 カズキがこっちに気づいたら、カズキは、こんなことを言った。


「捕まえたよ、サンタクロース」


 え? マジで?

 どこにいんの?


「キャッチ、アンドリリース」


 ええー、そんな釣りみたいな。


「でもほら、プレゼントはもらったよ」


 といって、俺に何か投げてきた。手元を見ると、よくわからないメーカーの缶コーヒーだった。結局缶コーヒーかよ。


 ははは、なんて笑いながらカズキは自販機から離れて、さて、帰るか。なんて言った。


 帰ろうとした時、鼻の先に冷たいものが当たった。雨かな、なんて思ったら、視界に白いものがちらほらとうつる。雪だ。


 ホワイトクリスマスだな、なんてカズキが言う。


「あ」


 自転車に乗った俺たちだが、出発する前にカズキがこういった。


「その缶コーヒー、すぐには飲むなよ」


 訳が分からん。とりあえず帰ろうぜ、と言って、自転車にまたがった。




 集合場所だった小学校の前まで行くと、そこで解散の流れになった。


「いやすまん。捕まえたけど、逃げちゃって」

「リリースしたのはカズキだろうに」


 まあそこはご愛敬と言うことで、といってはぐらかすカズキ。

 まあ、久しぶりに夜歩きしたから、楽しかったけどね。

 おう、俺も。といって、二人で笑った。


「じゃあ、また明日なー」


 と言って立ち去ろうとする俺に向かって手を振るカズキは、少し寂しそうな顔をしていた。




 次の日、大量の着信音で起きたことにはびっくりした。着信は全部ミズキである。何事かと思って電話に出てみたら、


「昨日のデートすっぽかして寝てただなんて信じられない! サイテー!」


 とのことだった。

 いや、カズキに了承取ったんじゃないの? と言うと、


「カズキ? 誰それ?」


 と、予想外の答えが返ってきた。

 状況は読み込めないが、穴埋めのために今日デートすることになったので、いそいそと準備を始める。


 ふと、枕元に何かが置いてあるのが目に入った。

 それはちょっと小さ目な箱だった。メッセージカードらしきものも置いてある。


 この年になって親からプレゼントもらってもなあ、と思いながら、メッセージカードを開けてみると、


「なんだ、サンタクロースって、ほんとにいたんだな」


 って、言葉が漏れた。





 「遅いー!」


 ミズキはカンカンに怒っていたが、きちんと化粧や服装に至るまでオシャレしてきていた。正直にかわいいよ、ありがとう、ごめんね。と伝えたら、あ・・・ありがとう・・・。と、しんなりした。


「あ、そうこれ」


 俺はミズキに小さめの箱を手渡した。なにそれ、もしかしてクリスマスプレゼント? とはしゃいでいるミズキに、


「いや、サンタクロースからの贈り物だよ」


 と言ったら、なにそれ、でも、ありがとね。と、答えた。


 それにしても、ありがとうなサンタクロース。でも、ネーミング何とかしないとダセえぞ、三多(サンタ)さんよ。

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