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職業選択の自由1 ~ネクロマンサーを選択した男~  作者: 新米少尉
職業選択の自由
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療養から新たな道へ

・・・ベチャッ

 ゼロの目の前にはスープが置かれており、スプーンからよく煮込まれたスープの具がこぼれ落ちた。

 治療院で療養しているゼロだが、食事を取るにも難儀している。

 幸いにして毒に犯されてはいなかったが、右手にも毒の礫を受けた影響で未だに細かい作業ができずにいるのだ。


「だから手伝ってあげるって言っているでしょ?」


 目の前で面白そうに眺めていたレナが笑う。


「いえ、自分で・・」


 そう言いながらスープを掬うが再びこぼしてしまう。


「ほら、スープがもったいないわ。貸しなさい」


 レナは半ば強引にスプーンを奪い取った。


「すみません・・・」


 ゼロは観念して口元に運ばれたスープを口に含んだ。


 ゼロが目を覚まして以来、治療院では常にレナかシーナがゼロに付き添っていた。

 というのも、以前に入院した際に病室から抜け出した実績があるゼロは治療院の医師から目を付けられていたため、監視のために2人が付き添うことになったのだった。

 ゼロは命の危険は脱したものの、左目を失った他に全身に浴びた毒の礫の影響が残っていて身体の自由が利かず、支え無しで1人で歩くこともままならない状態であった。


「満足に歩けないんですから見張りをしていなくてもいいのではありませんか?」


 常に見張られているゼロは不満顔だがレナは聞き入れない。


「貴方は杖をついてでも抜け出しかねないから駄目よ」


 全く信用されておらず、レナにスープを食べさせてもらいながらゼロは肩を落とした。

 現在のゼロは両手に麻痺が残り細かい作業が困難なうえ、歩くのにも杖をついてやっとという状態であった。

 当然食事や着替えもままならず、レナ達の介助を受けているありさまである。


「そういえばゼロ、シーナさんが言っていたけど・・・」

「何ですか?」

「トイレに行く介助を断ったって?シーナさん、みずくさいって残念がっていたわよ。私だっていくらでも介助してあげるわよ?」

「何を言っているんですか。杖を使えばトイレくらい自分で行けます」


 獲物を狙う猫科の猛獣のような視線で悪戯っぽく笑うレナにゼロは背筋が寒くなった。

 そのようにレナにからかわれながら食事を進めるゼロであった。


 数日後、療養も落ち着いたころに付き添いのために病室に訪れたシーナだが、今日は妙に深刻な表情でゼロを見ている。

 レナもゼロをからかっていた時とうって変わって真剣な表情でいる。


「ゼロさん、今回のことでゼロさんは大変な代償を払いました。それは左目だけではありません。でも、私はゼロさんが無事でいてくれただけでいいんです。今後、ゼロさんがどういう決断をしてもです」


 シーナとレナはゼロの目を真っ直ぐに見た。


「ゼロさん、貴方は今回の件により冒険者として致命的な障害を受けました。私はゼロさんが冒険者を続けることは危険だと思います」

「ゼロ、仮に貴方が冒険者を引退しても生きる道はあるわ。ネクロマンサーとして魔導院に所属して研究に当たる道もあるの」

「ゼロさん、私は風の都市の冒険者ギルド担当者として貴方に引退を勧告します」

「私は魔導院所属の魔導師として魔導院へ推薦するわ」


 2人に告げられたゼロは残された右目を静かに閉じてキッカリ10秒間考えて気持ちを整理した。

 そして目を開き、2人を見渡してから口を開く。


「お断りします。私は死霊術師として、今後も冒険者としての道を歩み続けます」


 揺るぎない決意に満ちた言葉だった。

 シーナもレナも予測していた返答だったが、それを聞いた2人の表情は全く違っていた。

 シーナは落胆と悲しみの表情を浮かべ、対するレナは何かを決意した表情だ。


「やはりダメですか。でも、ゼロさんが選んだ道なのですから私はそれを尊重してギルド職員としてしっかりとゼロさんをバックアップします」

「ゼロ、貴方が冒険者を続けるならば、私達から1つだけ条件があるわ」


 レナの言葉にシーナも頷く。


「条件ですか?」


 ゼロは首を傾げた。

 レナは立ち上がってベッドに座るゼロを見下ろす。


「ゼロ、今後、貴方は私とパーティーを組みなさい。貴方の失った左半分の視界を私がサポートしてあげる」


 レナの宣言にゼロは怪訝な表情を浮かべる。


「いや、それは、気を使ってもらわなくても・・」


 しかし、レナとシーナはゼロの拒絶を許さない雰囲気だ。


「確かに私達には強制する権限などないわ。それでもよ!これが私達2人の貴方が冒険者への復帰への最低条件よ」

「ゼロさん、このままでは貴方はいつか帰って来なくなるんじゃないかと不安なんです。だからお願いです、私達の希望を受け入れてください。私はギルドで冒険者さん達を送り出し、帰りを待つことしかできません。でも、レナさんとパーティーを組んでくれるならば私も少しは不安が和らぐんです」


 ゼロは再び右目を閉じた。

 今度は30秒間考えた後に目の前の2人を見た。


「分かりました。今まで定期的に受けていた雑用の依頼以外でシーナさんとレナさんが必要と判断した時にはレナさんとパーティーを組んで依頼に当たります」


 ゼロはとうとう観念した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 返信ありがとうございます。 薬に関して明確に欠損に対処できるのが特級のみのような表現がなかったこと、使用者が限定されないことから持っているならば使ってもらうようにお願いすると考えました。 意…
[一言] なんでポーション使わなかったんだっけ? 手持ちなかったとか?
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