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頭上のゼロ

四月。

私立西城(さいじょう)学園に続く一本道。

その左右に咲き乱れる桜はまるで、俺たち新入生を歓迎しているかのように感じられ、これからの高校生活に興奮を禁じ得ない。

俺と同様、新入生の皆はやはり俺と同じような感想を抱いたのか、緊張しているというよりはどこか楽しげに歩いている。

今日という新たな学園生活の幕上げのために、ありとあらゆる面倒ごとを片付けてきたのだ。

のだったのだが……

何故、女子生徒は頭の上に0の数字をを乗せているのだろうか?


――――――――――――――――――――――――


朝6時、俺、久藤(くとう)(かなめ)は珍しくデジタル時計の音がなるのと同時に目が覚めた。

珍しいというのはそもそも、目覚まし時計というものをあまりしないからだ。

俺的に、どうにもあの焦燥感を煽るような音が苦手なのだ。

スマホのアラーム機能でもいいのだが、最近は頭の近くに携帯を置いて眠るのは良くないとテレビでやっていたため、目覚まし時計にしてみた。

不快感はあったが、見事に起きることができたし、これから始まるであろう学園生活のことを考えると、不快感なんて速攻で吹き飛んだ。

自分の部屋のある二階から一階のリビングに降りると、じゅわ〜と朝の食欲を掻き立てるフライパンの音が聞こえてきた。


「あっ、要。おはよー」


「おはよう姉さん、いつも早いな」


「そりゃ、お姉ちゃんですから」


この女性は姉の久藤 (あおい)

この春2年になる大学生だ。

茶髪なセミロングの髪にタレ目で更にスタイル抜群の超絶美人。

さらに、スポーツ抜群、成績優秀のアルティメットガールだ。

本当俺の姉なのか疑いたくなるほど美人なのだが、悲しいことに実姉である。


「要は今日から高校生かあ」


キッチンに立っている葵は懐かしそうに呟いた。

要はテーブルに座りながらため息をつくように言った。


「なんだよおばさんくさいな」


「んふふ、お父さんとお母さん、昨日から海外行っちゃったからねー。 私が要の面倒見てあげないと♪」


「なんでちょっと嬉しそうなんだ? ……ていうか父さんも母さんも親としてどうなんだ? 大切な息子の入学式の前の日に海外って」


「しょうがないじゃない、お父さんの急な転勤でお父さん家事とか、生活ダメダメなんだから。」


「わかってるよ」


父さんは、社会人になるのと同時に近所のアパートに一人暮らしを始めたはいいものの、生活が酷すぎて、幼馴染である母さんが見るに見かねて手伝ってるうちに恋に落ちて結婚したらしい。

母さん曰く、父さん1人で生活させたら家がトラップハウスになるとか。

どんな奇跡だよ……


「なあに? 寂しいの?」


料理の手は止めずニヤニヤと訪ねてくる。


「んな訳あるか、ガキじゃあるまいし。」


「はいはい、でも大丈夫! お姉ちゃんが全部面倒を見てあげるから」


「だから違うって」


「やーん、怒る要も可愛い❤︎」


いかんいかん、この人の前で怒ると話のペースを乗っ取られる。


「はあ、ところで姉さん、この手紙は?」


テーブルには一枚の手紙が置いてあった。


「ん? ああ、それお母さんが要に置いてったの。 何が書いてあるの?」


家族が身内に個人で手紙とは何事かと思い手紙を広げると、


要へ、

お母さんたちは、ちょっと遠くに行ってきます★

要の入学式出られなくてとおおおっても残念です♪

でも!

要なら大丈夫よ★

高校入学おめでと♪

頑張ってね❤︎

母より。


「………………。」


…………何というか、実に母らしい物だった。

年を考えて欲しい。

45歳の母親からこんなキャピキャピした手紙が送られたてきたらどうだろう。

俺たち姉弟がここまで大人しくなったのは最早、新大陸発見ものの奇跡では無いだろうか。

まあ、姉は微妙に引き継いでいるような気がしないでも無いが……。

と、そこでコトンとテーブルが鳴った。

どうやら、朝食が出来上がったようだ。

目の端でとらえた皿の上には、なんだか黒っぽい物が乗っているような気がする。

朝ごはんで黒い物……ココアだろうか?


「頂きます」


箸を皿の上のテキトーな物に刺し、口に運ぼうとしていると、手紙の端っこにちょこんと続きが書いてあった。

先ほどまでの母の字とは思えないほどの達筆で、きっと父が書いたのだろう。


追伸

息子よ、強く生きろ。

死ぬなよ。

父より。


はて、激励の言葉のように見えるのだが、なんか引っかかる。

なんだよ死ぬなよって……。

改めて、朝食を口に入れる。

………!?!?!?!?!?!?!?!?


「ゴボォア!」


朝食?を吐き出しそのまま椅子から床に倒れ落ちた。

それは刺激的な味……なんてものではなかった。

おおよそ食べ物では無いことだけはわかった。

そう、言葉で表すなら戦略級ミサイル味。

というか味かどうかすら分からない、舌が化学的な攻撃を受けているような気すらしてきた。


「ど、どうしたの要?!」


「ね、姉さん……何、入れた? てか……そもそもこれは何……だ?」


「え、ええっと一応卵焼きなんだけど……あっ、この前テレビで言ってたオリーブオイルってのを使ってみたんだけど……そうそうこれこれ。」


そう言って持ってきたものはなんと、植物用の肥料アンプル。

みんなご存知、土に刺す緑色のアレだ。

先ほど、オリーブオイルを「オリーブオイルっての」と、言っていたあたり、料理は初めてなのだろう。

実は、あらゆる面に完璧な姉さんには決定的な弱点があったりする。

それは、初めてのもの全般。

なんというのだろう、練習すればするほど伸びるという、一見は最強のチート能力なのだ。

……が、ここからが重要。

一般の人の技能で、素人を0から始めとし、プロを10とすると、姉さんは素人で−10から始まるのだ。

これらを考慮すればオリーブオイルと肥料アンプルを、 間違えたのも合点がいく。


「ま……じ…か………。」


俺の意識はそこで絶たれたれてしまった。

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